1985年、小学校時代ー 記憶の贈り物(コタツの上で)
1985年 年賀状
ゆきちゃん
あけまして おめでとう
ことしも 元氣でね
小学校時代ー 記憶の贈り物(コタツの上で)
パリ、パリッ。パチンッ!
親指の爪を立ててまずは切り込みを入れる。
そして親指と人差し指で上下を挟むようにして、
ぎゅっと力を入れて皮を割る。
パチン、バチンと勢いよく割れたら、
硬い外側の皮を取り、
その後は中の引っ付いた渋皮を慎重に丁寧に取り除く。
すると、中からつるりとした天津甘栗が飛び出してくる。
おばあちゃんの手から滑り落ちるが早いがその栗を素早く掴んで口の中にほいっと放り込む。
その食感の素敵なこと。
そしてローストの効いた香ばしい香り。
次におばあちゃんの手から滑り落ちるのを今か今かとしっかり狙いながらも、
今、口の中にある栗の食感と香りにうっとりするのだった。
ゆきちゃんは、そもそも、いもくりかぼちゃが大好物なのだ。
中でも天津甘栗は、家ではあまり食べたことがないということもあり、
おばあちゃんのお家だけで食べられる貴重なものだった。
こたつの出る季節の、日曜日の午後。
おばあちゃんのお家に遊びに行くと、
台所の食器棚の中から、
三角の、赤い紙袋を取り出して、おばあちゃんが居間に入ってくる。
その、赤い三角形を見ると、
わぁい、やったあ!と飛び跳ね、
急いでこたつの中に足を突っ込み、
おばあちゃんが天津甘栗を剥いてくれるのを待つのだった。
ずーっとすっと後になって、
ドイツのミュンヘンに住んでいた頃、
少し肌寒い季節になると旧市街で栗の露店が見られた。
円錐型の熱い鉄板が回転していて、
その中で栗がごろごろころころ飛び回っていた。
その懐かしい匂いに誘われて、
思わず一袋の栗を手にし、
市庁舎を眺めながら栗を頬張った。
急に、おばあちゃんが栗を剥くパチンッ!という音が耳に響いたと思ったら、
目の前の景色が、一気ににじんだ。
袋いっぱいの栗を、
その場に立ち尽くし、
最後までひたすら、
もくもくと食べ続けたのだった。
それ以来、まだ、甘栗は、一度も食べていないかもしれない。