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そこに居たはずの誰かへ  作者: 作者でしゅ
最終章 君たちが戦うくらいなら、この寿命尽きるまで共に眠ろう
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16話 虚無僧

 空から降ってくる【青い光】の束を凌ぎながら、戦闘を繰り返すこと3度。やっとこさ俺たちは麓の拠点に到着した。

 ていうかなんつう飛距離だ。


「さっさと入っちゃいましょう。拠点内なら遠距離攻撃もいったん止むのよ」


「発射台をそのままにして山道に入ると、また始まっちゃうんだ」


 救出作戦当日は、まず【青い光線】をどうにかしなきゃいけないってこんか。



 拠点の近場は木々が伐採されてる。日本の山城とかも、当時は禿げあがってたんだよな。

 本来は麓じゃなくて、山頂とかにそういうのを建てるもんだけど、ここが造られた目的は刻亀を倒す前線基地。


 人が乗れるスペースのある木製の壁。沢が自然の堀となっており、可動式の橋が架かっていた。

 降下扉も上がった状態なのは助かる。


「あ、今日はお坊さんいるみたいだね」


「へえ あれが噂の」


 雫さんの暴走により、京都の敵は封印されているんだけど、そいつは実体を失いながらも橋の隅に座っていた。


「お布施をしましょう。うん小銭」


 事前に聞かされていたこともあり、俺もベルトの収納からお金を取り出す。値段での変化はないとのこと。


 天蓋っつう深編笠。旅をしていることもあり、袈裟も大分汚れている。


「よろしくお願いします」


 亀裂の入った茶碗に皆が小銭を入れると、手を合わせて合唱礼拝。

 虚無僧はお経の代わりに尺八を演奏してくれた。


「装備性能強化か」


「長時間もつから、かなり助かるのよ」


「うん、感謝」


 性能も(大)ってところかな。


 上手い下手を聞き分ける耳は持ってないけど、丁寧な演奏をしてくれていることは伝わる。


「ありがとうございました」


 終えてもこれと言った反応はなく。俺らはお辞儀をしてその場を後にした。


「握り飯とかの方が、喜んでくれるんじゃね」


「試したことはないけど、それでも演奏してくれるかな?」


「曲が変化して、効果も身体強化とかになったりしてね」


 去り際に振り返ってみた。彼はこちらを向くこともなく、脇に置いていた錫杖を手に立ち上がり、ゆっくりと森の中へ消えていく。


「迷い人が敵じゃなくて、サポートNPCなんか」


 前例はない。


「もし敵として出現したら、間違いなくヤバイ相手っすよね」


「うん、強者の雰囲気」


「まあ暴走とはいえ、異世界の山を再現している雫ちゃんも大概だし、そういう前世持ちも京都じゃ少なくないかも」


 宮内のシャレにならない前世って例もある。


 迷い人が肉体的に死んだら、京都に送られるってのが俺の予想だ。もしゲームなら、ここはクリア後のやり込みエリアって感じだと思う。


・・

・・


 まず、俺たちは麓の拠点にある脱出地点を目指す。その後、発射台に行くかどうかを決める予定だ。


「浴場っすか」


 風呂場に鏡ってのは、確かにありそう。


「最前線の砦にそういう施設って、なんか変な気もするんだけどね」


「ローマの公衆浴場とか有名だよね。でもここは急場って感じがするかな」


 雪に覆われているから分かりにくいけど、道中も開拓されたばかりで切株とか目立つし。


「現代にはない要素があるから、お風呂ってのも難度は違うかも。うん魔法」


 姉は周囲の建物を見渡しながら。


「やっぱヒノキ山って名称の時点で、日本を感じるのよね」


 周囲の木々が(ひのき)ってわけじゃない。

 もし日本でいうなら、西洋の文化が入ってきた明治や大正。


 俺は排水路を指さして。


「ちょくせつ沢に流してるみたいだけど、湯を沸かすだけじゃなくて、こういったのを用意できる技術もあるわけだ」


「戦地にお風呂か。気晴らしにはなるよね」


「うん、娯楽」


 拠点の中では、敵の出現率も低くなるらしい。


・・

・・


 入浴施設のセーフゾーンだけど、浴場前の脱衣所に鏡の祭壇が設置されていた。


「休憩にしましょう」


 高橋さんに《黄の鎖》を放つ。


「どうぞっす」


「うん感謝。けっこう疲れました」


「変身するからでしょ」


 彰吾先輩はその場に座り込み。


「靴脱いじゃっていいかな。もう蒸れちゃってさ」


 活動するに当たって、三好さんに雪道専用のやつを用意してもらっている。


「映世って温度調節されてるから、こんな雪中でも現世ほど寒くないっすもんね」


 高橋さんはさっそくアイテムボックスの報酬を確認しているようだ。


「氷兵士召喚のスキル玉はないです。うん、残念」


「青い人型って武器もスキルも統一されてないし、もともと用意されてないんじゃないっすか」


「治さん、本当に召喚好きだよね」


 彼は少し沈黙してから。


「人手が増えるのは助かりますので。私はいつも分身の術が使えるようになりたいって思ってました」


 ブラックな職場時代か。


「俺なら分身できりゃ、かわりに学校行ってもらうとか考えちまうな」


「あっ その手がありましたか」


 サボるためじゃなくて、人材を補充するため。

 自分でゲットしたスキル玉は独占したいとかさ、彼って自分勝手な印象を持たれやすいけど。


「なんやかんやで、高橋さん責任感強いっすよね」


「10年かあ」


「正確には9年と3カ月ですが……辞める勇気がなかっただけです。うん、恐怖」


 月に残業150時間以上してるのに、お金は60時間までしか出さない。そんな環境で10年なんて俺には無理だ。


「高橋さん、将来的にはソロの予定なんでしょ?」


「もう組織は懲りごりです」


 精神を病んで動けなくなるまで、働き続けちまったんだもんな。


「できれば携帯だけは持って欲しいんだけど」


「嫌です。着信怖い」


 企業に焼かれた脳も、金さえあればか。


「お次の方、どうぞ」


「じゃあ私で良い?」


 高橋さんの報酬確認が終われば、姉ちゃんがアイテムボックスの前に立つ。


「やったわ」


 この1年はビー玉に集中してただけあり、更新するほどの効果がでる機会は少ないはず。


「憎きランダム合成に消されたビー玉がもどってきた」


 ☆会話《前世スキル以外の召喚にも、応援の効果が反映される》


「《他者の召喚スキルにも応援が反映される》と合わせる予定よ」


 巻島さんとペアを組めば真価を発揮しそうだけど、やっぱ連係を考えると悩むよな。


「本当に召喚特化の前世スキルですね。うんズルい」


 高橋さんが羨ましそうに指を咥えていた。



 姉ちゃんの確認が終わったようだ。


「先輩どぞっす」


「申し訳ない。じゃあ遠慮なく」


 俺は室内を見渡して。


「ちっと、建物の見学を」


 なんか思い出せそうな気がするんだ。


「セーフゾーンから出ちゃダメよ」


「へい」


 大きい浴槽に湯は張られておらず。排水溝などはちゃんとあるが、蛇口とかは確認できないので、魔法で水を溜めていたようだ。裏手に釜戸とかあったりすんのかな。

 それとも火魔法をちょくせつ当てるんだろうか。


 脱衣所には籠が重なって積まれており、棚には番号の書かれた入浴用の下着が畳まれている。


「……あっ」


 俺はベルトの収納からメモ帳を取り出す。


「なんか情報得たの?」


「冒険者風の人型もいるじゃないっすか。そいつらはバラバラの徒党じゃなくて、1つの大きな徒党なんすよ」


 ほかの属性もいるけど、炎使いが多い。


「火炎団って連中が協力してくれてたんです」


 ・少数精鋭の赤火団。

 ・戦力の中核だった朱火団。

 ・裏方の明火団。


「朱火長ってお偉いさんと、偶然ここで初対面しました」


 なんか思い出すのが怖くなった。


「火炎団の団長は……ハゲ頭を気にしてたか。刻亀討伐が終わったあと、彼らはそのまま傭兵団になって、魔族との戦争に協力してくれた」


 俺は赤火に所属したんだったか。


「明火長が魔法陣の使い手でして、その人から日本語を学んでる部下も多かった」


「発射台はその明火団が受け持ってたってことかな」


「もし幹部が敵として出てきたらあれですね。うん強敵」


「大堀君と細川君も出てくる可能性があるんでしょ?」


 メモ帳への記入を終える。


「刻亀討伐の時点であれば、ボルガよりイザクさんの方が厄介です」


「ただ雫さんの前世は、成長した大堀くんのことも知っている可能性は高いよね」


 確証はないけど、水の護衛だって予想はすでに伝えている。


「美玖ちゃんもヒノキ山の世界で勇者だったから、もしかすっとここまで連れてくれば、なんか思い出すかも知れねえっす」


「そうね」


 あっ そうだ。


「明火長以外の幹部は、俺らと一緒に刻亀と戦ったんすよ」


 赤火長。

 朱火長。

 団長。

 そんで勇者一行の4人。


 作戦は朝から始まって夕方まで掛った。長期戦をぶっ続けでってのは無理だから、メンツを交換しながら挑んだわけだ。


「つまり彼らが出現するとすれば、雫ちゃんがいる位置ってことね」


 山の中腹。隧道を抜けた先にひらけた雪原があり、そこに刻亀がいた。


「当日ですけど、発射台は絶対にこっちで抑えないとダメです。移動時だけじゃなくて、俺らが彼女と戦ってる最中も」


 そこを守る兵士や明火団を倒しても、一定周期で再出現することが確認されている。

 建物を壊そうと復元されちまうんだったかな。


「ギリギリ届いちゃうんすよ、発射台からの攻撃」


「雫ちゃんのいる位置まで?」


 雪原は崖で途切れており、下方に沢が流れている。


「吟次くんを下見に連れてきた甲斐があったね」


「うん、情報大切」


 氷の牢獄。

 狂暴化した魔物が刻亀との戦いに乱入しないよう、精鋭の赤火団を中心に雪原を囲っていた。


「戦力をどう振り分けるべきかな」


「雫ちゃんが刻亀並みに強かったりしたら、ちょっと困るんじゃない?」


「刻亀は3体いた魔獣王の一角なんでね。勇者の護衛1人がそこまで強いとは思わないんすけど、見ての通りヒノキ山を再現しちゃってるような前世ですから」


 なんとも言えない。


 高橋さんは自分の手鏡を確認しながら。


「戦ってみなきゃ分かりませんよ。もし失敗しても、情報は持ち帰れるんだから無駄にはなりません。うん前進」


「確かにそうっすね」


 たぶん刻亀討伐もさ、過去の戦いがあったからこそ、彼ら勇者一行の勝利につながったはず。

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