17話 発射台
麓の拠点にある入浴施設。そこの鏡は澄んだ状態だった。
「ここから現世にもどってもあれなんすよね」
「怒られるのは嫌でしょ?」
まだ全面封鎖とはなっていないが、ここは重要地点だ。
救出成功後に消えてしまう可能性はあっても、鏡の祭壇があるわけだしさ。
「ちなみに銭湯なんだよね、現世のここってさ。実際の位置関係にズレはあるかもだけど」
今は入場制限されております。
「そういう繋がりってちゃんとあるんすね。時代背景どころか異世界の山なんすけど」
緊急時でないなら、この祭壇は使わないよう言われてます。三好の関係者だって伝えれば問題もないんだけど。
「京都タワーの近くに五重の塔あるけど、たぶん関係あるんじゃないかな」
「東寺ね」
そんな話をしていると、高橋さんが青銅鏡に触れていると気づく。
「登録しちゃだめっすよ」
「違う違う、買い物です」
ショップ画面も開けるんだね。鏡社や大鳥居のもその機能はあるし。
「うん、失敗」
高橋さんは天使の大盾と短槍を取り出していた。
「あら残念」
「これで何度目だっけ」
「う……ん、8?」
現状で買える召喚だと、〖人造天使〗が一番優秀だと言われているぶん、〖猿〗より値段は少し高い。それに失敗するとかさ張る装備だからな。
売る機能も追加されたんでいくらかポイントも戻って来る。買った物は敵を倒してゲットしたのより安くなるけど。
「彰吾は森中で〖木〗を切れば、お金をもらえるのよね。だったら商人系の前世だと、割引や売値の増額とかあったりして」
商売か。アイテムボックスにオークション専用の枠をつくって、何割かを協会にもらえる仕組みに出来ないかな。
今度、三好さんに相談してみるか。
「でも御三方、映世ポイントたくさん貯めてますよね?」
以前。姉のを見させてもらったけど、かなりの額だった。
「けっこう消費しちゃったけど、まだそれなりに残ってるかな」
「活動だけじゃなくて、最近は私生活にも回しちゃってるから、ちょっとあれなのよ」
両親に映世を説明した時点で、姉は家賃や光熱費、そんで食費を断ったらしい。
「高橋さんって、確かご両親に仕送りすると強化されるんでしたっけ?」
「うんそう。〖父と母へ〗」
・パッシブ。
・杖または槍が地面に接触しているあいだ、HPMP秒間回復(大)。
・精神安定。
・身体強化(中)
両親にお金を渡す。または慈善団体に寄付をする。
・毎月7万を1年ごとで徐々に強化。
・毎月3万だと強化はされないが、効果は継続。
・現在1年目。
・変身時に身体強化(中)。
・変身時の総HPMP増加(小)。
・変身時間(+5秒)
・変身終了後の疲労軽減(小)
・シーズン毎にリセットされます。
「天使さん募金にも振り込んでるんでしょ」
「あの新興宗教、本当にふざけてます。うん嫌い」
☆《渡す相手が両親だと素早さ関係強化(大)・募金と両親両方に10万を渡すと身体強化(極大)》
☆《天使さんといっしょに募金すると、変身時に防護膜(金額に比例)が追加される・ニートを社会復帰させた人数に応じて身体強化(小)》
☆《両親にお金を渡していると精神安定が心頭滅却に変化・ブラックな職場時代を思い出したときは精神保護が発動》
☆《実家の光熱費を支払うと、変身時の身体強化(極大)・HPMP秒間回復(極大)》
これらはシーズン毎にリセットされます。
「毎月20万っすか」
「光熱費も込みだとそれ以上だね」
「しかもシーズン毎にリセットされます。うん理不尽」
「でも高橋さん、こんなのなくても仕送りはしたんじゃないの?」
ふんっとそっぽを向き。
「まあ、迷惑をかけましたので。それにニートの時だって、自分の貯金からお金は出してましたよ」
ブラック勤めてる人の動画見たことあるけど、高橋さんのいた会社はまだマシな方だったりする。
残業代がでるのは30時間、もしくは20時間までって人もいた。
あんだけ働かせてるのに、あの給料は酷すぎるよ。
でもね。調べてみたら、徴兵された旧日本兵の御給金も、そんな高くなかった。
手当はあったらしいけど、やるせない気持ちになりますな。
その後は発信機が機能しているかの確認。
あとトランシーバーでやり取りをしたんだけど、発射台に描かれている魔法陣を撮影してくれと頼まれたらしい。
前回と今回に違いはないか確かめたいんだってさ。
発射台には行きたかったので、もとからお願いするつもりだったからちょうど良い。
俺が何らかの記憶を思い出す可能性もあるんでね。
・・
・・
発射台を言葉にして表すなら、数十人を一度に乗せれるサイズの木製机。
冒険者風の連中は二階部分より、俺たちに攻撃する隙を狙っている。
地上には護衛と思われる兵士たち。今は〖天使〗〖スケルトン二体〗との乱戦中だった。
3対10ということもあり、不利はこちらか。
「〖巻き取り〗ますっ!」
「僕も合わせるよ」
〖鎧の鎖〗と〖各色の鎖〗。
敵と繋がっていた7つの滑車が、稼働音と共に鎖を巻き取る。
「削れ」
〖滑車〗の前で待ち構えていた彰吾先輩が、〖回転刃の丸盾〗で氷片を飛び散らす。
「〖闇の沼っ!〗」
肉切り包丁を購入するとき、確率で〖スキル玉〗になる。
「地面に突き立てる動作が不要になるのは良いっすね」
「でも〔改〕じゃないから、偽りの怪物は出現しないよ」
俺はメイスを掲げ。
「動作阻害を重ねます!」
〖土紋・地光撃〗を発動。
「ほい、これもどうぞ」
〔墓守のスコップ〕で地面を抉り、土をかけて《耐性を低下》させた。
〖泥〗も合わさり追加で動作阻害。
「さて、こんなもんね。みんな行ってちょうだい」
姉が〖闇明〗から〖ゾンビ〗を召喚して、次々に抱きつかせていく。
《闇耐性の低下》と《爆発時の威力強化》。
高橋さんは両手を合わせながら。
「もうすぐ完成します。光十紋時」
時空の紋章だけど、俺と高橋さんは光の騎士だったからか、他の人と形状が異なっている。
前世スキルかどうかの違いなのかな。同じ属性でも、世界によって紋章も変化すんのかね。
「輝くローブも準備できました」
☆《ローブの光が近くの味方にも広がり、光スキルの性能を強化(大)》
☆《味方にも影響が及ぶ場合は、その効果範囲増加(大)》
姉が〖謝罪〗と共に近場の敵ごとゾンビを爆発させれば、スコップが大鎌のエフェクトに包まれた。
「さっきは順番を間違えたのよね。〖闇に紛れる〗」
一瞬だけ姿を消したが、大鎌を振るうと同時に出現。
〖白い線の入った黒い鎌〗が、引き寄せられた全ての敵を通り抜ければ、少しの時間差で〖ゾンビ〗が爆発する。
「そうだよな。大鎌を出現させてから、〖闇に紛れる〗を使わんと」
俺も姿を消し、闇耐性の低下している兵士に闇属性ダメを喰らわせる。
発射台の二階部分から列をなした明火団が、〔杖〕をこちらへと向けていた。
「高橋さん!」
「槍翼ですね。うん承知」
姉が〖岩の壁〗を出現させれば、その表面に張られた〖障壁〗を〖槍翼〗が強化した。
一斉に放たれた【冷線】。肌が気温の低下を感じ取る。
「岩壁の後ろに〖光壁と十字〗を重ねて!」
「それは俺がする」
〖光の壁〗と〖光十字〗は俺もセットしてますので。
「姉ちゃん、〖天使〗を明火団に当ててくれ、高橋さんも上空から援護を頼んます」
戦闘中に指示者が2名になるのは、あんまよろしくないけれど。
「わかった。高橋さん行って!」
「うん〖飛行〗」
鎖による巻き取りを免れた兵士が、こちらへと走り出していた。
「僕が喰い止める」
〔一点突破の細剣(火)〕で駆け抜ければ、兵士の【盾】で受け止められたが、〖熱波〗により背後の数体を巻き込んで吹き飛ばす。
「一助さんと二助さんをそっちに回す。〖みんな頑張ってちょうだい!〗」
「ありがとう」
会話で《前世以外の召喚も強化》されているので、天使もなんとか戦えてる。
明火は裏方ってことだし、戦闘はそんな得意じゃないのかも知れん。
地上の敵を片付けると、俺も〖光壁〗を足場にして二階を目指す。
・・
・・
青い人型は氷スキルを使ってくる。でも動きが単調なため、そこまで強いとは感じない。
「先ほどの明火団にも、目立って強い個体は居ませんでしたよ。うん標準」
「そっすか」
発射台に明火長はいない。
「だとすれば、刻亀戦の休憩所にいるのかな」
隧道は途中で切れており、4方が崖に囲まれてる空洞になっている。上を眺めると天井がなくて、木の枝に囲まれた雪雲が広がってるらしい。
ここが刻亀との最前線で、他のメンツが戦ってるあいだ休憩してた。そこから3つの隧道があり、雪原に続いている。
「待機所で魔法陣を描いてもらってた気もするか」
「なんか曖昧ね。まあ前世の記憶っていうんじゃ、それも仕方ないわ」
魔獣王も3体じゃなくて、4体だったかな。
空の王。雷属性。天龍。
時の王。水属性。刻亀。
森の王。土属性。主鹿。
あとなんだっけ。
風か。
いるかどうか分からない。幻の王。
夢鳥。
「変化か」
背筋がぞくりとして、思わず辺りを見渡す。
「どうしました。うん挙動不審」
「いや。魔獣王って、もしかしたら4体だったかも」
「美玖ちゃんにも、近いうちに確認してもらいましょう」
まあ異世界の話しだから、そこまで気にしなくても良いか。
せっかくなので魔法陣の確認をさせてもらう。
二階だけでなく、発射台の下。地面にも魔法陣は描かれているようだ。
その中央には紋章が描かれているけど、これは水を現してんのだろうか。
姉が一方を指さし。
「あれはなにか解る?」
雪が積まれており、それを囲う輪っか。
「索敵スキルを強化する魔法具っすね」
魔法陣の力が書き込まれた《道具》。
「もともとは土が盛られてて、辺りの地形を再現してたんすよ」
近づいてみれば、積まれた雪がヒノキ山の全体像になっていると気づく。敵が赤い点で表示されるんだったか。
「今は土の領域じゃなくて、水の領域になっているのね」
地面に描かれた魔法陣は、【領域】と【冷線】を連動させるためにあるようだ。
「こっちから二階に上れるよ」
彰吾先輩に言われた方を見ると、梯子じゃなくて階段が設置されていた。
「どれどれ」
地上のより魔法陣は大きくて、十数名が一度に入れるサイズ。中央の紋章も先ほどより複雑な形状だけど、なんとなく水属性だと伝わる。
紋章にもランクみたいなのがあったのかな。
《距離による威力の低下を軽減》
《飛距離増加》
遠距離攻撃に必要な効果が込められているようだけど、《炎放射を凝縮させる》ってのはなかったので、連中が使ってた〔杖〕に《冷線》が書き込まれてたのかな。
写真を撮影していると。
「あと数分で敵が再出現するから、そろそろ離れましょう」
「へい」
浴場に向けて、俺たちは移動を再開させる。




