8◇魔石コスト
8◇魔石コスト
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その日の夕食が済み、洗い物が終わった家族は食卓に揃ってお茶をしている。
そこに俺が今日買った魔石の入って布袋を広げる。
親父は目が飛び出そうになるが、お袋と妹は価値がいまいち分からない様で摘まんで眺めている。
「これ、どうしたんだ?これだけの物がこれだけの数あるとウチでは到底仕入れられないぞ。」
「うん、心配しないで。午前中に冒険者組合に大きめの魔石を売ったて言っただろう。あれの売り上げの中から支払って来た。」
「これ、いくらしたんだ。」
「この袋に100個入っていて、全部で3万ラスクだ。1個300ラスクになるね。」
「そんな高いのウチでは使えんぞ。どうするんだ。」
「いや、ウチもそろそろ売り物の幅を広げてもいいかと思うんだよ。具体的には金を払って安心を買う人たち向けだね。」
「ううむ。確かに俺の親父もそんなことは言っていたな。お前の代でやってみせろと言われた様な気がする。」
「なら問題無いね。いつまでもマーセッキ商会が家族経営のままだとこの先ちょっと不安だろうし。」
「そうだな。競合店は安売りをして数をさばいて人を雇うまでになっている。ウチはそれの真似ではなく、高級指向で大きくしろってことだな。」
親父もやっと納得してくれた。
何でこんなことをちまちまやっているかと言うと、この店が親父一極集中であることのリスクを無くして、俺が自由に動ける様にしたいからだ。
跡継ぎである俺が家業をほっぽりだして冒険者家業に没頭すると、親父に何かあった時に家族が路頭に迷う。
俺自身にも何かあるかもしれないしな。
まぁあのステータスならまず死なないだろうが。
「よし、明日冒険者組合に行って、上位ランクの冒険者の欲しがる物を聞いてくるよ。」
「そう簡単に教えてくれるのか?」
「大丈夫大丈夫、組合長とは持ちつ持たれつの仲だし。」
俺がそう言うと親父は呆れた様な顔をして首を振った。
次の日、朝食を済ませた俺は再び冒険者組合に行く。
連日行っているので組合長には迷惑かけるが、冒険者にも利があることなので我慢して貰おう。
「ちわーっす。ルーカスでっす。」
「来たか。ちょと来い。」
組合長とはツーカーの仲かな?
俺は組合長の後を付いて行き、建物を通過して冒険者組合の中庭に出る。
中庭には新米冒険者らしき若者が5人ほど木剣を振り回しており、教官らしきガタイのいいオッサンが声を掛けていた。
「そらそら、そんなへっぴり腰ではゴブリンも倒せんぞ!おいそこ!もっと切れのある振りをせんかい!」
言われた訓練生?はその声に僅かに腰が引けつつ、木剣を握り直して振っていた。
それでも教官のオッサンは満足していない様で、罵倒に近い勢いで怒鳴っている。
組合長が近づくと気が付いて怒鳴るのをやめて振り向いた。
「ダルトン、ちょっと割り込ませてくれ。」
「組合長、なんでしょう?」
「こいつ、ルーカスってんだけど、ちょっと訳ありでな。ランクはF相当と思ってくれ。それでここの初心者剣技訓練に混ぜてくれないか。」
「いいですよ。ちょっとヒロッとしているけど、中々根性ありそうな面構えしてますしね。」
え、俺根性無いっす。
ズボラでやる気の無いチート魔石稼ぎってだけですよ?
「えーと、何で俺が人相手にやり合うんで?」
「昨日考えてたんだが、お前は普通の冒険者に無い技能があるからかなりのことが出来ると思う。だが、それに頼り切っていると何かのきっかけでそれが使えなくなった時に詰む。それが農地なんかだとまだいいが、東の森の奥に入っているとき起きるとまぁ生きて帰れないだろうな。」
「え、それって俺のこと心配しれくれてるんですか?」
「馬鹿野郎、お前の魔石ハンターの才能込みで心配してるんだよ。もし帰って来なかったら大損害だ。」
えー、やっぱり魔石に目が眩んでいるな。
それともツンデレかな?
なるほど、俺を魔石の貢献でどこに出しても恥ずかしくないくらいのランクに押し上げるにしても、実際に腕っ節を振るえる所を見せられないと信用されないってことかな。
まぁ俺には「スキル:神々の悪戯」があるから剣技も師範クラスだよ?
たぶん。
「ほれ、木剣を取れ。」
組合長が中庭の隅に置いてある傘入れの様な木の箱から木剣を取りだして俺に渡してきた。
俺は仕方なく木剣を受け取る。
片手で持って軽く振ると一振り毎に剣速が上がり、剣筋が冴えてくる。
10振りもすると木剣は目にも止まらぬ速さでブンブンと音を立てて振れる様になっていた。
同時にどう振れば相手の死角から当てることが出来るかとか、相手の打ち込みにはどう動けば避けられるかなどの剣技の経験が自動インストールされる。
「さて、どうしたら良いでしょう?」
俺が剣技を指導していたトレーナーと組合長に聞くと、ちょっと不審者を見る目で俺を見ていた。
なんだよ、せっかくやる気になったのになぜ引く?
「お、お前ルーカスだよな?あのヒョロっとした魔石掘りの。」
「どうしたんだ、その剣筋は。いきなり素人から達人に上がっていったぞ。」
まぁそう見えるだろうな。
最初の数振りはまるで素人で、次の数振りは中堅どころで、最後の数振りは達人だもんな。
俺は調子に乗って更に木剣を振り回して剣舞の様にして見せた。
ちょっと楽しくなって来て、ブンブン、ブンブブンと木剣が唸りを上げる。
周りがやけに静かだなと思って剣振りを止めて見回すと、訓練生も含めて全員が口を開いて俺を見ていた。
「え、どうしたんですか?ちょっと木剣を振ってみただけですが。」
「最後の方は俺にもお前の剣筋は見えなかったぞ。ブンブンと音がするだけで。」
「ルーカス、昨日魔石でも喰ったか?」
そこで俺はやり過ぎたこに気がつく。
そこでトレーナーに恐る恐る聞いてみる。
「ちょっとお相手してみて貰えませんか?」
「にわかには信じられんが、一応俺も師範代だ。お相手しよう。」
俺とトレーナーは木剣を持って向き合い、組合長が立ち会いとして間に立って両手を振った。
最初は様子見でトレーナーの木剣を受け流して弾いていたが、あまりにも遅いので徐々に無衝撃で木剣を受け止める様にしてみる。
木剣同士が当たる瞬間に少し引いて接触時にゼロ速度にするのだ。
何打かやるうちに完全に無音で打ち合う様に見えて来た。
20打くらい打つとトレーナーもさすがに違和感を感じたようで、さっと足さばきで距離を取る。
そこで俺の方から打ち込んでみる。
相手の弱点?がまるで視界に色づけしたかの様に見える。
先ほど習得?したゼロ速度当てで胴と面に優しく当てて押すとトレーナーは飛び下がった。
よっぽど不気味だったんだろうな。
木剣を下ろして剣を収め、震える声で組合長に叫ぶ。
「なんだこいつは!この短時間で化け物になったぞ!」
「ルーカス、これもお前のスキルか?」
「いやー、何ででしょうね。俺も始めてですよ、剣を振ったのは。あ、魔石は喰ってませんよ。」
「いやいやいや、英雄や勇者並みだぞ、その上達ぶり。ちょっとステータスを見せてみろ。」
組合長がいきなり俺に「状態表示」と魔法を唱える。
俺に魔力が干渉するのを感じ、思わず抵抗してみた。
組合長の状態表示魔法が不発となる。
その間に俺は自分の表示するステータスをちょっといじる。
ステータス表示
「名前:ルーカス」、「年齢:15歳」、「性別:男」
「レベル:86」、「体力:124」、「魔力:121」、「精神力:98」「攻撃力:76」、「防御力:79」、
「素早さ:92」、「器用さ:86」、「賢さ:99」、「運の良さ:134」
「スキル:収納魔法LV6、隠蔽魔法LV5、暗視魔法LV6、剣技LV5」
次に組合長が状態魔法を唱えた時に上記を表示させる。
ちょっとだけ各数値が上がり、スキルに剣技が生えた様に見せた。
「剣技が生えてるな。前回見た時は無かったぞ。」
「そうですね、俺も今気がつきました。」
嘘である。
今書き加えたんだよん。
「まぁお前のすることは理解の範疇を超えるということが再認識出来た。これで剣技の訓練はもうしなくてもいいな?」
組合長がトレーナーに聞くと、頭をブンブンと縦に振って同意する。
訓練生達はヤバい奴が来たとでも言いたそうな目を俺に向けてちょっと引いている。
「ありがとうございました。おかげで剣技が生えました。あ、組合長、こちらに適当な剣を売っていませんか。はったりを噛ますのに是非一丁欲しいんですが。」
「うむ、今から買取部に行こう。野盗や愚連隊の討伐で持ち帰った剣がそこそこあったはずだ。」
俺と組合長は唖然としているトレーナーと訓練生達を残し、中庭を後にした。




