チョコレートケーキ
板チョコ4枚は刻んでボウルにガンガン入れていく。
その下にはお湯を沸かした鍋をあててある。
チョコが溶けていくのを横目で眺めながら、卵の白身5つ分を泡立てる。
ハンドミキサー様々、あっという間にフワフワのメレンゲの出来あがり。
溶けたチョコには卵の黄身を混ぜこみ、さらにメレンゲさっくりと混ぜていく。
最初は1/3ほどをしっかりと、残りは泡が潰れないように。
ウイスキー(ブランデーを切らしていた)でふやかしたレーズンも混ぜ、170度に熱したオーブンで30分焼き上げて完成だ。
「ただいま~」
久しぶりにご機嫌な豊の声。
「表玄関まで良い匂いだったよ」
「まだ匂ってた?」 ケーキを焼いてから3時間以上は経つ。
その後シチューも作ったというのに、チョコレート臭は侮れないようだ。
「楽しみだなぁ」
「ご飯食べたらね」
豊は最近忙しいようで、朝は早くに出て行くし、残業もほぼ毎日。
しかも自分から大変さを訴えたり八つ当たりはしないタイプ。
だからこそなおさら、サポート出来るところはしてあげたい。
なのにどうして良いかわからずにいる自分がもどかしかった。
久しぶりにゆったりとくつろいだ笑顔を見せてくれる豊に、内心ホッとした。
今までそっとしておこうと訊かずにいた、仕事の様子を尋ねてみると案の定かなり大変だったようである。
「でも新人も仕事の流れを覚えて、職場にも馴染んで来たようだし、監査も終わったし」
「教えながら通常業務するの大変だもんねぇ」
「まあ、でも落ち着いたし、今週末は休みだからどっか行く?」
休みに出かける気力が出て来たなら良かった。
「最近ずっと、俺の好きなもんばっかり作ってくれてたろ。日曜日は円の好きなもん何か食いに行こ」
「…気づいてた?」
「そりゃ気づくよ。野菜食え食え言わないし」
こっそり刻んだりして食べさせてはいましたが。
「そっか」
「お風呂もいつもより良い匂いの入浴剤だし」
普段は身体が温まるように塩やら重曹を使っているのだが、リラックス出来るように最近は良い匂いのバスソルトやアロマオイルを加えていたのだ。
何も言わないから気づいてないと思っていた。
同棲って楽しいことばかりではなくて、嫌なことがあったり疲れた時も、顔を合わせなくてはならない日があると気づいた。
そしてそれは私だけじゃないのに、豊は出来る限り穏やかに過ごそうと、マイナスの感情は自分の中でリセットする努力をしているみたい。
でも……せっかく一緒に暮らしているのだから。
私だけが支えてもらうんじゃ嫌だから。
「たまには愚痴って甘えてよね。私のこと好きならさ」
バレンタインじゃなくたって、いつでもあなたに好きだと伝えたい。
言葉は甘いお菓子に閉じ込めて。
切り分けて2人で消化して、また新しい気持ちを育てていこう。
焼きあがったら型ごと20センチくらいの高さから落とすと、焼き縮みを防げます。それでも縮むけど。
あら熱が取れたらラップでピッチリ包み冷蔵庫で冷やすと、しっとりした食感になります。
炊飯器でも炊けちゃいますよ。