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「エピソード6: 現代編:主人公の異動!! 『 違和感の正体と閉ざされた死』」

69話の投稿も完了!! 第六話を振る還る。

彼女との対話は非常に難しい。


何故に昇降機なのだろうか?

今になってもそれは不明核である。


多分、いつもの通り酒を煽っていたんだろう。

現在でも『アブサン』を楽しみながら投稿するのだから。


ウイスキーとリキュールの違いしかない。

どちらも職人の愛があるのだ。


では──参ろう。

彼は確かに、「神材派遣管理会社 ユル法人会社」の前に立っていた。

先に述べた通りだ。


雑居ビルが立ち並ぶビジネス街のジャングルに、彼は足を踏み入れる。

彼の目に映る景色は、ビジネスビル群とユル法人会社の差異だけで十分だった。


他のビルと比べても、背丈も構造も四角さも変わらない。

唯一無二なのは、デザイン性だけだ。


私は彼を前へ進ませるため、他のテナントビル群は余計に邪魔に感じられた。

そこで、描写の焦点は一つのテナントビルとユル法人会社の差異だけに絞った。


その時、私は思った。

形が違うだけで、なぜわざわざユル法人会社へ歩を進める必要があるのか、と。


つまり……。


(ユル法人会社へ向かうのは、デザインだけが異なる、

 特に変哲もない見た目だけの所謂テナントビルだから。)


私は突然、そういう形で話を進めようと、方向転換の舵を切った。

しかし、そうなると話が食い違ってしまう。


そこで、ユル法人会社を15階にある会社という設定にして、無理やり話を進めることにした。

そのため、チラシにもそう書いていると、読者を騙そうと考えたのだ。


彼は雑居ビル(テナントビル)に向かって歩を進めた。

デザインの違和感に気づいている彼は、きっと近づいてよく観察したいはずだった。


しかも、チラシには15階と書かれているはずなのに、

外観は他のビルとほぼ同じ高さだった。

そう──釈然としない。15階のビルにしては背が低いのだ。


その違和感が、彼を捉えた。

彼はゆっくりと、二つのビルの前まで肉眼で確認できる距離に近づいた。


雑居ビルの出入口には、必ず階ごとにテナントを示す表示板が掲げられている。

多くの株式会社(中小企業)がそうであるように、ユル法人会社もそこに入居していた。


彼は二つのテナントビルの表示板を、舐めるように目で追った。

一階、三階、七階……十階、と。


すると、どうだろう。

二つのビルとも、十階までしかないのだ。


彼は反芻し始めた。

(チラシによれば、「神材派遣管理会社 ユル法人会社」は、十五階にあるはず……。)

場所は間違いない。ビルはそこにあるのだ。


一体、何が起きているのか……。

彼は実情報を精査するため、チラシを再確認した。


何もおかしいところはない。

裏面は真っ白で、勤務地も給与も福利厚生も──何一つ書かれていない。

履歴書の提出すら記載されていない以外は、だが。


余りに頓痴気なチラシであることを除けば、全くおかしいところは何一つないのだ


彼は信じたくはなかったが、

自分の中で、奇跡が単なる軌跡ではないことに気付いた。

すべては夢──幻──まやかし──呪いである、と。


そして、彼は一つの結論に至った。

――すべては、詐欺紛いの募集広告だったのだ!


彼は、やはりそうだったのかと反省した。

分かっていたのだ。自分のどこかで――『詐欺紛いの募集広告』だと、

ぼんやりとその灯は点っていたのだ。


如何わしい募集広告だったのだ。

所謂、『詐欺』というやつ──

そのことを頭のどこかで配置していた。


彼は現実を理解した。

余りに乾いた砂を口いっぱいに含むほどの渇きが、彼を急速に現実へと立ち返らせた。


彼の顔には、乾いた微笑みが張り付いていた。

その行為は、現実感をさらに強く突きつけた。


そう、すべてが現実なのだ。

空虚感が、一気に彼をサンドバッグのように打ちのめした。


とうとう、彼はこの場所でさえも、現実すら嫌いになったのだ。

もう、何も期待しない。

何が来ても、期待できはしない。


無限の渇きと空虚が心を満たすとき、

全てが「どうしてこうなった」が心を満たすのだ。


だからこそ、彼は見たくなったのだ。

好奇心か? いや──そんなものがあるかどうかも、もはやどうでも良い。


好転しない現実に、ただ刺激が欲しいだけなのだ。

彼に存在しない十五階があるかどうかなんて、もうどうでもよかった。

どれでもいい、刺激が欲しいのだ。


彼の思考回路は、好奇心と破滅寸前の願望で満たされていた。


(そうさ、怖いもの見たさってやつだ。試してみよう。

 それこそが、終幕──フィナーレってやつだ。)


彼は終幕を求める。

この現実ではなく、別の次元のステップを、ジャンプする感覚でスキップしたのだ。


彼は、テナントビルに足を踏み入れた。

余りに違和感だらけのビルの掌中へ、自ら身を投じたのだ。


何の変哲もない昇降機の呼び出しボタンを押すと、

昇降機は少し間を置いて返事をし、そして彼の目の前に現れた。


私はこの時点で、

現実と異世界への橋渡しをしようと考えた。


どうすればいいのか考えあぐね、

昇降機を擬人化することにしたのだ。


機械であっても、微妙な余韻という現象がある。

どの機械にも応答時間があるのだ。

私はそれを、『飽きを知った女性』として描こうと画策した。


彼は彼女の中に乗り込むと、

操作盤には丁寧にも十階までの階層ボタンが並んでいることを確認した。

確かに、『十階』までしかないのだ。


ここで、第三者の目線である監視カメラを、昇降機の目線──すなわち『彼女の目線』として扱った。

だからこそ、彼がなぜだか自分一人ではないような気がするのは、当然のことだったのだ。


彼はそれを、気のせいだと断じて、

気にしないようにした。


彼には、好奇心と破滅願望、そしてわずかな熱情があった。

まだ、砂粒ほどしかない希望。

『ワン・チャンス』に縋りついたのだ。


彼はそう思いながらも、現実を口いっぱいに味わった。

彼の手は微かに震え、意志とは裏腹に、そっと十階のボタンを押す。


操作盤はわずかに冷たく、指先に吸い付くような感触を残した。

現実味が滲み、その体温を奪ったのだ。


昇降機の扉が閉じる瞬間、わずかな空気の振動と共に、

現実における彼の居場所の幕が下りた。

孤独と期待が入り混じった、妙な感覚が胸を締め付ける。


階層ボタンが点灯し、彼女は胎動した。

電光掲示板がわずかに点滅しながら呼吸を整え、異世界への階層を一つずつ上げていく。


それとともに、彼の期待は少しずつ高まっていく。

砂粒ほどしかなかった希望が、『倍掛け』される高揚感となって、彼を誘った。


一階、三階、五階……

少しずつ、それが彼の目前に現れるのかと、体は身悶え始めた。

息が、心臓が、魂が――今も彼の内部から張り裂けそうだ。


昇降機が八階を超えると、歓喜と焦燥に駆られた内なる獣──欲望が、

閉ざされた死の中で絶叫するかのように、彼の内でのたうち回った。


十階に到達した瞬間、彼女の鳴動は弱まった。

照明がちらつき、内部は漆黒に染まる。


小さな微動する機械音だけが、まるで彼女の生命維持活動のように響く。

心臓の鼓動が、静寂の中で強く響き渡った。


彼は深呼吸し、期待は限界に達していた。

臨界点を超えたのだ。


ここから何かが始まるだろうと、彼は身構えた。

期待した──。

金属の匂いと冷気が混ざった空気が彼の肺を満たし、理性が一瞬、揺らぐ。


しかし──何も起こらなかった。

どれだけ待っても何も起こらない。


現実が、もう一度彼に振り返って突きつけた。

あまりに冷え切った嘲りを。


期待の余韻が、冷水のように彼の心にある静寂を急速に洗い流した。

歓喜は、戸惑いへと変わる。


彼は現実に頼った。

目に映る現実、情報を。


改めて、認識したくはないが認識せざるを得なかった。

確かに、昇降機は十階に辿り着いたはずだ。

電光掲示板は、確かに“そこ”を指している。


昇降機は十階に着いた。

なら、扉は開くはずだ。

残念!!──昇降機はうんともすんとも反応しない。


機械は、命令を実行できなくなる。

調子が悪い時だ。

私はその現象を、『恋の病』として落とし込むことにした。


その現象を個々の場面として捉えると、

彼女の沈黙は、拒絶のようでありながら、照れ隠しのようでもあった。


まるで恋人のように。

満たされた余韻に飽いたかのように、そっぽを向く。

ただ、冷ややかな沈黙だけが満たされる。


ここで評するならば、

彼女は彼とだけ、時間を過ごしたかったのかもしれない。


ただ、『ランデブー』がしたいのだ。

ここに、彼に居て欲しいのである。


彼女は、恋人たちがふとした嫉妬と愛情の狭間で板挟みになり、

落ちていく――そんな深い恋慕のスパイラルを、彼に体感させたかった。

それくらいに先に進ませたくない。


だが、彼は進みたいのだ。

そんな彼の気持ちを察して――


彼女、昇降機は遅ればせながら、

呆れたように備え付けの音響機器から「チン!」という遅れた音を漏らした。


彼女は、ため息交じりの呼気を漏らし、自らを鞭打つかのように。

次の瞬間、昇降機は横に移動した。


彼はその重力に抗えなかった。

彼女の愛に縛られ、昇降機の壁に激突した。


横に移動しているにもかかわらず、

十階、十二階……階層はどんどん上がっていく。


彼女は前へと加速する。

まるで、壊れたジェットロケットのような勢いで。


とうとう、彼女の顔すら壊れていった。

電光掲示板は、数十秒前からその意味を成していなかった。

表示は崩れ、見るも無残な、彼女の慟哭を映していた。


多分、彼女は夏枝に苛立っているのだろう。

愛を囁いたのに、頓着してくれないのだから、無理もない。


彼女はその激高により、

夏枝を高次元へと運んでいく。

現世でも幽世でもない、中間の高次元へと。


それは、夏枝にとってどっちつかずの状態だった。

生と死の中間に据え置かれるのと同義である。

彼女は激高していたが、それでも愛はあったのだ。


彼女は、夏枝と共に愛を育みながら、

彼を連れて、存在しない場所へと――今まさに『生と死の中間』へ漕ぎ出そうとしていた。

彼は、未だにその中で旅をしているのである。

皆様、最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

『第六話 違和感の正体と閉ざされた死』のプロットや進行のプロセスをご理解いただけたでしょうか。


第六話では、夏枝が現実に別れを告げ、『生と死の中間』へと移動するためのストーリーとなっています。

第二話以降、前書きから本編にかけては、『心理→具体→心理→具体』という構造でずっとストーリーが進行しています。


この話は明確に、死へ向かうために据え置かれる移動であり、遷移を確定するための処置です。

第五話では読者の皆様に一息入れていただき、第六話では夏枝と共に『生と死の中間』を移動する、その摩訶不思議で、異様かつ異質な感情を幻想的に描きました。


次ましては実際に『神材派遣管理会社 ユル法人会社』――

『生と死の中間』の位置にある世界――に到着。


第七話「伏魔殿たる所以ゆえん」へと繋がります。

今までは擬人化による不思議体験でしたが、


今度は、摩訶不思議が戯画的な宗教観、違和感、異質感、異様感、不気味さとなって、一気に走り出します。


貴方の感受性を震わす、

そんなストーリーで、夏枝もそのインパクトにより意識が明滅します。

それが『幻肢痛』――幻想と現実を認知した夏枝にフィードバックされるのです。


では──貴方様にも、痛覚の門をくぐっていただきましょう。

現実と『さようなら』するために、夏枝と並んで、行進を始めるのです。

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