一人一人
壁がある。大きな大きな壁だ。上にも横にも、ずっと伸びていて、向こう側を見るには想像するしかない。
一人の若い男が来た。どこからともなく現れた。目の前にある壁を見て、こう言った。
「でかい。でかいが、超えることができたなら、それはもう大きな喜びと感動に、私は震えるだろう」
若い男は壁を登り始めた。道具も何も持っていない。素手で壁をつかみ、少しずつ登っていった。
一人の中年の女が来た。どこからともなく現れた。壁を見て、こう言った。
「大きいねぇ。どこか入り口はないのかしら。それとも穴は開いていないかしら」
中年の女は頬を押さえて、首をかしげた。壁に沿って歩き出す。壁伝いに、ずっと歩いていった。
一人の少年が来た。どこからともなく現れた。天辺が見えない壁を見上げて、こう言った。
「でっかいなぁ。こんなの絶対に超えられない。でも下からなら行けるかな」
少年は壁と地面の境目を、掘り始めた。スコップがあったので、深く深く掘り続けた。
一人の老人が来た。どこからともなく現れた。腰をかがめたまま、顔だけを上げて、こう言った。
「おお、立派な家だこと。さぞかし中も豪華なのだろう。一度住んでみたいものだ」
老人はその場に座り込んで、休憩した。しばらく壁の向こう側を想像した後、横になって眠った。
一人の女の子が来た。どこからともなく現れた。壁を見て、後ろを振り返り、もう一度壁を見た。
「壁ね。行き止まり。でも向こう側に超えていく必要なんかないわ。だって私はもう、壁のこっち側にいるんだもの」
女の子は腕を組んで、胸を張った。壁を睨みつけ、不敵に笑うと、壁に背を向けて、歩いていった。
さて、壁の前まで来た、以上の五人。いったい誰が正しいのか。あるいは誰が間違っているのか。
答えはもう、わかっているはずだ。誰の前にも、壁は現れるのだから。




