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「エピソード7: 現代編:主人公の宙感!! 『 伏魔殿たる所以(ゆえん)』」

第七話の内容に入る前に、まず連続短編集の公開について、

私自身の考えや意図を正確に伝えておきたい。


何故、私はプロットや制作過程まで公開するのか――

それは端的に言えば、皆に『自由に使ってほしい』からである。


御大が言われたように──『自由に使ってほしい』。

私も同じ思いで、敢えて公開したのである。


そして、読者の皆には、ぜひ『自由に使ってほしい』。

──これが、『最大級のプレゼント』であったと気付くその時まで。

夏枝は、ずっと彼女と一緒だった。

囚われたままなのだから。

ただ、時間だけを知りたかった。


そこで、彼はゆっくりとポケットから懐中時計を取り出す。

ここは中間の次元──『宙感』を与える必要があったのだ。


そのため、彼は時計の針を逆に巻いた。

──第三話『時間よ! 逆巻け!』のイメージを、ここで回収するために。

彼を遅れさせるように、時計は逆巻き始めた。


とうとう、夏枝が望んだ通り。

常識が、死に始めた。


時間という概念さえも、

ここでは意味を失う。


彼は、ようやくその意味を理解し始めた。

──本当に、わざわざ選んでくれてありがとうございます、と作者は言いたい。


俗世から切り離されたこの空間で、

秩序も理もない世界に自分がいることを、

彼は次第に実感していった。


いよいよ、本丸の裾野に着いたことを、彼女が教えた。

前方の引力が弱まり、やがて彼女の口元が、かすかにその扉を開く。

可憐な口が、夏枝の現実という薄絹うすぎぬを、ゆっくりと引き剥がす。


作者の視界には、

広いホール、狭い回廊、出入り口や角が映っていた。


その中で、デモンズソウルのような光景が浮かぶ──

厭らしいほどに曲がりくねった狭い回廊や出入り口や角が浮かんでは消えた。


記憶による照明の明滅が生む、光と影のコントラストは、

まるで過去に味わった死の感覚を、別の形で疼かせるかのようだった。


まるで獣が息を潜め、こちらを待っている──

そんな気がしてならなかった。


作者は、まるでデモンズソウルのように、

世界の外側へ足を踏み入れてしまったのだ。


『次は、いったい何が俺を死へと誘うのか──』

その問いを、デモンズソウルは含ませながら、何度も俺に突きつけてきた。

『死の感覚を、別の形で疼かせる』──それを引き連れ、無慈悲に俺を殺してきたのだ。


(前に進まなければ……。ストーリーを進めよう)

私はそう思った。


夏枝・私と読者は、慎重に彼女から降り立った。

彼女の扉は静かに閉じ、また別の『読者』をこの異様な場所へ誘うために、

一階で待機すべく、闇の底へと消えていった。


私はそんな──新しくここに訪れる者に、奇妙さと奇天烈さを感じさせたかった。

そして、ファンタジーである以上、ある程度の宗教観も付与したいと考えた。

その基軸として、ギリシャ神話を設定したのである。


しかし、すぐに読者に「ギリシャ神話を意図している」と気づかれては困る。

さらに、作品における世界観的な神話も知られたくなかったため、巧みに誤魔化すことにした。


夏枝は、とうとう目にした。

目の前に広がる光景は、まさに“伏魔殿”と呼ぶにふさわしいものだった。


古代エジプトのヒエログリフや神々を象った小物が並ぶ一角。

その隣には、仏教の仏像や肖像画が、まるで神聖さを競い合うかのように飾られている。


別の一角では、どこの風刺画かもわからない奇妙な絵や、

縦横十五センチはあろうかという分厚い本が書見台に置かれ、

まるで訪れる者に見せびらかすかのように誇示されていた。


通路の端から端まで、宗教や思想の“趣味”が混在しており、

それはもう宗教の品評会のような異様な光景である。

壁紙さえ、それぞれの宗教の様式に合わせて貼られており、

ただ通るだけで背筋が凍るような空間だった。


正気の沙汰とは思えなかった。

まるで伏魔殿の中を進むかのような感覚に、とらわれていた。


こうすることで、読者はどれが本当の宗教観なのか迷い、錯乱したままになる。

そして、その混乱の中で、夏枝に導かれるまま進んでいくことになるのだ。


それを裏付けるため、夏枝のモノローグを挟んだ。

(……なんだ、この場違いな空間は。法人なんて言葉に騙されるべきじゃなかったか?)


彼にとって、法人のイメージは箔付けとして捉えられるものに過ぎなかったのだ。


こうなると、夏枝はどこへ行くべきか宙ぶらりんになってしまう。

そこで、会社のフロントよろしく、受付カウンターをこの伏魔殿たる通路の最奥に、ぽつんと配置した。


そこだけが、まるで孤島のように存在していて──

夏枝も読者も、どこか救いの場として認識できる。

それは、『現実的』な実感によるものだった。


受付というと──基本的に女性がいる。

そう、作者は思った。


そこで、女性──欧州的な雰囲気を持ち、ギリシャ神話の基軸にも合致する──

若々しく、にこやかな笑顔をこちらに向ける、金髪の白人女性を配置した。


作者も、読者も、夏枝も──

この女性と、謂われもしれない通路のどちらを選ぶかは明らかだった。

異様な通路から逃げるように、皆は受付へ向かうだろう。


彼女は、想像通り壮美だった。

若々しく、にこやかな笑顔をこちらに向け、静かに佇んでいる。


夏枝も、少し安心した。

そこで、思い切って話しかけることにした。


「すみません、御社の面談に参りました」

そう声をかけると、女性はにっこりと笑って答えた。


「はい、ようこそお越しくださいました。チラシはお持ちですか?」

どこか目配せを交えながら、丁寧に問い返してくる。


──それは当然だ。受付なのだから。

何か困っていることはないかと、尋ねるだろう?


どうやら、夏枝はそれに疑問を感じているようだ。

おそらく、急に現実が目の前に現れたことで、おかしな気分になっているのだろう。


違和感を覚えつつも、彼はバッグの中を探り、あのチラシを差し出した。


受付の彼女はチラシを受け取り、

ゆっくりと頭を下げ、上目遣いでこちらを見つめた。


「夏枝様ですね? 弊社もお待ちしておりました」


──それは当然だ。お待ちする以前に、感謝を述べるのは礼儀である。

面接者なのだから、どのケースにも当てはまる意味として「お待ちしていた」というのも自然なことだ。


「どうぞ……右手の扉の先が面談室となっております」

彼女は右側を指差した。

彼女から見て右側には、面接室へ続く通路があるのだ。


つまり、夏枝の視点からすると、彼女は発言どおりに右手を指しているのに、彼には左側の扉を指しているように見えるのである。


どちらも正しい視覚で物事を視認して、観ている。

立ち位置でそう見えている。


きちんと間違いなく通路がその準拠に基づいて、

左手にある。


そして彼女は、流れのままチラシを返してきた。

左の扉を開くために操作すると、ゆっくりと扉が開く。

夏枝はその動きに視線を向けた。


扉の向こうには、明滅する無機質な通路が続いていた。


彼が通路に足を踏み入れると、彼女は通路側の扉を閉めた。

扉が閉まった瞬間、彼はその世界に閉じ込められたような感覚に陥った。


──それも当然だ。面談なのだから、一斉に移動されては困る。

受付の彼女は、面接予定の人間を順にチェックする必要があるのだ。

だから、独りずつ通路に入れるのが当然である。


彼は、さきほどの違和感を反芻し始めた。

──これは夏枝の勘違いだ。


彼女は、チラシの裏面をじっくりと眺めていた。

──これも夏枝の勘違いだ。


まるで、そこに何か“情報”があるかのように見える。

──それも、夏枝の勘違いだ。


(いったい、何を読み取ろうとしていたのだろう?)

最大級の被害妄想が、夏枝を襲った。


慌ててカバンからチラシを取り出し、裏面を確認する。

──だが、そこには何も書かれていない。やはり“白紙”のままだ。


しかし伏魔殿の異様な空間は、白紙という現実をもなおねじ曲げるかのようだった。

通路の壁に映る明滅する光、歪んだ影、無機質な冷気──それらが、夏枝の目にはチラシの裏面に何か秘められているかのように見せた。

白紙であるはずのチラシが、まるで情報を隠し持つかのように心をざわつかせる。


当たり前だ。最初から、そういうチラシであると彼自身、確認しているのだから。

だが、この異様な空間では、「当たり前」さえ怪しく思えてくる。

夏枝は被害妄想の渦に、逃れようもなく巻き込まれていった。


彼は振り向き、入ってきたはずの扉を確かめようとした。

──だが、そこにはもう扉はなかった。


心臓が凄まじい速さで脈打つ。胸の奥がぎゅうっと締めつけられるような感覚。

呼吸は浅く、息を吸うたびに喉の奥がヒリヒリと痛む。

通路を這う明滅する光が、壁に伸びる影を一層歪ませ、視界が揺らぐ。


夏枝の耳には、自分の心拍の音だけが異様に大きく響き渡る。

無機質な冷気が肌を撫で、皮膚の感覚まで不安定にさせる。

あの白紙のチラシの裏面が、まるで何か秘密を隠しているかのように見え、恐怖が胸を圧迫する。


ただ、目の前には、同じように明滅する無機質な通路が続くだけだった。

──現実と異界の境界が、今、完全に崩れたのだ。


再び前を見ると──いつの間にか、さきほどの通路は消え、

扉と受付、あの女性が、そこに立っていた。


扉も、受付も、女性も──また、すべて通路の最奥に配置されていた。

この空間における唯一の救いの小島が、また、そこに存在するのだ。


(……いつの間に? 俺は……歩いていたのか?)


彼にぞわりと、背筋を不意に這う正体の知れない恐怖。

名状しがたい恐怖──死というものが、問いかけてくるかのようだった。


また、ここから逃げ出す必要があった。

──現実と異界の境界が崩れる前に。


彼は自分に言い聞かせた。

──そう、これは幻覚だ。


面談という非日常が見せるもの。

非現実──幻肢痛がもたらす幻想である。


それを確かめるために、彼はこの奇怪な世界へ足を踏み入れた。

それを確かめるために、面談に来たのだ。

通路の先、扉の向こうに面談室があると、信じてやってきた。


彼には決意が孕んでいた。

歩を進め、受付の前まで来る。


再び、受付にいる女性に声をかけ──

そして再び、この奇怪な世界へ足を踏み入れた。

皆様、最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

『第七話 伏魔殿たる所以ゆえん』のプロットや進行のプロセスをご理解いただけたでしょうか。


第七話は、神材派遣管理会社「ユル」という法人に夏枝が訪れるところから始まります。

──株式会社なのに法人、というのも、少し奇妙な感覚ですよね。

それもこれも『生と死の中間』を意識して設定した結果です。


とりあえず──夏枝は現実に別れを告げ、『生と死の中間』に足を踏み入れてしまったのです。


ここでは、作者の『幻肢痛』が物語イメージの九割を占めています。

ユル株式会社のフロントから続く通路は、まるでデモンズソウルのように、唐突に死の気配が飛び込んでくるかのようです。

そんな、奇天烈すぎるイメージから第七話は構成されています。


全ての根底には、デモンズソウルに伴う「死のデモンストレーション」が据えられています。

そのため、第七話は、常に違和感と不気味さを孕んだイメージの中で進み始めるのです。


デモンズソウルのイメージを持たせつつ、昇降機は勝手に一階へ移動し、通路は消えたり出現したりする──そんな奇天烈な世界です。


しかし、違和感がある一方で、全ては自然に配置されているかのような、

謎めいた規則性が存在しています。

私はこのギミックを意図的に設け、第七話の異様さと緊張感を強化しました。


第七話は、ある意味で転換機であった第六話の余韻を引き継ぎつつ、

物語の進行における緩衝地帯の役割を果たしている、という感じでしょうか。


そのため、読者はこの奇天烈さの中から神話的要素を回収し、

第八話『面談? 裁判! 被告人は俺!?』へ繋がっても違和感を覚えません。

これは、第六話から第七話にかけて、十二分に心理的な緩衝地帯を構築してきた結果です。


第八話『面談? 裁判! 被告人は俺!?』では、面談のはずが何故か裁判が始まります。

──いや、正確には、ユル株式会社では裁判式の面談が行われるというだけのことです。


ここで、ようやく読者も夏枝も「面談」という形で裁かれ、入社を果たします。


入社を果たすことは、すなわち転生の儀式でもあります。

入社式が行われる──つまり、転生式というわけです。


その入社式は改めて執り行います。

そのため、正装でのご臨席をお願いいたします。


これより、神材派遣会社『ユル』の入社式を始めます。

ご覚悟は、よろしいですか?

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