表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/213

懸念

蒼は、居間で西中央の宮の臣下からの書状を手に、考え込んでいた。

新月が、その斜め前に座って黙ってこちらを見ている。蒼は、ため息をついた。

「…どうしたものかな。」蒼は、その書状を新月へと差し出した。「オレが言ったところで、碧黎様は聞かないと思うんだよなあ。」

新月は、その書状を蒼から受け取ってサッと目を通すと、同じようにため息をついて、そして頷いた。

「我もそのように。父上がどうこう出来ることではありませぬな。此度のこと、神世で知るのは龍王とその側近、それに鳥王、鷲王ぐらいのものであるとか。ならばこのまま、病ということにして公明殿を立て、それを補佐する形で神世に関与して参るよりないのではないかと思いまするが。」

蒼は、嫌々ながらも頷いた。

「そうだな。公青は友だし、オレだって何とかしてやりたいと思うさ。でも、翠明を捕らえて復権しようとしてたなんて、オレも知らなかったし。奏が死んだせいでこんなことになってるって分かってるから、複雑なのは確かなんだが、碧黎様は何より私情を挟んで地上を治めることをしないってことに、厳しいんだ。それも知ってるから、一度碧黎様がこうと思ってやったことを、覆すなんてオレには無理だ。母さんなら…もしかして、やるかもしれないけどさ。」

新月は、少し考えるような素振りをしたが、軽く首を振った。

「いえ。我はそう思いませぬな、父上。」蒼が片眉を上げると、新月は続けた。「今、父上がおっしゃったのではありませぬか。私情を挟むのは、碧黎様はせぬのでしょう。ならばここは、維月が申しても恐らく聞かぬのではないかと思いまする。」

蒼は、言われて確かにそうだ、と思った。維月のことは大切で愛しているようだが、それでも地上を治めることに口出しはさせないようだった。維心のように、いくらか維月の気持ちを汲む、ということも、碧黎はしない。その代わりその妥当性を維月に辛抱強く説いて、そうして納得させて自分のやり方を通していた。

蒼は、肩をすくめた。

「だったら、もうお手上げだ。その書状には、言ってはみるが期待はするなと返すことにする。次の会合では、荒れるかもしれないな。翠明の気が大きくなって、公青の気が弱くなってるんだから。気が揉めるよ。」

新月は、それには頷いた。

「は…それで神世がまた地を必要以上に恐れなければ良いのですが。」

蒼は、頷きながら額を押さえた。ほんとにもう次から次へと、気が揉めることばっかり…。


龍の宮は、表向き穏やかに回っていた。

維心は、いつもの政務を終えて居間へと帰り、維月と共に炎嘉の来訪を受けていた。

「ならば気が揉めるの。」維心は、眉根を寄せて言った。「しかし此度は折よく会合の場がこの龍の宮ぞ。出欠の何某かはそろそろ返って来ておるはずであるし、我も事前に考えることが出来よう。」

炎嘉は、それを聞いて頷いた。

「だからここへ参ったのだ。あれらの出欠はどうなっておる?」

維心は頷いて、仕切り布の向こうに控えているだろう侍女に向けて言った。

「兆加をこれへ。」

布の向こうから、気配が幾つか去ったのが分かった。炎嘉は、それを気取りながら、息をついた。

「それにしても…碧黎も思い切ったことをしおったの。確かにあれらの気を入れ替えてしまえば大事ないだろうが、それでなくとも地が恐れられておる時に、そのようなことを追いうってしおってからに。神世は更に月の宮へ向かおうぞ。今まで、そんなことが出来た命はおらなんだのだからな。」

維月が、心配そうに下を向く。維心はそれを気遣いながら、炎嘉に答えた。

「我もそのように。だが、あれが我らの意見など聞き入れるはずはあるまい?あれが良いと思うてやっておること、我らが口出しでもすればそれこそ何をされるか分からぬ。碧黎のことであるから、その結果どうなるかも知っておってやっておるのだろう。ならば手に負えぬようなことにはなるまいに。」

炎嘉は、憮然として言った。

「ならば良いが。まさか後始末は我らが何とでもとか申すのではあるまいの。我はそれが懸念されてならぬわ。」

維月はすがるような目を維心に向けた。維心は、そんな維月の頭を撫でてから炎嘉を諫めるように言った。

「こら。その娘がここに居るのだ。少しは気遣わぬか。」

炎嘉は、維心を軽く睨んだ。

「別に維月を責めておるわけではない。我はこれからのことを憂いておるのだ。碧黎は我らの能力を高く見ておるふしがあるゆえ、どうにか出来ることであればと願っておるだけよ。」

維心は、小さく息をついた。炎嘉の言うことは的を射ていたからだ。

そこへ、兆加が入って来て膝をついて頭を下げた。

「王。お呼びでございましょうか。」

維心は、頷いた。

「会合のことよ。出欠はどうなっておる。」

兆加は、顔を上げた。

「はい。ほとんどの宮からはお返事が参っておりまするが、西の方からはまだ何も戻っておりませぬ。此度からは定佳様、安芸様、甲斐様もご一緒とお伺いいたしておりまするが、そちらからも、一向に。」

炎嘉が、睨むように兆加を見た。

「…もう七日前だというのに?」

兆加は、炎嘉の様子に少しひるんだが、頷いた。

「はい、本日あちらへ再度書状を送ろうかと準備をしておるところでございました。西では、いろいろと込み入っておるようですので、恐らくはお返事も遅れておるのではと気にしておりませんでしたが…。」

維心は、兆加を見た。

「ならば本日中に書状を遣わせよ。それから、義心をこれへ。」

兆加は、義心と聞いて少し驚いた顔をしたが、維心からの命は絶対なので、サッと頭を下げると、そこを出て行った。炎嘉は、唸るように言った。

「向こうでも揉めておるのではないのか。嘉張も調べて参るが、嘉楠ほどではないゆえ開も延鴎も出て今報告待ちなのだ。」

維心は、頷いた。

「嘉楠は優秀であったし、嘉張は息子とはいえ経験が足りぬからの。焦るでないわ。我も義心には調べさせておるゆえの。」

と、義心が入って来て膝をついた。兆加を呼んだ時より、数段に早い時間で来た。

「王、参上致しました。」

維心は、いつもながら汚れてもいない甲冑姿で膝をつく義心を見て、言った。

「西ぞ。どうであった。」

義心は、顔を上げた。

「は。公青様の力が失われておることは、まだ四方の王達はもしやという程度にしか分かっておらぬ状態でございまする。何しろ、公青様はあれより表に出て来られることもなく、臣下達ですらあれは一時的なものであると思い、治癒の神が連日公青様を治療しようとしておる状態で。四方の神達は、翠明様の宮へと一時集まり、事態を話し合ったようでありまするが、その内容は我にも探ることは出来ず。ですが翠明様の気があのように強くなっておる事実は他の王には知れたかと。」

維心は、チラと炎嘉を見た。

「恐らくは、他の三人は翠明を見て公青を倒すなら今だとか申したのではないのか。公青が今どうなっておるのか誰も知らぬ中、それでもあの三人と翠明が居れば公青が元のままであっても勝機は十分にあると思うはず。」

炎嘉は、維心を見返した。

「だが、討って出ておらぬところを見ると、翠明はそれを承知せなんだのだの。案外に翠明は、いろいろと考えておるようよ。」

維心は、頷いた。

「我が宮で学んだのであるからな。しかしそれにしても、面倒であるのは変わらぬな。此度は翠明は来ぬ方が良いのやもしれぬわ。公青が来ずとも、翠明の気が炎嘉ほどにも大きく感じられたら他は震撼しようぞ。我から向こうへ、定佳、安芸、甲斐だけ参れと内々に申そう。さすれば対応を考える時も出来ようほどに。」

炎嘉は少し考えたが、渋々といった感じで頷いた。

「…仕方がないの。解決策が出て参るまで、とにかくは時が要る。七日では我もそんな策思いつかぬしの。とりあえず此度はあの二人には引っ込んで居てもろうて、この問題は次へ持ち越しとしようぞ。」

炎嘉は、立ち上がった。どうやら、炎嘉もゆっくりとはしていられないらしい。維心は、炎嘉を見上げた。

「なんだ帰るのか?」

炎嘉は、ブスッとしながら扉へと足を進めた。

「宮をそうそう放って置けぬだろうが。鳥と申してまだそれほどに人員は多くないのだ。嘉楠も居らぬし我も忙しゅうてならぬわ。」

維心は、苦笑した。

「育てよ。主ならそれが出来ようが。」

炎嘉は、フンと鼻を鳴らして維心を見ずに言った。

「言われなくとも育てておるわ。」

そうして、炎嘉は出て行った。

維心は、残った義心を見た。

「主は、直接に翠明の所へ参ってあれら三人だけ会合に来させることを申して、定佳たちとの会合の内容を聞いて参れ。あの三人が居らぬ時を狙っての。我が問うておるのだと申せば、あれも隠せはしまい。」

義心は、頭を下げた。

「は!早急に。」

義心は、そこを出て行った。維月が、それを見送ってから維心に言った。

「維心様…父がしたことで、もしやまた神世がどうにかなるのでしょうか。」

維心は、鋭い目で義心を見送っていたが、表情を緩めて維月を見た。

「主は何も案じるでないぞ。炎嘉が神経質すぎるのだ。碧黎が、神世を乱すようなことをすることはないであろうて。一時的に乱れることはあっても、結局は落ち着くと我は思うておるゆえ。」

そうは言っても、人世での「金」に似た価値があると言われる神世の「気」は、生まれながらに持って生まれているので奪うことも出来ないと、それをめぐっての争いなど起こったことはなかったのに、どうにか出来ると知れてしまったら、争いが起こるようになるのではないのか…。

維月は、維心に慰められるように抱きしめられながら、不安に押しつぶされそうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ