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空島暮らしの自由人  作者: はまよつ
第2章:美味しいパンが食べたい!
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6.対応完了

 それからのガグラウさんたちの動きは、とても早かった。

 いつも助けてくれる村々の人手と魔道具を最大限に使い、2日ほどで収穫を終わらせた。

 ノイくんの作った魔力結晶もふんだんに使って、もう残りはほとんどないくらいだけど、それがノイくんの本望だとは思う。

 それと同時に別の魔道具で麦の感想をして、村の高いところに保管をして、麦の収穫をすべて終えた。

 地肌が見えるようになった畑を小高い丘から眺めながら、ガグラウさんはやり切ったような様子で額を手で拭った。


「いや~、マヒリトさんの忠告のおかげで間に合ったな!」

「いえ、ぼくの忠告というよりかは、ノイくんの研究結果ですから」


 実は収穫を終えた翌日ごろから、遠くの空に分厚い濃い灰色の雲が見え始めてきたのだった。


「どうやら山向こうの国の町は、いま大変なことになっているみたいですからな」

「伝令は間に合って……最悪の事態は回避した……」


 ガグラウさんとジルさんが眉尻下げた。

 実は収穫をはじめてすぐくらいの頃、魔法特務機関の予測がガラッと変わり、かなりの大雨が降るという予測に変わっていた。

 山の向こうにある隣国の町には魔法特務機関の予測は届かないので、あわててぼくが空島を飛ばして伝えに行ったというわけだ。


 とはいえたった1、2日でできる対処というのは少なく、少なからずの被害は出てしまったようだけど、今のところ壊滅とかそう悲惨な情報は聞こえてこないから、ひとまず安堵だ。

 正直、ノイくんもここまで早いとは想定していなかったはず。

 こんなタイミングよく家庭訪問を指示してくれた魔法特務機関のトップさんたちには、お土産でも持っていこうかな。

 そんなことを思っていると、ガグラウさんが心配そうな表情で近づいてきて、頭を下げた。


「本当に世話になった。あとはこっちは耐えるだけだから、マヒリトさんはそろそろ帰ったほうがいい。雨が降り始めたら帰れなくなっちまう」

「いえ、ぼくは雨が止むまでいますよ」

「……へ?」


 きょとんとするガグラウさんと、首をかしげるぼく。


「あ、もしかして帰り道の心配をしてくれたんですかね! 大丈夫です、ぼくには空島があるので、帰ろうと思えば大雨だろうとなんとかなります」

「え? あ、ああ、なるほど……? いや、でも、マヒリトさんにとっては、とくに思い入れのない村だろ? 未曾有の大雨なんて危険な中いなくても……」


 心配そうな表情から一点して、どこか怪訝そうに見るガグラウさん。

 まあ、たしかに村長からしたら、なにか思惑がありそうと言われてもおかしくはないよね。

 でも、裏のある思惑はとくにないのだ。


「自分の大事な後輩が生まれ育った、大事な村ですから」


 きっとノイくんは、バルザンクスが大雨で被害を受けた、と言われたら、慌てふためいてしまうだろうし、研究にも手がつかないけど道が封鎖されて現地にもいけない、と途方に暮れてしまうだろう。

 そんな彼の安寧を保つためにも、自分ができることはやっておきたい。

 ……ノイくんがいなくなると、ぼくの積み重なった書類を片付けてくる人もいなくなっちゃうしね!!


「すまない、助かる」

「いえ、何か思惑があるというのは、あながち間違いではないですから」


 そうカラカラと笑っていると、陽に分厚い雲が重なった。

 辺りは一気に暗くなり、どこかどんよりとした雰囲気が一気に広がり、ガグラウさんの顔に緊張が走った。


「おれは村の排水の最終点検に行ってくる。マヒリトさんも、危なくなったら空島に避難してくれ」


 そう言い置いて、ガグラウさんはジルさんを連れて村の中心へ駆けて行った。

 元より空島に行くつもりだったぼくは、そのまま空島のアトリエに戻り、空島を浮遊させながら窓から村の様子を見ていた。

 本当は空島にみんなを避難させてあげたらよかったんだけど、この島を貸してくれている人との約束でそれはできないんだよね。


「…………んー?」


 そんなことを考えながら窓から村の様子を見ていたが、とあるところに引っかかって、空島の動きを止めた。

 遠くでは、ガグラウさんとジルさんが走り回って、川から水があふれたり、鉄砲水なんかを防いだりするための手立てを講じていた。

 ただ、それはあくまで人命を守るものであって、畑を守るものではない。

 それ自体に異論はない。

 でも、村長が代々受け継ぐ木の板には「土が消える」と書いてあった。

 おそらくこれは大雨によって地面が持っていかれ、地面の栄養分が消えてしまう、ということだと考えられる。


 実際、ノイくんのまとめた論文には、大雨後の数年はほとんど作物が育たなかったとある。

 たぶんガグラウさんは、村長として村民を守るための選択をしているのだろうけど、それはさておき、ぼくはこの村のパンをこれからも食べたい。

 大雨から数年して麦が採れるようになっても、最初は村の人たちの分でいっぱいいっぱいだろうし、土の栄養が変われば味も変わってしまうかもしれない。


「さすがに、ぼくのエゴかなぁ」


 そうぼやきはするものの、ふと脳裏にノイくんがパンを食べていた様子が思い浮かんだ。

 大事に大事に少しずつ食べて、そしてとっても嬉しそうに頬を緩める彼が見られなくなるのは、嫌だ。


「ま、いざとなったら、逃げればいいか」


 ぼくは浮上させていた空島を下ろすと、アトリエ中の機械部品をひっくり返し、とある魔道具を作り始めた。

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