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「エピソード9: 現代編:主人公の端準明快な荼毘!! 『単純冥界な旅』」

端準明快な荼毘、果たして──。


未来の作者が軌跡を描くために手を伸ばす、そんな鬼籍。

日記帳は、シアンからバイオレットへと静かに変わっていく。


酒に酔った男の狂気が、静かに、しかし確実に始まる。

シリアスはコミカルに、さらにシュールな彩りを帯びる。


作者は叫ぶ。

「まだ、死にたくはない!」


あっぷあっぷで、地獄へ向かう天頂──宙にばたつかせる。


そっと──。

彼の二面性、死を誘う歓喜が、静かに、しかし確実に拡大し始める。


「早く、逝け! 往け! パンドラを覗け! 覗け!」と──。

酔った男は三人の魔女の予言に乗り、悪魔にも魂を売った。

パンドラの箱を開けよと言われたから──迷いはない。


間髪入れずに、男は箱を開く。

まるで「虚無と虚空がお友達☆」とでも言うように。


男は虚空に身を委ね、

『単純明快』な『旅』が始まる。


間違いない。

死への旅路──冥界の河を渡る前儀式が、今、動き出す。


『単純冥界な旅』。

唐突にストーリーは死へと誘う。

作者は考えあぐねる。

面談(免断)は終わった。


だが、夏枝を地獄に落とす手段は、投稿時点では定まっていなかった──。


作者は凄く悩んだ。

どうすれば好いのか──?


作者の目の前、水先案内人であるジルは、ずっと黙っていた。

……もしかすると、怒っているのかもしれないと私は思った。


(済まない。イスラムの天使に、

 ギリシャ神話で判断しろとは、酷なことだった。)


彼女は何度も振り返り、その熱い視線で私を炙った。

その視線のせいで、私は近づくことを恐れ、距離を置かざるを得なかった。


「──こちらです」

ジルが、通路の真ん中で急に立ち止まった。


(なんだ……? どうしたんだ……?)

 作者は一瞬、戸惑う。


ジルが床を力いっぱい殴った。

ミシミシと音を立てて床に亀裂が入り、バキィ!という轟音とともに大穴が開く。

残った床材が……ボロボロと崩れていく。


ジルは、やり切ったような笑顔を見せていた。

私がその横から大穴を覗くと──。


一切の光が届かない、真っ暗な底なしの空間が広がっていた。


(あっ──これ……デジャヴュだ……)


そこに希望は、微塵もなかった。

今なら、三人の魔女の予言に従い、悪魔に魂を売ることさえ躊躇わないだろう。

パンドラの箱を開けろと言われれば……助かる方を選ぶ。


この深淵は、まるで「虚無と虚空がお友達☆」と言わんばかりに、舌なめずりしていた。


成程──そういうことか。

私は考えた。

なんとも単純な手段だ、と。


端的に──地獄に落とせば良いのか。

私は、改めて確かめたくなった。

これが、紛い物なのかどうかを


「あの……ここに、ですか?」

私はジルの顔をちらりと見やり、再び虚無の底を覗いた。


(さすがに、ここに入れなんて言わないだろう──

 創造神たる私を、ここへ入れなんて……。)


「そうです」

我が創造物たるジルが破顔一笑をくれた、と思ったその瞬間。

気づけば、私はもう放り込まれていた。


「うわっ! この人でなしっ!」

私は叫びながら、足と手をバタつかせて、なんとか浮力を得ようと藻搔いた。


「大丈夫です。私は人ではないので」

そう言って、私の頭上から最後の一撃をくれた。


(そう──造ったんだが!! そうじゃないだろう!!)


なんという、単純冥界なリゾート地への旅の始まりか!!

──そう、私は思わず呟いた。

 

*******


夏枝は、ジルさんに殴られた頭頂部をそっと撫でていた。

きっと、ものすごい大きなたんこぶができただろう。

ジルは天使なのだから──。


夏枝は、穴の中を今まさに直下へと落下していた。

穴の中は虚無で、闇そのものと言ってもいい。


そのため、目には虚空で静止しているように映る。

風圧もないので、静止感はさらに際立っていた。


通路の明滅に光が見えたかのようだったが、実際には夏枝の頭の痛みでチカチカしているだけ。

本当の光はなく、そこは完全な闇だった。


虚空の最奥に、唯一の希望があった。

遠くで、ぼんやりと灯るカンテラの光が見えてくる。


それ以外は闇が静かに俺を包み込み、

「慈しみを与えようか」と囁くかのように見守っていた。


少しずつ、ぼんやりと灯るカンテラが増えてきた。

ピンクと黒が混じった炎を灯すカンテラが、この大穴の壁に無数に取り付けられている。


夏枝が落ちる深度を増す度にカンテラたちはゆっくりと数を増やしながら、

夏枝の左右を通り過ぎていく。


(少しずつだけど、速度が遅くなってきてる?)


やがて、夏枝はこの大穴の終着地点へ──なぜか真上からではなく、

横へ滑るように、まるで空間をすり抜けるかのように到着した。


縦と横の穴が途切れ途切れに交差し、

現実の法則を少しだけ逸脱した空間を、夏枝は通り抜けたのだ。


次の瞬間、彼は波止場に立っていた──。


夏枝にとって、この現象は不可思議だった。

作者も興味をそそられ、出現した横穴を覗いてみることにする。

確かに、大穴は頭上に口を開けていた。


やっと、読者達も理解する。

この世界感は理論は通じない所。


つまり、あの通路とこの通路は、時空が交差している。

不可解な現象にもかかわらず、登場人物たちはなぜか少し安心していた。

──何故なら、作者がこれまで何度も描いてきた表現だからだ。


皆は改めて、胸に刻んだ。

最近見知った異様さ、異質さ、面妖さ──

そして不可解さまでも、“いつものメンバー”に加わったのだと。


そんなことを皆が考えながら改めて見渡すと、そこは波止場だった──。


湾内には、ぽつんと帆船が鎮座している。

波止場に係留されているように見える。


作者はこの世界の片隅で、意図的に面妖な空気を編み出そうとした。

あたり一面に、ピンクと黒の炎を宿すカンテラを並べ、その光が静かに空間を染めていく。


ところがどっこい──

結果として、意図した面妖な雰囲気はそのままに、逆に場末の如何わしい波止場という印象が際立ってしまった。


この灯りたちは、知らず妖艶さを醸し出してしまった。作者は土壇場で、帆船を擬人化した。


その帆船──彼、と呼ぶべきか──

読者という死者が訪れる時に備え、灯りたちは疼くように揺れる。


そう、彼は誘っているのだ。

だが、決してそういう意味ではない。

旅の仲間として、という意味で。


ならば、この帆船を特別視する必要があった。

普通の帆船では、この妖艶さをどうしても消し去ることはできなかった。


作者は、多くの作家の作品群の間を飛び回り、

フィーヴァー・ドリームに出てくる「外輪船」と、18世紀ごろの櫂で漕ぐ船のデザインを融合させた、

中間的な船にすることを決めた。


これらを夏枝と読者達に伝える必要がある。

夏枝を帆船に歩を進ませて、外観を確認させた。


こうして、左右に水車という推進輪を備え、

それを動かす煙突、さらに18世紀風に左右に櫂を差し込む穴を持つ、

まさにカオスな帆船を顕現させたのだ。


夏枝の観察眼と想像力を通したモノローグで、

帆船の全体像を読者に伝える。

(この水車は、この煙突を使った動力で動くのか……?)

この一文だけで、どうにか場の説明を成立させたのだ。


もちろん、このままでは物語は動かない。

ここは冥府の河。登場人物を呼び込む必要がある。


隠すことは何もない。

──登場するのは、「カロン」だ。


作者は、この「カロン」を登場させる際、なぜか『メスガキ』風にアレンジしてしまった。


理由は?

ギリシャ神話のカロンは、死者を河に無理やり沈めて、楷で叩かくこともある。

だから、漠然と『メスガキ』っぽいイメージを抱いたのだ。


こうして、『カロン』は『カロンちゃん』として登場することになった。

『メスガキ』風なのだから、性格は挑発的そのものだ。


──それでも、ユル株式会社では、仕事上の立場として、

通行料を支払えば事務的に振る舞う、なんとも奇妙なキャラクターになった。


彼女は大抵、帆船の甲板に陣取っている。

──「カロン」なのだから、それも当然である。


死者が自分の船の周りで、じろじろと見ていたら……

多分、彼女は性格通り、挑発的にこう問いかけるだろう。

「何してるの? どうしてそこにいるの?」と。


カロンの最初の言葉は決まった。

挑発的に、

「ねぇ♪ お・じ・さ・ん、何してるの?」──


甲板のどこからともなく、その少女の声が投げかけられる。

こうして、物語は動き出す。


すると──夏枝は声の出所を探して、あちこち視線を動かす。

そんな彼を、カロンちゃんはさらに嘲笑い、挑発する。


「こっちだよ〜、おじさん、目悪いの?」

その声にハッと夏枝は目線を上げた。


船の甲板からというよりは、船の外周に見える柵から、ピンクと淡い黒の袖先がちらちらと揺れている。

その袖をたどると、ピンクと黒の燠のような目と、白い歯らしきものが見えた。


作者の中で『カロンちゃん』は、実体があるにもかかわらず、

まるで魔族のように黒い肌をしているイメージが強かった。


悪く言えば、『メスガキ』と『ガングロ・ギャル』の先行イメージがあったのだろう。


そこで、この闇と同調させるように妖しく黒く彩り、

カンテラと同じ色合いで、ピンクと黒を混ぜた服装に仕立てた。


言わば、作者の悪い癖が顔を出してしまったのだと実感する。

とはいえ、このキャラクターならイメージ図として納得できるだろう、という直感もあった。

そのため、直観と素直さが絶妙に混ざったキャラクターとなった。


ここで、夏枝とカロンちゃんはお互いを確かめ合う。

まるで燠のような眼差しが交錯し、視線が絡み合った。


カロンちゃんは、嬉しそうに小悪魔的な笑みを浮かべる。

「やっと気づいた♪ おじさん、ほんと屑っぽそう♪」

ニッシシと笑い、再び挑発してきた。


ここで、作者は大サービスとして、二度漬けを敢行した。

──『メスガキ』の二度漬けである。


「ねぇ? 乗らないの? もしかして怖いのかな〜? ヘタレさんなのかな〜?」

カロンちゃんの挑発的な声が、甲板の上から夏枝めがけて降り注ぐ。


作者もこの場に佇んでいた。

読者も夏枝も此処にいた。


この安い挑発に乗ってはいけない──理解している。

たかだか、年端も行かない『メスガキ』の言葉、嘲り、挑発である。

しかし、自尊心を傷つけられた者たちは、つい先走ってしまった。


「待ってろ、今すぐ乗り込んでやる!」

そう叫びながら、右舷に下ろされていた綱梯子に取りかかった。


カロンちゃんは、この頑張りに応えて──いや、挑発してきた。

「おじさん、がんばれ〜♪ 早くしないと動かしちゃうよ〜?」


言葉が発せられるや否や、カロンちゃんがGoサインを送り、

帆船は波止場を離れ、前進を開始した。


マストの後ろに聳える煙突も、まるで楽しそうに呼吸するかのように、モクモクと煙を吐き出した。

櫂と側面の水車が波を掻き分け、波立てて、私達を綱梯子から引き剝がそうとしてくる。


作者はまったく考えていなかった。

櫂や側面の水車が波を掻き分ける速度についてなど。

だから、波に洗われる描写だけで、なんとか誤魔化したのだ。


この描写を正当化すべく、

「おいっ! 頼むからやめろ! このままだと──」

叫ぶや否や、夏枝は波に叩きつけられたかのように洗われた。


「あはは♪ 一夜干しのおじさんになっちゃう〜。堕ちろ! 堕ちろ〜!」

上からドスンドスンと響く音──甲板の上で、カロンちゃんが飛び跳ねている証拠だ。


作者の中で帆船だから──海。

というイメージがこの冥界な河に出現した。


(海で塩気が混じって、乾いたら一夜干しになるんかなぁ……。この状態で死んでしまったら本当に一夜干しになるんだろうか?)


このまま夏枝がカロンちゃんの挑発に従えば、

本当に『一夜干しのおじさん』になってしまうかもしれない。


作者のそんな──疑問を解決するべく、

自由奔放に帆船を動かす事にした。


帆船は、カロンちゃんと作者の呼びかけに応えるかのように、左右にジグザグと蛇行し始める。


最終的に帆船は、カロンちゃんの意思で動き、感情に反応している──その意味を持たせたかった。


そして、明らかに彼女はこの混乱を楽しんでいる。

そう──やっぱり挑発しているのだ。


その間中、マストの後ろにある煙突は、楽しげに黙々と煙を吐き続けた。


夏枝が助かる手段が一つしかない……。

『面談? 裁判! 被告人は俺!?』」で言っていた。

ジルさんが『駄賃』とういう意味をやっと夏枝は知ることになる。


要するに、カロンちゃんの挑発は『駄賃』を要求する行為である。

支払わなければ、容赦なく堕としてしまう。

カロンちゃんはお金のために働く存在であり、死者にはほとんど感情を抱かない。


以降、カロンちゃんは、お金の形で通行料を受け取り、

罪の行く先を決める役割を果たすことになる。

しかし、現時点では、夏枝が正社員として採用されたことは、彼女に伝わっていない。


一縷の希望にすがり、夏枝は必死に叫ぶ。

「おいっ! 俺は金貨を持っているんだ! ──ゲホゲホッ! 欲しくはないのか!?」


叫び声とともに、ジグザグに進んでいた帆船がピタリと止まった。

嘲笑に満ちた、妖艶で幼い声も、同時に途切れる。


その瞬間、カロンは理解した──この死者は『駄賃』、

しかも金貨という、正当な顧客なのだ、と。


カロンは、尋ねるというよりも──挑発を交えながら呆れている。

「お・じ・さ・ん? なんでそれを早く言わなかったの? 無賃乗船かと思ったよ?」

カロンちゃんの声が、わずかに不安を含みつつ問いかけてくる。


(お前が俺を挑発して、無理やり乗せたんだろう!)


夏枝の感情の爆発を挟むことで、責任を彼女に押し付ける形にした。

だが、結論としては──この挑発に乗った夏枝自身が悪いのだ。


「でも、そうなんだ〜! 久しぶりだよ? おじさんみたいな屑な人♪」

この「クズな人」という表現には二つの意味がある。


ひとつは人間的に屑であること、もうひとつは、ここに来る魂は屑だということだ。

カロンちゃんは、その両方を含めて言っているのだ。


ニッカニッカと笑う口元には、燠のように妖艶な光が灯っていた。

その目が、僕らを値踏みしていた──。


そう、カロンちゃんは『金貨』を欲している。

ここに来る魂は、基本、辺獄に往くのだから。


彼女は『金貨三枚』を求めている。

僕らは、彼女を騙るしかない。


何故なら──『金貨は一枚しかない』のだ。


(くっさぁ〜♡(草)、金貨一枚しかないの〜?。

ざぁ〜こ♡)


その聲が冥界の河より、強烈に作者の頭上から降り注いだ。

皆様、最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。


『第九話 単純冥界な旅』のプロットや進行のプロセスは、ご理解いただけたでしょうか。


単純冥界な旅では、作者は夏枝をとっとと死なせるため、強行突破する必要がありました。

そのために、ジルを操り、カロンを登場させ、ステュクスを上らせ、アケローンを渡らせる──という流れです。


何でカロンちゃんを出したのか?

生まれてしまったのか?


それは、作者の癖とイメージによるものです。


こんな、辺鄙な辺獄の入り口で、

カロンという人物は死者にどう接しているのか──

それだけを気にしていた。


そうしているうちに、挑発的でどうしようもなく、

悪戯好きな少女のイメージが浮かんできた。


それが極大解釈の上で、

『メスガキ』や『ガングロ・ギャル』といった、よく分からないジャンルとして抽出された。


『メスガキ』ですが、優しいところもあるんです。

彼女を説明するのは難しい。

何故なら、夜勤明けで眠らずに、酒を煽って生まれたキャラクターだからです。


第十話では「分子分裂する夏枝」にて、ようやく転生と第二章への転換が同時に行われます。

読者は、一番に驚愕したことでしょう。


後書きで、転生先でのストーリー導入が始まります。

ここから、「前書き」・「本編」・「後書き」が全て、ひとつのストーリーとして成立する──ということを明示したかったのです。


前提要件は全て出し切りました。

読者の皆様。


もう、作者の癖やテンプレートを出し切る瞬間です。

第一章のメインストーリーが、幕を閉じます。


第十話、「分子分裂する夏枝」。

皆様を、四六の宇宙──過去であり、平行世界であるファンタジーへ誘う時。


ドレスコードの御準備を──。

覗けば分かる、怖気がある。


覗く行為が除く行為になり、

怖気が悍気になる。


メタが矢鱈滅多になり。

無秩序が無茶苦茶になる。


言葉遊びが二重、三重に掛け合わさる。

掛け合わさって掛け違う。


ズレズレ、ブレブレの球筋が鼻筋に近づく。

パンドラの函を覗け。

ダイスを振る時間だ──。

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