表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/16

取り巻き3と攻略対象

「瑠璃?」


 透き通ったテノールボイスがかかった。

 振り返ると光り輝く美貌の持ち主。この方こそ庭教師を頼まれかけた三条様の兄、三条悠真様である。言わずもがな、彼も攻略対象だ。


「お兄様っ!」

 救世主様っ! と私も叫びたかった。三条様が振り向き、弾んだ声をだした。―――だがしかし、手は放さない。

「なにしてるの?」

「この女が!」

 三条様がびしっと舞ちゃんを指した。

 舞ちゃんは三条様(兄)のあまりの美貌にぼうっと見入っている。―――だがしかし、手は放さない。

「ああ、君が転校生?」

「は、はいっ」

「そう、瑠璃とも仲良くしてあげてね」

「…………………………はい」

 返事の! 差が!


 三条様(兄)はわかりやすい舞ちゃんの反応に苦笑を浮かべる。そして私の方を向いた。

「で、結奈ちゃん。なんだか面白い状況になってるけど」

「お久しぶりです。三条様。私にとってはあまり楽しめない状況なのですが」

 わりと緊急事態なんです。そろそろ日頃の運動不足せいで腕がつりそうになってきてる。

「ちなみにどういった経緯でこんな事に?」

 私は状況をかいつまんで話す。私もほんと謎なんだけどね!


「助けて欲しい?」

「ええ、切実に」


 そう、と笑う三条様(兄)……攻略対象だけあって細かい動作がいちいち絵になる。

「瑠璃。そして、姫野さんだったかな? 結奈ちゃんは困ってるよ」

「で、でも」

「どちらか一方でも今日食べると約束した?」

「……それは」

 言葉につまる二人。

 まぁ普通毎日食べていたら約束なんていちいちしない。不自然な事ではないが、この美貌と美声の持ち主に諭されたらなんだか悪いことのように思えて反論できないよね。分かります。


 それにね、と三条様(兄)は続ける。

「結奈ちゃんは今日僕と約束してるんだ」

「ええ、そうなのです。ごめんなさい皆様」

 勿論していない。けれど、乗っからせてもらう。ありがとうございます三条様(兄)!

 二人とも約束していたなら、と渋々手を離してくれた。

「さ、いこうか」

「はい」

 すぐにお礼を言って、別れるつもりでついていく。が、角を曲がった瞬間なぜか手を掴まれた。

「三条様?」

「結奈ちゃんって他に食べる相手いないよね?」

 なんかぼっちみたいな聞かれ方だ。

「ええ。まぁ……」

 声をかけたら入れてくれると思うからいないこともないけど。

「じゃあ、せっかくだから、一緒に食べよう」

 ……えっと?

「瑠璃の事もききたいし」


 意図は分からないが、少なくともこれは建て前だろう。その為だけに私と昼食を取るというのは、やや合理主義の面のある三条様(兄)らしくない。

 というか、この手は私が角を曲がったら去ろうとしていたことを読んでいたな。うすうす気づいていたけどゲームでは温厚なキャラだったけど現実の三条様(兄)はかなり策士だ。いや、はっきり言ってしまおう、腹黒だ。

 うーん……もしかして、私を押しかけてくる女性の盾にしようと考えていらっしゃるのだろうか。何気に女性嫌いではあるし。

 勝手に結論を出して、口を開く。


「三条様さえ、迷惑でないのなら是非」

 助けて下さったお礼に盾くらいにはならせていただこう。

 吹けば飛ぶもろい盾だけど。権力には弱いです。


 三条様(兄)に誘導されて人目の少ない場所についた。

 あれ? 人目の多い場所の方が女性の牽制になるんじゃないかな? まぁ、いいっか。彼の人の考えに私が及ぶとは思えないし、意図があるんだろう。

 振り返り、改めて頭を下げる。 

「三条様、今回は助けて下さりありがとうございます」

「助けたというほどの事はしていないよ。ところで前から気になってたんだけど、」

 なぜかぐっと身を近づける三条様(兄)


「結奈ちゃんって瑠璃も僕も三条様って呼ぶよね。分かりにくいなぁ」

「……びゃっ」

 変な声がでた。

 ち、近い! 三条様(兄)近い! 男性免疫のない私にこの距離はかなり厳しいんですが。あっ、でもお嬢様方に急に距離を詰められた時もドキリとしてしまうので、男性免疫ではなく美形免疫なのかもしれない。

 身をやや仰け反らせる。

「で、では。瑠璃様とお呼びしますね」

 この方を悠真様と呼ぶなんて出来るわけもない。この回答が正解だろう。瑠璃様もなんだか舞ちゃん呼びに憧れていたようだし。

 それを思ってか。妹想いの良いお兄様だ、な──

「それもいいけれど。僕の事も悠真って呼んでくれるかな」

 ……なんだかとんでもない発言が。

「無理です」

 熟考するまでもなく拒否する。

 何を血迷ってらっしゃるのか。下の名前呼びなんて取り巻き3でしかない私には恐れ多すぎる! あと、確実に女子生徒の皆さんに睨まれてしまう!


「……へぇ? 無理、なんて言い方するんだ」


 声がワントーン下がった。

「傷付くな。……ねぇ、結奈ちゃん」

 まずいと認識する前にすぐ横の壁に滑らかな手がトン、と置かれる。


「どうしても、ダメかな」

 少し掠れた囁き声が耳に落ちる。

 ……じゅ、熟知してらっしゃる!! この方自分の顔の遣いどころとお願いの聞かせ方を熟知してらっしゃるぞ! 

 心臓が激しく音を立てて頭が回らず、気が付けば頷いていた。


「じゃあ早速、」

「……ご、ごめんなさいっ!」

「わっ」

 三じょ、悠真様の腕が緩んだ瞬間軽く、あくまでも軽く! 突き飛ばして、私は逃亡を図った。


 いやだって無理なんですもの! 空気が甘過ぎて! この悠真様と二人っきりで食事とか拷問だよ!


 結局昼食は一人で食べました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ