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幼少期ー 記憶の贈り物(ぱくちゃん)

そういえば、ぱくちゃん、も、おばあちゃんのお家にいた。

亀の、ぱくちゃん。

10センチ以上あるミドリガメで、

おばあちゃん家の台所の床の、洗面器の中にいた。

人差し指の上にエサをのせて差し出すと、

のそ、のそ、のそ、と近づいてきて、

最後の瞬間だけカメレオンが下を出して引っ込めるような速さで、

パクッとエサに食らいついた。


5歳の夏だったか、

ゆきちゃんはおばあちゃんと二人で井の頭動物園に遊びに行った。

動物たちにあげるために、

キャベツをまるごと一個、手提げ袋の中に入れて、

おばあちゃんと二人、吉祥寺の狭い路地を、

ゆっくりゆっくり歩いた。

天気のいい日だった。

おばあちゃんの手は柔らかくて温かだった。


動物園に着いた途端、おばあちゃんが声を上げた。

「あっれー!?」

しばらく二人でその場に、立ち尽くしていた。

ゆきちゃんは、おばあちゃんの次の言葉を待った。


「どうぶつえん、おやすみなんだねー。

おっほっほ。

ゆきちゃん、ざんねんね。

せっかく、きゃべつ、もってきたのに、ねー。」


おばあちゃんはこういうとき、

顔をくしゃりとしながら、

のんびりと高い声で、おっほっほ、と笑った。


帰り道は、長かった。

おばあちゃんの手提げ袋に入っているキャベツ、重たいだろうな。

ゆきちゃんは、おばあちゃんを助けたくても助けることができなくて、

重たい気持ちでおばあちゃん家までの道のりを歩いた。


おばあちゃん家に着いてから、

ポポルとミケルとぱくちゃんと金魚さんたちに迎えられた。

おばあちゃん家も動物園のようなものだもの。

キャベツ、あげられなくて、残念だったけれど、

まぁ、いいじゃない!

気がつかないうちに、

おばあちゃん家の動物たちに自然と慰められていたのだった。


その数年後だったか、

おばあちゃんとゆきちゃんは、

今度はゆきちゃんの妹も一緒に3人で、

まるでかの日のリベンジであるかのように

もう一度井の頭動物園に行った。


今度は無事に入ることができて、

ある時点までは普通に楽しんでいたのだと思う。

突然、あるものを目にしてゆきちゃんは仰天した。

池の中にゆきちゃんの背の高さの2倍ほどもある山があったのだけれど、

その山が、がさごそと動いている。

亀だった。

亀の上に亀が積み重なってできた、亀の、山、だった。

何百何千という亀たちは、

どの亀もこぞって下から、外側から、

山の頂上へ頂上へと登ろうとし、

登っては転げ落ち、転げ落ちてはまた登っていた。

でもゆきちゃんにとって気がかりだったのは、

登ろうとしていた亀たちではなかった。

山の中央に埋まってしまって身動きが取れないであろう亀たちは・・・


気持ちの整理がつかないまま、亀山を後にしたのだった。


その後、何年も後になって、

おばあちゃん家の亀のぱくちゃんは、

おばあちゃんのお家からいなくなった。


「おばあちゃん、ぱくちゃんは、どうしたの?」

「あぁ、ぱくちゃんね。井の頭動物園に預けたのよ。」

「えっ・・・。」


ということは、ぱくちゃんは、あの亀山に・・・!?

洗面器でのんびり生きていた亀のぱくちゃんが、

戦国時代のような亀山で生き残れるとはとても思えなかった・・・。


あぁ、ぱくちゃん・・・。


おばあちゃんには、きっと、

ぱくちゃんを手放さなければならない何か特別な理由があったのだろう、と、

ゆきちゃんには、察し、がついたから、

ゆきちゃんは、何も聞かず、ただただぱくちゃんを想い、

ぎゅっとした気持ちに堪えたのだった。


他の亀たちのように、

ちゃんと山の頂上に登うろとしているかな。

山の中央に埋もれていないかな。

ちゃんと生き残っているかな・・・・・


ずーっとずっと後になって、

ふとしたときに、

突然はっと気がついたのは、

実はぱくちゃんは、

当時、おばあちゃん家で死んじゃっていたのではないか、ということだった。

おばあちゃんは、ゆきちゃんを悲しい気持ちにさせたくなかったので、

そう言ったのではなかろうか。


ぱくちゃん、今頃どうしているかな・・・。


亀山のぱくちゃんを想ってしまう癖のようなものが、

今も尚、ゆきちゃんには残っている。

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