百円強盗
「こいつを助けたければ、百円用意しろ!」
僕は耳を疑った。
「百円……」
百円だって? 聞き返したいが、どうにもそんな状況ではない。百円をほしがる黒いマスクを被った男は、左腕でコンビニの女性店員の首を絞めて、右手に持ったナイフを突きつけていた。
コンビニ強盗! 瞬時にそう判断したが、要求金額をもう一度、確認する。
「百円……」
「そうだ! 早くしろ! さもないと、こいつの首を切るぞ!」
女性店員は気を失っている。早く助けなければならない。僕はカバンの中から財布を取り出す。慌てて小銭入れを開いた。
「……ない」
「なに!?」
「百円が、ない」
「なんだと!」
男の両手に力が入ったのがわかる。ぎゅっとナイフを握って、今にも彼女に傷をつけてしまいそうだ。
「待って! 待ってください!」
僕はお札入れを確かめた。
「あ、あった! 千円! 千円札ならありますよ!」
お札を取り出して、男に見せ付ける。
「札じゃない! 百円だ! 百円玉! さっさと用意しやがれ!」
なぜだ! 心の中で叫んだ。どうしてこの男は、百円、しかも小銭をほしがっているんだ? どうしてもそこが気になって、僕は狂ってしまいそうだった。頭を抱えた。
「どうした! ないのか? だったらこの女には、死んでもらう!」
男は、ナイフで女性店員の首を切りつけた。
「ちょっとー。早くしてもらえません?」
後ろに並ぶ客から、声がした。
「お客様? 残り百円、ありますでしょうか?」
女性店員の声もした。あ、
「あります。すいません。これで」
僕は千円札を手渡した。
「千円お預かりします」
あー。あと百円あれば……。
「五十八円のお返しでございます。ありがとうございましたー」
人間って、どうしてぴったりの金額を払いたがるんだろう?
一円のほうが、よかったかな。




