番外編ー 流れても残るもの
1982年11月15日
由季ちゃん家族は、七五三のため、
朝から大忙しだった。
由季ちゃんは7歳、妹は3歳。
二人が着た着物は「おばあちゃん」が絵付けをし、染めたものだった。
3歳児用の蝶々の柄の薄いピンクのお着物にも、
7歳児用の貝の柄のスカイブルーのお着物にも、
妹と由季の名が、金の文字で、認められてある。
この日のために、
また特別なお着物が映えるようにと、
由季ちゃんのお母さんも精一杯の用意をした。
由季ちゃんも、周りのただならぬ雰囲気に朝から緊張をしていた。
肌着や長襦袢、お着物と次々と着させられ、
幾本もの紐でグイグイ縛られる間も、
なんでまたこんな・・・という想いをぐっと押しやり、
ビクとも動かないように足を踏んばった。
が、髪を整え、
最後に薄くお化粧をする頃には、
すっかりお姫様気分。
鏡の中の別人のような自分にうっとりとした。
早く、おばあちゃんに見てもらいたかった。
おばあちゃんのお家に向かう道中、
「あ〜!」と母が叫ぶ。
「ポックリ、わすれちゃった。。。」
おばあちゃんがこの日のために用意してくれたボックリを忘れてしまったのだ。
車中、申し訳ない気持ちを家族皆で共有しながら、
おばあちゃんのお家に向かった・・・
おばあちゃんに会うやいなや、
即座にポックリを忘れたことを詫びたけれど、
自分の染めた着物を着た孫の姿を見たおばあちゃんは、
ぐしゃりと顔を崩し、
「まぁ、うふふ、うふふ・・・」
「かわいいねぇ、よく似合うねぇ。かわいいねぇ。」
と孫達の周りをぐるぐると回りながら、
なんどもなんども同じ言を繰り返したのだった。
武蔵野八幡宮で記念撮影。
それから33年の年月が経ち、
当時7歳だった「由季ちゃん」も二人の女の子を授かり、
晴れて、それぞれ七五三を迎えた。
「おばあちゃん」の染めたお着物を、
7歳と3歳の娘たちが身にまとい、
当時のように、
父が、写真撮影をした。
当時の記憶と目の前の光景が、
交差し、絡まる。
孫たちの姿を見た父と母は、
また、
自分の染めた着物を着たひ孫たちの姿を見た「おばあちゃん」は、
いったい、どんな気持ちだったのだろうか。
繋がる、とは、こういうことなのだろうか。
月日は流れても、残るものは、ある。
生きたいな、と想った。
生きていたいな、と。
ささやかな、想い。




