1◇覚醒
1◇覚醒
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俺の名はルーカス。
年は14歳で、クルップス王国の地方都市、バラウズに住んでいる。
家は商家で、何でも屋みたいなものだ。
父母妹との4人家族で、商店の2階に住んでいる。
主に冒険者向けの武器・鎧以外のあらゆるグッズを売っている。
凝縮携帯食料(魔石付)、飲料水瓶(魔石付)、照明付きヘルメット(魔石付)、ロープ(魔石付)、万能虫魔獣除け(魔石付)、などなど。
ウチの売りはこの「魔石付」だ。
二束三文で売っているクズ魔石に特定の魔法を付与し、売り物が便利になる様に一工夫している。
そのおかげで売り上げはそこそこだ。
まぁ同業他者も同じことはやっているので、ちょっとだけ効果の大きいウチがちょっとだけ多めに売れているけど。
他所は汎用の充填魔法で魔石に魔力を込めているが、ウチは少々アレンジした商品別専用充填魔法を使っている。
その為、他所より2割程度は長持ちする。
その代わり2割くらい高いけど。
これで結果的にウチが独占するのを避けられて、逆恨みを買うのを逃れている。
金の無い初心者はちょっとでも安いのを買うから他所に行っているしな。
商品別専用充填魔法は先代の店主である死んだじいちゃんが開発したらしい。
使えるのは受け継いだ親父だけなんで、今のところウチ専売だな。
俺も引き継ぐべく修行しているが、あともうちょっとというところだ。
そして、15歳の誕生日を迎えた今日、俺は覚醒した。
いや、一般人は覚醒したりしないよ。
たまに王族や貴族に英雄や勇者、賢者に覚醒するのも居るらしいが、庶民じゃね~。
その庶民の覚醒した俺だが、貴族に出る覚醒者や前世能力とか異世界異能なんぞのチンケなものじゃない。
全知全能の神の能力を手にしたのだ。
どうやって確かめたのかって?
いや、まだ頭の中の情報だけなんだけどね。
頭の中の考える力がこうパァーっと広がって、何でも出来る気になるというか。
いや、痛い人でもないからね。
王都の偉い人なんかは偉いと同時に痛い人なんて言われていて、普通の常識が通用しないらしいし。
俺はそんな人にはなりたくない。
なんせ庶民だし。
でも、家の商売はもうちょっと儲けがあってもいいんだと思うよ。
親父の商売があまりにも良心的なんで利益が少ないんだよね。
商品別専用充填魔法は手間暇とちょっと良い魔石が要るので原価が高いんだよ。
良い物は少し高くても必ず見てくれる人が居て買ってくれるという信念があるので、儲けもそこそこに押さえているんだけど
だけど、その少し高くなっているのがあだになって、最近売り上げが落ちてるんだよねー。
親子4人で暮らすには何とかなっているけど、親父が倒れたら途端に行き詰まる。
俺も少しは商売の手助けをしているが、仕入れ先納品先税金商工会など、覚えることは山ほどある。
魔法も含めてまだ半分も教えて貰ってないしな。
だが、覚醒してからというもの、物覚えがべらぼうに良くなった。
というより教えて貰ったら既に知っていた、となっている。
これはやはり覚醒の恩恵だな。
以前の俺は物覚えが悪く、だらけた長男で通っていたし。
そして前世のひとつである地球の日本人としての記憶。
これがまた面白いんだ。
地球では魔法が無いんだよ。
これ不思議だよねー。
魔法が無くてどうやって生きているんだと思う?
科学技術だって。
日本で大手メーカーという所のメカトロニクス開発部責任者だった記憶があるのでだいたいの原理は分かる。
この記憶を辿っていけばどうやって魔法無しで快適な生活が送れていたかが理解出来た。
なーるほど、ある意味、魔法よりも便利で快適じゃん。
これ、この世界で再現出来ないかな。
その為のチート能力みたいだし。
で、俺はチート知識にある魔法を家族や知人友人には極秘裏に特訓し始めた。
知識はあってもこの15歳の体が着いて行かないんだよねー。
下手したらあっさり死ぬし。
最初に体に覚えたのが「睡眠圧縮魔法」だ。
何かをするにしても昼間は親父の手伝いで一杯一杯で暇が無い。
ならば寝ている時間を充てるしかないんだよなぁ。
睡眠不足なんてことになったら本末転倒なので、そもそも寝ないでも済む魔法を覚えた。
実際には全く寝ない訳ではなく、100倍速睡眠と言って本来の寝る時間を100分の1に圧縮するんだ。
8時間寝るんなら5分弱だな。
これでがっつり脳も体もリフレッシュして気分爽快になるんだよ。
便利だよねー。
これによって生まれた7時間55分の空き時間を有効活用すべく、今日も皆が寝静まった後にこっそり家を忍び出る。
これまた新しく覚えた「存在宣伝魔法」を使うと、あたかも自分がそこに居るという雰囲気を醸し出して誰も気にしなくなる。
自分のベッドにマットで人型に膨らみを付けそれにこの魔法をかけるとアーラ不思議、ずっと俺が寝ていると思われます。
ただ、朝になって起こされてもマットなので起きない。
起こす方はマットを俺としか認識していないから死んだかと思われて、医者を呼ばれたり葬式されたりするとまずい。
なので朝起こされる時間までに帰ることは必須なんだけどね。
次に体が覚えたのは「存在隠蔽魔法」だ。
これも冒険者が魔獣からそっと逃れる程度のものではなく、すぐ隣に立ってほっぺたを突っついても分からないという代物だ。
見えているんだけど全く認識出来ない。
突っつかれても皮膚の感覚が認識されない。
さすがに殴ると倒れるけど、すぐに起き上がって気にしなくなるという凶悪な仕様だ。
これを自分にかけてバラウズの街の外に行く。
街の周囲には城壁があって門衛が常に出入りを確認しているんだけど、これも素通りだ。
そして更に体が覚えたのが「重量低減魔法」だ。
今のところ、体重を6分の1まで減らせられる。
これで軽く走るだけで馬の全力疾走くらいの速さで移動出来る。
走るというより跳び跳びに大股で跳ねて行く感じだな。
何故か脳裏に「ムーンウォーク」という単語が浮かぶ。
もっと減らして体重を打ち消すまでいけば空を飛べると思うけど、まだ実現出来ていない。
まぁ浮かんでも横に移動する力が無いから意味ないんだけど。
そして城壁から馬の全力疾走で1時間くらい離れた所の「東の森」に入る。
この森には大型の魔獣が居て、かなりの手練れじゃないと生きて帰れないと言われている。
ダークウルフ、ストライクボア、ジャイアントマンティスなど。
ダークウルフは馬の2倍くらいの大きな狼だ。
群れをなして獲物を襲う。
5頭くらいでストライクボアを狩る場合がある。
ストライクボアも馬の2倍くらいはある大きな猪だ。
鼻先が岩の様に硬くなっていてダークウルフを跳ね飛ばす。
ジャイアントマンティスは人の背の3倍くらいのカマキリだ。
固い外皮でダークウルフの噛みつきもストライクボアの突進もまるで効果が無い。
そしてその大きな鎌でダークウルフもストライクボアも狩って食べる。
この森の王者だな。
数が少ないからめったに出くわさないらしいが。
早速出くわしたのがストライクボアだ。
「存在隠蔽魔法」はかけたままなので全く気付かれない。
だが野生の勘らしく、ちょっと胡乱げな目で周囲を見ている。
たぶんジャイアントマンティスに常に狙われているんで過敏になっているんだろうな。
試しに正面から向かって行っても気がつく様子はなく、堅い鼻っ面を拳で殴ってみると鼻先の岩石の様な皮膚が割れた。
ジャイアントマンティスは驚いて一歩下がったが、俺も驚いて一歩下がった。
奴は突然鼻先の皮に痛みが走ったので何かに噛まれたと思ったのかもしれない。
ジャイアントマンティスだけでなく、もっと小型の昆虫でも岩を囓るのが居るからな。
俺も驚いた。
「存在隠蔽魔法」は万能だと思っていたら、ストライクボアに攻撃として気取られたのだ。
これは相手によってはちょっと気をつける必要があるな。
まぁ気取られても相手を認識は出来ていないみたいで俺の方は見ていないが。
それにしても俺の拳はどうしちゃったんだ。
ストライクボアの岩並に堅い鼻っ面を簡単に割るなんて。
そんなに力は入れていないぞ。
せいぜい一般人を気絶させるくらいだ。
そこで俺自身の状態を表す魔法はないかと俺の知識に問いかけるとすぐに答えが返って来た。
何を言っているのかって?
この感覚は説明し辛いんだけど言葉に出してみるとこうかな。
・俺が何か疑問に思う。
・俺は誰かこの疑問に答えてくれないかなと思う。
・すると、俺の疑問に対して俺の意識の一部が勝手に回答する。
・その回答に対する補足説明も促す様に思うと勝手にしてくれる。
こんな感じで、自分で検索する必要すらなくて答えを得られる。
あ、検索って前世の日本人がいつでもどこでも小さな板でやっていた万能辞典みたいなもんだな。
この辞典に「検索」という文字を入れる欄があり、そこに調べたい単語や文章を入れるとその辞典が自分で調べて回答してくれるんだと。
俺のはそれを更に進化させて、脳内で検索入力と補足検索が完了してしまう。
言わば記憶の外部拡張みたいなもんかな。
まぁ方法はともかく、すぐに俺自身の状態を示す「ステータス」という魔法があることが分かった。
早速表示させると目の前に縦横1mくらいの半透明な板が手を伸ばしたくらいの位置に浮かんだ。
「ステータス表示」(15歳)
「名前:ルーカス」、「年齢:15歳」、「性別:男」
「レベル:999」、「体力:999」、「魔力:999」、「精神力:999」
「スキル:神々の悪戯」
なんだよ、えらいシンプルな表示だな。
王都の英雄譚本なんかでは「状態表示」と言って、もっと詳しく表示してる表現があったんだけどな。
え、補足説明ではあれは劣化版らしい。
本当の状態表示=ステータスでは上記の4つが全ての根幹になるとのこと。
この値は庶民で全て10~30程度。
貴族で60~100程度。
王族で80~130程度。
英雄や賢者などの突然変異で200~400程度らしい。
過去最高記録でも500は超えないとのこと。
なら俺の全て999はどうなんだろ。
単純に英雄の2倍?
さっきのストライクボアの鼻っ面をちょっと殴っただけで割るのもこれのせいか。
スキルってのもあるな。
これまたおかしな表現だ。
「神々の悪戯」って何だよ。
俺はおちょくられているのか?
暫く見ていると下に追加が表示された。
「スキル:神々の悪戯」
・知りたいことを思うだけで細部まで理解出来る。
・やりたいことを思うだけで自然と周囲がそれに合わせて出来る様になる。
・作りたい物を思うだけで作り方が分かり、材料の入手方法も分かる。
これまた大雑把な説明だな。
でもこれが本当なら全知全能みたいなものか?
だが、積極的にそう思わなかったら何も出て来ないみたいだな。
やる気だけは必要ってことか。




