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走る恋人

「間に合え」

 口からこぼれた言葉。彼は今、全力で走っている。日はすっかり暮れている。街灯、車のライト、月の明かり。まぶしすぎて、彼は責められている気分だった。速く、速く、もっと速く走れ。そう言われている気がした。家を出るのが遅れたのだ。約束の時間まで、あとわずか。携帯電話で時間を確認すると、信号に引っかかった。

「くそっ」

 背中が汗で冷たい。息切れして、肺が酸素をほしがる。胸を張って、大きく息を吸い込む。咳き込む。特別な日に、彼女を待たせるわけにはいかない。今日みたいに寒い日は、なおさらである。信号が青になる。彼は再び駆け出す。約束の場所、駅にある大きな時計の下へ――――

「残り、一分……」

 間に合った。息が上がりすぎて、吐きそうになる。膝に手をついて、呼吸を整える。

「あれ?」

 彼女がいない。顔を上げて、辺りを見回す。待ち合わせの時間、場所は間違っていない。しかし、彼女は、

「ごめーん!」

 走ってきた。温まったのか、頬を真っ赤にして、彼の元へ。彼女は、ほっと大きく息をついた。腕時計を見て、言った。

「十秒前! セーフだね!」

 二人は、熱いね、と笑いあった。

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