15話 油を注ぐ者
京都タワー寺を出発して40分ほどが経過した。質より数と感じただけあって、敵との戦闘回数は多い。
「帰りの余力を残さんとな」
HP0でリスポーン地点に戻るってのは、なるべく避けたい。
俺は周囲を見渡しながら。
「……異世界か」
作り物っぽい旧日本家屋の町並みは、急に木々が生い茂る道へと変化していた。
「ずっと雪降ってるけど、あまり積もらないのは助かるよ」
靴で踏みしめれば、地面が見えるくらいだ。
硬くもなってないから滑りもしない。
最近整備されたばかりの土道。ハンマーなどで地面を叩いたりするらしいけど、〖岩の腕〗とか土木作業に使われたりしたのだろうか。
岩のスキルは終了すると砂やら土になって崩れるけど、この道にはどうもそれが敷かれてるっぽい。
「天気は〖飛行〗にも影響するので、本当は晴れてる方が良いのですが。うん危険」
高度を上げ過ぎるのは止めた方が良いのかな。
「そろそろ麓の拠点だから、3人とも身構えておきなさいよ」
雫さんの居場所は姉ちゃんたちが頑張ってくれたので、なんとか把握できている。ただドローンによる空撮は、いつも機体が破壊されてしまっていた。
「刻亀討伐作戦の時は、心強い援護射撃だったんだろうけど、今は厄介極まりない」
魔法陣の描かれた発射台らしき建築物が拠点内にあるようで、そこから遠距離攻撃を放ってくるとのこと。
「高橋さん」
「うん、了解」
〖飛行〗で高度を上げる。ちょくちょく〖光壁〗を足場にすることで、浮かんでいる時間を調節してる様子。
「索敵系のスキルか」
魔法陣には日本語が含まれているので、そこから仕組みもなんとなく判明している。【土の領域】ってのと連動させることで、スキルに反応した対象へと遠距離攻撃を当ててくるんだと。
「木々の中に隠れますか?」
「枝くらいなら突き破ってくるから、あんま意味ないのよ」
映画館で戦った兄は槍から【熱線】を放ってきたけど、あれはたぶん《刺青》が【炎放射】を凝縮させたもの。
「うん、来る!」
【熱線】を水属性で再現したのなら、【冷線】で良いのかな。
十数本の【青く細長い光】が俺たちに降り注ぐ。
〖光の軽鎧〗に〖天の光〗を合成したことにより、高橋さんは〖天光膜〗の発動が可能となっていた。
このことから推測できるけど、彼はニートマンだけでなく、光の騎士団だった前世もあるのだろう。
「貫通してくるから、各自防いで!」
合成数は+1と少ないので、〖天光膜〗の性能は低い。
俺は〖光壁〗と〖光十字〗。彰吾先輩は〖誰がための盾〗で身を守る。
俺は法衣鎧のエフェクトをまとい。
「水耐性に変更」
姉ちゃんは〖障壁〗のみ。
「ありがとう」
「うん、私の召喚」
☆光の槍翼《障壁または光壁をセットしていると、槍翼を2つ消費して性能を強化できる》
「皆、敵が来るよ!」
雪の地面が盛り上がり、青い人型の兵士たちが出現する。
敵の属性が統一されてるってのは、けっこう有難いんだよね。
姉もスコップで地面を〖掘り〗、湧き出た水を俺たちにかける。
「つめたい」
「我慢しな」
そういや姉ちゃん。
「〖掘る〗に《水耐性強化》つけてたっけ?」
「あ、ごめんなさい」
☆《精神保護が追加・精神保護が不撓不屈になる》
☆《味方に水をかけるとHP回復(極大)・味方に水をかけると精神保護》
☆《味方にかけた水は即座に乾く・敵に水をかけると強の悪寒》
☆《掘った土が泥に変化して敵に水と土耐性低下・泥が付着した部位に動作阻害》
まあ無駄にはなってないから良いけどさ。
「とりあえず、僕は青い木を削るよ」
〖山の恵み〗を発動させたけど、色はランダムなので残念ながら青木は出現せず。
「ごめん外れだ」
俺は〖青鎖〗を姉と彰吾先輩に放ち。
「《水耐性強化》を付けてますんで、彰吾さんは赤木を削ってください」
「じゃあ吟ちゃん、指示お願いね」
姉は〖闇明〗で周囲を照らし、6体の〖ゾンビ〗を出現させる。
「腐一郎さんから腐三郎さんは引き付け、腐四郎さんから腐六郎さんは各敵に憑依して」
☆《数が多いほど身体強化(極小から極大)・敵に憑依可能となる》
☆《同じ対象に3体が憑依すると、爆発時に属性限界突破の闇ダメを与える・味方と自分に憑依可能となる》
☆《自分と味方に憑依すると闇耐性強化(レベル比例)・敵に憑依すると闇耐性低下(レベル比例)》
☆《攻撃に回復妨害追加・ゾンビの素早さ関係強化(極大)》
「高橋さん、俺らに近づくと《細鎖》ってのが伸びますんで!」
「うん把握」
彼が頭上より〖槍翼〗を放てば、それに対応していた敵が、〖ゾンビ〗に抱きつかれ《憑依》された。実体ないし、どっちかと言えば幽霊だよな。
「吟ちゃん白鎖寄こしなっ!」
「へい」
〖障壁〗と〔スコップ〕で身を守りながら、強引に敵集団へと間合いを詰める。
普段は指揮してるけど、姉ちゃんってたぶん前にでて戦いたい人なんだよね。
☆《スケルトンを召喚していないと身体強化》
高橋さんにも〖黄と赤の鎖〗を放つ。
「また遠距離攻撃が来たら、皆をこっちに引き寄せるんで、位置取りに気をつけてください!」
「了解」
敵に囲まれてたりすると、巻き取り時にぶつかるからね。
「投げます!」
☆《槍翼を手で握って投擲すれば、物理強度(中)を得る・槍翼は刺さったまま残り、光属性攻撃を与えると弾けて追加ダメ(大)》
片手に〔杖〕を持っているので、1つずつしか投擲できないようだ。敵は空に向けても中距離攻撃を放つけど、〖飛行〗は〖翼〗で性能も強化されており、空中でも上手に立ち回っている。
「〖闇に紛れる〗」
姉の姿が消えるが、すぐさま攻撃に移ったこともあり、その場に再び出現。闇属性ダメ。
「〖腐次郎さん、ごめんなさいね〗」
〖会話〗により謝罪すると、ゾンビ爆発時の威力が上昇。
〔生命のスコップ〕は光属性。
☆《攻撃にHP吸収》
☆《攻撃にMP吸収・ゾンビに憎悪を向けている敵に対して光ダメ増加(極大)》
スコップが巨大な〖鎌〗のエフェクトに包まれ、その一振りが憑依していた〖ゾンビ〗ごと敵を爆発させた。
光属性攻撃により、人型に刺さっていた〖槍翼〗も弾け、光属性の追加ダメ。
「倒壊するよっ!」
〖赤い木〗が倒れろば、範囲内の敵が《燃え上がり》炎上ダメ。
俺たちの身体能力も強化された。
上空にいた高橋さんが叫ぶ。
「来ます、着弾まで100m」
「〖巻き取り〗ますっ!」
〖渦〗の中心に近づくほど、各自のバフを強化。
3人が俺のもとに引き寄せられると、〖誰がための盾〗〖光壁〗〖光十字〗で降り注ぐ【冷線】を凌ぐ。
「凍結の効果もあるみたいだね」
〖大盾〗の表面が凍り付いていた。
中距離攻撃スキルを持つ敵たちが、こちらに向けて一斉に放つも、姉が〖岩の壁〗で防いでくれる。
彰吾先輩が〖壁〗から横に出て、〖回転刃の丸盾〗を射出するも、【氷の壁】で防いできた。
「削り切る」
数秒後に破壊成功するが、追加で複数の【壁】が出現した。
「姉ちゃん、俺が【氷の壁】を壊すから、そこからスケルトンを進入させてくれ」
〖銀の原罪〗が研ぎ澄まされた殺気を放てば、【氷の壁】が1つ消えた。
「一助さん二助さん、行ってちょうだい。〖頑張って〗」
〖闇明〗により2体のスケルトンが現れて駆けだした。
「……召喚」
高橋さんからメロディーが鳴り響く。
「ちょっと高橋さん、なにしてるの?!」
ニート ニート ニートマン、Let's goやっぱムリぃ♪
ニート ニート ニートマン、明日が怖いよ♪
「まだ帰りも残ってるんすけど」
ニート ニート ニートマン、両親死んだら どぉーしよぉー♪
「相変わらず凄い歌詞だね」
「だって私も召喚使いたい」
「ねえ、今から中止できないの?」
〔黒光りの杖〕が彼の頭上に浮かび、高速で回転を始めると、徐々に〖天の光〗が輝きを強めていく。
「うん無理」
ニートマンのテーマソングが終われば、黒いマッチョのエフェクトが彼の背後に降臨した。
「メタモルフォーゼっ!」
高橋さんがポージングを始めると、エフェクトが声を発する。
『75点ね』
☆《変身ポーズを完璧に決めるほど身体強化(小から大)》
「サイドチェストっ!」
『良いわよ、81点』
これ、ボディービルのポーズだよな。
「フロント、ダブルバイセップス!」
『ステキっ、もう89点あげちゃう!』
なにを見せられているんだろうか。
「高橋さん、実際にジム通って練習もしてるんだよね」
「彰吾もチェーンソーの講習受けてたじゃない」
「マジっすか」
先輩のパッシブで〖山と共に〗ってのがあるんだけどさ、これって木々に囲まれてる場所で〖木〗を伐採すると、戦闘中に限るけど映世内ポイントが増えるんだよね。
「天使さんも行ってちょうだい」
姉は〖人工天使〗を召喚し、スケルトンに加勢させたようだ。
「高橋さんも召喚スキル借りれば良いじゃないっすか」
彰吾先輩は続けて〖盾〗を操作しながら。
「自分のじゃないと嫌なんだって」
こだわりが強いんだな。
『総合84点ね、身体強化(中)を授けるわ』
巨体のエフェクトが高橋さんに重なると、特殊装甲黒光となって実体化する。
「〖チェンジ・ニートマン!〗」
排気口より赤い蒸気が噴きだし、変身が完了したようだ。
ヘルメットから機械音声が発せられる。
『036、仕事の時間だ』
「えっ 036?」
「036(オサム)よ」
まじかぁ。
「うん……嫌です」
☆《ブラックな職場時代を思い出したときは精神保護が発動》
『企業に焼かれたお前の脳も、大金があれば人生を取りもどせる』
なんでサポートAIがパパになってるんだろうか。
「運営。これは流石にダメだ、あの人をネタにするのは許さねえぞ」
「なんであんた怒ってんのよ」
姉ちゃんたちはAC知らんか。俺が一番好きなキャラです。
『行くぞ、036』
「うん、槍翼お願い」
実体化した4つの〖槍翼〗が敵に向けて飛行を開始するが、集団を囲うように空中で停止する。
バーニアがエネルギーを噴射すれば特殊装甲が浮上し、〔機械仕掛けの槍〕を握りしめた。
「もうこの戦いは問題ない。私たちは休ませてもらいましょう」
高橋さんに〔団員照明章〕を買ってもらっとけばよかったか。あれがあれば《疲労を旗持ちが一部引き受けて》くれたんだけど。
「すげえな」
一突きで【氷の壁】ごと【盾】も粉砕すれば、そのまま兵士を串刺にした。
彼の側面を狙った別個体の背後から、〖シャイニングスピアウィング〗が突き刺さり、中距離スキルも〖槍翼と光壁〗で防ぐ。
【壁】が消えるのを待たずして〖輝く槍〗を横に振り抜き、側面の敵も消滅させる。
「HP0で〖チェンジ〗を使うと、本来の姿になるんだって」
今の特殊装甲はモード黒光なんだったか。
蹂躙を見学していると、なんかその光景が前世の記憶と重なった。
ルカ隊長だ。
「誰?」
僕らの隊長だよ。あとラウロの師匠だね。
「だから誰なんすか」
ラウロってのは生前の友達。
姉が訝しげに俺を見て。
「どうしたのよ」
「いや、なんでもないっす」
あの野郎。やめろって言ったのに、けっきょく救世主になりやがった。
今も終わらない旅を続けてる。
「……」
だから合流したいんだ。もし間に合わなかったら、終わらせてやらんと。
まあ、お兄ちゃんにゃ関係ない話さ。
「魂は巡る」
やがて宿命を重ねた者は、天上界に導かれる。
おぼろげに前世の記憶を残したまま。
「……」
かつて大罪を犯した俺は、罰として沢山の英雄を幾多の世界で助けてきた。
その所為で神々の一部が拒んじまったのよ。
「俺を」
俺の前世を、救世の旅に迷わせることを。
「あんたは」
連中は神じゃない。
私情を優先させたんだ。
「あっちに行くのか?」
得た情報を記録しようとしたが、ベルトの収納に手を突っ込んだまま、腕が動かなくなった。
「ごめんな」
要らんことをしゃべっちまった。
「同じだ」
そうせざるを得ない状況に、無理やり持って行く。
俺も、俺を殺したアイツと同じことをやってんな。




