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空島暮らしの自由人  作者: はまよつ
第2章:美味しいパンが食べたい!
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4.家族団欒

 三人が戸惑う中、ぼくはそのハヤブサの脇にあるスイッチを押す。

 ちなみにこれはノイくんの相棒のノイジュニアくんと違って、純正の魔道具。

 するとハヤブサは目と口を開き、その前方の空中に映像を映し出した。映っているのは、研究室で研究をしているノイくんだった。


「おーい、ノイくん~!」

『……ん? え、は?』


 実はバルザンクスに来る前、ノイくんに似たようなハヤブサ形の魔道具を渡して、研究室に置くように言っていた。

 彼は、ノイジュニアが嫉妬するから、みたいなことを言っていたけど、一応攻撃とか破壊とかはされずに済んだみたいで良かった。

 ノイくんは思い切り眉をひそめて、驚きを隠さずにこちらにやってくる。


『マヒリト先輩!? なんでいきなり映像なんか……』

「ぼく以外にもいるよ、ほら」

『うわあ! 母さんに父さんに、兄さんまで!』


 より驚くノイくんを置いて映像を三人に見せると、三人は液晶の中にノイくんが現れたことに最初こそ訝しんだ様子だったが、すぐにおそるおそる手を振り始めた。

 まあ、そうだよね。こういう映像魔道具って、まだ魔法特務機関とか王都の中枢くらいでしか浸透していないもんね。


「安心してください。これは呪いとかそういう類のものではなくて、魔法で遠くにいるノイくんとお話しできるようになってるだけですから」

「へえ! そんなことができるなんて、ノイの研究はすごいんだねぇ!」

「すごい……魔法……」

「おい、ノイ! 顔を見せてねえが、いまなにやってんだ?」

『あーもう、一気にしゃべらないで! あと、すごいのはそこにいるマヒリト先輩で、ぼくはまだまだ新人だから!』


 怪訝な表情の三人だったが、ノイと話ができるとわかると、途端に顔がゆるみ話が弾む。

 家庭訪問っていうくらいだから、本当はぼくからノイくんの様子を話さないといけないわけなんだけど、家に帰っていないノイくんの場合は、ぼくから話すより直接話しちゃえばいいんじゃないかな、って思ったわけ。


『だーかーらー、そっちの村って魔力が薄いだろ? だからそれでも魔法がたくさん使えるような研究をしてるの!』

「すごいわねぇ、ノイは」

「……うん」

「さすが、バルザンクスの期待の星だ! いつかは魔法を使う人の中のトップになるのも夢じゃないな!」

『ちょ、ちょっと! マヒリト先輩の前でそんなこと言うなよ、恥ずかしいんだから!』


 そんな光景を眺めながら、小一時間ほどノイくんたちは、久しぶりの会話を楽しんでいたのだった。

 ぼくはその間、追加で支給されたパンを美味しく食べ続けていた。



「それじゃあ、元気でね、ノイ」

『うん、わかったよ、母さん。父さんも兄さんも、怪我しないでね』

「おう、体だけは丈夫だからな!」

「わかった……頑張る……」


 そろそろハヤブサの中に溜めていた魔力が切れそうな頃合いで、家族団欒は終わりを迎えた。

 プツリとノイくんの画像が消えると、三人はどことなく寂しげな様子だったものの、それでも安心した様子も垣間見えた。


「マヒリトさん、ありがとうございます」


 シルヴィアさんが真っ先に頭を下げる。その目尻には涙が浮かんでいて、ガグラウさんが彼女を抱きしめながら、ハンカチで拭っていた。


「やっぱり、魔法……すごい」


 ジルさんはというと、興味深げにハヤブサをいろいろな方向から眺めていた。


「もし魔道具に興味があるなら、あげますよ。ぼくは魔道具の研究をしているので、こういうのはたくさんありますから」

「でも……おれ、頭悪いし、魔力も少ないから……」

「ぼくも魔力がないんで、お揃いですね」


 にこりと笑って、魔力が切れたハヤブサをジルさんの手に置くと、ジルさんはいままでの落ち着いた表情のまま目を輝かせた。


「はは! ジルはこういう機械とか機構が好きだからな!」

「……うん。ありがとう……」


 ガグラウさんが「良かったな!」と背中を叩き、ジルさんは何度もうなずいてはハヤブサを抱きしめる。

 ……そんな微笑ましい家族の雰囲気を壊すのは嫌だったけど、ちょっと話題にしないといけないことがあった。


「さて、これで家庭訪問自体は終わりなんですが、それとは別で一つ相談というのか、提案したいことがありまして」


 パン、と注目を集めるために手を合わせると、三人は小首をかしげてこちらに視線を向ける。

 ぼくはローブから一枚のモニターを取り出しながら、三人に問いかけた。


「唐突で申し訳ないんですが、このあたりの小麦っていつごろ収穫されますか?」


 三人は互いに見つめ合っていたが、やがてガグラウさんが口を開いた。


「バルザンクスの小麦なら……だいたい5日後にやる予定だな。このあたりは人が少ないから、このあたりの村民が協力して収穫するんだが、バルザンクスはいつも最後に収穫するんだ。この一帯が一番魔力が少ないからな」

「なるほど……」


 彼の話を聞きながら、モニターに視線を落とす。


「あの……それがどうかしたのでしょうか……?」


 シルヴィアさんが不安そうに問いかけてくるのを、どう返事しようか迷ったものの、ひとまずモニターを見せることにした。

 このモニターは、空島に設置している気象観測の魔道具と連携している。

 まだ他人に見せる段階じゃなかったから表示が乱雑で、三人はそれを見ても疑問しか浮かべなかった。


「えーと、とりあえずここを見てほしいんですけれども……」


 そう話しながら、ぼくはとある一点を指さした。


「これが、今日から10日ほどの天気の予報確率です。端的に言うと、4日後から強い雨がかなり長期間降り続く予測です。しかもかなり高い確率で」

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