第閑話 教会よりの使徒
聖教会。唯一神を崇める、世界最大規模の宗教の総本山である。
聖教会は、魔に対して聖をもって討伐に当たる特殊な組織を抱えていた。
名もなき機関。
そも、教会内で魔を認めることが赦されぬがゆえ、教会組員でも知るものの少ない、存在を隠匿された破邪の集団。
その中でも、一際異端の男、ハンス・クレシテャンが津島の地に派遣されていた。
「おお、この地は見たこともないほどの魔に包まれている。俺の信仰が試される。魔に魅入られることなく俺はこの地を浄化できるか?」
ハンスは自身に問いかける。任務に就く前の日課だった。これまで、是、という答えのみで生きてきた。強靱な信仰、それが揺らぐことはなかった。
だが、今回ばかりは勝手が違う。そういった魔の気配ともつかぬなにか、虫の知らせのようなものを、ハンスは感じ取っていた。
「この地で俺は命を落とすかもしれぬ。それは怖くない。だが、怖ろしいのは命ではなく魂を堕すことだ。一瞬の油断も出来ぬ。魔に魅入られることなど許容できぬ。俺が俺であるために」
ハンスは超能力者である。物体に手を触れずとも動かす力を持っている。
ハンス自身は、これを神の賜り物として信じていた。
自身が魔の一族であると認めるわけにはいかなかった。信仰のみを頼りに、自身を保っていた。
浄化。それこそが、ハンスの目的だった。あるいはその課程の中で、自身を浄化することこそを無意識に望んでいたのかもしれない。
ハンスは、聖教会が誇る最強の一角である。ひたすらに魔を否定しているうちに、そうなっていた。
それは、自身の魔と向き合うことを避けていたのかもしれない。
狂信に身をやつしながら、未だ信仰が足らぬ、もっと信仰しなければ、と循環していた。それこそがハンスの強さであり、またもろさであった。