追い逃げ
「いややってー! はーなーしーてー!」
「善は急げって言うやん! ほらはよ!」
広子は和美に引きずられている。襟首をがっつりと捕まれた広子は暴れて抵抗した。
「ふんぬ!」
「あ!」
体をねじって、広子はうまく抜け出した。と同時に走り出す。逃げ足だけは速い。
「おっしゃー! 絶対行かんからな!」
「あ、こら待たんかい!」
和美は追いかける。寒空の下、追いかけっこが始まった。秋も深まり街路樹が色づいている。落ち葉を踏んで、全力疾走する二人。逃げる広子は細い道へ入り込む。追う和美も同じ道へ入った。
「あれ?」
広子の姿がない。和美は思わず立ち止まった。一本道で見失うはずがない。ゴミ箱、電柱。隠れられる場所はその辺りしかない。とりあえずゴミ箱の蓋を開けてみた。
「おるはずないよなー」
「……」
いた。広子は体育座りですっぽりとゴミ箱の中に入っていた。目と目が合う。
「くさ!」
「言うなや!」
和美は鼻を押さえて蓋を放り出した。広子が涙目でゴミ箱から出てくる。
「思ったより臭かったわー。最悪」
「近づかんといて! ほんまにくさい!」
「ひど!」
和美が逃げ出したので、広子はそれを追いかけた。