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取り巻き3とヒロイン

 そんな私の願いもむなしく、五月、ヒロイン姫野舞さんは転校してきた。ほんのちょーーっと期待してたんだけどね。デフォルト名まんまだし、容姿もまさにヒロインでしたよ。


 そして、


「あー、同じ一般家庭の者として、佐山宜しく頼む」

「……は?」

 なぜか私がヒロインを頼まれた。


 先生! そこは攻略対象らしくヒロインを支える所ではないかと思われますが如何でしょうか。  


 ……うん。なんか朝来たら隣に席が増えていたときに「あ、詰んだこれ」って思ってた。それでも希望は持ってたんだよ。この学園に入ってからことごとく裏切られてばかりの希望をさ!


 どう対応すればいいんだ。幸い三条様達はゴールデンウイークを利用したバカンスに行っており、一週間は帰ってこない。ちなみに旅行代は出すから一緒に行きましょうと誘われたが断った。三条様をはじめ、他の取り巻きの方々もあと五日くらいは帰ってこないだろう。

 その間に考えよう。

 とりあえず現時点で姫野さんとは親しくなりすぎないようにしないと。途中からは敵対するわけだし。仲良くしすぎると良心が、ね。


 頭でうんうんうなっている間に自己紹介が終わったらしく姫野さんは私の隣に座った。

「えっと、佐山さん? なんだかごめんね」

「え? あ、頼まれたこと? 気にしないで」

 わぁ、久しぶりの庶民口調だ。和むわー。ここに居るとですわ、やら、ですのよ、とかつけないと浮くからな。


「良かった。私、この学校に転校するの少し不安だったんだ。一般家庭の子はいないって聞いてたし……。でも、先生から佐山さんの事聞いて安心しちゃった。すごく褒めてたよ」

 先生ねぇ……。最初から押し付ける気まんまんだったろうな。

 まぁ、この学校にいる庶民は私だけだしね。先生が私に任せるのも分からないではない。


「不束者ですがよろしくお願いします。先輩……って、なんだか結婚の挨拶みたいになっちゃったね」

 照れたように笑う姫野さん。


 ……いやこれ、破壊力高すぎだろ。私を攻略してどうするんだ。

「うん。こちらこそ分かんないところがあったらなんでも聞いてね。姫野さん」

 内心のときめきを抑え、当たり障りのない台詞でにこりと笑っておく。

「あ、良かったら姫野さんじゃなくて舞って呼んで欲しいな。名字変わったばかりだから、まだなれなくて……」

「うん。舞ちゃんでいい? 私も結奈でいいよ」

「結奈ちゃん。可愛い名前だよね」

 少女マンガならキラキラのトーンが貼られるだろう可愛い笑顔を浮かべる舞ちゃん。

 いや、あなたの可愛さには適わないです。マジで。


※ 


 昼休み、学校を案内することになった。普通の学校と違いここは無駄な設備が多い。あと派閥のテリトリーとかあるからね、しっかり教えないと大変なことになる。


「こっちが保健室だよー」

「えっ……。なんか豪華だね……?」

「上流学校だからねぇ。ちなみにベットはめちゃくちゃフッワフワでした。ヤバいよ絶対最高品質の羽毛だから。一回寝たけど役得だと思った」

「いいなぁ」


 今ここにいるのは私と舞ちゃんだけなので、安心して庶民的な話題を口に出来る。

 うーん。しっかし、なんで私なんだろ。サポートキャラがいたはずなんだけどなぁ。思い出せん。ぶっちゃけゲームやってたら攻略対象とヒロインと悪役くらいしかでてこないしね!

 それなのになぜ私が取り巻き3だとわかったのかというとちらりと出てきた名が前世の私の名字と同じだったからだったりする。


「あとは、ここ清掃がないんだよ。専門の人がいる」

「わ……上流学校ってかんじだねぇ」

「楽でいいよね。言われてみれば雑巾とかないでしょ」

「そっか。掃除のロッカーもないね」

 そっと窓の桟にふれる。汚れなどついたこともないようなピカピカさである。

「ここ、四島さんだ」

 一際光る窓を見てつい呟いた。

「四島さん?」

「あ、掃除業者の人だよ。なんか手つきがプロで。ついつい声をかけたら、その人達について詳しくなっちゃって」

「く、詳しくなったって。結奈ちゃん、ふふっ、普通ならないよっ?」

 だって、すごいんだもん。腰に何種類かの液挿してて汚れごとに分けたり、組み合わせたりして完璧に落としてしまうんだから!


「四島さんっていうのはその中の一番のベテランさん。四島さんエリアはすぐ分かるんだよ。磨いた所だけやけに光ってるから。ほら、ここもちょっと違うでしょ?」

「あっ。本当だ」

 舞ちゃんが別の窓を指さす。

「じゃあ、ここも四島さん?」

「そうそう!」

「ふふっ、なんか楽しいね」

「分かってくれる!?」

 三条様達にはいえないけど、一時期私のなかで四島さんの掃除した所を探すという遊びが流行っていた。地味に楽しい。

「じゃあ、校舎案内しながら四島さんエリア探していこうー!」

「うん」

 楽しそうに笑う舞ちゃん。私も四島さん仲間が見つかって嬉しい。

「今度、四島さん紹介するね。お掃除テクとかも教えてくれて助かるんだー」

「わー! たのしみ」

 あの人、顔立ちもいいから実はキャラだったりしないだろうか。……いや、四十才、掃除業者の攻略対象とかないか。私はダンディーなオジサマいいと思うんだけどね。



「あ、そういえばここ自動販売機ないから気をつけてね」

「そうなの?」

「舞ちゃんは、ペットボトルを飲むお嬢様想像できる?」

「……出来ないね」

 夏場になると休み時間ごとにお茶を入れの方がくる。あれは本当に驚いた。

 無料なので私もいつも飲んでる。プロがいれるお茶ってやっぱ美味しい。初めてストレートの紅茶の美味しさを知った十五歳の夏。

 あれ以来、缶のお茶は飲めなくなった。



 案内で一番盛り上がったのは食堂だ。

 普通の学食にはあり得ないメニューばかり並んでいる。キャビアとか、イベリコ豚とか当然のようにあるからね! 舞ちゃんと高級食材を見つけてはきゃいきゃい騒いだ。

 値段はもちろん高いので私は利用したことがない。卒業までに一度は使うというのが密かな夢だ。


 そんな庶民的な雑談をしつつ私がここに入って驚いたことや、独特の決まりなどを話した。




 結果。

 

 めちゃくちゃ懐かれました。


「結奈ちゃん、一緒に行こうよっ」

「……うん」

 ああっ、なんで仲良くなっちゃったかなぁ!? 私の計画では距離をおく予定だったのに! でも舞ちゃん可愛いんだもの! 天使なスマイルで見られるとつい仲良くしたくなるんだもの!


 お昼も一緒に食べたわけなのだが、舞ちゃん手作りの弁当は見た目の可愛らしさはもとより味も物凄くおいしかった。

 なぜ味まで分かるかって? ふふっ、何を隠そう私取り巻き3の分際で、ヒロインに玉子焼をあーんしてもらいました。美味しいし、可愛いしでもう死にかけたよね!


 舞ちゃんと私は家が同じ方向ということで一緒に帰っている。舞ちゃんみたいな美少女が隣にいると視線が結構集まる。三条様たちと帰ったときほどではないけど! あの時は本当凄かったから。


 風を受けて舞ちゃんの髪が靡く。夕日を背景に髪を抑える舞ちゃんは昼間とは違いどこか大人びた雰囲気もあり、美しい。

 流石ヒロインだ。どの攻略対象でも落とせるようにありとあらゆる魅力を兼ね備えている。


「私ね、最初も言ったけど鈴蘭学園で上手く過ごせるか本当に不安だったの」

 ぽつ、と舞ちゃんが零した。

「今までとは違うんだろうなって。上流の人の中で息を詰めて過ごさなきゃいけないんだろうなって」

 その不安はよく分かる。虐められないだろうかとか、話についていけるのかとか。私も色々不安だったから。

「でも、違った。結奈ちゃんの語る鈴蘭学園はとても面白くて、明るくて、魅力的だった。それを聞いて、私はこの学園でやっていけるって思った」

「いや、それは私の力じゃないよ。失敗談とか話しただけだし」

 舞ちゃんはううん、と首を振る。

「煌びやかな校舎に物怖じしていた私に結奈ちゃんが新しい視点を、楽しみ方を教えてくれたの」

 舞ちゃんはふわっと微笑む。優しげで慈しむような、そんなほほえみ。


「結奈ちゃん。ここに居てくれて、ありがとう」

「……っ」

 

 居てくれてありがとう。

 その台詞がじんわり胸に染みる。

「結奈ちゃんは魅力を見つけるのが上手なんだね。それって凄く―――素敵」

「……あ、りがとう」


 こ、こそばゆい! っていうかなんか感動して泣きそう! こんな台詞を言えるのがヒロイン力か! ヒロイン力なのか! 

 やばい。これは落とされたよ私!



 けれど。

 胸に暗い影が落ちる。

 

 明日、三条様が帰ってくる。

 絶対、私の所にくるよね。私がいるというのあるけど、舞ちゃん、三条様の婚約者とのイベントこなしてたし。


 私は三条様達が好きだ。そして舞ちゃんも一週間ほどだったけどいつの間にかこんなにも好きになっていた。

 どちらかを選ばなければいけない場面で、私は果たして選べるのだろうか。


 嫌だ。分からない。選びたくない。苦しい。


―――誰か、助けて。


 小さく呟いた。


 ※ ※


 三条様をはじめ取り巻きの皆様は舞ちゃんをギロリと睨みつけた。

「いい加減になさいなっ! 離れなさいといっているのよ泥棒猫!」

「身の程しらずに親切に忠告してさしあげているのよ?」

「生意気ですこと!」

 舞ちゃんはきっ、と顔を上げ反論する。

「どうして貴方達にそんな事言われなきゃいけないんですか!? ただ仲良くしているのだけなのに」

「貴方、三条様になんて口の効き方っ!」

「どうなるか分かってますの!?」


 両者の間で火花が散る。 

 やっぱ、こうなるよね……。

 ただ、


「結奈!」

「結奈ちゃん!」

「「どっちとご飯食べるの!?」」


 なんで私を取り合っているのかなぁ?

 いや、そこは攻略対象取り合おうよ。おかしいよ。最後の「結奈」の部分以外乙女ゲーでみた会話まんまだったよ。なんでだよ。


「……ええっと」

「勿論わたくしと食べますわよね?」

「私と食べてくれるよね?」

 ……おおう。なにこの両手に花状態。しかもただの花じゃない。超高級花だ。

「久しぶりなんだし、お土産もあるのよ」

 にっこり笑う三条様をさらに舞ちゃんが鼻で笑う。

「物でしかつれないんですかー、悲しいですねぇ」

「ま、舞ちゃん!?」

 あれ、天然ヒロイン設定だったよね? 腹黒くない?

「舞ちゃんですって!? 貴方、結奈にそう呼ばれているの!?」

「ええ。そうですよ。三条( • • )様? お・と・も・だ・ちですから」

「なっ、わたくしだって! と、ともだ……ち。よね? 結奈」

 途中で自信がなくなったらしい三条様がちらと私を見やる。権力に従ってると思ってるのかな。変なところで自信がないんだから。

「はい」

 にっこり微笑んで頷くとぱぁっと瞳が輝く。

「ほ、ほらご覧なさい! 貴方より友人歴は長いのよ」

 ドヤッと胸を張る三条様、馬鹿可愛い。しかし、ヒロインの余裕か舞ちゃんはそんな三条様に一瞥をくれただけで私にむきなおる。

「あ、結奈ちゃん、私結奈ちゃんの好きな卵焼き焼いてきたの。食べよ?」

「あ、貴方だって物でつってるじゃないの!」

「心を込めた手作りとただの物を一緒にしないでくだいません?」


 またバチィッ! と火花が散った。


 やめてぇ。人を挟んでにらみ合わないで。

 右腕は舞ちゃん、左腕は三条様に引っ張られている。逃げ出せない。


 いや、思っていたより随分ほのぼのな争いだけれど。一日悶々と悩んだ自分が馬鹿らしくなるくらい可愛い争いだけれども!

 

 それでも、やっぱり。


 だれかタスケテ。


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