番外編ー おばあちゃん作品集(結婚の着物)
「おばあちゃんはね、絵を描いている時が一番幸せなの。」
何度耳にした言葉だろうか。
幼い頃に母を亡くし、
継母とはうまくいかず、
その後すぐ父も亡くし、
女学校を出た後、
結婚したと思ったら戦争が始まり、
子育てもそろそろ終わるというときに、
夫に先立たれ、
42歳の若さで独り身となったおばあちゃん。
嬉しい時も悲しい時も寂しい時も幸せな時も、
おばあちゃんはいつもいつも絵を描いたという。
夫に先立たれ独り身となってからは趣味の絵筆が「食うための絵筆」となり、
着物の絵付けを中心に、
本の挿絵、
絵手紙教室、
など、好きな絵を仕事にして生きてきた。
自分の長女の結婚の際にも、
おばあちゃんは着物の絵付けをした。
美大で油絵を専攻した長女と一緒に、着物の絵付けをしたという。
その長女(わたしにとっては伯母様)の描く作品においては、
緑と青が混ざったような深い海の底のような色が特徴的であるが、
その結婚のお着物も、海の底の色で染められた中に、
艶やかな花が咲き誇り、孔雀が華を添える。
その伯母の結婚のお着物を、
母も、結婚の際に着用したという話は子どもの頃からなんとなく耳にしており、
将来自分もその着物を着ることになるのかな、と薄々思っていたところがあるように想う。
さて、実際、自分も結婚の段となり、
そのお着物に腕を通すこととなった。
嬉しい、というよりも、
ひやりとして、背筋が伸びるようであった。
そして、同時に、海の底のように、
包み込まれるような「あたたかさ」があった。
おばあちゃんは、その日、何も、言わなかった。
一言も言葉を発しなかった。
ただただ、黙って、じっと、
自分の染めた着物を着た孫を、見つめていたのだった。




