蹴球馬鹿
「……暑い」
高校のグラウンドに真夏の太陽が熱を注ぐ。じっとしていても汗が流れてくるのに、俺はボールを追っかけていた。汗が止まらない。目に入って痛い。息が苦しい。そして、暑い。
サッカー部は五対五のミニゲームの最中だった。俺のチームは赤色のゼッケンを身につけて、今は守備をしている。味方が相手のボールを奪おうとしていた。しかし相手は体をうまく使って、ボールに触らせない。
「サンド来い!」
二人で相手を挟んで、ボールを奪うつもりなのだ。俺は言われる前から走り出していて、相手からボールが離れたところを狙って、奪い取った。そのままスピードに乗ってドリブルを開始する。
顔を上げる。前方には相手が二人。味方が一人。味方は右側に走っている。相手の一人が、それに釣られるのが見えた。
「一、一!」
俺はわざと相手に突っかける。一対一の勝負だ。俺がドリブルで相手を抜けば、ゴールは決まる。ミニゲームだからゴールキーパーはいない。逆に奪われたところで、自陣のゴールからはほど遠い。ピンチの心配はない。それに俺は、
「マークつけ! パス来るぞ!」
「パスなんかしねーよ」
ドリブルが好きだ。キックフェイント――味方にパスをするために蹴る動きをするが、蹴らない。まんまと引っかかってくれた。相手の重心が右に倒れた。俺はその左側をするりと通る。この瞬間が最高に好きだ。相手を華麗に抜き去る、この瞬間が。
あとは無人のゴールにパスをするだけ。ボールを浮かさないように丁寧に蹴る。ゴールネットが揺れる。
暑いけど、やめられない。