第十四話 第四章 満月の夜に
黄昏時の街を、エーテリンデと琢馬が歩いていた。
完全な力を取り戻したエーテリンデには、太陽の力さえ致命的な弱点とはならない。その特性は、寵児である琢馬にも分け与えられていた。
「我が愛し子よ。我をエスコートせよ。満月の日までは退屈じゃからのう」
「……うん、エーテリンデ」
「ふむ。浮かない顔をして、どうしたんじゃ。何か懸念すべき事柄でもあるのか? もうしてみよ」
「……なんであの夜に、全員を殺さなかったんだ?」
「呵々、そのようなことか。そなたも千年を生きてみればわかることじゃが、まあ生まれたてのそなたにはわからぬじゃろうなあ。いいか、我にとって何よりも恐ろしいのは退屈じゃ。退屈が化け物を殺す。これはもう、どうしようもないことなのじゃ。生まれ落ちてから千年。封印が解かれてから百年。世界を巡り暇を潰し、そこそこ愉快な思いをしてきたが、それでも我は、ずっと退屈と戦ってきた。封印されたのは忌々しかったが、今にしてみればあれもいい経験じゃった。なにせ、目を覚ました次の瞬間、世界が大きく変わっていたのじゃからな」
「今は俺がいる。見捨てないでくれよ、エーテリンデ。退屈を紛らわすことならなんでも用意するよ。そうだ、一緒にゲームをしないか。コンピューターゲームさ。二人で楽しめるものも、一人で何十時間も遊ぶこともできるんだ」
「ほほう、それはファミコンという奴じゃな。話には聞いておるが、実際にやったことはないわい」
「ははは、今はファミコンじゃあないんだよ。もっと沢山のゲーム機がある」
「満月の夜までの暇は潰せるかのう」
「保証するよ」
◇
「相田、現状を報告しなさい」
「エーテリンデと藤堂琢馬は、藤堂家に逗留しています。どうやらすぐに人を襲わないという約束は守っているようで、吸血も輸血パックを用いています」
「無害ね。そのままずっとそうしてくれればいいのだけど」
「次の満月まで、でしょうな。あのエーテリンデが、平穏を好むとは思えません。内心では、復活した力を使って暴れ回りたいと考えていることでしょう」
「ちょうど力をぶつける相手であるわたくしたちもいることですしね」
「わたしたちが彼女に勝つためには?」
「力押しでは無理でしょうな。隙があるとすれば、彼女はその膨大な力ゆえ慢心していることです」
「具体的にはどうすれば打倒できるかしら」
「わたしのブローチを使いましょう。これは吸血鬼の王を封じていた代物。エーテリンデその人を、再度封印することができるでしょう」
「草薙家の古い伝承に、吸血鬼を封じた顛末が語られています。その時に使われた封印石というものが、そのブローチの宝石に違いありません」
草薙家は、そもそもエーテリンデを封じる定めを背負った家系であった。
「いいわ。ブローチを叩き込み、石の力を発動させれば、奴を倒せるのね」
「とはいえ、封印できるだけです。完全に滅することが出来るわけではございません」
「それは仕方のないことだわ。これからも草薙家は、退魔師として闇と戦い続けましょう。それでも、吸血女王エーテリンデを野放しにするよりはずっとましなはずよ」
「ところで相田さん、わたしたちの戦力は?」
「……先の戦いで、多くの力を使い果たしてしまいました。まともな戦力は今のところ、お嬢様方のみです。教会も同様のようで、戦力はハンス・クレシテャンだけとなるでしょう」
草薙姉妹も、ハンスも、それだけ他の退魔師に比べて圧倒的な力の持ち主であった。
下手に人数を増やしても、足手まといにしかならない。そう考え、全員の意見は一致した。
「わかったわ。それでも少しでも有利にするために、戦場を結界で覆っておくのは?」
「いい手だと思いますが、それもまた、お嬢様方の力で成さねばなりません。お嬢様方は今や吸血鬼、魔の範疇であるが故に、他の退魔師の結界は邪魔になるだけでありましょう」
「休んでいる暇はないのね。難儀なことだわ」
意見も出尽くし、あとは行動となった。
涼子と楓は、戦場となるであろう草薙の庭で、可能な限りの準備を行う。
◇
そして、運命の夜はやってきた。




