19話 宮内兄妹との顔合わせ
その後も三好さんとの話し合いは続き、オークションについては一通り話し終える。
「じゃあ他の皆とも相談してから、改めて運営に案を送らせてもらうよ」
「……」
1年前。京都の時代背景が現代と異なっていることを、運営は俺らに教えなかった。
「まだなにかあるのかい?」
もっと警戒すべきだった。準備不足だったと言われりゃその通りなんだけどね。
「輪廻に時間の概念ってあるんすかね」
「ふむ」
ヒノキ山の世界。
「日本人の集団異世界転移ってのはさ、俺が勇者の護衛として生きた時代よりも、ずっと昔の出来事なんすよ。彼らの生活拠点が遺跡になるくらい」
「なるほど。この現代に置いて、それはもう起きた事なのか、今から起きる事なのか」
事故なのか、意図的なものなのか。
「チート能力をもらえるなら別ですが、平和に慣れた今の日本人が転移させられたところで、危機的状況の異世界を救えるんでしょうか?」
「でも例外はあるね」
戦い慣れているプレイヤー。
「非戦闘員である俺からすれば、やっぱあれなんよ。属性デバフが幻の苦痛でも、それに耐えて戦える君らは、平和を生きる一般的な日本人とは違うんじゃねえかな」
空間の歪みで顔が見えないとは言え。
「人間タイプの敵はHPが0となれば生身になりますし、そうなった相手を俺らは普通に殺してます」
メイスで叩き潰す感触も、脇差で斬る経験も重ねている。
「しかしそうか。集団異世界転移が、これから起きる可能性ねぇ」
「でもプレイヤーが対象だって言うなら、規模的に大分先の話っすよ」
AIからの情報なんで違いはあるかもだけど、遺伝関係で問題がなくなるには、500人を集める必要がある。
「彼らの子孫である勇者の村ってのは、大きい国に1つって感じだったから、数か所あるわけです。まあどれも推測でしかないんですが」
ただプレイヤーって線からいくと、俺らの能力は遺伝とはあんま関係がない。どっちかっていうと前世からくるもんだ。
「集団異世界転移ってのも、勇者の村が日本人の子孫ってのも君の予想だ。でも辻褄は合ってる以上、こちらとしても無視はできんね」
日本語が使われている魔法陣。ヒノキという名称の山。覚えちゃいないけど、日本語が使われた町や都市なんかは他にもあった気がする。
「少なくとも、俺らはなんとなく魔法陣についての知識も得てるか」
「異世界人だったイザクさんは、なぜか帝釈天や阿修羅について発言してましたし」
もともとはインド神話のインドラとアスラ王だっけ。
「この件については、天使さんといっしょに聞くべきだな。俺だけだとちょっと不安だから、兄に協力してもらうよ」
「連中って制限多いらしいし、これまでの内容から察すると、人間に干渉しすぎるのって禁忌に触れんじゃねえかな」
大量の日本人を異世界に転移させる。
「そんなことは起こらないってキッパリ言われるより、事故としてなら可能性は否定できないって返答の方が、まだ信用に置けるかと思います」
「わかった。そこら辺を踏まえて、一度兄に相談してみるね」
俺は思わず苦笑いを浮かべ。
「この会話も聞かれてるかも知れん」
「だね」
三好さんはしばらく俺を見つめたのち。
「さっきの話だけどさ。思わず口を滑らせちまったもんで、本当は秘密にするつもりだった」
「俺が高校をやめるってやつですか?」
まあ、そうだよな。
「雫さんが迷人になった原因の1つでしょうね」
姉や彰吾先輩からも、そういった話はなかった。
「選択するってのは生きる上で避けられない。以前の君がしたそれも、決して間違いだったわけじゃない」
反対される職業なんて世の中には沢山あるもんな。音楽や芸術とか、夜のお仕事とか。
彰吾先輩だって、親と揉めているようだし。
「なんとなく予想するに、俺が高校辞めるうんぬんってのはトリガーっすね」
京都での脱出もままならない状況で、そんなこと言いだしたんじゃパニックも起こすよな。
「色んな物事が重なって、迷人になっちまったんじゃないかと」
神崎さんもそんな感じだったか。
「ポジティブに考えませんとね。俺が今も高校生活を続けていて、進学も考えてるっていうなら、少なくとも彼女の悩みは1つ無くなってる」
「そう……なんかな」
三好さんが言わんとしている事もわかる。
「そうなんすよ」
なにはともあれ、今の最優先事項は雫さんの救出だ。
・・
・・
撮影した発射台の写真を見比べた結果。
水の領域《空中の敵(俺ら)にも反応する》
冷線《追尾》
これら機能を追加したのは雫さんなのか、それとも彼女の前世とされる勇者の護衛なのか。
または運営が介入して、救出作戦の難度を意図的に上げてんのか。
年末を控えたある日。俺らは京都駅に出向いていた。
ヒノキ山の拠点にて、前世の記憶から情報を得たって話をしたところ、宮内兄妹が予定よりも早く来ることになった。
美玖ちゃん勇者だったしね。
そんなこんなで待ち合わせ場所は、中央改札口前にある広場。
「吟次君、大丈夫?」
「へい」
人込み苦手だけど、ここは男を見せねば。
「京都駅って、大階段が有名なんでしたっけ」
待ち合わせ場所って検索したら、真っ先にでてきた。
「でもあそこ少し離れてるんだよね」
「なるほど」
姉ちゃんは自分の服装を気にしながら。
「ねえ彰吾、変じゃない?」
「大丈夫だって、可愛いよ」
俺より緊張してる人がいますので、なんとか冷静は保てております。
「たしか一度会ってるよな」
文化祭で声をかけたんだったか。
「ええ。でもこんなことになるなんて想像もしてなかったのよ」
「詩ちゃんだって負けてないってば」
先輩。それはちょっと悪手じゃないっすかね。
「あのね彰吾、そういうのは相手を選んで言わなきゃダメよ。イケメン俳優より、あなたの方が格好良いって言われてどう思う?」
「いや、僕は会ったことないしさ。でも宮内くんは知ってる」
「残念ながら姉は俺の身内っすよ。あの一族には、どう足掻いても見た目じゃ勝てませんな」
あっ ごめんなさいお姉さま、睨まないでください。
「でも詩ちゃんモテるじゃん」
「……同性にはね」
そうなんだよな。別に王子さま系でもないんだけど、何人かに姉ちゃんのファンだって話はされたことがある。
俺よりチョコもらってくるもんだから、バレンタインが嫌いになりました。
「文化祭で戦った前世はなんだったんすか」
当時は大鳥居パワーで弱体化してたわけだけど、美玖ちゃんって強い前世多いし。
「そうねえ。思い返すと、一点突破や無断みたいなスキル使ってたわ」
「得物は短槍と短剣だったね。変色はしてなかったけど、回復妨害のデバフはあったから、黒刃もまとわせてたんじゃないかな」
美玖ちゃんの場合は〖血刃〗で、色に変化はない。ここら辺も覚醒技と再現スキルの違いかもな。
「だとすりゃ光の騎士団が存在した世界っすね」
宮内のシャレにならない前世とも関りありか。
「高橋さんもそうなんでしょ?」
「恐らく」
別の世界にも光属性の魔法やスキルはあるだろうけど、なんとなく同系列な気がする。
ちなみに彼は今日も活動しております。ガチ勢の凄さってのを痛感してますわ。
「雪の脇差から考えるに、雫さんもか」
「僕らも過去世で繋がりとかあったのかな」
「そう考えると、ちょっとロマンティックね」
名称からして。
「なんか光の騎士団と敵対してたりして」
「私も光属性使えるけど。あと墓守だからね、アンタが想像してるのとは違います」
いや、どう見てもネクロマンサーじゃん。
そんなやり取りをしていると、見知った2人を確認する。
「なんか……凄い目立ってる」
スマホで撮影してる人もいるわ。芸能人と勘違いしてるのかな。
「ほらほら、詩ちゃん自信持ちな」
姉のお洋服も似合ってますよ。例の如く、俺の知識じゃ文章化もできませんが。
「お化粧だってバッチリじゃないっすか」
「うるさい」
手を振って合図を送れば、こちらに気づいたようで歩み寄ってきた。
「2人とも悪いね、早めに来てもらっちゃって」
「いや、気にしないでくれ。こっちで決めたことだからな」
宮内は一般的な冬服だけど、なんで彼が着るとこうも違うのだろうか。
「始めまして、松永彰吾です。お爺さんお婆さんに謝ってたと伝えてください」
「宮内輝樹です。こちらこそ、わざわざお出迎え感謝します」
「うら……浦部詩です、よろしくね」
声がひっくり返ってしまったお姉ちゃん。
兄の後ろに隠れていた美玖ちゃんが、深呼吸をしてから一歩前にでて。
「あの!」
なんか俺とのデートより、オシャレに気合が入ってますね。たいへん可愛らしいけど、その表情からは緊張がありありと伝わってくる。
「ぶっ、文化祭のときは助けてくれて、本当にありがとうございます!」
「先に自己紹介な」
荷物はすでにホテルへ届いているので、2人とも軽装だ。
「うぅ、美玖です」
深いお辞儀をしてくれた。姉はぎこちない笑顔で。
「そんな緊張しなくても大丈夫だからね、ほらリラックスしてちょうだい」
「あっ、はい」
姉の緊張も負けてないけどさ。
そんな様子に彰吾先輩は苦笑いを浮かべて。
「じゃあお昼でも食べに行こっか」
「地下街っすね」
「そのあとは京都タワーの予定よ」
ちょくせつ繋がってるらしく、雨の日とかも濡れずに行けるんだってさ。
駅前の広場から地下街へと降りる。
・・
・・
土産物売り場を横目に眺めながら、姉は普段より優し気な口調で。
「輝樹くんと美玖ちゃん、なにか食べたいものはある?」
「どうする」
「お、お任せします」
ふむ。
「和食が良いかな」
「せっかくの京都だし、俺もそっち系が気になりますね」
「私も精進料理とか、すこし興味あります」
「そっ そうね。じゃあちょっと探してみましょうか」
姉がスマホで調べてくれるようだ。
「精進料理か。俺って環境が変わるとお通じが悪くなるんだけど、なぜか京都だけは例外なんすよね」
たしか修学旅行で行ったときも、そういうの食べさせてもらってたかも知れん。
「ちょっとアンタ!」
「ごめん姉ちゃん」
肩を叩かれてしまった。
「吟次君、去年も同じこと言ってたよ」
「そうなんすか」
「浦部と皆さんは、俺より以前から活動してたんでしたね」
男3人でなんとか和やかな空気をつくっていく。
・・
・・
精進料理かは分からないけど、和食専門はいくつかあるようなので、タワー方面にある店へ向かうことになった。
店員さんに案内されて着席する。
「好きなの選んで良いからね。今日は奢らせてもらうからさ」
「そんな、申し訳ないです」
「いいのいいの、先輩風ふかせたいのよ。私と彰吾で出すってしましょう」
宮内は美玖ちゃんにうなずきを返し。
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます」
2人に軽く頭をさげれば、美玖ちゃんもそれを見て。
「ありがとうございます」
「じゃあ遠慮なく」
4000円近くするのを指さし。
「俺これにします」
○○御膳ってやつだ。
「君にしては珍しく遠慮ないね」
「吟ちゃんのを出すとは言ってないけど」
「考え直します」
美玖ちゃんは何時もより控えめに笑いながら。
「仲良いんですね」
「聞いてた話と少し違うな」
「あんた普段、私のことどう言ってんのよ」
「姉が怖くて逆らえないとか喋ってません」
これで場の空気も解れただろうか。
「まあでも、一昔前じゃこういう事も言えんかったかな」
記憶にある姉ちゃんより、今は雰囲気が丸くなってるのは確かだ。
「君が忘れてても、ちゃんと繋がりは残ってるんだよ。僕だけじゃなくて詩ちゃんともね」
宮内はうなずくと。
「そうですね。俺もこの1年で、皆とはだいぶ関係が深まったからな」
「はい。楽しい想いでを沢山つくれました」
先輩や姉ちゃんは雫さんのことを覚えてる。
「お母さんから話を聞いてる。色々とありがとうね」
美玖ちゃんは俺を一瞬見たあと、気まずそうに視線をさげ。
「自分のためでもありますので」
それでも再び顔を上げると、姉と先輩を交互に見て。
「だけどお姉さんや彰吾先輩とも仲良くなりたいです、もし可能なら雫先輩とも」
俺がいうのもあれだけど、彼女が緊張してるのはそこら辺が理由なんだろう。
「そっか。うん、よろしくね美玖ちゃん」
「こちらこそ」
スマホの連絡先を交換し合う。
「俺もお願いしていいですか?」
「よろこんで」
「輝樹君も弟が本当に世話になってるようで、テストとか」
「それに関しては本当にありがとう。助かっております」
ご飯の注文を終えると、美玖ちゃんは瞳を輝かせ。
「もし問題なければ、お二人が付き合った経緯とか聞いても良いですか?」
「ごめんなさいね。これが居る所じゃちょっと嫌なの」
まあそうだよな。
「はい。私も兄ちゃんいる場面では同じだと思います」
「確かに気まずいか」
俺もあんまり聞きたくないな。
・・
・・
食事を終えると、タワーに向けて移動を再開する。俺の分も出してもらえたよ。
隣を歩いていた姉ちゃんが、小さな声で。
「良い子ね」
「ええ、本当に」
彰吾先輩から、1年前の話を聞いている美玖ちゃんを見つめ。
「男を見る目だけが心配よ、変なのに引っかかっちゃって」
「ええ、本当に」
ため息をつかれてしまった。
「そこで言い返さなきゃダメでしょ」
「っすね」
苦笑いを浮かべていると、脇を肘で突かれ。
「あとアンタね、まだ言ってないでしょ」
「ん?」
姉からのお叱りを頂く。
・・
・・
年明けの前後には神崎さんや巻島さん、ケンちゃんたちも合流する予定だ。
本格的な観光は作戦が終わってから。
展望台からの景色を眺めていると。
「すっごく緊張しました」
「お疲れさま」
横顔を見つめられ。
「浦部さん、緊張をほぐしてくれたんですよね?」
「慣れないことをしました」
俺が見つめ返すと、美玖ちゃんは視線を景色に移す。
「雫先輩とも、仲良くできるかな」
「うーん、俺からはなんとも」
残念ながら記憶がありませんので。
「そこは嘘でも励ましてくださいよ」
「もし勇者と水の護衛だったんなら、たぶん仲良かったんじゃねえかな」
青い雨《雫(召喚)が範囲内にいると性能強化》
「そっか」
ああ、そうだ。
姉ちゃんに言われてたことを伝えないと。
「今日すっごい可愛いっすね。よく似合ってますよ」
こちらに一歩近づいて、肩と肩が触れ合った。
「はい、張り切っちゃいました」
照れてしまったので、ヒノキ山があると思われる方角をじっと見つめる。
「雫さんと、観光したいな」
「っすね」
この1年。ガチ勢と呼べるほどには活動できなかった。
「頑張りましょうね」
「へい」
だけどできる限りの強化はしてこれたはず。きっと上手く行くはずだ。




