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取り巻きその3と御曹司

 いや、待って。落ち着け。素数を数えるんだ。ほら、聞き間違いという可能性だって…………、

「ふふっ、驚いたでしょ?」

 ……ないな。なんか急に雰囲気が女性らしくなっているし。完全にその道のプロの技である。

 

「……」

 うん。まず、言いたいことは。


 ……キャラが濃すぎませんか、宮下様。


 宮下財閥の次期社長で、美青年で、オネエとか。しがない取り巻き3の私は言わずもがな、乙女ゲームのヒロインとか攻略対象とか悪役令嬢が遠く彼方に吹き飛ぶレベルのキャラの濃さである。

 

 中性的な顔立ちだから、肩幅の隠れるドレスとかきたら違和感なさそうだけど、それでも最初は女性らしさはなかった。爽やかで紳士的で、まさに年頃の乙女の描く年上男性の理想像だったのに。

 あー……。

 でも、なんでだろう。我ながら残念なことにその時より今の方が、すごく、こう……ホッとする。


 とりあえず。


「……こ、恋人っていうのはその……」

「嫌ね、女よ?」

 うわぁ、良かった。すごく安心した。いや、同性愛に偏見がある訳じゃないけどね? 



「結奈ちゃんって、佐山の子じゃないって本当なの?」

 お詫びにと差し出したケーキを食べながら宮下様、いや誠さんがいった。オネエだと知ってから御曹司様と思って張っていた肩の力が抜け、会話が弾んだ。既に連絡先も交換ずみである。

「はい。佐山財閥とは無関係のただの佐山ですよ」

 もうこの質問は何度目だろうと思いながら答える。

 なんでも、宮下財閥よりやや格下に佐山財閥なるものがあるらしく。

 実は身分を隠しているだけで、佐山財閥の人間だと思われていたのだ。ちょうど同じ年の女の子がいて、その子が留学していて鈴蘭にいなかったことも信憑性が増す原因だったのだろう。

 私は舞ちゃんとは違って完璧な庶民であるいうのに。否定しても信じてもらえず悲しい思いをしたものだ。まぁ、その誤解のおかげで皆さん最初は普通に接してくれていたんだけど。そこで、皆さんが嫌っているのは私ではなく庶民だと分かったから頑張ってこれた。

 多分ゲームの世界でもそうだったんだろう。瑠璃様達が嫌っているのは「私」や「舞ちゃん(ヒロイン)」ではなく「庶民」だった。


「まぁ、そうよねぇ。結奈ちゃんが留学中の佐山じゃないってのはアタシが一番分かってるんだけど。梨々菜と結奈ちゃんってどっか似てるのよねぇ。でも梨々菜に姉妹はいないはずだし」

 あれ?

「佐山様とお知り合いなのですか?」

「ええ。アタシの恋人だからね」

「へぇ……って!?」

 まじまじと顔を見つめてしまった。


 だって。

 上流階級の事情に詳しくない私だって知っているくらい梨々菜様は変わり者と有名なのだ。その梨々菜様、と?


「……こんなアタシでも受け入れてくれる人なの」


 口調こそ女性のものだけど、雰囲気がまた男性っぽくなった。そこから、大切に想っている事が伝わってくる。

「素敵ですね」

「……ありがと」

 誠さんから幸せに満ちた綺麗な笑みがこぼれ落ちた。

 うん。誠さんはこれでいいと思う。紳士的な時より自然体のこの笑顔の方が何倍も魅力的にみえる。



 ※


「あの子の中のアタシって「優しくて格好いい最高のお兄様」なのよね。すごく懐いてくれるし可愛いとは思うんだけど、だからこそコッチの趣味があること言えなくて……」

 誠さんが憂いをにじませて呟く。

「そういう趣味をどう思っているか聞いておきましょうか?」

「え! ほんとぉ? そうしてもらえると助かるわ」

「いえいえ」

「もー、結奈ちゃんって聞いてたとおりの子! 紹介してくれた寿々花にも感謝しなきゃね」

「あ」

 誠さんの発言が衝撃的すぎて忘れていたがもともと寿々花様がお見合い的な意味でこの場をセッティングしてくれたんだった。

「寿々花様になんて言えばいいでしょうか」

「んー、やっぱり悠真くんがいいって言えば?」

 だからなぜにそこで悠真様が出てくるかな!


 そういえばやたらと瑠璃様が悠真様に協力的なのはもしかして寿々花様と同じ理由なんだろうか。そうだとしたら……やばい。可愛い。

「やだ。結奈ちゃんったらニヤケちゃってっ、まんざらでもないのね!?」

「イエ」

 楽しそうに言われたが……すみません。ニヤケたのは全く別の理由からです。

「まぁ、冗談よ。寿々花にはアタシから言っておくわ」

「そうしていただけると有り難いです」

 良かった。誠さんは事実すてきな人なので、どう断って良いものかと思ったんだ。


「それと、寿々花と同じ事に気がついた他の子達がこんなこと起こさないように、兄の方に忠告しておくわね」

「ありがとうございます!」

 それは大分助かる。いや、そこまで思ってもらえるのは凄い嬉しいよ? けど、御曹司と二人きっりとか庶民の胃には優しくないんだ。


「あ、その代わりと言ってはなんだけど、ちょっと雑談きいてくれる?」

「はい」

 誠さんは優雅に指を立てた。


「アタシたちはね、結婚とか制限されるのよ」


 まぁ、そうだろう。政略結婚は昔の話、と思っている人も多いだろうけど、上流階級ではまだわりとある話だ。

「まぁ、アタシはあっちも一応令嬢ではあるし、大丈夫なんだけど、他の子達はそうはいかないわ」

 話したいことの意図がよく分からないが黙って聞く。

「けどね、三条家は別よ。あの家は力がありすぎて危険視されてるからね。むしろ上流階級じゃなく、庶民の方がいいと思うのよね!」

「はあ」

 はい。意図がよく分かりました。これ実は寿々花様の可愛いたくらみを利用した悠真様の差し金じゃないだろうな。ありそうで怖い。ていうかうすうす腹黒そうだなぁと思ってたけど本性ばらしてからの悠真様が容赦なく腹黒くて困っている。


「結奈ちゃんごめんねぇ。この話をしたことちゃんと、悠真くんに伝えて頂戴ね! 三条に睨まれるのは怖いのよ」

「……はい」

 雑談するくらいで、お礼になるのかと思ったけど、確かにこれはねぇ……。

 いいけどさ。抜かりないな。宮下財閥、誠さんが継いだら発展しそうだ。




「結奈ちゃんここで下ろしていいかしら?」

「はい」

 誠さんが駅前でおろしてくれる。オネエだがそこは腐っても御曹司。紳士教育が行き届いているのだろう。きちんと手を差し出してくれた。


「送っていくわ。今日は本当にごめんなさいね」

「いえ誠さんのお話楽しかったので。むしろこちらこそケーキをごちそうになってしまって」

 凄く、美味しいケーキだった。甘すぎず、さっぱりし過ぎず……。生クリームが、高級な味がした。瑠璃様たちとサロンで高級なケーキを食べている私だが、それ以上に高そうな味と見た目だった。あのケーキ、お値がだいぶはるだろうな。


「うふふ。今度は寿々花も一緒にスイーツビッフェでも行きましょうね」

「わぁ、楽しみです!」


 別れ際の誠さんのまたね、というウインクが華麗すぎてハートを打ち抜かれかけたのは余談である。


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