9◇冒険者剣士
9◇冒険者剣士
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やっぱり冒険者と言えば剣だよな。
帯剣していないと舐められるし。
本当は剣なんて無くても無双出来るんだが、無用な諍いは予防するに超したことはないしな。
俺は組合長に連れられて買取部に来た。
買取部には昨日のオッサンが居てまた魔石を買いに来たのかと愛想笑いをする。
「おい、こいつに合う様な剣を何本か出してくれ。」
「どの様な剣法の物がいいですか?」
「俺には剣法はよく分からん。適当に5本くらい見繕ってくれ。」
買取部の人は奥の倉庫に行き、暫くして剣を6本重そうに抱えて来た。
カウンターに並べて1本づつ説明していく。
「これは両刃直刀で、国軍の兵士が使う物です。次のこれは片刃直刀で、主に護衛隊が使う物です。」
買取部の人は1本づつ丁寧に説明してくれるんだけど、俺にはどれが良いやらさっぱりだが。
「最後のこれは片刃曲刀で、東の島国で使われているカタナという物です。」
俺の目はそのカタナに吸い寄せられた。
何故か脳裏に「武士」や「日本魂」やらの単語が浮かぶ。
それと同時に合戦やチャンバラの情景が短編動画の様に見えて納得した。
何だよこの日本人って。
俺は「刀」を掴んで鞘から抜いてみる。
刃こぼれは殆どしていない。
刃先がほんの僅か欠けているな。
これは研げば何とかなると分かる。
自然に目釘を抜いて柄を外し、銘を見ていた。
「備前肥後守」
どういう意味か分からないが、決して悪い物ではないと感じたので元に戻す。
念のためにこっそり状態表示魔法で刀の情報を盗み見る。
「状態表示」
日本刀:備前肥後国の数打ち刀で、品質は上。人間を切った痕跡無し。
うん。ちょっと国の名前が疑問だが、切られた怨念も篭もっていない様で安心だな。
またもや組合長が唖然とした表情で見て来る。
「お前、刀剣の鑑定でも出来る様になったか?」
「いやーコレも剣技が生えた派生能力っすかね?良い物は良いと感じる様になっちゃって。あ、これ下さい。」
俺が組合長にボケた返事をし、買取部の人に値段を聞く。
程度が並みだったので2万ラスク(20万円)で良いと言ってくれた。
たぶん安いんだろうな。
俺はステータスカードを買取部の人に渡し、決済をしてもらった。
認証の為に右手を平たい板の上に置く。
ちょっと魔力が吸われて個人認証が完了し、刀の代金が差し引かれた。
「ルーカス口座:出金2万ラスク。残高33万7千ラスク。」
うん。まだまだ残高は余裕だな。
まぁまた魔石を売ればいくらでも補充出来るんだが。
買取部の人は帯剣する時に使う帯止めをオマケで付けてくれた。
これがあるとベルトにかっちり固定出来る。
直刀向けの品なのでちょっと使い勝手が違うが。
俺は早速ベルトに刀を差して帯止めで固定する。
うん、悪くはないな。
鯉口もすこしきつめなので走っても抜けることはないだろうし。
試し切り?
しないよそんなこと。
もったいないし、手入れも大変だ。
剣ははったり用のアクセサリーだな。
俺は買取部の人にちょっと現金を引き出したいと言う。
街中でも色々買いたい物があるが、どこでもキャッシュレスが使える訳ではないらしい。
小さい商店なんかは現金取引だけなので、多少の現金を持っておきたいんだ。
引き出しは3万ラスク(30万円)ほどお願いした。
再度ステータスカードを渡して認証され現金が手渡された。
千ラスク銀貨30枚だな。
さすがに金貨は使い勝手が悪いので気を回してくれた様だ。
「ルーカス口座:出金3万ラスク。残高30万7千ラスク。」
さて、これでここに来た本来の目的であるウチの商会の新規顧客用情報を組合長に聞こう。
「組合長、実は今日来たのはお願いがあったからなんだ。」
「剣の腕は分かったし、剣も買ったからもう目的は終わったと思っていたが。」
「いえいえ、来た早々に無理矢理剣の訓練に放り込んだ人が何を言ってますか。実はウチの商会の売り物にちょっと上の品質の物を追加しようと思いまして、どれくらいの品質、性能ならいくらくらいまでなら払ってくれるかという大雑把な目安が知りたいんですよ。」
「それなら受付のベテランがよく知っているだろうな。おい、ちょっと受付のリアーナを呼んで来てくれ。」
組合長は買取部の丁稚に言いつけるとどっかりと椅子に座った。
俺にも座れと言ってきたので隅の方に遠慮して座る。
暫くすると丁稚が美人さんを連れてきた。
「組合長、お呼びでしょうか。」
「うむ、忙しいところ悪いな。実はこのルーカスがちょっと知りたいことがあるってんで冒険者の扱いが長いリアーナに来てもらったんだ。ルーカス、お前の口から説明してくれ。」
それは暗にリアーナさんが年が...ゲフンゲフン。
「はい、リアーナさん、よろしくお願いします。実はウチの家の商売は冒険者向けの装備を売っているのですが、食料や水には長持ちする魔法を込めた魔石を、照明やロープや背負い袋には性能を上げる魔法を込めた魔石を付けて販売しているんですよ。魔石は付ける商品に合わせて工夫した魔法をかけて専用のセットにしているんで魔石の品質の割りには効果が高いです。それでも5日も経てばかなり効果が落ちて来るので、多少高くてももっと効果が高かったり長続きする物は無いかと尋ねられる時があるんですが、それの相場が分からないんです。そこで冒険者との接点が多い冒険者組合の人に聞こうと思って来たんですよ。」
「なるほど。確かにベテランや高ランクになるほど長期の依頼も増えるわね。魔石に込める魔法って、込めた瞬間から徐々に減るでしょうから買い溜めが出来ないってことね。それで長期依頼や不定期依頼のある相手に売り込もうってことかな。」
「そうです。まさにそれですね。今までウチの商会では初級者と中級までの冒険者が買える程度の値付けをしてそこそこ売っていました。それでも半数の冒険者は何も魔石の付かない廉価品を選んで行くんですよ。だから売り上げは競合店と安売り合戦になってしまって、利益がぎりぎりまで削られてしまうんですね。今では付ける魔石にかける魔法をちょっと工夫して競合店より少し高めの層を狙っているんですが、その工夫した魔法を使うのにかなり魔力を消耗するので一日に掛けられる個数に限界があり、それで売り上げが思う様に伸びていないんです。なら、魔石をもう少し良い物にして効果ももっと上げ、長期の依頼をこなすベテランや高ランクの冒険者の要望に合わせれば少し高くても買ってくれると思ったので、実際の状況や希望をお聞きしたくて今日来ました。」
「なるほどね。考えているのね。確かに投資の前に事前調査は必須よねぇ。そう言えばランクAのドラゴンスラッシャーのリーダーが長期遠征に行くことが多いが食料の保存に難儀しているってい言ってたわねぇ。他にもそういう話はちらほら聞くし、確かに上位ランクのチームならある程度のお金はかけるかもねぇ。」
なるほど、それはいいことを聞いた。
だが、上位ランクと言えども報酬で暮らしている身、無制限に魔石に費用をかけられる訳もないだろう。
「その情報、ありがとうございす。その人たちの依頼達成報酬と装備への投資の具合が分かれば嬉しいんですが、それとなく聞いてもらうことって出来ませんかねぇ。もちろん、情報へのお代はある程度出せますんで。」
「そういうことならリアーナの直近の部下にちょいと聞いて貰ってくれないか。俺も少し色を付けよう。」
「あら、そんなにこの坊やに入れ込んでるの?組合長。隅に置けないわね。」
「馬鹿野郎、こいつにはそんなことを吹き飛ばす価値と力があるんだ。下手をするとこの組合支部が吹き飛ぶぞ。」
え、俺ってそんな危険人物に思われてるの?
って、まぁ中庭でのアレを見たらそう思わざるを得ないか。




