第十話:彼女の・はじめての・告白
こういう外部が絡まない日常編で、ざっくりとやってくれるのが彼女の生き様。
非常に楽です。
楽をしたぶん、誰かが苦しむものですけどね。
今日も今日とで、朝から晩までお仕事三昧。
忙しくないよりは忙しい方がいいし、最近までちょっと暇してたので、こうやってお仕事に没頭するのも、意外と悪くはなかったりする。
お宿では週に一度ないし二度、主要メンバーが集まって夜のお茶会……ではなく、夜のミーティングをする。業務はきちんと行われているか、どこか手は抜かれていないか等々、自分では気づかない部分をテキトーに話し合い、お茶を飲むといった具合だ。
ちなみに、議長は持ち回り制で、今日は冥さんのターンだ。
「はい、そういうわけで皆々様、本日はお集まりいただきありがとうございます。前回前々回と白熱した議論を繰り広げてえらいことになりましたが、今回はなるべく穏便に済ませていただけるとありがたいです」
「はい、議長」
「なんでしょう、山口さん」
「掃除機が壊れてしまったので修繕許可を」
「却下します。こちらにカタログがありますので、お好きな業務用を選んでください」
長時間連れ添った相棒だけど、やっぱり修繕許可は下りなかった。
とはいえ、新しい相棒を探すのも悪くはない。カタログを受け取って、少しばかりうきうきしながらページをめくる。
続いて、京子さんが手を上げる。
「食堂から一応報告。酒の減りが少なくなったのはいいんだが、誰かあたしの燻製チーズ食ったろ? っていうか、冥だよな? つまみに食ったよな?」
「記憶にございません。それはそれとして、チーズの補充は最重要課題ですね」
「あと、頼んでおいた洗剤が届いてないんだけど、発注してあるか?」
「ふむ……発注漏れですかね? 記載すらされてませんけど……」
「在庫がまだあるから大丈夫だけど、一応ちょっと多めに注文しておいてくれ」
「了解しました」
「もう一回聞くけど、チーズ食ったよな? 与一からちゃんと聞いてんだぞ?」
「……食べました。すみません……」
天弧さんとイチャついた時にでも食べたのだろう。与一君がいた頃はお互いになにを握られているのか探りつつ、ある意味戦々恐々としながら日々を送っていたものだ。
冥さんは脹れっ面のまま、発言をする。
「それはそうと、最近私達のご飯がテキトーになってるような気がしますけど……」
「お? シェフにご意見か? 最近胃がなぜか荒れてるあたしがお相手するぜ?」
「お酒の飲み過ぎじゃないですか?」
「かもなぁ。もしくは、変なストレス溜めてんのかもな。……酔っ払っちゃって食堂でイチャつく連中もいるしなぁ」
「そ、それはともかくご飯ですよ、ご飯! この一週間メニューがヘルシー過ぎます! もっとガツンと、体が喜びそうなお肉とかを所望します!」
「アレだ。シェフの気づかいだ。冥は栄養管理しないと太るし。主に胸が」
「ちゃんと運動してるし太りませんよ! 大体、おっぱいの大きさなら京子さんは人のこと言えませんからね!」
目くそ鼻くそを笑うという言葉が、これほど似合う言い争いもないと思う。
それにしても……このお宿の環境に一番適した掃除機を探しているけど、壊れた掃除機と同型のものが一番良いような気がする。
いや、でも思い切って、こっちのちょっと良いやつで冒険するのも手か。
「山口さん! 山口さんもガツンとお肉の方がいいですよね!?」
「いえ、私は別にどっちでも……今日のお昼ご飯の大根ステーキはなかなか美味でしたし最近焼肉食べたばっかりですから。美里なんて食べ過ぎで胃もたれ起こしましたし」
「京子さんはなんで焼肉食べてないのに胃が荒れてるんですか?」
「嫉妬じゃないですか? 天弧さんが最近舞さんばっかり構っちゃってるから」
「あー……なるほど。さすが山口さんは慧眼ですね」
「嫉妬ねぇ……嫉妬しないでもないけど、正直舞を見てると羨ましい反面、言葉にできない憐憫が込み上げてくるよなァ……」
『………………』
私と冥さんは無言で目を逸らした。
構って欲しいと言えば構って欲しいけど……なんていうかこう、なんていうか。
夢にまで見そうなほどの構われ方は、ちょっと……お仕事に差し障るので……。
「京子さん、調子が悪いようならちょっと休んだ方がいいんじゃないですか?」
「んー……それもちょっと考えたんだけど、舞がポンコツな現状で、あたしが抜けるわけにもいかんしな。最近、あたしも美里も備品管理甘いしな。気を付けないと」
「先に釘を刺されちゃいましたね……」
のほほんとお茶を飲みつつ、私手製のスイートポテトを食べていた美里は、目を細めて冥さんに書類を渡し、口を開いた。
「そういうわけで、今月の収支報告なんだけど、大幅な黒字ね。ただ、これは恐らく『如月くん効果』の賜物よね。いなくなった途端に若い女性客が目に見えて減ってるわ」
「反動が怖いですね。……賑わっていたぶん、閑散とするのは早いですし」
「客足を見る限りでは、以前に戻りつつある感じだけど……」
むしろ、あまりにも混み過ぎると手が回らなくなるので、程々にお客様が来てくれるのが一番良い。変な時にお客様が殺到すると、かきいれ時に閑古鳥が鳴いたりするし。
常に大繁盛というわけにはいかない。バランスが重要なのだ。
カタログを見ながら、なんとなく思ったことを口に出してみる。
「まぁ、とりあえず様子見でいいんじゃないですか? 焦ってあれやこれやと考えたりやったりしても、かえってお客様が離れてしまうこともありますしね」
「……そうね。幸いなことに最近は忙しくなってるし、一ヶ月は様子見ってことで」
「ところで掃除機なんですが、これなんか良さそうだと思うんですがどうでしょう?」
「ちょっと高くないかしら? 前と同じのじゃ駄目なの?」
「前と同じのなら普通に修理しますよ……どうせ中の配線が切れてるんでしょうし」
「それは却下で。冥ちゃん、この掃除機取り寄せていいかしら?」
「すぐに必要な状況ですから、明日にでも注文しましょう。機能が色々ありそうですけど、その辺は山口さんに任せれば大丈夫でしょう」
「………………」
美里までにこやかに却下するあたり、私のどこが信用されていて、どこが信用されていないか、うかがい知れるというものだ。
別に魔改造なんてしませんよ? ちょっとした改造はするかもしれないけど。
考えていることが顔に出たのか、京子さんが目を細めて私を睨んだ。
「というか、そもそも改造をするなよ……この前なんて廃棄する予定の舞のチャリに変なもん積んでえらいことになったじゃんか」
「平成ライダーのバイクと似たような仕様にしただけなのに……」
「その仕様で乗れるのは山口みたいな鉄人か、美里みたいな人型のガ●ダムだけだ」
さすがに人型のガン●ムという言葉は聞き咎めたのか、美里は目を細めた。
「京子ちゃん、喧嘩売ってない?」
「やかましいわ。そもそも、舞のチャリをスクラップにしたのは美里だろうが。新品のチャリを一日でスクラップにする人間にどうこう言われたくないわ」
「さすがに弁償はしました。……最近の自転車って、高いのねぇ」
「フルチューンすると軽自動車くらいなら楽勝で買えるそうだぞ?」
「うわぁ……それって、軽自動車買った方がいいんじゃない?」
「その辺は趣味の世界だからな……天弧も与一も舞のチャリには一目置いてたし、なんか惹きつけられるもんでもあるんだろ。あたしも否定はできないしな」
確かに。ロマンは分からないでもないけど、車の方がやっぱり圧倒的に速いわけだし、私は格好良いものより、より速度のある方がロマン溢れている気がする。
と、そこでちょっとしたことを思い出したので、手を上げておく。
「議長、そういえば最近、私の畑を荒らす輩がいるのですが……」
「あ、それあたしだわ。バジル足らんからもらった」
「プチトマトは私ですね。美味しかったです」
「ぬか漬けは舞ちゃんとお酒を飲む時にちょっと食べちゃったけど、セーフよね?」
「アウトですよ!」
犯人は、私以外の全員だったという衝撃の事実。
最近やたら畑や作成中のものが荒らされるなぁと思ったら……っ。
「別に食べるのが悪いとは言いませんけど……せめて、私の許可を取ってくださいよ」
「や、すみません。なんか急にトマトが食べたい気分の時に目の前にあったんで」
「危険なものはありませんけど、試作品とかもあるんですから……」
「きょ、京子さん! 私、大丈夫でしょうかね!? なんか触手的なものとか生えたりしませんかねっ!?」
「あー……それ、駄目なやつだわ。そのうち頭パーンってなるわ」
「マジですか!?」
「なりませんよ! 『この肥料で育つかな?』って意味での『試作』ですからねっ!」
「山口が育てたもんだしなぁ……あたしや美里も危ういかも分からんぜ?」
「言っておきますけど、私は育成で失敗したことは一度もありませんからねっ!?」
「テンで大失敗してるじゃねーか」
「……ぐぅ」
ぐぅの音しか出なかった。さすがにそれを出されると弱い。
でも、最近は私というより冥さんあたりが悪影響を与えているような気がしないでもないけど……それはそれとして、責任は取らなければならないだろう。
「まぁ、責任の所在はともかく……食べたら一言、言ってもらえると助かります」
「そーだな。で、燻製ハムの味はどうだった?」
「とても美味しゅうございましたが……京子さんもなんだなんだで、私が作ったモノ結構食べてますよね? 切干大根が綺麗になくなってましたけど、京子さんですよね?」
「美味かった。やっぱり既製品じゃない切干大根は歯ごたえが最高だな」
結局、お互い様ということなのだろう。
スイートポテトを食べつつ、京子さんは肩をすくめた。
「まぁ……そうだな。差し引きで言えばあたしの方がマイナスだな。なんだなんだで色々仕事手伝ってもらってるし。よし、今度の日曜にテンとデートしていいぞ」
「日曜は洗車とかしなきゃいけないので……冥さんどうです?」
「今は心身共にオールグリーンです。チーフはいかがでしょうか?」
「先々週から言ってるけど、今週末は出張よ……それはそうと、さすがにこの辺で誰かが代わってあげないと、舞ちゃんが色々危ないんじゃない?」
私と京子さんと冥さんは目を逸らした。
いや……分かってはいるのだ。分かっちゃいるけど……なんというか、お仕事に支障が出ちゃうと心身共にキツくなっちゃうのでなるべく見なかったことにしたいというか。
ちらりと舞さんの方を見る。スイートポテトを齧りながら、机に突っ伏していた。目が虚ろで夢と現実を行ったり来たりしている感じだ。時折赤面しては頭を机に軽く叩き付けて、基本ぼんやりしている。明らかに重症だった。
こっそりと、美里に耳打ちする。
「っていうか……なんであんなにポンコツになってるんですか? 舞さんが天弧さんを好きだなんて、今更のことでしょう?」
「んー……説明が難しいけど、乙女心よねぇ」
「おや? その言い方だと、私が乙女心とやらを理解できないことになりますが?」
「タイプの問題ね。例えば……天弧さんがぼんやり机に突っ伏してたら、どうする?」
「背中からこう、ぎゅーっと」
「好きな人に適度にくっついていたいのが、コッコちゃん。過剰にくっついていたいのが私や冥ちゃん。京子ちゃんは話を聞いたり聞かれたりくっついたり。舞ちゃんは……そこでちょっとだけ意地を張って、隣に座ったり頭を叩いたり手を握ったり」
「傍目で見ると舞さんの良妻賢母っぷりが半端ないですね……」
「でも、本当は舞ちゃんもくっつきたいのよねぇ」
「…………うーん」
与一君の置き土産は、なかなかに巨大な爆弾だった。
くっつきたければくっつけばいいんじゃないかと私なんかは思うけど、それができないからこそ、舞さんなのだろうと思う。
難儀な話だけど、いつかはぶち当たる壁だろうし、早くて良かったのかもしれない。
ただ、意外と長引くかもしれないのは、考慮に入れておくべきだろう。
「舞さん? 大丈夫ですか?」
「……あー……うん。大丈夫です。体調は完全です。ただなんかこう、ちょっとテンのことを考えると苦しかったりイライラしたりしますが……」
「それって単純に恋愛の初期から中期の症状むぐっ」
後ろから美里に口を押さえられた。どうやら言ってはいけないことを口走りそうになったらしい。どの辺が言ってはいけないことなのか分からないけど、こういう時の美里はとてつもなく頼もしいので、私は美里に従うことにした。
私の代わりに、京子さんが言葉を続ける。
「大丈夫ならいいけどさ……見た感じ大丈夫じゃなさそうだぞ?」
「まぁ……それはなんていうか……その……」
「話せないことなら無理に話さなくてもいい。あたしらは運命共同体に限りなく近いなにかではあるけど、人に話せないことの一つや二つはある。人間なら当然だ。……それでも話せないこと以外は話しておいた方がいいぞ? 些細なことでもいいさ。チーズ食われただのプチトマト食われただの、他人にしてみりゃどうでもいいことでもね」
舞さんのグラスにワインを注ぎながら、京子さんは頬を緩める。
「どうでもいいことでも……不平不満さ。いっそのこと『自分以外の奴がテンといちゃつくのがイライラする』でもいい。吐き出せないよりはずっといいさ。溜まった不平不満を爆発させるよりは……ずっといいんだよ」
「二週間連続テン担当はきついです」
「……通ったことないけど大学とか……すごく暇だから。大丈夫だって……」
「最近は仕事も落ち着いてきたんでしょっ!? あと目を逸らさないでください!」
舞さんのツッコミはもっともだったけど、私達は決して目を合わせなかった。
亭主元気で留守が良いというわけではないし、むしろ折りを見てはなんとかいちゃつこうとする程度には好きなんだけど……先週から天弧さんの機嫌がやたら良いのだ。
天弧さんの機嫌が良い時は要注意だ。迂闊にデートとかしようもんなら、翌日はポンコツになる。エロ妄想世界の住人になってしまう程度に愛がヤバい。
まぁ……そんな状態の天弧さんと舞さんを接着して放置した私達にも責任はあるわけだけど、そもそもこの状況になったのは、某笑顔が黒い少年のせいなわけで……。
「ふむ……名案が思い付きましたよ! 元凶の与一君あたりに『お前ちょっと頭冷やせ』と、天弧さんに苦言を呈してもらうのはどうでしょうか?」
「さすが山口さん! 素晴らしい名案です! テンの頭が冷えて私の負担も減り、みんなも気軽にテンとイチャつけるようになってストレスも解消! 一石三鳥ですね! あの精神が地獄製の与一君ならテンを滅茶苦茶に凹ますくらいはやりますもんね!」
「私はそこまで言ってませんが……今の時間だと、起きてますかね?」
善は急げとばかりに、与一君の番号に電話してみる。
十コールほどして痺れを切らしかけた頃、電話は繋がった。
「あ、もしもし、与一君ですか? 私、山口コッコですけど……寝てましたか?」
『………………いえ、起きてます』
いや、どう考えても確実に寝てたでしょ。
あの子にしてはものすごく気を使った方だ。悪いことしちゃったな……。
「えっと……ちょっと用事があったんですが、明日にしましょうか?」
『いや、いいですよ。どうせ眼帯に『お前ちょっと頭冷やせ』とか、そんなことを言いつつ心をへし折って欲しいとか、そんな感じの要件じゃないですかね?』
「……あの、前々から思ってたんですけど、色々考え過ぎじゃないですかね?」
『性分です。で……そのことについてなんですけど、引き受ける代わりに、黒ねーさんに電話を代わってください』
「分かりました……けど」
引き受けてもらったのはいいけど、舞さんと電話を代われとはどういうことだろう?
仕方なく、舞さんに電話を渡す。舞さんは怪訝な顔をしていたけど、すぐに電話を取った。
「もしもし、如月くん? 黒霧舞だけ……ど……」
なにを言われたのか、語尾が尻すぼみになり、言葉が消えていく。
会話という会話はほぼなかったといってもいい。舞さんの顔色が赤くなったり青くなったりしていた。かなり心配だった。
やがて、会話は終わったのか、舞さんは『……分かったわよ』とぶっきらぼうに言い放って、電話を切った。
そしてゆっくりと、大きく溜息を吐き、私に電話を返した。
「あの……舞さん。大丈夫ですか?」
「正直、あんまり大丈夫じゃないですね……すみません、今日はもう寝ます」
京子さんが注いだワインを飲み干し、舞さんはミーティングルームを出て行った。
止める隙などなかったし、止められる雰囲気でもなかった。
……やぶ蛇だっただろうか?
私が少し悩んでいると、冥さんはジュースを飲みながら、口元を緩めた。
「やぶを突いて出て来たのが竜でも、舞ちゃんならなんとかしますよ。山口さん」
「舞さんの場合、孤軍奮闘し過ぎるのが心配なんですよ……」
「まぁ……それは確かに。ただ、人には孤独に戦わねばならない『いくさ』があるのも仕方がないことだと、私は思うのです」
スイートポテトを食べながら、冥さんはにやりと笑う。
「それでも、舞ちゃんならなんとかしますよ。私の自慢のお姉ちゃんですからね」
「……なんのかんの言いながらも、お姉ちゃん大好きっ子なんですよね……」
「舞ちゃんには、内緒ですよ?」
「はいはい」
自分のぶんのスイートポテトを確保しつつ、紅茶を注いでみんなに配る。
さてさて……与一君からなにを吹き込まれたのかは知らないけど。
多分、大丈夫だろう。
舞さんだし。
『さてさて、ここで問題だ。もしも眼帯に渡したデータが『黒ねーさんの絶叫告白でもなんでもなかったとしたら?』……今優しく見えるのも、単純に僕が『ちょっと黒ねーさんに優しくしたら?』とか、アドバイスしただけかもしれないよ? その辺のことは、ちゃんと考慮に入っているかな?』
『疑心暗鬼を煽るみたいで悪いけどさ、それはつまりそういうことなんだと僕は思う。単純な話だ。本当に単純な話なんだ。告白云々は一切関係なく……眼帯が黒ねーさんに優しくするのは『いつものこと』でしょう? 対応一つ挙動一つ取って考えてみようか? それは『いつも通り』のことなんじゃないかな? 優しいのもレポート写させてくれってねだるのも……いつも通りだと、僕は思うんだよ』
『変わったのは『黒ねーさんの受け取り方』なんじゃないかな?』
『以心伝心とか、伝えなくても伝わる想いとか……僕はとても素晴らしいことだと思う。思うけどそれは『思うだけ』なんだよ。人は言わなきゃ分からない。分かって欲しいことは言葉や行動にしなきゃ伝わらない。それが事実だ』
『とまぁ……ぐだぐだと言ったけど、僕が言いたいことはたった一つだ』
『黒ねーさんの好きにしたらいいんじゃないかな? 甘え足りないんじゃないかと、愚鈍な僕は思うけどね』
好き勝手言いやがって、あの野郎。それができりゃ苦労しないっつーの。
山口さんとか、冥ちゃんとか、あんな風にできるかボケェ。恥ずかしくて死ねるわ。
翌朝、起きると同時に舞はそんなことを思った。
「……むぅ」
欠伸混じりにカーテンを開けて、朝日と共に背伸びをして、眠気を振り払う。
「お弁当作ろう」
毎朝の日課というほどではないが、手が空いている時は弁当を自分で作る。
普段着に着替えて食堂へ向かうと、いつも通りに京子が忙しそうに立ち回っていた。
「よ、おはよう。大学生。今日も随分とのんびりだな?」
「おはようございます。毎朝言ってますけど、京子さんと山口さんが異様に早いだけで、世間ではこれくらいが一般的です……たぶん」
「挽肉と春菊がちょっと余ってる。あとはコンニャクと鶏胸肉かな?」
「はいはい、ではそのように」
言われた素材を手に、弁当の作成にかかる。
鶏と卵のそぼろ、きんぴらこんにゃく、春菊の辛子醤油和え、鶏の照り焼き。
一通りのメニューを作成し、弁当箱に丁寧に盛りつける。
「今日は二人分か?」
「テンと結構講義が被っちゃってますからね。一人分作るのも二人分作るのも変わらないですし……まぁ、これくらいはいいかな、と」
「なるほど。んじゃ、これはシェフからの粋な計らいだ。持ってけ」
京子は二人前のトーストサンドを舞に手渡して、口元を緩めた。
「食った後はいつも通り、皿を流し台に出しておいてくれ。あたしは仕込みが終わったからちょっと休憩……というより、仮眠だな。昨日ちょっと飲み過ぎた」
「あんまり無茶しちゃ駄目ですよ?」
「無茶するような飲み方はしてないさ……ま、精々健康には気を付けるよ」
「昨日、胃が悪いみたいなこと言ってましたけど、実はつわりなんじゃないですか?」
「ぶっ!? そ、そんなわけないだろ! 朝から冗談にならない冗談はやめろ!」
顔を真っ赤にして抗議しつつ、京子は食堂から出て行った。
その背中を見送って、舞はこっそりと溜息を吐く。
(良妻賢母ねぇ……少なくとも京子さん=チーフ>山口さん>私……で、冥ちゃんは別格扱いだから、私が最下位だと思うんだけどなぁ)
実際には、この宿の女性陣の誰もが自分を最下位だと思っているのだが、もちろんそんなことは知る由もなく、舞は少しだけコンプレックスに悩んだ。
精神が地獄製の少年は『好きにしたらいいんじゃない?』と、言う。
舞としては好きにしているつもりなのだが……少年から見たら『甘え足りない』のだと言う。
(……そんなこと言われても……)
とはいえ、分かってはいるのだ。
少年の言葉がここまで心に引っかかっているということは、やっぱり心の奥底でなにか不満に思っていることがあるのだろう。
くしゃくしゃと頭を掻いて、トーストサンドをテーブルの上に置いた。
と、その時だった。
「ふあぁ……おはよう、舞」
「おはよう、テン。今日はそこそこ早いのね? ……って、ちょっと!」
声の方向に振り返って、口元を引きつらせる。
宿泊客よろしく、はだけた浴衣に宿で支給している足袋。眼帯も付けておらず、左側が見えていないのかふらふらしていた。
「いくらなんでもだらけ過ぎでしょ! せめて眼帯くらい付けなさいよ!」
「朝早く与一から電話が来て、滅茶苦茶説教されたんだよ……昨日はなんだかんだで冥にお酒飲まされるしさ。今もすごく眠いし大学サボりたい」
「……とりあえず、座って朝ご飯でも食べたら?」
「そうする」
舞の隣に座り、天弧は欠伸混じりにサンドイッチに手を伸ばす。その間に舞は眠気覚ましにコーヒーを持って来た。
よく咀嚼してから飲み込んで、コーヒーを飲み、天弧は口元を緩めた。
「うん……ちょっと目が覚めた。今日のサンドイッチは京子の手作りかな?」
「……正解だけど、なんで分かるのよ?」
「舞のサンドイッチはレタスやトマト重視、京子のはトーストサンドが多い、コッコさんと冥はトマトとチーズ好きだからすごく判別しづらい。美里は卵サンド多め」
「………………」
相変わらず、よく見ていると、舞は少しだけ呆れた。
自分もサンドイッチを頬張りながら、ちらりと天弧の顔を見る。
鋭い目つきは今は少し緩んでいて、眠そうに目をこすっている。欠伸をしたり笑ったりしていると少しだけ可愛い気がする。しっかりしてそうに見えてかなり間が抜けている所があって、フォローにてんてこ舞いになることも、ある。
(……まぁ、間が抜けてる所以外は、しっかり見てんのよね……)
見て欲しい所を見ていると、表現するべきかもしれない。
中学生に説教されるような迂闊さはあるが、それ以外はまぁまぁ……及第点以上を付けてもいいんじゃないだろうかと、舞は思っている。
「如月くんに説教って……なに言われたのよ?」
「……秘密」
「私には言えないってこと?」
「舞だけじゃなく誰にも言えやしないよ……『お前の愛はキモい』って所から淡々と説教が始まるんだけど、聞く? 内容は正直うろ覚えだけどさ」
「…………いい」
やっぱりあの少年の精神は地獄製だと、舞は確信した。
ちらりと天弧の様子を見る。心なしか……少しだけ落ち込んでいるような気がした。
怒られた後の犬がしょんぼりしているような感じである。そういう表情を見せられるとなんとなく、舞としては構わずにはいられない気分になる。
「別に、いつものことでしょ? 私達はまぁ……それでいいって言ってるわけだし」
「内容はうろ覚えだけど、最後の『眼帯の体は眼帯だけのものじゃないし、他の人たちもまた然りだ。許可があるからって甘え過ぎんな』ってのは刺さったね」
「私の時と逆のこと言ってるし……ホントあの子、色々考え過ぎじゃない?」
「だから、すごく心配なんだよね」
欠伸をしつつ、天弧は呟くように言った。
「友樹や由宇理は『こいつになら背中を任せて大丈夫』って感じなんだけどさ、与一はちょっと目を離したら、敵対勢力皆殺しにしてそうな不安感がある」
「……なんか、ものすごく的確な気がするわ……」
「言ってることはすごく的確だし、正直説教の仕方もすごく上手い。最後だけ要点を押さえてザクッと刺してくるあたりとか特にね。でも……あの境地は中学生が行っちゃ駄目な境地みたいな気がするんだよねぇ。気にかけようとしても『お前はお前の女のことだけ気にしてろハゲ』ってすげぇ怒るし……でも、アレを放置するのはちょっとなー……」
「………………」
むくむくと、心の奥で湧き起こるなにか。あるいは『怒る』なにか。
嫉妬的なアレである。
(……むぅ)
自覚はできるその感情をとりあえず脇に置いて、ちょっとだけ言いたいことを言う。
「如月くんが嫌がってるなら、気にかけるのはやめたら?」
「そうしたい所だけどね……与一を見てると、なんとなーく昔の自分を見てる気分になるんだよ。親しい人の顔色のご機嫌伺いとかしてる感じとか、特にね」
「そーかなー……テンは顔色伺いとかしない性質だと思うけど?」
「男友達と赤の他人にはね。肝心な所で口を閉ざしたから、それが溜まりに溜まって最後に盛大にツケを払うことになったのさ」
自虐的に笑いつつ、肩をすくめて天弧は口元を歪める。
胸の奥がイライラする。それは、舞の好きな表情ではなかった。
しかし、嫌いな表情を浮かべたのは一瞬で、次の瞬間には天弧は笑っていた。
笑いながら、舞の頭をそっと撫でた。
「まぁ……後悔はしてないよ。昔があったから今がある。そりゃ細かい所では色々と後悔してることはあるけど……みんなにも舞にも会えたし、後悔はないよ」
「……ふぅん」
素っ気ない態度を取ったが、頭を撫でられるのは嫌いではない。むしろ好きだ。
髪が乱れるのが困りものだったが、髪は後で整えればいいだろう。
なんとなく、天弧の肩に頭を置いて、舞は思ったことを口にしてみる。
「あのさ……テン。ちょっと、つまんないこと聞いていい?」
「舞から聞かれることでつまんないことは何一つないけど……なに?」
「いや、ほんっとうにつまんないからね? マジでつまんないことよ? 聞いてから聞かなきゃ良かったって思うくらい、本当につまんないからね?」
「大丈夫。つまんないならつまんないで、対価はちゃんともらうから」
「その指の動きはやめなさい!」
五指が器用になにかを掴む感じ。擬音にすると『わきわき』とか『もみもみ』といった感じで、そういう風に指を動かした時は、大抵ロクなことにならない。
くすぐり攻撃か、それ以上が待っているのが常だった。
舞は少しだけ悩んだが、仕方なく……ぽつりと、小声で言った。
「あのさ……えっと……『甘える』って、どうやるの?」
沈黙が落ちた。
天弧は少しだけ首を傾げて、目を閉じて上を向き、それから舞を見つめた。
「え……? 今更それ? むしろ今がそういう状況なんじゃないの?」
「私もそうだと思うんだけど……まぁ、中学生の戯言だって言えばその通りだし……でもなんかこう、気になるというか、喉に刺さった小骨みたいな感じだし……」
「与一になんか言われたの?」
「……甘え足りないって。私は……うん……そこそこ甘えてるつもりだけど……」
積極的ではないにしろ。冥を筆頭に甘えたがる他の面子ほどではないにしろ。
少なくとも……こういうアホみたいなことをちゃんと言えるのだ。甘えていないとは言い切れないだろう。
客観的に見ても、主観的に見ても、今こうして甘えているのだと、舞は思う。
「なにかがしたいんだけど……なにをしたいのか、よく分からないのよね……」
「………………」
「ん? なんで今、目を逸らしたの? なにか心当たりがある感じだったわね?」
「……な、ないアルよ?」
天弧はあからさまに目を逸らした。これ以上ないほどあからさまだった。
思い切り顔を寄せて、舞は天弧に詰めよった。
「い・い・か・ら……言いなさい。こっちは昨日からずっともやもやしてんのよ!」
「いや、だって、怒るもん」
「もう怒ってるから言っても言わなくても同じでしょう?」
「痛い痛い痛い。頬を引っ張るのは程々にして……分かった。言うよ。言うから」
その言葉に少しだけ満足して、舞は天弧の頬から手を離した。
ひりひりする頬を押さえて、天弧は涙目になりつつ、それでも口を開いた。
「なんでこう……与一の話は後々になってボディブローみたいに効いてくるのかな。立つ鳥跡を濁さずって言葉があるじゃん。濁しまくりじゃん」
「どういうことよ?」
「もう怒られてるから言っちゃうけどさ、与一曰く『黒ねーさんは褒めて欲しい』んだってさ。褒めて欲しいから……うん。弁当とかも率先して作るんだとかなんとか。姉妹だけあって冥と考え方がマジで似てるとかなんとかも言ってた。むしろ舞の方が積極的に褒めて欲しいって思ってるから、僕のために動いてくれるんだとも、言ってたね」
「………………っ」
「まぁ、毎日感謝はしてるんだけど、言葉は足りなかったかもね。毎日弁当作って来てくれる女の子がいるとか、感謝してもし足りないくらいなんだけどさ……うん。本当にありがとう。舞のことを好きになって本当に良かったって思う」
「っ……べ、別についでだし! 一人分作るのも二人分作るのも、同じだひゅいっ!」
噛んだ。盛大に噛んだ。
噛んだことではなく『ありがとう』や『好き』という言葉に過剰に反応して、顔を真っ赤に染めつつ噛んだ。明らかに動揺していた。
動揺しているということは……つまり、正鵠である。図星である。
もやもやとした霧が晴れたと思ったら、目の前に大軍勢が迫っていた。そんな感じだった。
(あ……あの中学二年生、本当に何者なのよっ!?)
久しぶりに頭が真っ白になったような気がした。心の奥底にいる、冷めた自分がやれやれといった感じで肩をすくめて、呆れ果てていた。
今更でしょ? むしろテンに甘えたくて褒められたくて色々やってたじゃない? 好きでもなんでもない男に弁当作るとかあるわけないじゃん? 死ぬの? 萌え死ぬの?
それならそうと早よ言えよとばかりに、冷静な自分の首筋に蹴りを打ち込んだ。
もちろん、そんなことをしても事態は好転しない。明確になった『暗黙の了解』ほど、こっ恥ずかしいものはなく、ただただ赤面するしかなかった。
「舞? おーい、舞さん? MAIちゃん? 大丈夫?」
「だっ……大丈夫に決まってるじゃない! 全然大丈夫よ! 馬鹿じゃないの!?」
「……んー」
「べ、別にお弁当くらいどうってことないし! そもそもテンがだらしないから、私がやらなきゃどうしようもないだけだしっ!? ぜ、全然どうってことないしねっ!?」
「いやぁ、毎度毎度滅茶苦茶助かってるよ。そういうわけで、これはお礼」
「へ?」
天弧はポケットから青い箱を取り出して、舞の前に置いた。
青い箱……いわゆる、指輪を入れる箱。リングケースと呼ばれるものである。
もちろん、それ自体は高額なものではなく、問題は中身だった。
舞が口元を引きつらせながら箱を開ける。シンプルなデザインのシルバーリングが納められていた。
「……ここ……こーユーのは、ちーふに、一番に上げるべきじゃなイ?」
「舞。ちょっと落ち着こう。声が滅茶苦茶裏返ってる。あと、それは僕のお財布で買える程度のもんだから、そんなに高いもんじゃないからね?」
「うぬぐぐ……」
舞は、緩みそうになる頬を、尋常ならざる心胆で押し戻していた。長年培ってきた意地が、今ここで歓喜することを押し留めているようだった。実に難儀な生き様である。
天弧は口元を緩めて、舞を見つめた。
「まぁ、未熟な僕からのささやかな贈り物ってことで」
「……私以外の人に……あげても、いいでしょ……」
「みんなにはちょくちょくなんやかんやで贈ったり贈られたりしてるしね。あと、たまには見栄を張りたい男心ってヤツだ。舞のことがすげぇ好きで、散々世話になってるのに、最近はデートもロクにできやしないからさ……考えた結果、ここは花か指輪だろうと思い立って、衝動的にプレゼントしましたとさ」
「………………」
「ちなみに、受け取り拒否は不可。いらないならどっかの海にでも捨てづぉっ!?」
椅子から転げ落ちそうになる衝撃に見舞われて、限界ぎりぎりで天弧は耐えた。
本当にぎりぎりだが、耐えた。
(花と指輪は危ないからやめておけ……って、こういうことか? 与一)
アドバイスは完全に無視したが、それでも後悔はない。
渾身の力で自分に抱き付いてくる舞の背中を、子供をあやすようにぽんぽんと叩く。
舞は、顔を伏せながらぽつりと呟くように言った。
「…………テン」
「ん?」
「……嬉しい。すごく嬉しい……」
「喜んでもらえて、僕も嬉しい」
「………………き」
小声で、よく聞き取れなかったが、なにを言ったかは分かった。
だから天弧も、いつもと同じように、自分も欲しがっている言葉を、舞に贈った。
「僕も、舞のことが好きだよ」
朝も早よからお仕事三昧。お腹がぐぅぐぅ鳴りました。
植物は水と肥料と日光さえあればなんとかなるのかもしれないけど、私は残念ながら人間なので、色々なものを食べないと生きていけないのだ。
庭の雑草を引っこ抜きつつ、私は空腹を訴えるお腹を抱えた。
「あの……京子さん。お腹が空いたんですけど、また食堂って開かないんですか?」
「今日は朝だけ開店休業。従業員用の飯はもうちょい待て。……ま、普段の行いの差ってことにしておいてくれ」
「どういう意味ですか?」
「普段の行いが良いと、今日だけ団体客がいなかったり、朝飯はサンドイッチみたいな手軽に部屋で食べられるものがいいやって客ばっかりになったりする」
「よく分かりませんが……言わんとしてることは分かりますね」
まぁ、私と京子さん以外の誰かがイチャイチャしてるんだろう。多分舞さんかな?
いちゃつくのはいいけど……お腹減ったなぁ。
「そこのイチゴとか食っちゃえば?」
「それは後々ジャムになる予定なので、食べるわけにはいかないんです。食べるんならそっちの、お宿に来た当初から自生してるブルーベリーをどうぞ」
「いや、それならブルーベリーを食べればいいんじゃないか?」
「ブルーベリーはジャムにして近所の方々に配る予定なので、空腹の私が口にするわけにはいかないのです。今日の我慢は明日のお肉や卵に繋がったりしたりしなかったり」
「……ハッカ飴あるけど、食うか?」
「いただきます」
京子さんからハッカ味の飴をもらって、コロコロと口の中で転がす。
うん……まぁ、甘さと口の中の爽快感で、少しだけ気は紛れる。
「……そういえば、ふと思ったんですが」
「んー?」
「なんで与一君、舞さんにだけ巨大な爆弾を残していったんでしょうかね?」
「んー……そうだなぁ」
欠伸をしながら、京子さんは暇潰しに植物に水をやっていく。
「放っておけない感じだったんじゃないか?」
「放っておけないって……私よりは舞さんの方が圧倒的にしっかりしてますよ?」
「私は与一じゃないから分からんさ。ただ……先月は舞がいちゃつく時間がそれほどなかったように見えるけどな。なんだかんだで、美里と舞に色々頼り切りだったし」
「……まぁ、それは確かに」
「美里はその辺器用だけど、舞は不器用だからな。さすがに『構ってくれ』とは言わないだろう? そーゆー所を、敏感に察知したんじゃないかと、あたしは推測するわけだ」
ミニトマトを勝手にもいで、食べる京子さん。
私の目の前だから遠慮がなかった。まぁ、ミニトマトは数が取れるからいいけど。
「まぁ、あたしは与一じゃないから詳しくは知らんよ。確かなのは、雨も降らずに地が固まったってことくらいか。あたしも指輪とか欲しいなー」
「指輪? 婚約的な、結婚的なアレですか?」
「もっと軽い意味の……男がバイト代貯めて買うアレなやつだよ」
「むぅ……確かにそれは欲しいですね」
「ただ、買ってもらうためには、デートの回数減らしたりしないといけないからなぁ。あたしはやっぱりいいやとも、思うわけだ」
「いっそ、京子さんがなにか天弧さんにプレゼントしてしまってはいかがですか? お返しに指輪くらいポンとくれるかもしれませんよ?」
「…………それは、恥ずかしいし、テンの財布が死んじゃうだろ」
「まぁ、私達は気長に待ちましょう。無精者には、舞さんの真似はできません」
「……そだな」
雑草を引っこ抜きながら、私は背筋を伸ばす。
お腹は減ったままだったけど、いつも通りに朝日が気持ち良かった。
「あと、二年以内くらいにはくれますかね?」
「やっぱり欲しいんじゃないか」
そんな受け答えを挟みつつ、今日もお宿の朝は平和に過ぎて行くのだった。
MAIさんをデレさせるだけでこの話数がかかる。
与一くんの仕事ぶりは完璧に近いけど、それでもこの話数がかかりました。酷い。
まぁ、実際はつヴぁいの最終話前くらいから楽勝でデレてましたが、決定的な言葉を吐かせたり動作をさせるのにえっれぇ苦心しました。尋常じゃないくらいにそっち方面じゃ動かない。ゴッドマーズくらい動かない。
次回は未定。京子さんか冥さんのお話かな?
その前に恋愛小説が思い付きそうなので、そっちが先か?