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「エピソード8: 現代編:主人公の免断!! 『面談? 裁判! 被告人は俺!?』」

転生――。

異世界に行くための、いわば通商手形……?

考えれば考えるほど、私の頭の中は霧のようにぼやけていった。


では……。

死に方は、どうすればいいのだろうか。

どうすれば、私を“死なせて”くれるのだろう……。


ああ、そうだ。

――『京都に行こう。』


まるで、昔のJRの定番CMみたいに、唐突にその言葉が脳裏に浮かんだ。


私は『京都らしく』免断けじめをつけられる場所として、

面接会場をそこに設けた。

面談で免断を下す場所──その形を、裁判にしたのだ。


何故──私は裁かれなければならないのだろうか、と一考した。

そして私は、自分という“人類史”そのものに、断を下すことにした。


独り身は、独身という罪。

働かぬ日は、無職の罪。

罪悪感を抱けば、それは不貞の罪。

信仰を持たぬ者は、不敬の罪。


そして神に中指を立て、罵詈雑言を叩きつければ──それはもう、棄損の罪。


気づけば私は、罪という名のオンパレードの上を、ずっと歩いていた。


人類史という道を、ただ歩んでいただけのはずなのに。

なのに私は、その歩みそのものを“裁かれるべき何か”として提示していた。


成程──。

転生の準備は、既にに陰の中で完了していたように思える。


さて──読者諸君よ。

いよいよ面談──いや、免断の時間が始まるぞ!!

それはそれとして、夏枝は面接会場へと歩みを進めた。

耳の奥を、崩落する岩のような音が刺し貫く。

途切れることのない苦痛の連鎖が、内側から骨を軋ませる。


その果てに浮かぶもの──救いの島。

すなわち、死。


それは、スマートフォンの待ち受け画面のように、視界の隅で幾度も点滅した。


ただ釦を押せば──指先ひとつで──今すぐ全てを終えられる。


そんな錯覚が、夏枝の思考の端を、柔らかく、しかし執拗に撫で続けていた。


そのため、受付の女性には明確な役割を与えねばならなかった。

ツートンカラーの配色は、明確に「善」と「悪」を象徴している。


ただのコスプレではない──

彼女は、死と生をその身にまとう、究極のコスプレなのだ。


さて──何故、こんなことになったのか。

ここで少し説明を加えねばならない。


この場面には、ティーンエージャーにとってはやや過激な描写も含まれる。とはいえ、私は以前に『魔界天使ジブリール』という作品群をプレイしており、その世界観を理解していた。


事の発端は単純である──私は『ジブリール』という天使について、知らなかったことにある。


皆さんは、『ジブリール』という天使をご存じだろうか。


イスラムの教えに従い、善と悪を見極め、死者の名を天国か地獄かに記す存在である。


そう、この悪の書──死の書に名が記されれば、

容赦なく地獄へと送られる。


どれほど善行を積もうとも、例外はない。

一度の過ちが、永遠の地獄行きを決定するのだ。


この知識を基に、受付にいる彼女にジブリールの役割を与え、名をジルとした。


さて──受付にいる『ジル』という女性、実は彼女こそがジブリールである。


正しく断罪するために佇み、夏枝を免断する手助けをするために、受け口としてここに存在しているのだ。


やたらと若い──二十歳にも満たず、ぱっと見では十八歳ほど。その姿は、私の頭の中で描いたジブリールそのものだ。


善と悪の境界が鮮明になる年頃。だからこそ、この年齢を天使のイメージとして選んだのだ。


善と悪の境界が鮮明になる年頃。

だから、この年齢を天使のイメージに選んだのだ。


夏枝は受付に着いた。

「夏枝様ですね? 面談室はこの先です。前の方がまだ面談中ですので、少々お待ちください」──そう、彼女は告げた。


この時、私はふと思った──要するに、夏枝は私と同じ、どうしようもないクズがこの世には溢れているという証であり、揶揄の対象として一部から支持される存在という暗喩でもあるのだ、と。


夏枝はその場で、しばらく待つことになった。

呑気すぎて、緊張感など微塵も感じられない。


おそらく、彼女の美貌に目が奪われたのだろう。

しかし、その美は違和感に満ちていて、どこか異質であった。


だからだろうか──思考はこの世界から引き剝がされ、重力にでも捕まったかのように、何かに引き寄せられる感覚に囚われていた。


「夏枝様、お待たせしました。前の面談が終了致しましたので、チラシをお渡しください」──と。


その時、夏枝は無意識にカバンからチラシを取り出し

て、そっと手渡す。


彼女は裏面をじっと見つめながら、扉を指差した。


面談特有の緊張感が、夏枝の内側でざわめき始める。

違和感、異質、そして面妖さ──それらが渦を巻き、

まるで夏枝の天頂にまで達しようとするかのようだった。


犇々と、運命という獣が息を潜め、こちらをじっと睨んでいる。

その口も目も──まるで、夏枝という存在を丸ごと噛み砕こうとしている。


全身に生を感じた、

余りに縁が余韻を引き連れて───全身に巡る。


扉の向こう側……。

希望と不穏、悲報と残照。

一度に全てを内包している。


重々しい緞帳が開かれる──。

面談室に足を踏み入れた瞬間、全身に違和感が貫いた。


夏枝はまるで、作者の悪戯心と徒に描かれた原風景へ投げ込まれたかのようだった。


「異様」「異質」「面妖」──

もはやそれらは、彼にとって隣人のように日常的な存在となっていた。

なぜなら、作者は常に隣にいるのだから。


そう、彼が遊び呆けたせいで、

「異様」「異質」「面妖」が、ずっとそこに据え置かれたのだ。


面談室の代わりに据え置かれたのは、『陪審法廷』だった。


読者を翻弄するため、作者は手持ちのレパートリーを取り寄せ、どこからかかき集めてここに届けたのである。


「ピッツァ」の具のように、裁判長も陪審員も傍聴人も、きちんと並べられていた。


これではもはや「面談」と呼ぶにはほど遠い。

作者は超特急・超特価で、地獄の底から送り込んできたのだ。


間髪入れず、作者の温情で陪審法廷が始まった。

まるで「ピッツァは温かいうちに食べるべき」と言わんばかりに。


「皆の者――静粛に!」

裁判長の声とともに、読者の口へ次々と押し込まれていくのだった。


裁判長の言葉に従い、青年は金色の山車の模型を手に取り、開始を告げる。


ギリシャ神話で「金色の山車」といえば、やはり一人しかいない。そう──「プロメテウス」


彼は、物語の始まりと終わりを告げる存在である。

ギリシャ神話の世界では、始まりを告げる神もいれば、終焉を告げる神もいる。


神々の役割は歴史の前後で変容するため、完全に再現することは難しかった。


そこで、一旦「プロメテウス」にその役割を託したのである。


 「これより、裁判を開始します」

 「うむ。被告人、夏枝 重よ、前へ出よ」


夏枝に前進を促すのは、プロメテウスと裁判長だ。

戸惑いながらも進むと、裁判長の横に先ほどの『ジル』がいることを認知する。


ここに彼女を置かねばならない──夏枝の行先を示すために。


彼女は夏枝から受け取ったチラシを裁判長に手渡し、

懐から二冊の巨大な書物を取り出して、裁判長の隣に座った。


先ほど述べたように、この書物には死者の名を記す必要があるので、取り出す描写が不可欠だったのである。


(――すごい睨んでくる……)

(誓って言うけど、俺、彼女に何かした覚えは一切ないぞ……)


彼女は白と黒の二冊の書物を机に置いた。

黒い書物は白の三倍ほどの厚みで、重々しく開かれている。


そして、ずっと彼を睨みつけていた。


夏枝は罪人であるため、黒い書物に名を連ねることになる。だが彼の罪は原初の罪。


イスラムの天使がギリシャ神話の規範に従って判定するという、些か理不尽な状況も重なり、

ただただ睨まれ続ける描写になってしまうのである。


これは、作者なりのジルへの意地悪だった。

『イスラムの天使がギリシャ神話の規範に従って判定する』──その奇想天外さに、彼女がどう反応するのか見てみたかったのだ。


その皺寄せが、夏枝に熱視線として降りかかることになる。


そんな状態のまま、審議は開始された。

審議だけに、真偽を問われる場である。


「被告人、夏枝 重よ。貴殿の業は重く、極めて深い」

裁判長の声で、夏枝は我に返った。

視線を、裁判長に合わせる。


「貴殿の罪は、独身罪、棄損罪、不労働罪、不貞罪、不敬罪――」

提示された罪はあまりにギリシャ神話的で、

常識や倫理が通用しない世界に据え置かれていた。


この罪に対して我々、現代人。

いや──現代に於ける「原始人」は全く理解できないし。


罪の意識が無かった為に夏枝は逆質問を行なった。

それに対する裁判長の答えは以下の通りだった。


「うむ。貴殿は繁栄を怠り、独身を貫いた。ゆえに独身罪」

「職もなく、不労働罪が妥当。そして神への寄進もせず、感謝も足りぬ。不貞罪」

「さらに、酔った勢いで我が主を冒涜した。不敬罪も妥当である」


(なんだコイツ……すんげぇ超理論飛ばしてくるやん。

いやぁ…地獄も天獄も沙汰次第らしい。)


しかも、現世で罪を晴らせと言ってくるのだから、理不尽も極まれりである。


裁判長は、まるで慈悲深い導きを示すかのように宣した。


「現世でこの罪を贖うには、定命にはあまりにも時間が不足しておる。

 したがって貴殿はステュクスを上り、アケローンを渡り、辺獄へと赴くべし」


温情のように装われてはいるが、実際にはただ一つの意味しかない。

――定命では足りぬ。故に死して贖え。


(君さぁ──罪の晴らし方どっちなんだよ……。

 寿命判断って事?。なんか適当だなぁ。)


裁判長は、ついさっきまで死の宣告をしていたとは思えないほどの調子で、

急に“商談”のような雰囲気をまとい始めた。


「――だが、辺獄行き以外の道も、ないわけではない」


その声はまるで、今から裏メニューを提示しますよ、と言いたげだ。


(だからなぁ…どっち何ですか?

会話劇的ドッチボールしに、来た訳じゃないんだが?)


「今、我らは深刻な状況にある。

 かつて信仰を集めた神が倒れ、臣民たちは迷い、混乱しておる」


神が死んだらしい。

そのくせ、死んだ神の代わりは“自然発生”しないらしい。

じゃあどうするのか? と思った瞬間、裁判長は急に妙な目つきをした。


「そこでだ。貴殿がその神として働き、

 その罰を浄めるのであれば、辺獄行きは免除されよう」


そして、決定的に頓珍漢な一言。

「――弊社は、そんな“ジンザイ”を求めているのだ」


もう完全に企業説明会のテンションだ。

さっきまでステュクスだアケローンだと死後の河を案内していた人間(※天使含む)の台詞とは思えない。


要するに?


「神がいなくて困ってるから、

 お前が神になってくれないかなぁ?(チラッチラッ)」


という、賄賂めいた、妙な打診である。


(まったく……最高に頓珍漢で、

そして極めて身勝手な神様だ。)


(神は救いを求める構図──

しかし─神が救いを求めるらしい。

よりによって「原始人」に。)


そう、彼こそが──

裁判長、その正体は 『ゼウス』 なのである。


夏枝は考えた。

(どうせ、死からは逃げられないのだとしたら……)


読者なら、どちらを選ぶだろうか。

人間であれば、どちらを選ぶか自明でなくとも、彼には分かっていた。


「……承知しました、裁判長。辺獄よりも、神として働く方が……まだマシな結末に思えます」


結局のところ、死んでいようが“死にたくない”のだ。

このどうしようもなく矛盾した感情が、夏枝の手を引いた。

理屈ではない。無意識に、彼は“そちら側”を選んだのだ。


「そうか。我々は貴殿の入社を、心より歓迎する」

こうしてゼウスとの契約が交わされた。


無論、彼らも分かっていたのだ。

夏枝がどうしようもない選択をするだろうことを。

だからこそ、あの頓稚気な条件をわざと差し出していたのである。


「プロメ、裁判の終了を」

「裁判を終了します!」


裁判長も陪審員も傍聴人たちも、予想通り静かに立ち上がり、去っていった。


そう、裁判は、初めからこうなることが分かっていたかのように――

始まり、そして終わりを迎えたのである。


去っていくつもりであった。

そう――裁判長は本来、そのまま退廷する気でいたのだが、ふと足を止めて思い出した。


この罪人――いや、正確にはこれより社員となる者は、

ステュクスを上り、アケローンを渡らねばならないのだと。


結局のところ、神になるために“死ぬ”ことだけは逃れられない。

魂となった以上、ステュクスを上り、アケローンを渡る儀式は不可避なのだ。


「貴殿――ステュクスを上り、アケローンを渡らねばならぬ」

裁判長はそう言って夏枝に振り返った。


リンボには行かせられない。

しかし――死んでもらう必要がある。

そのために必要なのが『金貨』である。


カロンへと差し出す、“通行手形”だ。

それがなければ、ステュクスもアケローンも渡れず、魂はただ彷徨うだけとなる。


裁判長はさらに続けた。

「ジル、この者に金貨を渡せ」


“ジル”――ツートンカラーの女性が、まるで歩幅を合わせるかのようにスタスタと近づいてきた。

金貨を一枚、俺の手にそっと置く。


「これは……?」

「駄賃です、もちろん」


さて、作者としては、リンボに行かずに転生する方法を考えていた。


『金貨三枚』が揃えば、魂は必ずリンボ行き。

では、三枚でなければ――?


こうして、『金貨一枚』という設定は決まった。


なるほど、カロンも「一枚で済むのか?」と不思議に思うかもしれない。

だが心配無用。ゼウスの裏で糸を編む――あの例の『おばさん』が、ちゃっかり手をこまねいているのである。


きっと、読者の気持ちを代弁しているのだろう。

夏枝も、同じく頭を抱えた。


(なんだそれ……意味不明すぎる)


「冥界を渡るには、これが不可欠なのです」

ジルは静かにそのルールを指し示した。


謎めいた水先案内人として、彼女は道を示すだけ。

説明はすべて、天使や神々の認知を通したものとなる。


意味など、読者にも夏枝にもまったく分からなかった。

しかし、この金貨が何か大切なものだという感覚だけは確かに存在した。


夏枝は静かに、胸のポケットにしまい込む。


「さあ、参りましょう」


ジルは静かにそう言い、被告人席の奥にひっそりと佇む唯一の扉を開けて歩き出す。

夏枝はその後に続いた。


なぜ、これほどまでに意味不明で、謎めいているのか。

理由はひとつ。

作者が、行先を定めず、先の展開も決めずに筆を進めているからだ。


誰も、何が起きているのか理解できず――

ただ、この謎めいた水先案内人の後ろについていくしかなかった。


頼れるのは、作者という“創造神”ただひとり。

その導きがどれほど雑であろうと、突飛であろうと、

物語はその流れに従うしかない。


夏枝もまた、抗う術なく、その細い道筋をたどっていくのだった。


まるで聖書のように入口は巨大で、

通り抜ける穴は余りに狭く、小さく、低かった。

皆様、最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

『第八話 面談? 裁判! 被告人は俺!?』のプロットや進行のプロセスをご理解いただけたでしょうか。


とりあえず──お疲れ様です。

何とも頓稚気で、頓珍漢が常に一緒だと、さすがに疲れますね。


ここでは、作者の『奔放さ』が物語全体のイメージを占めています。

「なぜ面談ではなく、陪審法廷なのか?」──その理由も、やっとお分かりいただけたのではないでしょうか。


要するに、これはイメージの拡張です。

全ての根底には、奇想天外な発想と、拡大による表現があります。


転生を行うために、わざわざ『罪』というケープを準備し、

着飾らせて、死なせるという通常のアクセスを取っ払って、超特急・超特価で物語に持ち込んだのです。

まあ、即興演奏にしては『熱々』だったのではないかと思います。


さあ、ジル、プロメ、裁判長、ラケシス、カロン――

神々と天使たちが、それぞれの役割を背負い、物語の舞台に揃ったのである。


後は、夏枝を“きちんと”死なせるだけである。

十二分に、この現世から旅立ってもらいましょう。


途轍もなくシンプルに、そして超特急・超特価で。

そのために――ついに『カロンちゃん』と出会ってもらう。


単純明快な死を用意し、

安心して冥界の旅へと踏み出してもらうのです。


こうして、第九話

「単純冥界な旅」が始まります。


読者の皆様も、どうか肩の力を抜いて――

“安心して”冥界行きの旅路をお楽しみ下さい。

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