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第六話:ぷれぜんと・ふぉー・ゆー

別に更新してしまっても構わんのだろう?(失踪フラグ)。

前回山口さん以外の『一人称視点で使えるキャラ』を出したので、今回も流用。

前回、完全放置を食らった美里さん回になります。



 全ての戦う女のための愛歌。





 僕こと、如月与一はいわゆる『地雷踏み』のレッテルを張られている。

 クラスメイトの女子の日を的中させマジギレされ、姉貴に『本当は武道やめたいんだろ?』と言ってマジギレされ、旅行好きの先輩に京都の話をしたら「じゃあ、今から行こうぜ!」と熱血気味に言われ拉致され、帰って来たら先輩の彼女にしこたま怒られた。

 空気は多少読む努力はしているけど、本音をポロッと言って人を怒らせる。

 そーゆーことを度々やっている、わりと人間のクズに近いなにかが、僕だ。


「ふと思ったんだけど、橘さんたちって眼帯の嫁のわりには指輪とかしてないよね」


 二人の前でそんなことをポロッと言った。

 二人。高倉天弧と橘美里。

 なぜその二人かというと、眼帯が僕の部屋にゲームをしに来て、橘さんは気を利かせてクッキーを持ってきたとかそういう構図だったからだ。

 他の連中がいなくて幸いだったと思う。本当に。神様はきっと見ている。

 しばしの沈黙の後、最初に橘さんが口を開いた。

「ゆ……指輪、ですか? それはその……婚約とか結婚的な?」

「いえいえ、さすがにそれは意味が重過ぎるし懐の具合もアレになるんで、もっと軽いアクセサリー的な意味です。彼氏からもらった指輪とか素敵じゃないですか」

「……そう、ですね。確かに素敵ですけど……」

「与一。与一くん。与一サン。ちょっと……ちょっと待とう。こっちで話をしよう」

 眼帯が僕の腕を掴んで部屋の隅に避難した。

 この位置だと普通に聞こえてしまうと思うけど、眼帯は恐る恐る口を開いた。

「与一サン。あの……指輪と申しましたか?」

「うん」

「いともあっさり頷きやがった。さすがというかなんというか……頭に白いうんこ乗せてる男は言うことが違うぜ」

「うんこじゃねーよ!」

 日替わりで頭に乗って来る蛇やら小さい狼やら大きい蟻やらはともかくとして。

 僕は目を細めて、言葉を続けた。

「まぁ、なんとなーく思っただけだから。僕はモノより思い出派だけど、モノはモノでかなり重要だと思うんだよね。なんだかんだで嬉しいじゃん?」

「………………」

「その発想はあったけど、実行に踏み切れなかったって顔だね。眼帯」

「いや、まぁ……うん。タイミングというか、そういうものが、なかなかね?」

「じゃあ、逆に考えよう。たまには贈られる側に回ったらどうだい?」

「……は?」

 中学二年生らしく、人の心とか、状況とか、懐具合とかを察しないことを言った。

 僕らしくはなかったけども。

「女性にプレゼントするのが格好いいみたいな勘違いカッコ付けマンにありがちな発想だけどさ、たまには『これが欲しい』みたいにおねだりしちゃってもいいと思うよ? まぁもちろん『たまに』だからいいんだけどさ。常習化したらつまらんし」

「……勘違いカッコ付けマン……なんだろう、心が痛い」

「そもそも、なぜ男が女にプレゼントを贈るのが当然なのか? それは単純に原始時代から続く『雌の獲得』に端を発するような気がする。贈り物とはつまり『力の象徴』であると僕は考える。貴金属や鞄を贈るのも『力の象徴』だからだ。古代から現代までそれは絶対に変わらない……しかし、そういうモノの見方もあると同時に、贈り物に対する思いというものも確実に存在すると僕は考える。僕のお袋は親父殿が作った写真立てを今も大事に使っているが、結婚指輪の扱いとかはわりとぞんざいだ。外していることすらある。金額と想いはイコールじゃない。精一杯の努力にこそ心惹かれる女性も多い。自分はこんなに想われている……その充足こそが必要なんじゃないかと、僕は考える。……転じて、僕は女性が男性に贈り物をしてもいいと思うんだ。男は不器用でクソみたいな勘違いカッコ付けマンが多い。好意に対して大げさなリアクションは恥ずかしい。でも、それはもうやめよう。二次元ならともかく現代の三次元じゃオワコンだ。僕らは女の子にプレゼントをもらったらおおはしゃぎしていい。プレゼントを喜んでもらったら女の子も嬉しい。双方がハッピーでなにも言うことはない。もちろん、相手に喜んでもらうためのプレゼントの吟味は必要だと思う。独りよがりは誰にだって迷惑だ……と、まぁそこまでは蛇足だけど、双方が納得済みなら僕はなんでもいいと思うんだよ。おっぱいおっぱい」

「ちょっと良い話だったのに最後に無理矢理オチを付けやがった!」

「眼帯は欲しいものとかねぇの?」

「んー……プレゼントか。もらえりゃなんでも嬉しいけどなぁ」

「ああ、そういう風に言って暗に肉体を差し出すように要求してるわけか。……まったく、どうかしてるぜ!」

「オメーそれが言いたいだけだろうが!」

 眼帯は真っ赤になって叫んだ。

 五人の嫁がいるわりには初心な反応である。

「まぁ、別に眼帯が嫁をどうしようが、僕には一切関係ないし、僕が見てない所でコツコツ好感度を保っているなら僕からはなんにも言うこたぁねぇやな。あっはっは」

「ノリが軽いなぁ……いいけどさ。与一が女の子と付き合ったら同じこと言ってやる」

「僕の人生はクソゲーでさ、永遠にソロプレイヤーだから関係ないんだ」

「頭にうんこ乗せて、よくそういうことが言えるよな」

「うんこじゃねーっつってんだろ。殺すぞ」

「お話は済みましたか?」

 橘さんの言葉に、ようやく我に返る馬鹿二人。当たり前の話だが会話は筒抜けなんだけど、それが終わるまで待ってくれるあたり橘さんはすごく良い女性だと思う。

 橘さんを前にした眼帯は、借りて来た猫状態でかなり委縮していた。

「あの……美里さん」

「そういうわけで、久しぶりにデートをしましょう」

「……え」

「今週末は開いてますよね? たまには二人でお出かけしましょう♪ では、私はまだお仕事がありますので、これで」

「ちょっ……美里さんっ!?」

 眼帯が止める間もなく、橘さんは疾風のごとき速度で部屋から出て行った。

 アホ面で部屋に取り残されたのは馬鹿二人。僕と眼帯である。

 僕はにやりと笑いながら、悪魔のように眼帯に囁いた。

「ほら、デートイベントだぞ。喜べよ」

「……与一サン? ちょっくら聞きたいんだけど……謀った?」

「うん」

 以上、橘美里さんとの共謀作戦でした、イェーイ。

 僕こと、如月与一はいわゆる『地雷踏み』のレッテルを張られているが、大体全部を自分の意志で踏み抜いてきた。クラスメイトも姉貴もわざと踏んだ。今回も踏み抜いた。

 踏み抜いたのは何を隠そう『眼帯にとっての地雷』である。

「橘さんが眼帯と一緒に買い物に行きたいって言ってたから、一芝居打った」

「直接言ってくれよ……心臓に悪いよ」

「ごめんなさい。橘さんが、眼帯の困った顔が見たそうな顔をしてたから、つい」

「いや……まぁ……確かに美里さんが大満足そうな顔してたからいいけどさ……与一はいつもこんなことしてんのか? 絶対に嫌われるだろ、こんなもん」

「いつもするわけねぇだろ。採算度外視は気に入った奴にしかやらねぇよ」

 採算度外視。

 好感度無視。体調無視。心境無視。その他諸々全て無視。

 嫌われる覚悟でやらなきゃいけないことってのが、僕の人生には転がっている。

「ま、眼帯はなにもしないで大人しくしとけ。準備は人の好意を真正面から受け止める覚悟だけでいい。いつも通りで楽勝だろ? 楽勝過ぎてクソゲー過ぎるぜ。げらげら」

「覚えてろ……与一が誰かと付き合うことになったら、絶対に仕返ししてやる」

「永遠にねェ永遠にねェ」

 パタパタと手を振りながら、僕は口元だけで笑った。

 頭の上の白蛇がくるりととぐろを巻き、シュルリと舌を出した。



「事件です」

 お昼休み。開口一番冥さんが言い放った言葉が、それだった。

 京子さんお手製の日替わりランチ(シェフのオススメとも言う。シェフの機嫌を損ねると酷いことになる)に付いてきた春巻きを飲み込んで、私は口を開いた。

「京子さん。春巻きは分かるんですけど、なんでピザが?」

「小麦粉とチーズがえらく中途半端に余ったからね」

「春巻きにもチーズが入ってますし、チーズとチーズでダブっちゃってるんですけど」

「んだよ。あたしの作る飯に文句があるってのか?」

「天弧さんと舞さんに作ったお弁当の春巻きはササミとネギだったじゃないですか」

「今日の弁当は美里が製作した。そのせいでササミがなくなったんだよちくしょーめ」

「いや、お二方。リラックスしてるのは分かりますけど、せめてツッコミを」

 ボケを完全にスルーされた冥さんは、かなり悲しそうだった。

 とはいえ、午前中はわりと忙しかった。午後からはちょっと暇になりそうだけど。

「で、事件ってなんですか?」

「実はですね……最近、チーフがやたら難しい顔をしているのです」

「……山口、後は任せた」

「逃がしませんよ?」

 京子さんの腕をがっちりと掴む。

 美里が難しい顔をしている時は、大抵ロクなことがない。本人的には極めて真剣なんだけど、他人から見たらわりとどーでもいいことで思い悩み、思い悩みまくった挙句に色々と滞ってしまうのがお約束だったりする。

 解決策は二つ。放っておくか、こちらで解決してしまうか。

「前の美咲の時なんて酷かったからな……テンがいなかったらどうなってたことやら」

「部活動で足を折っただけでえらい騒ぎでしたからねー……美里は情が深いんですよね。良い所であり、欠点でもありますけど」

 長所は短所。短所は長所ということだ。

 美里の場合はちょっとそれが極端だったりする。

 冥さんはこほんと咳払いをして、神妙な面持ちで言った。

「というわけで……私たちにはどうにもならないパターンだった場合、私たちはどう対応しましょうか? という、わりと真剣な相談です」

「美里の穴を冥で埋めて、冥の穴には舞と山口でフォローしてもらおう」

「いっそのこと私が厨房に入って、冥さんの穴を舞さんと京子さんで埋めましょう」

「どっちにしろ、それだと私が遊びに行けなくなっちゃうじゃないですかー」

『仕事しろ』

 言い訳をしておくと、冥さんは尋常じゃない速度で仕事はしている。

 ただ……周囲の人間が仕事をしている中、一人だけ遊ばせるわけにはいかない。

「ご主人様や舞ちゃんがいない時に遊ぶ相手ができたから、忙しいのです。与一の奴はゲームが下手くそなので、私が教えてあげなきゃ駄目なのですよ」

「天弧さんとやってる時は普通だった気がしますが……」

「ご主人様は優しいので言わないのです。故に、私があの野郎にオンラインプレイのマナーを叩きこんでやらなきゃいかんのです。これは使命なのです」

「……京子さん、私は最近あんまりゲームやらないんですが、なんで冥さんはあんなに燃え上がっているのでしょうか?」

「ゲームには色々と暗黙の了解があってな。それを与一がことごとく破るから怒ってるんだよ。……ただ、与一の場合はなんつーか……明らかに狙ってやってるんだよな。敵の即死攻撃のモーション見てから、冥のキャラを身動きさせないようにしたりとか」

 それは性質が悪い。同時に与一くんがやりそうなことだとも思う。

 小学生が好きな子に嫌がらせするタイプ……と、まぁ曖昧に解釈しておこう。

 絶対に違うと思うけど。

「むしろ、山口さんが総括やってくださいよー」

「私がやるくらいなら救援呼びますよ。鞠絵にお頼みしますよ」

「山口の妹だっけ? 今どうしてんの?」

「毎日メールが来ますけどいつも通りみたいです。忙しくもあり忙しくもなくといった感じですけど、あの子はあの子で友樹様……じゃなくて友樹くんにべったりですからね」

 雇用だかなんだか、お仕事をいただいていた立場ではあったけど、今は解消済みの契約なので、あえて『くん』付けで呼ばせてもらおう。

 様を付けると鞠絵が怒るし。

 あの子もなんだかんだで独占欲強いからなぁ……友樹くん滅茶苦茶もてるのに。

「姉妹で毎日メールか。冥みたいだな」

「ご主人様とは毎日メールしますけど、舞ちゃんとはしません。……そもそも、舞ちゃんはアウトドア派なので、あんまり話が合わないのです。昨日もなんか、自転車の話を延々と聞かされてちょっとうんざりなのです」

「………………」

 ちなみに、舞さんがしていたのは、ただの自転車ではなくロードバイクの話である。この前は中型二輪免許を取ろうかなと言っていた。

 自力原付問わず、最近は二輪車に凝っている舞さんだった。

 私としては結構興味深い話だったんだけど、冥さんは興味なさそうだった。

「自転車より、走った方が絶対に速いですよ」

「いや、その理屈はおかしい」

「冥さんが走って追いつけない速度まで出せるようになれば、冥さんもちょっとは興味持ちますかね?」

「やめろ、山口。お前が改造すると大抵とんでもねーことになるだろ」

「絶対に焦げ付かないお鍋は上手くできましたよ?」

「そーだな。試しに天弧監修でどこまでやったら焦げ付くかか試したけど、まさか『どこまでやっても焦げ付かない』とは思ってなかったよ。経年劣化ってのは重要なんだな。物の大切さってのがよく分かる……って、話が思いっ切りずれてきてるじゃねーか」

 ガールズトークは連想ゲームである。私たちが『ガール』かは自信がないけど。

 とりあえず、私たちは脱線した話を元に戻すことにした。

「まぁ、仕事に穴が空いたら空いた時に考えるとして……とりあえず、美里になにを悩んでいるのか聞いた方が早いんじゃないですかね?」

「聞きましたけど、教えてくれませんでしたよ」

「なにか変わった様子は?」

「んー……なにやらカタログのようなものをものすごく真剣な顔で見てましたね。眉間にものすごい皺が寄ってて、バイトの子たちが引いてましたよ。どんなカタログかはちょっとよく分かりませんでしたけど」

「……ふむ」

 私たちがお宿に来る以前……かなり前のことになるが、美里は通販の方法が延々と分からずに悩み続け、仕事に支障をきたした前歴がある。そういう意味ではカタログ的なものは色々と危ないような気がするけど、あれからは特にトラブルもない。

 と、なると、やっぱりそのカタログの内容が重要ってことになる。

「ちなみに、お昼から時間の空いている人は……」

「忙しい忙しい。あたしは山口の仕事を代行しなきゃいけないから超忙しい」

「午後は与一を連れて白楼家まで挨拶に行かなきゃいけませんが、代わりますか?」

「……私がやりましょう」

 面倒な仕事か、もっと面倒な仕事か、二つの仕事より面倒になるかもしれないけれど、もしかしたら午後は丸々時間の空く仕事か。

 結局私は楽になるかもしれない方を選択した。選択の余地がなかったとも言う。

 多分いつも通り判断を誤ってると思うけど、その辺はいつも通りだった。



「で、美里はなにをそんなに悩んでるんですか?」

「ぶっ!?」

 チマチマ様子を伺うのは面倒なので、もう直接聞いてみた。

 神妙な顔で事務仕事を行っていた美里は、机に突っ伏して顔を真っ赤にした。

「なななななななにをいきなり言うのかしら、コッコちゃん!? 私は別に悩んでなんてないし、むしろ絶好調よ!」

「えっと……これが冥さんの言ってたカタログですか」

「きゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」

 美里が机に置いていたカタログを広げる。

 通販系に見えなくもないけど、間違いなく『通販とは別の要件』で悩んでいるのだと直感が告げる。証拠は美里が神妙な顔でいじっていた事務書類。

 作業が全く進んでいないどころかパンダの落書きとかしちゃ駄目だと思う。

「べ、別にやましい所はないでしょ!? 私はただ欲しい物を選んでただけだし!」

「誰かの結婚式だったんですか?」

「え? しょ、招待状がないっ! いつの間に抜き取ったのっ!?」

 いつの間にと言われても……ポケットからこれ見よがしに装飾過多の紙が見えてたし、てっきり指摘して欲しいのかと思ってたけど。

 ホント、悩みだすと隙だらけどころじゃない人だ。

「ふむふむ……文面はありきたりですね。昔のお知り合いですか?」

「……昔のお屋敷の人よ。コッコちゃんも普通に挨拶とかしてたじゃない」

「うぐっ」

 正直に言うと、あの時代に働いてた人たちの顔はほとんど覚えていない。

 章吾さんとか美里は普通に覚えてるんだけど……他の人たちは『その他大勢』くらいのポジションで、あんまり顔を覚えようとしてこなかった。

 うう……胸が痛い。

「まぁ、昔のことはともかく……結婚式ですか。結婚かぁ……うん、結婚」

「聞いていると気分が落ち込む魔法の言葉よ。コッコちゃんにも分かるでしょう?」

「分かりますけどね……」

 結婚生活とやらに興味はないけど……今が大体そんな感じだから興味はないけど、結婚式や指輪にはちょっと興味がある。

 ウェディングドレスとか、誓いが刻まれた貴金属とかに、ときめきます。

「で、結婚式に行ってくるんですか?」

「もう行ってきたのよ。そのカタログは、結婚式に参加した人に配られる粗品のカタログね。最近の粗品は『粗』の字を使うのが勿体ないくらい豪華よね」

「……さ、参考までになんですが……どんな感じでした?」

「聞きたい?」

「聞くと凹みそうではありますが、聞かずに立ち去ることもできない微妙な気分です」

 聞きたくないが、聞きたい。そんな感じの微妙な気分。

 特に私の場合は友達とかあんまりいないし、友達も結婚していないので、結婚式の参加経験が全くない。聞きたくはないけど……是非、聞いておきたいのが本音だ。

 美里はにっこりと笑って、口を開いた。

「全体の流れとしては、教会で誓いのキス、写真撮影とブーケ投下、会場移動、各種イベント、ケーキ入刀、お色直し、歓談やイベント、終了の挨拶の後、二次会……みたいな感じかな。もちろん会場やウェディングプランで差異はあると思うけど」

「初っ端から人前でちゅーですか……なかなか度胸の要るイベントですね」

「まぁ、実際には病める時も健やかなる時もみたいな定型文の後だけど……参加者側から見るとね、結婚式に行く前がむしろ本番なのよ」

「ああ、ご祝儀の準備とか……色々ありますもんね」

 ご祝儀と聞いた美里の横顔に、一瞬だけ影が差した。

「一ヶ月に四回も結婚式が重なった時は、餓死をちょっと覚悟しちゃったわ……着て行く服はあんまりにも長く使ってなかったものだから虫食いだったし」

「ご祝儀ってどのくらい包むんですか?」

「大体三万円ね。二で割り切れる数は好ましくないわ。その人の評価や祝いたい気持ちで五万円とか、周囲と相談して決めるのもいいと思う。一人だけ突出して十万円以上出したり、そういうのは色々と勘繰られる原因になっちゃうからね」

「三万円……結婚式四回で十二万円……礼服の購入でさらにマイナスッ!?」

「気持ちなのだからそういう計算はあんまり良くないんだけど、こっちにも生活があるし日頃の貯蓄は大事ということよね」

 貯蓄……貯蓄かぁ。借金を未だに返せていない身分としては耳が痛い言葉だ。

 これ以上聞くと耳どころか心が壊れてしまいそうだけど。

「あとはまぁ……流れに任せてお祭り騒ぎって感じね。関係者のスピーチを聞いたり、二人の馴れ染めが流れたり、ちょっとしたゲームや食事をしたり……正直、面倒ね」

「面倒なんですか」

「面倒ねぇ。声をかけてくる男性が特に面倒」

 もてそうだもんなぁ……美里。

 結婚式は出会いの場とどこかで聞いたような気もするけど、本当らしい。

「あとは天弧さんの話を振られると困るわ。誇張され過ぎててなにがなんだか。私がふられた腹いせに刺し殺したとか、コッコちゃんに刺されて死んだみたいな話もあったし、京子と逃避行の末刺されて死んだなんて話もあったし、冥ちゃんと失楽園的なアレで最終的には刺されて死んだ……とか」

「全部刺殺の上、なんで私だけ事実に抵触してるんですかねぇ……」

「面倒だから、『舞ちゃんのお尻を追いかけるのに必死です』ってことにしてるわ」

「………………」

 さりげなく酷かった。限りなく事実に近い事実だけど。

「そういうことだから……二次会はほとんどキャンセルしてるわ。行かないというのも失礼だと思うけど、あんまり長居すると天弧さんが迎えに来ちゃうし」

「…………あー」

「そういうわけだから、やましいことはなんにもないのよ? 今だって粗品のカタログを見ていただけで、本当にやましいことはないのよ?」

「美里に全く関係なさそうな商品にマーカーが引いてある理由は?」

「……むぐぅ」

 万年筆とか、ベルトとか、時計とか。

 まぁ……なんとなく、どういうことで悩んでいるか察しはついた。

 顔を赤らめて、美里はゆっくりと口を開いた。

「その……実は、今度天弧さんとデートすることになったんだけどね」

「……ほぅ。なんですかその反応、三十二歳のくせに。乙女か」

「もぅ……やっぱりデートって言うと怒るじゃない」

「人並みの嫉妬心です。私もたまにはデートしたいとか思ってるだけです。むしろ内心ではちょっと喜んでるのでご心配なく。……で、プレゼントでもするんですか?」

「よく考えると、あんまり私から物を贈ったりとかしたことないなぁって……。思い立ったこの機会に感謝を込めて贈り物でもしてみようって思ったんだけど……あんまりこういうの詳しくないから、カタログを参考にしてたの」

 橘美里。乙女。年齢は三十二歳。

 いや、年齢については私もどうこう言えないんだけど……プレゼントか。

 プレゼント……男の子が好きそうなもの。

「ありきたりに、『プレゼントはワ・タ・シ♪』とかでいいんじゃないですかね?」

「……コッコちゃん?」

「すみません分かりません。ごめんなさい、テキトー言いました」

「コッコちゃんは、天弧さんとデートしたりする時は、どんな風にしてるの?」

「んー……お昼はお宿で済ませてから出発。家電量販品とか茶化しつつ、雑貨屋なんかで絶対に使わないお洒落雑貨なんかを見ながら、デパ地下で美味しそうなおつまみを買い漁って、駅前をぶらぶらしながらお茶して、園芸店に寄って必要そうな物を買い揃えつつ、暗くなって来たら夕飯を食べてお帰りみたいな感じですねs。その時々によって映画見たり、プールに寄ったり、夕飯にちょっと良いご飯食べたりとか……です……けど……」

「………………」

「み、美里? 睨まれても困りますよ?」

「大丈夫。ちょっとした嫉妬心だから。大丈夫。絶対大丈夫。ダイジョーブだから」

 本当に大丈夫なら『大丈夫』を四回も繰り返す必要はない。

 美里は目を閉じて、大きく溜息を吐いた。

「うん、まぁ……夫婦みたいとか、そういうのは今更だから言わないけど」

「こういうのは照れた方が負けです! 大体……そういう美里はどうなんですか?」

「最近は疲れてるから、あんまり遠出はしないわね。宿の近くを二人で散策したりとかが多いかな。車で出かける時も温泉とかで……おばさんっぽくなってきちゃったなぁって、ものすごく落ち込む時もあるのよ?」

「………………」

「……なんで半笑いなの?」

「いやいや、自称おばさんは言うことが違いますねぇと、ちょっとやさぐれた気分になってきちゃっただけですよ。ええ。素直に凹みますね。我ながらスレてしまったなぁと」

「ん? どういうことかしら? 喧嘩売ってるの?」

「逆ギレで誤魔化しても駄目ですよー……ぶっちゃけますと、人の目のないところでいちゃつき放題いちゃついてますよね?」

「……な、そ……そんなことは……ないわよ?」

 美里は目を逸らした。明らかに目が泳いでいた。

 私はメモ帳を取り出して、記録しておいたことを読み上げる。

「一昨日、遅く帰宅した天弧さんと一緒に連れ立ってお宿の周囲を散歩。楽しくお喋りをしつつ、月明かりの下でちゅーをしたという目撃証言があります。乙女か!」

「ひゃぅっ!? え、冤罪……冤罪です! その証言は誰のものですか!」

「黙秘します」

「むぅ……じゃあ、私も取っておきの情報を一つ。先週末、みんなが寝入った頃コッコちちゃんと天弧さんで、こっそり一緒に温泉入ったりしたでしょ? いちゃつき放題ならそっちも負けてないと思いますけど!?」

「ひぇぅっ!?」

 驚き過ぎて変な声が出た。

 まずい。バレなきゃ大丈夫と思って高をくくってたぶん、これは恥ずかしい。背中を伝う冷や汗を誤魔化すように、私はわざとらしく咳払いをした。

 美里にバレたまではいい。これ以上、特に冥さんや京子さんにバレるとえらいことになる。その前に……情報を提供した人物の息の根を止める必要がある。

「ごほん……あー……ちなみに、その情報提供者は……」

「黙秘します……が、条件次第じゃポロッと名字を口にしてしまうかもしれません」

「好きな日に仕事を代行しましょう。あー……私はポロッと名前を口に出しちゃうかもしれませんねー。……そちらも同じ条件でいいですね?」

「問題ありません。じゃあ、いっせーのーで!」

「如月」

「与一」

『………………』

 重く静かな沈黙が落ちる。

 私と美里は互いに目を逸らし、こほんと咳払いをした。

「えっと……とりあえず、休戦ということで」

「はい……抗議しに行きましょう」

 よく考えると、お互いに中学生から聞いた情報を真に受けて、暴露し合った挙句に醜い争いを繰り広げたという、大人としてかなり恥ずかしいことをやらかしたのだけれど、私たちはその事実をを全力で棚上げし、目を逸らすことにした。

 ちょっとだけ、心が汚れてしまったような気がした。



「っていうかさ、客がいる所でイチャついてんじゃねーよ」

 一刀両断だった。正論だった。ぐぅの音も出なかった。

 なぜか頭にカタツムリを乗せた与一くんは、携帯をプチプチいじりながら、溜息混じりに言った。

「ここが眼帯の家なのも、みんなの場所なのも知ってるけど、イチャつくんなら『従業員以外立ち入り禁止』とか『自分の部屋』とか、そういう見て見ぬふりができるエリアでやってくださいマジで。言っちゃなんだけどアンタらの関係はかなり毒々しいです」

『…………はい』

 抗議に来たのに、中学生の前で正座させられる二十八歳と三十二歳の図。

 恥ずかしい気持ちで胸がいっぱいだった。

「いや、でも……吹聴するのはどうかと思うんですよ」

「そもそも、僕は『ちゅーしてた』とは一言も言ってません。『眼帯と美里さんが仲良さそうに手ぇ繋いでた』と、微笑ましいエピソードのつもりで言ったんですが」

「コッコちゃん?」

 美里の視線が私に突き刺さる。

 いや……まぁ、確かに少々話を盛ったけど。盛りましたけども!

 絶対にちゅーくらいしているに決まってるじゃんって、思ったけども!

「あと、橘さん。僕は『眼帯と山口さんが深夜に風呂場の前で歓談してたんですけど、たまには広いお風呂に入りたかったんでしょうかね?』って言っただけで、一緒に入ったとかそういうことは一言も言った記憶がないんですがね?」

「美里サン?」

「だって……普通そう思うじゃない?」

 美里は目を合わせなかった。

 確かに普通はそう思うかもしれないけど……このぶんだとお屋敷時代の噂話とか、美里が盛りに盛った話もあるんじゃなかろうかと邪推してしまう。

 まぁ、それはどうでもいいことだ。

 今後は気を付けよう。本当に気を付けよう。

「まぁ……誤解を招くようなことを言った僕が悪いんですけどね……。ところで、王様の耳はロバの耳という童話をご存知でしょうか? 王様の秘密をうっかり握ってしまった床屋の気持ちが、今の僕には分かるような気がするのです」

「与一くん。目が怖いです」

「リアルが充実してる奴は爆発四散しろ」

「与一くんがそれを言うのもどうかと思いますけど……いつになくやさぐれてますね。なにか嫌なことでもあったのですか?」

「クラスメイトに彼女ができた。報告するな。惚気るな。相談するな。羨ま死ね。中学生の初デートの場所なんざ公園でお互いの情報交換しながらジュースでも飲んでろ」

「イライラしてるわりには、意外と的確なアドバイスですね……」

「中学生の恋愛なんざ、どーせ自然消滅しますよ……うざってぇ」

 確かにそうかもしれないが、疎遠や自然消滅といった『置いていかれる感覚』に一番苛立っているのはこの子だったりする。

 なんというか……色々と難儀な性格をしているようだ。

 と、与一くんが携帯を閉じたのと同時に、美里が口を開いた。

「あの、与一くん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいですか?」

「なんですか?」

「天弧さんに贈り物をしたいんだけど、男の子が好きそうなものって分かりますか?」

「男の子が好きなモノは、えっちなものです」

「それ以外で!」

「えっちなもの以外かー……縛りが入ると答えにくいなぁ」

 与一くんは腕組をして、目を細めた。

 どうでもいいけど、頭の上に乗っているカタツムリは不快じゃないんだろうか?

「まず、贈り物のことですが、これはボールペンでも喜びそうな気がします」

「さすがにボールペンは……」

「一本百円とかではなく、少々お高い贈呈用のボールペンですね。詰まりもなく非常に使いやすいものも多く出回っていますし、高い分だけインクの入れ替え等のサポートなども行き届いています。万年筆より使い勝手が良く、使用頻度の高い物は喜ばれますよ」

「あ……はい」

 美里は顔を赤らめた。赤っ恥をかいたと本人は思っているようだが、私も普通に一本百円くらいの安いボールペンを思い浮かべていたのは内緒だ。

 与一くんは言葉を続ける。

「というか、ボールペンじゃなくても高級品なら喜ばれます。……普通なら、ですが」

「確かに天弧さんは色々な意味で普通じゃありませんけど……」

「あの眼帯は最悪消しゴムでも喜びます。問題は……この宿には橘さんの他に、四人ほど眼帯にプレゼントを贈る人間がいるということです。贈り物は被ったら意味がない」

「…………ふむ」

「そういうわけで、今回は『欲しい物』ではなく『被らない物』で考えてみましょう」

 なんか、講義みたいになってきた気がする。

 与一くんは少し考える素振りを見せて、口を開いた。

「まず、五人の傾向から考えてみましょう。僕の見解では梨本さん>山口さん>橘さん>アホメイド>その姉の順で、物のやり取りが激しいです。特に梨本さんは女性としてコンプレックスが強いせいか、あの眼帯は積極的に甘やかしています。梨本さんは梨本さんでシルバーアクセとか好きで、眼帯に贈ったりしているようです」

「……まぁ、京子ちゃんなら仕方ないって気もしますけど……」

「山口さんはこの辺天然ですけどね。わざとやってんじゃねぇかって気もしますが」

「やってないし誰が天然ですか?」

 天然ではないと……思う。

 多分。いやきっと。絶対……うん。違うといいな、と私は思っている。

「そもそも、お金持ってないんですから、あんまり贈り物とかした記憶がないです」

「そーですか? 家庭菜園で作ったものをおすそ分けしたりとかは? 山口さん的には大したことない手作りの金属製のしおりとか、あの眼帯はすげぇ大事に使ってますよ?」

「……おぉぅ」

 やばい。ものすごく嬉しい。

 個人的には『片手間でチャチャっと』みたいな気分だったけど、大事に使ってもらえるならやっぱり嬉しい。

 ……顔が赤くなってきた。

「そういうわけで『手作りの品』や『アクセサリー類』は山口さんや梨本さん、『ゲーム等遊び道具』はアホメイドが、『衣類、参考書、細々としたもの』は姉の方が世話しちゃっているので、この辺は却下になります」

「なんか……選択肢がものすごく狭いような……」

「いやいや、結構広いですよ。個人的なオススメは常時身に付けていられる腕時計ですかね。眼帯の財布がボロっちくなっちゃってるので財布もいいと思います。サプライズはしたいけど、どうしても決め切れないという場合は、デート中に二人で買っちゃうというのも手ですよ。香水なんかはお互いに気に入った香りを贈るなんて真似もできます」

「………………」

 美里が真剣な顔でメモをし始めたっ!

 三十二歳の女性が十四歳の男の子に『贈り物』について学ぶ図がここにあった。

 いや、美里が情けないというよりも……与一くんが色々おかしい。男の子として上がっちゃいけない数値がカウンターストップしてる。

 いやいや……もしかしたら、これが普通なのかもしれない。

 最近の中学二年生は進んでるなァ!

「忘れちゃいかんのは、二人の時間を楽しむってことだと思います。そういう意味では夜中に手を繋いで散歩……みたいなのは、あの眼帯にとってはとても良いイベントだったんでしょう。気負うなとは言いませんけど、楽しむことを忘れないでください」

「はい……とりあえず、お財布で色々調べてみますね!」

 メモをポケットにしまって立ち上がり、美里はそそくさと部屋から出て行った。

 部屋に残された与一くんは、大きく溜息を吐いた。

「言っちゃなんだけど、他人の恋路ほど面倒くさいものはない」

「その割には真剣でしたよね?」

「悪いことをするより、良いことをした方が気分が良いじゃないですか」

「ちなみに、私にもなにかこう、必殺技的なテクニックなんかを……」

「現状維持」

「……えっ」

「現状維持が一番です」

「……あ、はい」

 きっぱりと言い放たれて、私はなにも言い返せず茫然と立ち尽くすしかなかった。

 そんなことを言い放った彼の目は、まるで沼の底のように真っ黒だった。



 誰かを想うという感情は、コップの水のようなものだと思う。

 まぁ、この例えは花粉症の許容限度にも使われたりするけれど、要するに『人の想い』というものにも許容限度ってもんがある。

 喜怒哀楽、全部一緒。

 方向性は違うけど『この気持ちを伝えずにはいられない』のは、どれも同じだ。

「つまり、ここで僕が『邪魔だどけ』と伝えるのは、我慢を重ねた結果なんだよ」

「おやおや……毎々や紅姫には優しいくせに、私にはキツい物言いだな」

「三週間我慢した。あとちょっとで一ヶ月だ。一ヶ月したらお断りの手紙を書いて、僕は家に帰る。君らとも縁が切れて清々するね」

「あっはっはっは! 最近の世俗には面白いものがたくさんあるんだな!」

「話を聞いてくんない? 断られようがなにされようが付きまとうつもりなの、やめてくんない?」

 なんで童女と並んでPCで動画見なきゃいかんのだ。僕はもうそろそろ眠い。

 睡眠不足は天敵だ。特に僕の場合は定期的にちゃんと睡眠を取らないと。

 あ……今のはなんか子供っぽいぞ。普段からじじくさいとかよく言われてることに関しては、内心ではちょっと傷付いたりもしているのだ。

「おい、寝るな。構え」

「……殺すぞー」

「ぺろり」

「やーめーろーよー」

「あ……もういかんなこれ……仕方ない。今日はもう寝ていいぞ。許可しよう」

「なんで許可制なんだよ、ふざけんな。睡眠時間だけは自分で管理するから。ベッドが獣臭いのも我慢するから、頼むから眠らせて。その前にトイレ行ってくる」

「……え、ちょ……私は臭くないぞ!」

 ツッコミは無視して部屋を出る。

 臭いです。具体的には女臭い。女の子の匂いは少しだけ苦手なのだ。

 まぁ、クソみたいにキッツい香水撒き散らすクソ馬鹿に、七年ほど丁寧に痛めつけられれば誰だってそーなる。僕だってそーなった。

 ふらふらする頭を抱えてトイレに向かう。なんかもう色々疲れたし眠い。

「あ……そうだ」

 ふと思いついて、用を足した後に部屋とは逆の方向に向かう。

 せっかくだし、なにか飲み物を買っておこう。

 この宿には入り口近くと温泉の近くに自販機が置いてある。温泉近くには分かりやすく牛乳やビール。入口近くには訳の分からない飲み物が揃っている。

 まぁまぁ飲めるので、僕は入り口の飲み物を愛飲している。

 食堂に行けば普通の飲み物も出してくれるんだろうけど……まぁ、いい加減夜遅いし、梨本さんの手を煩わせるのも、悪いし。

 飲み物代くらいは眼帯にもらっているので、ありがたく使わせてもらおう。

「……ん?」

 自販機にお金を入れようとした所で、ふと気付く。

 入口近くにはソファが設置されている。温泉宿としては普通のことなのであまり違和感はないんだけど、今日は少し違った。

 ソファに、一組の男女が座っている。

 え? マジ? もしかして幽霊的なアレ? 空腹時に見た仮面ライダーのパチもんのフィギュアみたいなキャラの幻覚に襲われるのは滅茶苦茶怖かった記憶があるが、もしも幽霊だったらどうしようと、馬鹿な妄想が掠める。

 そっと遠目で様子を伺うと……まぁ、普通に見慣れた方々だった。


 眼帯と橘さんが、お互いにもたれかかって手を握って眠っていた。


 簡単に言うと人の字。

 まぁ、大人なんだからお酒くらいは飲むだろうし、眠ってしまうくらいなら全然大丈夫だろう。むしろ微笑ましい。眠る眠らない以前に大暴れしたり吐いたりする奴の方が多いのだ。いつだって現実は非情である。

 全部の恋愛がこうだといいのにと、柄にもなく思った。

「さて、ここで僕が取るべき選択肢は……」

 ①:山口さんに知らせる。

 ②:梨本さんに知らせる。

 ③:冥に知らせる。

 ④:黒霧姉に知らせる。

「⑤:眼帯の部屋から毛布を調達して、二人にかけて部屋に戻る」

 即座に選択して、眼帯の胸ポケットから鍵を拝借し、欠伸混じりに歩き出す。

 選択肢が五つあったが、結局どれを選んでも結果は同じような気がする。

 誰だって、毛布をかけてその場を立ち去っただろう。

「だから、僕も他の誰かと同じ行動を取る。なんの問題もないよね」

 他の誰かが見つけていたら、橘さんに少なからず嫉妬してただろうけど、その点僕ならなんの問題もない。

 心置きなく、微笑ましいものに、お疲れさまと言ってやれる。

 たまには……優しいことをするのも悪くない。そんな風に思った。



 まぁ、この優しさの結果、翌日四人全員に見られてゴタゴタするんだけど。

 それは……僕には関係のない話である。

流用は次回まで続きます。つまり、与一くんは次回で退場。お疲れ。

さすがというかなんというか、女子力カンストは格が違った。

次回は黒霧姉のお話。山口さん視点だと微妙に描くのが面倒なことも、別

キャラ視点で描くと楽に行けそうなそうでもなさそうな。


その前に、気が向いたR18じゃない読み切りを描こうと思う。

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