「少納言」活用のすすめ―文章を書いている時に言葉の使い方や表記に迷ったら―
文章を書いていると、言葉の使い方や漢字の表記などで迷うことがあります。小説家になろうを利用している方なら誰もが一度はそういう経験があるでしょう。
もし迷った場合、みなさんどのように解決しているでしょうか。辞書を引く、ネットで検索するなど色々な方法があるかと思います。でも辞書に出てくる用例は限られているし、ネットの検索ではなかなか思うように用例を探すことができなかったりします。
そんな時私は、国立国語研究所と文科省が共同で開発した「現代日本語書き言葉均衡コーパス」の「少納言」を使います。
ご存知の方、利用されている方もいらっしゃると思いますが、簡単に「少納言」がどういうものかと、その活用方法をご紹介したいと思います。
コーパスというのは大量の言語データのことで、「少納言」は合計1億語以上の日本語データから任意の文字列を検索することができるインターネット上のツールです。ある文字列を検索すると、その文字列を含む前後の部分が抜き出されて、その出典も併せて表示されます。
検索対象のジャンルは書籍、雑誌、新聞から国会会議録まで全部で11種あります。その中から自分の好みで書籍だけを対象にしたり、書籍の中でも文学だけを選んだりすることも可能です。少しくだけた柔らかい文章での用例を検索したい場合は、対象をYahoo!ブログやYahoo!知恵袋に限定するのが良いかと思います。
くどくどと説明しても分かり難いので、具体的な使用例をいくつか挙げてみます。
使用例1 「漆黒」とは何を形容するか?
『広辞苑』によると、「漆黒」とは「漆のように黒くて光沢のあること。また、その色」だそうです。用例としては、「漆黒の髪」「漆黒の闇」が挙げられています。
では他にどんな用法があるか、「少納言」を使って調べてみたいと思います。
「少納言」はグーグルで検索すると一番上に出てくるのですぐ見つかります。クリックすると最初のページに「少納言」についての説明と利用方法などが書いてあり、ページの下部に「利用条件を読んで少納言を使う」というボタンがあるのでクリックします。利用条件をきちんと読んで「OK」を押すと、検索条件を入力する画面が出ます。
まずはシンプルに、検索文字列の欄に「漆黒」と入力して検索ボタンをクリックします。検索対象を全て選択した状態では、結果は203件出てきました。それほど多くはないので全部の用例を見ることが可能です。ちなみに「少納言」は検索結果がランダムで500件までしか表示されません。500件を超える場合、全ての用例を見るのは難しいです。
出てきた用例を見てみると、やはり「漆黒」と形容されるのは「髪」や「闇」が多いようです。その他多いものとしては、「瞳」「目」「影」「空」「夜」「翼」「羽」などがありました。「コート」や「僧衣」などの衣服に関する語もありますし、「猫」や「馬」などの動物も見られます。
変わった用例もありました。「漆黒の光」「漆黒の肌」というものが、出典がYahoo!ブログの文で出てきます。
見付かった用例はほとんどが想像の範囲内で、少し拍子抜けしました。もっと色々出てくるかと思ったのですが……。ともかく、出現頻度の高い用例はより一般的な表現であり、読者も違和感を抱きにくいと考えられます。出現頻度の低い、あるいは用例が見付からない表現は読者が違和感を抱く可能性がありますが、そういうものが文体の個性にも繋がります。
用例があるから正しいとは限りません。無いから間違いというわけでもありません。「少納言」は一つの参考として利用するのがおすすめです。
使用例2 「皿に乗せる」「皿に載せる」「皿にのせる」どの表記にするか?
これは私が実際に文章を書いていて迷った事例です。辞書を引くとどれも間違いではないようなので、どれを選ぶか迷ってしまいました。
「さらにのせる(のる)」の表記を調べるには、三回に分けて検索します。順番はどれでもいいのですが、まず「乗」の漢字を使う用例を検索してみます。この時、検索文字列の欄には、「皿に乗」まで入力します。これは「皿に乗せた」「皿に乗せて」や「皿に乗らない」「皿に乗り」などの活用形の変化があるためです。
次に、検索文字列のすぐ下、「こちらをクリックすると正規表現を使用して前後の文脈を指定できます」と書いてあるところの「こちら」をクリックします。すると前文脈と後文脈を入力する欄が現れるので、後文脈に「^[せらりるれろっ]」と入力します。これで全ての活用形を検索できます。(正規表現についての説明はここでは省略します。)
下の検索対象は特に操作せず全てにチェックを入れたまま、検索ボタンをクリックします。検索結果は16件出てきました。
同様に「皿に載せる」と「皿にのせる」を検索すると、「皿に載せる」は18件、「皿にのせる」は53件です。
数量を見ると、「さらにのせる(のる)」の「のせる(のる)」はひらがなで表記する用例が圧倒的に多いということが分かります。
また、出てきた用例が少ないのでそれぞれの出典を一通り眺めてみると、「皿に載せる」と「皿にのせる」は書籍がほとんどであるのに対し、「皿に乗せる」はブログと知恵袋の割合が高くなっています。
以上の検索結果から、「皿にのせる」というひらがなの表記が最も無難だろうと判断しました。
「少納言」は簡易的なものなので、検索結果が500件までしか表示されない、検索結果をダウンロードできないといった制約はありますし、データも2008年のものまでしか収録されていないので新語や新用法を調べるのは難しいです。
しかしそうは言っても日本語の書き言葉の用例を調べるのにとても便利なツールであることに違いありません。以上で紹介した使用例はごく一部で、他にも色々活用できるはずです。利用条件を守れば誰でも無料で使用することができますので、ぜひ活用してみてはいかがでしょうか。文法的なことが気になる方には、NINJAL-LWP for BCCWJもおすすめです。