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取り巻き3と幸せな時間

今回のお話、長くなってしまった上に、少しつながりが悪いです(>_<)

このお話にて一応番外編の完結とさせていただきます。


 瑠璃様の権力を感じる瞬間は多々ある。

 たとえば、瑠璃様が廊下を歩くとさながらモーゼのように人の波が割れる時。食堂に行くと一瞬前には確かに満席だったはずなのにいつのまにか空席が出来てる時。

 そして今この瞬間もそうだ。


「ねぇ、先生?」


 静まり返る学年集会の場に瑠璃様の声が響く。

 

「これ、間違ってますわ」


 笑う瑠璃様は、悪役令嬢の名を背負うに相応しい威圧感を持っている。

 これ、とひらひら揺らすのは修学旅行のしおりである。


「あの、何かミスがありましたか?」

「ええ。分かりません?」


 学年集会の並びはクラスごとなので、五組の私と特別クラス零組である瑠璃様との位置は遠い。なので何を言いたいのかはわからない。


 久しぶりだなあ、瑠璃様が自ら権力を振るうの。大体は相手が気を遣って動くから不便はないのだ。

まあ、それでも入学当初はよく見てたから丸くなった。最近はなかったので、懐かしい気持ちになる。

 可愛い瑠璃様も好きだけど、こんな風に悪役感を漂わせる瑠璃様も嫌いではない。もちろん、私に関係ない場合に限り、だ。

 ふぅ、と瑠璃様が冷ややかな溜息をついた。

 扇持ってくれないかなぁ。絶対似合うのに。……暢気だなとか思わないで欲しい。たった今矢面に立たされている先生を可哀想だと思う気持ちはある。けれど、全力で目をそらさないとこの学園では生きていけないんだ。


「ここの、グループ編成の所ですけど。わたくし、クラス内、と書いてあるように見えるんですの」

「はい。確かにクラス内で六人グループと書いておりますが……」

「どうして、クラス内、なのかしら? クラス問わず仲の良い子っていますわよね?」


 あっ、これ私のせいか!

 私と瑠璃様はクラスが違う。多分、それで修学旅行で同じグループになれないからこうして権力を振りかざしているんだ。

 ……く。先生には悪いけど不覚にも嬉しい。

 近くに立ってる先生から謎のアイコンタクトを送られる。いや、なんでしょうかその縋るような目は。私に止めろと仰ってるんだろうか。無理です。取り巻きその3には大役すぎてこなせません。というか私もみなさんと同じグループになりたいので止めません。ごめんなさい。


「それは、そうなんですが。別クラスと合同になってしまうと担任が違ってきますから、人数の把握などが」

「あら、グループごとに担当を決めればいいのではない? 生徒は自由にしたいと思っているのに、たったそれだけのことを怠ると言いますの?」

「……ええ、と」


 たったそれだけの事、と瑠璃様は仰るが、これ大変だよね。

 クラスが違うと時間割も違うから話し合いの時間が取りにくいし、しかもクラス分けの基準って家格もあるからなぁ。

 家格の高い、瑠璃様たちの特別クラスには多分護衛の人数を増やして当たるんだと思う。あと、バスとか、ホテルとか食事の席での特別待遇もあるんだろう。クラスを関係なくグループを作ってしまったら、それをするのが大変になる。


「ねえ、労力を惜しんで、生徒から楽しみを奪うんですの?」


 再度、瑠璃様が問いかけた。先生の顔色がとても悪い。頑張って下さい。今、後ろで教頭先生たちが話し合ってるのでもうすぐ許可が下りるはずです。


「すごいよね、この学園。生徒の力で動かせるなんて」


 隣にいる舞ちゃんがこそっと私に囁いた。

 うん。これが、鈴蘭学園の闇です。先生たちの権力が生徒に負けることも多い。ほんと、先生たちは大変だな。噂では先生達には給料とは別で胃薬が贈られるんだそう。

 漫画の世界での舞ちゃんならここは「勝手すぎる」と憤って食ってかかる所だろうけど、現実の舞ちゃんは呆れたようなやや不機嫌そうな様子で呟くだけだ。


「まあ、この学園、上流階級からの寄付で成り立ってるから仕方ないよね」

「……これ通っちゃうかな」

「うん。三条家って一番この学園に寄付してるだろうから」


 と、ここまで会話したところで教頭先生が瑠璃様に対峙する先生の前にやってきた。話し合いは終わったみたいだ。


「はい、仰る通りクラスごとではなく学年内で自由に、の間違いでした。ははは」

「ええ、そうだと思いましたわ」


 瑠璃様がにこりと笑って納得してみせたので先生達の間にわずかに走っていた緊張がゆるむ。

 が、まだ安心するには早い。


「それと、」

「は、はい!」


 やっぱり続いた。

 教頭先生はまだあるのか、と焦った様子だけど、むしろあれだけで終わったら目的達成出来ないしね。私たち三条派閥の基本構成人数、把握しているだろうに。


「人数も間違ってますわね? 六人ではなく、八人でしょう」

「そうですね! 八人の間違いでした! いやはや」


 光の速さでの変更だ。

 仕方ない。過去に瑠璃様は気に入らない教師を首にさせたことがあるそうだから。迂闊な対応して機嫌を損ねたら職を失ってしまう。鈴蘭学園って給料も相当多いだろうし、この学園を辞めさせられたってことは大きな派閥の怒りを買ったという事。次の職を探す上でも苦労するんだろう。

 にしても八人、か。


「そう、良かったわ。次から気をつけて下さいね」

「は、い!」


 暗に次は無いぞ、と。瑠璃様怖い。


 その後は滞りなく修学旅行の説明が進んだ。

 ちなみに、旅行先は国内だ。なんでも国内の方が守りやすい、とのこと。この理由が住む世界の違いを感じさせる。狙われることも多いと瑠璃様たちはあっさり言ってしまうけど、これ慣れていいことじゃないよね。

 集会が終わると、とたん生徒達は素早く動き出した。グループを作るための話し合いのためだ。クラス外もありだから、今の内に権力のある特別クラスの人に声をかけるんだろう。私はもう決まってるようなものだし、のんびりと構える。


「修学旅行楽しみだね、舞ちゃん」


 途中から黙り込んでしまった舞ちゃんに声をかける。


「……うん。わたし、」

「え? なぁに?」


 話し合う声のせいでうまく聞き取れず聞き返したけど、「なんでもない」と答えが返ってくる。

 ……なんでもない、様子には見えないんだけど。どうしたんだろう。舞ちゃんなんか元気ない? 


「結奈」


 大丈夫? と尋ねようとした時、ぱっと人波が割れて、瑠璃様が私の名を呼んだ。お誘いに来てくれたんだろう。


「瑠璃様」

「一緒に回りましょう」

「はい!」

「…………結奈ちゃん」


 舞ちゃんが不安そうに私の腕を握る。ああ、そういうことか。私が舞ちゃんを切って、瑠璃様のところに行くんじゃないかって心配になったんだ。

 大丈夫、と微笑みかけた。だって、瑠璃様は八人、と訂正したんだから。てっきり頭の良い舞ちゃんなら気がついてると思ってた。


「しょ、庶民!」


 意を決したように一歩踏み出す瑠璃様を横目に、私は取り巻きの皆さんと素早くアイコンタクトを交わす。

 目線だけで「お誘いですよね?」と尋ねれば肯定の笑顔が返ってきた。

 悲しげな舞ちゃんを睨みつけるように見る瑠璃様を、私たちも子供の成長を見る母の目で見守る。


「し、仕方ないわね。あなたきっと結奈以外に友達がいないでしょうから一緒の班に入れてあげてもよろしくてよ。これは、そう。ノブレスオブリージュよ。上に立つものとして! それに結奈もあなたみたいな庶民がいたほうが金銭感覚が合うでしょうし?」

「……え?」


 ぽかんとした間の抜けた表情まで可愛いだなんてさすがヒロインなだけある。

 あと誘い方が不器用すぎる瑠璃様がとっても愛しい。許されるなら頑張りましたね、って頭を撫でたい。


「……いいですよ?」


 戸惑いを瞬き一つで納めた舞ちゃんはふん、と強気に笑った。ゲームでは見なかった挑発的な笑顔も魅力的だ。


「お嬢様たちとずぅっと一緒にいたら結奈ちゃんが気疲れしちゃうから、結奈ちゃんのためにご一緒してさしあげます」

「はっ!? なっ」


 瑠璃様。これは受け入れてもらえて嬉しいのと馬鹿にされて悔しいのが混ざって、とりあえず怒りの表情をうかべてるんだなあと推測する。


「なあんて、」


 舞ちゃんは怒った瑠璃様が何か言う前に、続けて口を開く。


「嘘です。ほんとはすごく嬉しい」

「……!」


 花がほころぶような愛らしい笑顔。

 こ、小悪魔……!

 お嬢様方もきゅんとしてらっしゃる! さすがのヒロイン力だ。ライバルキャラでさえ落としてしまう小悪魔的魅力。原作の舞ちゃんより、最強なんじゃないだろうか。最高です。


「え、そ、そう? ええ、まあせいぜい喜びなさいな」

「はい。楽しみです」

「で、ではわたくしたちは行きますわ、おほほほ」


 動揺のあまり立ち去ってしまう瑠璃様がばかわいい。

 普段対峙する舞ちゃんは好戦的、瑠璃様風にいえば「生意気」だもんね。そんな舞ちゃんが急に素直になったからびっくりして処理が追いつかないんだろう。

 あー、皆さんも舞ちゃんも可愛すぎないか。この一連の流れをカメラに収めたかった。


 瑠璃様が足早に立ち去った後、隣からくすくすと楽しそうな笑い声が聞こえた。


「結奈ちゃんの言ったとおり案外可愛い人だね。仲良く出来そう」


 頬が緩むのを感じる。

 言い合いをする悪役令嬢勢力と舞ちゃんもなんだか気の置けない喧嘩友達みたいでいいかな、と思ってたけど、やっぱりこんな風に笑いあえる方が嬉しい。

 

「そうでしょう?」

「単純で扱いやすそうだよね」


 腹黒な台詞をいただいてしまった。まあ、割と同意である。当初は私もおびえていたけど瑠璃様たちは案外素直で扱いやすい。そこが可愛いのだ。

 グループを無事決め終わっただろう人たちが楽しそうに笑いあいながら、隣を過ぎていく。

 帰ろうか、声をかけると舞ちゃんは私の手をすくいあげた。


「わたしね、前も言ったけれど結奈ちゃんがいてよかったよ。結奈ちゃんは、良いところ見つけるのがすっごく上手なの。人の見方だけじゃなくて、起きた出来事も」


 舞ちゃんは透き通った目で私を見つめる。


「例え、嫌なことが起こっても、ほんの少しの良かった所を見つけてその欠片を拾い集めて『良かったね』って笑えちゃうんだよね。誰にでも出来る事じゃないよ。結奈ちゃんみたいな考え方を皆が持ってたら争いなんて無くなるのにね」

「か、過大評価じゃないかな」


 なんだかそれだとすっごく出来た人みたいに聞こえて、恥ずかしい。

 私だって、嫌いな人はいるし、嫌な出来事は覚えてて引きずるタイプだ。利己的で打算もある。


「そうかな?」

「嫌な事から目を背けたいっては誰でも思うでしょ? 目を背けた結果だよ」

「良いところ見つけるのが、目を背けた結果ならすごく素敵だね。私はその考え方が好きだなぁ」


 反論は穏やかに掻き消される。


「わたし、結奈ちゃんといると驚くことが多いの。ああ、こんな考え方があったんだなぁ、こんな良いところがあったんだなぁって。ハッとさせられる。色んな事に気が付かされて、そのたびに世界が広がったような感覚がするの。だから、わたしね」


 舞ちゃんはすくい上げた手を柔らかく握りしめて、穏やかに微笑む。どきりとしてしまうほど、綺麗な笑みだった。


「鈴蘭に来て良かった。結奈ちゃんと出会えたこと、誇りに思うよ」


 ……ああ、どうしよう。

 取り巻きその3でしかなかった私が、そんな言葉をもらってもいいのかな。

 誇りに思う、なんて。

 何より得難い最強の殺し文句だ。嬉しくて、泣きそう。さっきから、ヒロインの人タラシパワー溢れ出し過ぎじゃない? もう惚れちゃいそうだよ。

 浮かんだ涙を隠すように舞ちゃんに抱きついた。


「ありがとう。私も舞ちゃんに出会えて良かったと思ってる」

「ふふ、本当? 嬉しい」

「もー、可愛すぎるよ舞ちゃん! 大好き!」

「うん。わたしも結奈ちゃんが大好きだよ」


 うわあ、ヒロインの「大好き」を攻略対象より早く頂いてしまった。

 ……どうしよう。

 思わず空を仰ぐ。

 めちゃくちゃ可愛い。可愛いすぎる。なんだこの破壊力。私がうっかりそっちの道に目覚めてしまったらどうしてくれるんだろう。責任を取っていただきたい。


 そんな風に、えへへ、と二人で笑いあったところで、ふと冷静な気持ちが顔を出した。


「瑠璃様達、宝石店でお揃いの物買おうとか言ったらどうしよう」

「断固阻止だね」


 二人なら止められる。

 私たちは堅く誓い合った。







 今日のお昼は瑠璃様達と一緒にとる番だ。

 

「修学旅行、今から楽しみすぎて、待ち切れません」

「ええ! 日程押して、早めさせましょうか」


 うん。私が迂闊だった。

 浮かれすぎてうっかりしていた。


「もう瑠璃様ったら。それでは先生達が大変ですわ。ね、結奈さん」

「えっ?」


 取り巻きその1こと、寿々花様が柔らかく口を挟んでくれる。

 ……え。

 動揺してまじまじと寿々花様を見つめてしまう。


「それもそうね。権力を使って我が儘を通したわけですし、これ以上先生に迷惑かけてもいけないわね」

「うふふっ、結奈さん? どうしたの? おかしな顔」

「あ、いえ。なんだか、意外で」


 意外? 寿々花様は首を傾げた。


「確かに、寿々花様が瑠璃様の発案に何か言うの初めて聞いた気がしますわ」

「そういえば、そうね」

「そうだったかしら? うーん、でも記憶にありませんね」

「結奈さんの隣の取り合いならしていますけれど、こういったものは初めてね」


 ええと。

 それもあるんだけど、皆様方が身内以外を気にするのが初めてなんだ。

 今までなら、たとえ私が「先生達が大変です」と言ったところで「それが仕事だからいいんじゃない?」と返ってきたと思う。実際朝の学年集会でも瑠璃様は似た台詞を仰ってたし。だから私は断る時、「私」を軸に理由をたてて断っていた。懐に入れたものにはとことん甘いのが皆さんである。

 それなのに、先生を気にする言葉が自然と出て、しかも瑠璃様もあっさりと了承なさった。


 今まで、私は皆さんを変わっていないと思っていた。十五年生きてきた環境が全く違うんだ。相違は仕方ないと諦めていた。気安さとかは生まれたと思う。けれど、根本は違うんだって。私なんかじゃ、影響出来ないんだって。

 でも、そうじゃない。変わったんだ。多分、良い方向に。多分、自惚れじゃなければ私がいたから。


「結奈、どうしたの?」


 うつむいて黙り込んでしまった私に、心配そうな声がかかる。

 

「気分でも悪いのですか?」

「保健室に行きましょうか?」


 いえ、と答えた声が少しふるえていてそれが余計に心配をかけてしまったようだ。労りの言葉ともに、私を取り囲む。

 感動して泣きそうなのを堪えて、ぱっと顔を上げた。


「なんでも、ないんです。ただ、嬉しくって。改めて皆さんと仲良くなれて良かったなぁって幸せを噛みしめていたんです」


 喜びを乗せて、にっこり微笑む。


「私、皆さんのことすっごく好きです。今まで以上に。出会ってからずっと好きになり続けてます」

「っ結奈さん!!!」


 皆さんの声が重なってぎゅうっと抱き締められる。


「わたくしも、結奈が好きよ! わたくしね、結奈のおかげで優しくなったって言われたのよ」

「私、結奈さんと知り合ってから好きなものが増えていますの。もちろん、結奈さんも」

「わたしだって! 最初は庶民なんてって思っていたのですけれど、本当に結奈さんといると楽しくて、だ、大好きですわ」

「あたくしもっ……、本当に、ううっ、好きです」

「私、結奈さんは家柄を気にしないで接してくれるから、すごく気持ちが楽で……っ」

「わたくしもですわ。おかげで今すごく楽しいんです」


 ハーレムかな? なんて少しふざけた考えも頭に浮かぶ。楽園すぎるなぁ。今日はなんだか幸せな思いをしてばっかりだ。


「わっ」

「きゃあ!」


 でも、さすがに六人を受け止めるのには無理があった。ハーレム、なんて気を抜いたのも悪かったのか、バランスを崩して後ろに倒れ込んでしまった。

 ふわ、と柔らかいもので包まれる。

 ……うん。地面にクッションがおいてあるのは何故だろうなんてツッコミは入れない。分かってる。

 それぞれが倒れ込む位置に寸分狂わず的確に置いてあるおかげで怪我どころか痛くさえない。プロ使用人さんの仕事だ。

 なんて、冷静にクッションをさわっていると、倒れ込んだ皆さんと目が合う。自然と、笑いが漏れた。


「あはっ、倒れちゃいましたね」

「びっ、くりしましたわ」

「そうですねぇ」

「ふふふっ、こんなのはじめてです」

「お母様に見られたら、お行儀悪いって怒られてしまいそう」

「では、内緒にしないといけませんね」

「ええ、絶対よ」


 指切りのポーズだけして内緒、とささやきあう。

 いつもはツンとして高嶺の花の雰囲気を纏っている皆様の、気が抜けた貴重な瞬間。

 幸せだな、とまた思った。





「本当に、修学旅行楽しみです。でもホテルが一人部屋なの残念ですね」


 改めて、席に座り直して修学旅行の話題を振る。


「残念? どうして?」

「みんなで遊びにいったら入れなくなってしまうので」

「え? 八人くらいでしたら余裕で入ると思いますわよ?」


 …………そうか。忘れていた。ここはお金持ちの学校である。

 一人部屋、といってもおそらく私の想像する安ホテルの一人部屋とは格が違うのだ。庶民の使うホテルのスイートルームくらいの広さはありそう。うん、なにも心配はいらなかった!


「自由行動の時間はどこを回りましょうか? 楽しみですわぁ」

「舞ちゃんも含めてみんなで話し合わないといけませんね」


 話題がホテルから自由行動に移ったところで、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。


「あ、そろそろ行きますか」


 五限は移動教室だったから急がないといけない。


「ゆ、結奈!」

「はい」


 瑠璃様に呼び止められてしまった。なんだろう?


「その、ですね。自由行動のこと、話し合わないといけないと思うのよ」

「? ええ、そうですよね」

「だ、だから! 時間もあまり取れないでしょうから仕方なく! ……あの庶民も、昼食の時間に呼んでさしあげてもよろしくってよ」


 ぱあっと笑顔になるのが自分でもわかった。


「そうですね! 誘いますね」

「ええ!」


 瑠璃様、昼食の時から若干そわそわしている気がしていたけど、もしかしてこれ言う機会を伺ってたんだろうか。うーん、可愛すぎる。私はずっと、舞ちゃんも皆さんも一緒に食べたいと思っていたけれど、瑠璃様も仲良くしたいと思っていてくれたのかな。


「姫野さん、今日の笑顔、可愛らしかったわ。明日のお昼が楽しみです」


 寿々花様がにこにこ笑って言う。


「舞ちゃんも言ってましたよ。皆さん可愛らしかった、仲良く出来そうって」

「へ、へぇ? そうなの? ふーん」


 瑠璃様。なんともなさそうな様子を気取ってますけど、口元の笑みが隠せていません。チョロ可愛い。

 皆さんもちょっと驚いた顔をしていたけど、すぐにはにかんで笑う。そうして口々に「実は仲良くしたい思っていたんです」なんて言ってくれた。

 なぁんだ。ゲームのことを思い出してから舞ちゃんが転校してくるまでの悩みなんて杞憂だったんだ。悪役令嬢とヒロインが手を取り合う未来だって、ここにはあるじゃないか。



 不意に、一つのスチルが目に浮かんだ。お茶会の場、ヒロインと悪役令嬢が楽しく笑いあっている。

 もちろん、こんなシーンゲームであるはずがない。


 そうだな。題名をつけるとしたら――――、




 私だって年頃の乙女だ。もちろん異性のことも興味がないわけじゃない。恋愛したいし、恋人もほしい。制服デートは憧れだ。

 ヒロインたる舞ちゃんの恋愛事情も見ていきたい、前より良好になったお嬢様達と婚約者様たちの今後の関係も気になる。

 ……まぁ、私も。なんでかこんな平凡娘に好意を持ってくださる悠真様という変わり者もいらっしゃることだし。今は恋愛に満たない感情だけど、策士な彼に陥落する日はそう遠くない、気がする。

 

 けれど。

 今は、ここにある友情を精一杯大切にして、楽しみたい。しばらくは友情だけで充分かな。


 だから、きっと、目に浮かんだこのスチル題名をつけるなら『王子様は入り込めない』 


 私達だけの時間。






本編より番外編が長くなってしまいましたが、これにて一旦完結とさせていただきます。

まだまだ書きたいお話はたくさんあるのですが、時間がとても開いてしまいそうなので(>_<)


今までお読みくださりありがとうございました!

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