取り巻き3と悪役令嬢
これから先の未来を思い、絶望混じりのため息を吐いていると三条様が会話をやめて私の方を向いた。
「どうしたの? 結奈。悩み事なら三条家の力で解決してあげますわよ」
……くそう。これなんだよ!
三条様は取り巻きには優しいのだ。私も最初は庶民め! ときつく当たられたけど、ひたすら頑張り、紆余曲折あり認めて貰ってからは優しく接してくれる。まぁ、我が儘お嬢様なのは変わんないけどさ。家の権力振りかざすし。
でも最後の最後に裏切るっていう選択肢がないのは私も大概絆されてしまったんだろう。
「ありがとうございます。三条様。けれど大丈夫です。ちょっと勉強が分からなくて」
「まぁ、それは大変じゃない! 貴方特待生なんだから!」
「そうよ、佐山さん勉強は大事よ!」
「まぁ、まぁもし、特待生が駄目になったら、私たちの家の力で助けてあげてもよろしいけれど!」
一斉に反応された。みんな心配してくれているのだ。……ちょっと気位が高いけど良い人たちなんだけどなぁ。
ちなみに私はこの私立鈴蘭学園には特待生枠で入っている。平均といったけど、勉強はそこそこ出来るんだ。運動がからきしだから、全体のスペックを考えると平均よりやや上程度なんだけれども。
「ありがとうございます、皆様。とても嬉しいです」
「そ、そう? それより結奈。本当に大丈夫ですの? わたくし達と話す時間も惜しいんじゃなくて? ……か、悲しいけれど結奈の成績が上がるまでは我慢してもい、いいわよ?」
……くっ。なんだこの悪役令嬢らしからぬ可愛らしさは。
「そうですわ!」
ぱぁっと取り巻きの一人、宮下様が手を合わせた。
「私の家に優秀な家庭教師がいますの。佐山さんの所にも派遣しましょうか?」
「……あ、いえ」
普通の家庭教師ならともかくお嬢様方の家庭教師なんて雇うお金なんてない。
曖昧に微笑むと別の取り巻き、五十嵐様が私の顔を覗き込んだ。
「佐山さん。もしかして、代金のことを気にしていらっしゃる?」
「……ええ」
その可能性には気が付かなかった、という顔をする他の取り巻きの方々。やはり金に苦労したことのないお嬢様だ。
「お、お金ならわたくしが出しても」
「いいえ! 私の家庭教師ですから私が」
「ずるいわ、あたくしだっていい家庭教師がいるのよ?」
「ここはお金の可能性に気がついた私が出すのが妥当ではない?」
「たまにはわたくしが……」
なんでこのお嬢様達、お金を出すので争っているんだろう。普通出さない方で争わない? こういうところがお嬢様がお嬢様たる所以である。
内心価値観の違いに戦きつつ、やんわり争いを止める。
「みなさまの心遣い痛み入ります。けれど、大丈夫です」
むこうがどう思っているかは分からないけど、私は「取り巻き」だけど「友人」だとも思っている。そんな人を利用するみたいにお金を借りる事なんてしたくない。私はこの人達と比べると貧乏だけど、一般基準で言えば平凡な家庭なのだ。むしろどっちかというと少し裕福な方かもしれない。お金に困っているわけじゃない。
不満そうな顔をしたお嬢様方の中、三条様だけがなにやら考え込んでいる。
不穏な空気……。
「良いことを思いつきましたわ!」
ぱっと顔をあげる三条様。うん。絶対良いことじゃない。
「わたくしのお兄様にみてもらえばいいのよ!」
名案、と言うように提案してきた三条様に他のお嬢様方もいいですわねと賛同する。
いやいやいやいや!
「結構です! 三条様のお兄様は受験生ではありませんか! 勉強に専念しなくては!」
「あら。気にしないで結奈。お兄様なら勉強しなくても大丈夫よ。それにいざとなったら方法はいくらでもありますし」
さらっと裏口入学を匂わせる単語を出してきた。怖い。
「で、ですが」
「お兄様、教えるの上手なのよ? それに結奈とも話したがっているわ」
いや、あの超ハイスペックな方が私を気にするわけないですから! 社交辞令だ。本気にとってはいけない。
三条様(兄)のためにもなんとしてでも断らねば。
一瞬のうちに答えを弾き出す。
「やはり。私、自分の力だけで成績をあげたいです。今後、一人で立ち向かわなくてはいけない問題も来るでしょうから、練習の為に! どうしても無理でしたら頼らせて下さいね?」
「まぁ、なんて良い子なの! 結奈は」
「鈴蘭の鏡ね!」
「けれど困ったらいつでも仰って?」
「力になりますわ!」
……本当に良い人なんだけどなぁ! なんでヒロインを貶めることになるんだろう。恋の力というやつなのか。恐ろしい。
にこにこ笑うお嬢様方を見て、ヒロインくるなと切に願った。