「エピソード0:作者の序章〜こちらは神材派遣会社『ユル』でございます。〜」
2025年04月20日 某時刻──。
「こちらは神材派遣会社「ユル」でございます。」その裏側にスポットライトを当てる。
扉絵の様に挟む裏世界をお楽しみください。
そして──作者のプロセス、プロットにそっと繋がる。
そんな、価値もならない日常をお楽しみに。
それでは、始めたたい。
あれは……。
2025年04月20日 某時刻──。
私は前職でオペレーターに就いていた。
しかし、それは2025年05月末までの話のことだった。
「戦力通告外」──つまり「クビ」を言い渡された。
その時からこの話が始まるのだ。
二〇二五年四月二十日 某時刻──。
私は前職でオペレーターとして働いていた。
しかし、それも二〇二五年五月末までの話である。
「戦力通告外」──つまり、クビを言い渡されたのだ。
理由は単純。「初歩的なミス」の積み重ねだった。
約十三年間、積み上げてきた砂上の城が音もなく崩れる。
そんな折、高校時代の友人二人との「最後の焼肉会」の予定を思い出した。
三か月前から決まっていたその約束を、すっかり忘れていたのである。
──そう、すべてはここから始まった。
二〇二五年四月二十五日 某時刻──某所にて。
三〇代後半の男が三人。
いや──おっさん三人が集まって焼肉を囲んでいた。
私と、旧友のOとT。
こいつらとはもう何年もの付き合いだ。
そして、この「T」こそが──
のちに「こちらは神材派遣会社『ユル』でございます。」を投稿するきっかけとなった張本人である。
T「なあ、うーさん。次の仕事はどうするんだ?」
私「いや、まったく決めてない。どんな業種でもいい。とにかく金が欲しい」
O「まあ、いいんじゃないか。少し休めよ。有給、どれくらい残ってるんだ?」
私「有給──? 三十一日もある」
T「全く消化してないじゃないか」
私「そうなんだよ。わかるだろ、T? 使いたくても使えんのだ」
Tは小さくうなずいた。
彼は私より数か月若いが、介護職に就いており、その苦味を理解していた。
夜勤の長さでは、むしろ彼のほうが上だった。
お互い、“夜勤”という言葉に宿る魔術を毛嫌いしていた。
O「うー、今度はよく考えて再就職しろよ」
私「ああ──そうしたいけど、選べんかもしれん。
選べば選ぶほど、狭まっていくんだ」
Oもまた、私より数か月若い。
同じ専門学校に入学したが、腰を痛めて一年留年し、
今もその“爆弾”のせいで定職に就けずにいる。
だが、私は思っていた。
定職に就いていないことなど、些末なことだと。
こうして皆が元気で集まれること──
それこそが何よりの意義なのだと。
私「それでT、WEB投稿がWEB漫画になったって? どうなんだ?」
T「やっぱり──大変だよ。仕事もあるしさ」
O「まあいいじゃねえか。高校のころ“印税生活したい”って言ってたろ? 夢叶ったじゃん」
私「ああ──有言実行ってやつだな」
そんな他愛ない会話の中で、
網の上では肉が音を立て、
煙と笑いが交じり合っていた──。
私はいっその事、Tに質問してみることにした、
約五年以上の友人に。
私「なぁ? WEB投稿って、どれがいいんだよ?」
T「取りあえず、アルファポリスとかカクヨム、あとはなろうだな。
だけどPIXIVはやめとけ。あそこは魔境だ──」
Tが「魔境」と言うならばそうなんだろう、
私はカルビに箸を伸ばしつつ質問を続ける。
私「やっぱり、女性層向けは最近、悪役令嬢ものとか恋愛が重視されてるだろ?」
T「最近は、悪役令嬢か──ざまぁ系だな」
O「それか、よくある離脱系とか脱退系だよな」
私「ふーん。転生モノはどうなのさ? 古き良き小説ってまだあるんだろう?」
T「最近は下火だなぁ」
O「古き良き小説は、最近見ないな」
この会話中、三人はずっと肉を食べ続けていた。
そして私は、ふと思ったのだ。
――多分、これは尋ねても仕方のない事柄なのではないか、と。
そう──実際に投稿してみなければ、感触は一生わからないのだ。
私「うーん……よく分からないけど、とりあえず『なろう』で投稿してみるか」
T「そうそう。やってみてから分かることもあるしな」
O「いいんじゃないか? 気分転換にもなるだろ?」
私はその後も、友人たちがあーだこーだと語る、
何が面白かったか、続編はまだなのか──そんな古い漫画談義に、ひたすら耳を傾けていた。
(うーん……どういう小説にしようか)
ずっと、私は考えていた。
その後も、食後のアイスクリームを買いに行く段階になっても、私は考え続けていた。
そして、気づけば土休日に入っていた。
私の土休日の朝は早い。
時刻はまだ、朝六時だった。
その静かな朝に身を委ねながら、私はずっと考え続けていた。
そして、思いついた──
ファンタジー小説にしよう。
好きなジャンルだから、書きやすいだろうとそう考えた。
では、どんな内容にしようか──
そのとき、私はかつての“古の魔法少女”をイメージしていた。
小さな奇跡と人間関係。
成長劇、そして冒険譚──。
「そうだ──これでいこうか……?
でも、ひねりがないな」
「そうだ、転生モノにしよう。主人公を転生させよう。
でも、それでもやっぱりひねりがない」
「もっと、この世界の片隅に、居続けたくなるような作品にしたい」
────!!
「そうだ──私が、この世界の片隅に居続けたくなるような作品にしよう。
だったら、私が転生すればいいじゃないか?
好きなファンタジー小説の世界に居られるなんて、楽しいに決まってるじゃないか!」
「“古の魔法少女”、少女……!?
そうだ、私が少女になればいいのだ!
現代からファンタジーへの転生──私が少女に転生するんだ!!」
しかし、その一瞬で、私は迷った。
この少女に転生するとしたら──元の少女は、どうなるのだろう??
彼女は……死ぬのか?
彼女の存在の意味とは、一体……???
「そうだよ、一挙両得だ!
このプロットなら、彼女は死なない。
私は精神体として転生し、彼女の中に宿る──ってどうだろうか?」
「そうだ! 一つの体に二つの精神体──
これなら、一人で対話劇ができるぞ!」
しかし、これでは理由が希薄だった。
つまり、転生体が何故精神体なのかの理由。
「うーん……ファンタジー小説なら、神話大系のネタと絡めよう。
ギリシア神話から取ってきて、主人公に原罪を与えるんだ。
そうすれば、死後でもその原罪を拭う必要がある──」
「そうしたら、精神体が転生する理由付けになるんじゃないか?
この魂を管理したり斡旋するシステムが必要だ」
「そうだ、ギリシア神話にはカロンがいるじゃないか。
そうだ、この魂を管理・斡旋するシステムを企業化して、分かりやすくしよう!」
このとき、『こちらは神材派遣会社「ユル」でございます』のプロットが形となった。
そして、現代の主人公・夏枝重と、第二の主人公・ナーレが誕生したのだった!!
本作をお読みいただき、ありがとうございます。
この物語は、私自身の創作の迷走とひらめきのプロセスをそのまま描写することから始まりました。仕事を失い、日常のリズムが崩れた中で、友人との何気ない会話や焼肉のひとときが、物語の芽を育てました。
“古の魔法少女”や転生もの、ギリシア神話のカロン──そんなイメージの断片を拾い集め、主人公が思考を重ねる過程を追いながら、一つの世界を形作る楽しさを描きたかったのです。創作のアイデアは、一瞬のひらめきから生まれることもあれば、じっくり考え抜く時間の中で磨かれることもある──その両方を物語に込めました。
本作では、現実とファンタジーが交錯し、主人公の精神体転生という独特の設定を用いました。読者の皆さまにとっても、物語の中の小さな奇跡や冒険、成長の喜びが少しでも楽しんでいただければ幸いです。
最後に、日々の些細な会話や日常の中にこそ、創作の種が隠れていることを、改めて伝えられたら嬉しいと思います。
これから一話毎ずつ、今までをトレースしていきます。
それ故に現状63話を予定──いえ。
メインストーリーが終わるまで続きます。
それでは、最後までお付き合いください!!




