小学校時代ー 記憶の贈り物(ベルナとぼたもち)
ポポルがいなくなって、間もなく、
ベルナがやってきた。
ベルナは、とても可愛いビーグル犬。
おばあちゃんのうちにやってきたときにはもう大人だったけれど、
大事に育てられなかったとのことで、
1)常に飢えていて、
2)お行儀がいいとはとても言えず、
3)腰の骨が曲がっていた。
ベルナに一番最初に会った日に、
おばあちゃんとパパとママと妹と一緒に
ベルナをつれておじいちゃんのお墓参りに行った。
車から降りるや否や、
ベルナはお散歩紐をぐいぐい引っ張り右に左に前に後ろにと
ランダムに走り回った。
おかげでゆきちゃんの足に紐が絡まるわ、巻き付くわ、
それを防ぐためにゆきちゃんはほいっほいっとジャンプしたり、
あるいはベルナに合わせてぐるぐる回りながら、
「ベルナちゃん、こら、左側を歩きなさい。ダメダメそっちにいっちゃ!」などと
ちゃんと注意しないといけなかったから、
とっても忙しかった。
いや、忙しかったのは、ベルナの方だ。
一心に、食べ物を探していたのだから。
きっと、ベルナが育ったお家では食べ物を充分にもらえなかったから、
お散歩、といのはベルナにとって大事な狩りの時間だったにちがいない。
お墓、というのは、よく見ると、切り花があるばかりではなかった。
食べ物だって、ちゃんとある。
さて、おじいちゃんのお墓参りを終えて帰ろうと駐車場までの道のりを歩いていたところ、
ベルナが急におとなしくなった。
「いい子だねぇ。ベルナちゃん。もうお散歩上手にできるようになったんだねぇ。」
と褒めたその途端、
ベルナが渾身の力で左にグワン!と飛び上がったと思ったら、
着地と同時にバクリ!と何かを口に入れてしまった。
「ベルナー!!!」と慌てて口の上下を抑えて口をこじ開けると、
わたずかに開けた口の隙間から、あんこの「ぼたもち」らしきものが見えた。
「出しなさーい!」とゆきちゃんもがんばったけれど、
飢えたベルナはこれだけは死んでも譲れないとばかりに、
何があっても絶対に口を開けようとはせず、
とうとう舌と喉を使って飲み込んでしまった。
はぁ、やれやれ、どうしよう。
ぼたもち、腐ってなかったらいいけれど・・・
お腹壊したりしないといいな・・・
心配な気持ちを抱えたまま、車に乗り込んだ。
ベルナは車のトランクにベロンと横になっていたけれど、
なんだか、もじもじ、落ち着きがない。
案の定、あと5分でおばあちゃん家に到着するというときになって、
ぼたもちも泥も、全部吐き出してしまった・・・
はぁ、やれやれ。
仕方なく、ゆきちゃんのママがベルナを下ろして
おばあちゃん家まで歩いて帰ったのだった。
ベルナはゆきちゃんとその後何度もお散歩に行ったけれど、
いつだって、右に左に食べ物を探して歩いた。
犬が向かいから来ると、
大きな犬にはもちろん、
ベルナよりも小さな犬に対してだって
激しく吠えた。
ゆきちゃんたちがおばあちゃん家に来ると、
真っ先に足に抱きついた。
そんなベルナだったけれど、
おばあちゃんに、とても可愛がられ、
大事に大事にされたのだった。
よかったね、ベルナちゃん。
おばあちゃんのところに来て、よかったね。
ベルナにいうと、
ベルナは横座りをベルナにとっての正しい横座りに直し、
首を傾げて、じっと、こちらを見つめるのだった。