14話 ヒノキ山周辺の下見
1年前。俺らは京都タワーの周辺で活動した。だから進入地点もこの辺りの建物ってことになる。
雫さんが迷人になった位置は、映世だと山になっている。ドローンで全体像を撮影できるくらい標高も低かったりします。
異世界にあるっていう本物のヒノキ山がどうだったかは覚えてないけど。
車で目的地に向かっていると、所どころが通行規制されていた。
「もう一部封鎖してるんすね」
「当日は今より厳重かつ広範囲になるそうだよ」
「救出に成功したら、こっちの世界に化け物がでるそうだし、やっぱ人払いしないと」
天使さんといっしょの対策。
現世の雫さんがいると思われる地点に、〔おいでませ天使さん像〕というのを設置している。
転位してくる敵の出現カ所を、像の近場に絞らせることができるんだってさ。あとはそれらを引き寄せる効果もある。
リスポーン地点もここに作るそうだ。
〔おいでませ像〕を中心として、500mごとに〔守って天使さん像〕ってのが幾つか置かれてる。
これが結界みたいなものを張って、化け物が封鎖範囲の外に出るのを防ぎ、その内側は俺たちのスキル弱体も少しだけ緩和してるんだと。
・・
・・
助手席に座っていた姉が、カーナビと見比べながら。
「あそこね」
進入地点に選らばれたのは京都タワー近くのホテルなんだけど、ここも関係者以外は入場禁止となっていた。
「三好の関係者です」
「少々お待ちください」
彰吾先輩が社員証だかを見せる。すると相手が確認作業を行ったのち、地下駐車場への通行を許可される。
「こうやって実際に見ちまうと、天使さんといっしょのヤバさに現実味がでてきますね」
警察を動かしてる時点でもう恐ろしいわ。自衛隊とかにも手が伸びてんのかな。
「外国から要人が来日してるって、ニュースでは言ってたね」
本当かどうかはわからんけど、世間に公表されてる封鎖理由。
「天使さんといっしょでも、数日が限界だそうよ」
作戦地域の全面封鎖をできるのは1日だけ。
「このホテルって、結界の範囲外なんだっけ?」
「もともとヒノキ山はなかったからね」
雫さんが降らせた映世の雪は8月に勢いが強まり、吹雪が弱まった10月にヒノキ山が現れた。
救出後に山が消えた場合を想定すると、麓の拠点で発見した脱出地点もなくなる可能性がある。
「さっ 降りよっか」
見事な駐車ですね。俺も18歳になったら免許取る予定だけど、縦列駐車とかできるんだろうか。
「今日は下見程度だから、ギンちゃん無理しちゃダメよ」
「へい」
駐車場からエレベーターに乗り、ロビーへと移動する。
すでに到着していた1名がこちらに気づいたようで、手を振りながら歩み寄ってきた。
「おはようございます、浦部きゅんも元気にしてたかな。うん、息災」
「あっ ども」
きゅん呼びは初めてだな。
「高橋さんですよね。俺の中じゃ初対面なんすけど、またよろしく頼んます」
元ニートの彼は、高身長の瘦せ型だった。
「そうそう、高橋オサムだよ。漫画の神様と同じね、ペンネームじゃないほうの」
虫はつかないほうの治。
「いやー 浦部きゅんと活動するのも久しぶりだねえ、うん楽しみ。1からの出直しでも、私らにゃハクスラって繋がりもあるし、なんとかなるさ。うん同好」
共通の趣味ってのはやっぱ心強いね。
「どうどう、スキルは強化された?」
「はい、主に原罪って召喚系の機能が追加されましたね。高橋さんもシーズンに参加しちゃったんでしたっけ」
「そうなのよ。私らは今回の作戦終わるまで、様子見するって決めてたのに」
「治さん我慢できなかったんだよね」
辺りを見渡せば、ホテルの従業員らしき姿は見当たらず。
「殆どが三好ブラザーズや天使さんといっしょの関係者っすか?」
「当初の予定だと、ここまで大規模にはならなかったんだけどさ」
もっと小さな建物を貸し切りにして、そこから侵入するって話だった。
「ケンちゃんや親御さんたちは此処で待機するってこんか」
いったん三好さんの実家で顔合わせしてから、ここに滞在してもらう感じになんのかな。
洋風のロビーには鏡の祭壇が設置されており、俺らはそこに向けて足を進める。
姉や彰吾先輩が他の面々と何らかのやり取りをしているが、よく分からないから後ろに立って様子を見守ることにした。
ここから侵入すれば、映世の鏡は割れたり曇ったりもしないそうだ。また向こうは時代背景が異なっており、こっちにある建物も存在しない。
「映世の京都タワーは大きな寺社になっててさ、一帯の鏡は全部そこに繋がってる。だからここ以外から侵入しちゃダメだよ」
今日はとりあえず、麓の拠点まで行って戻る予定。
「ではお気をつけて」
「はい」
その後もいくつかの説明を受けたのち、俺たちはロビーの鏡から映世へと移る。
・・
・・
映世の京都タワー。
寺の中だと思うのだけど、転移した先は狭い室内だった。仏像の代わりにロビーにあったのと同じ、鏡の祭壇が設置されている。
「てっきりもっとデカい寺院なのかと思ってましたけど、そうでもないんすね」
大きな柱がいくつかあって圧迫感が増している。
「外にでりゃ分かるよ」
高橋さんが一足先に動き出す。どうやら外に繋がっているみたいだ。
「〔変身ベルト〕と〔杖〕っすか」
「そうそう杖だよ。でも前世スキルは槍です」
〔黒光りの杖〕
〖光の槍〗 杖の先端から刃のエフェクト。敵に光属性ダメや、光耐性低下。
「変身ヒーローの前世か」
「うん英雄。改造人間じゃなくて、パワードスーツ系だよ」
「異世界に特撮ねぇ」
「現代日本と同じ。または上位の文明をもった異世界もあるんじゃないかな」
ファンタジーにも東洋の島国とか、日本っぽい国は登場すること多いし。それに俺が勇者一行だった世界とか、日本の文化も混ざってるっぽかったか。
日本人の集団異世界転移。
勇者の村。500人くらいいれば、遺伝とかも問題ないらしい。ハプスブルク家みたくなっちゃ困るもんな。
「宗教施設でも、セーフゾーンなのは鏡の間だけだから気をつけるんだよ」
それでも敷地内は数値も少しはさがるとのこと。
「こうやって見ると、彰吾先輩の前世装備って厳ついっすね」
〔つけ髭〕と〔削る物〕。今は大型チェーンソーだね。
「似合ってないでしょ」
カイゼル髭ってやつだ。彼女さんの評判はよろしくないみたい。
「そうかな。もうちょっと年齢を重ねれば、行けると思うんだけど」
姉に続いて俺も外にでれば、高橋さんが。
「ほら、これが映世の京都タワーだよ」
振り返って、自分たちが居た建物を見上げれば。
「五重の塔っすか」
〖雪】が降っていた。
「そうそう」
上にあがる階段は見当たらなかった。もともとそこまで細かい造りにはしてないんだろうな、再現した建物かもだし。
仏像とか元々は極彩色や金色だったそうだけど、今の時代だとそういったもんは禿げちまって、木肌や青銅色になってる。
「経年劣化してないお寺ってのも、なんか変な感じっす」
「確かにね」
お寺の敷地内には本堂やら庫裏、経蔵に鐘楼などなどがあるようだ。新築で色も鮮やか。
「どの時代かっていうのは、けっこうバラバラなんでしたっけ?」
「詳しい人が言うには統一されてないそうよ」
日本の甲冑とかも、時代で流行とかあったんだけど、俺にはそういった見分けはつかない。
「さて、じゃあ行こうか」
俺らの他にも三好さん関係の人たちがおり、機械類の動作確認などをしていた。護衛と思われるのも数名確認できる。
「よろしくお願いします」
「おお、浦部さんの弟さんっすか。初めまして」
簡単なやり取りを終え、俺たちはお寺の敷地から出る。発信機やトランシーバーなどを持たされました。
・・
・・
数値はマイナス20ほど。
観光地とかでこういった町中を歩いた経験はある。京都に限らず、日本の各地にも残っているしさ。
「作り物っていうか、偽物みたいな感じが強いかな」
「時代劇のセットみたいな?」
生活感ってのがないからだろうか。
「ほらほら、見てみて。これが私の召喚だよ」
〖光の槍翼〗
・背後に短槍のエフェクトが浮かび、翼のように展開する。
・最大数2。
・空中での姿勢安定。
・敵に向けて放つことができる(中距離)。
・命中すると光耐性低下(中)と光属性ダメ(小)。
・1つごとにMP消費(小)
「それ、自分で操作するタイプのスキルっすよね?」
宮内の〖浮剣〗に近い。
「変身すると自立するんだよ。うん、召喚」
〖N・輝く槍翼〗に変化。
最大数が4になって、物理属性強度を得るんだったか。
姉ちゃんが高橋さんの方を向き。
「雪でMP奪われてるんだから、無駄づかいしないの」
「はい、ごめんなさい」
京都の〖雪】は元からいた敵にもデバフ効果が付く。
「でもこんくらいなら、とりあえず許容範囲かな」
「私たちの認識だと、体力を奪う〖雪】が一番厄介ね」
「……敵が出たよ。うん警戒」
通常の敵は闇に包まれて前世に変化するんだけど、此処の敵は違う。
薄く積もった雪が盛り上がり、そこから氷の人型が現れる。
「質より数か」
兵士っぽい鎧をまとった相手。冒険者っぽいのも数体混じっている。
「こいつらには〖雪】は反映されないんでしたね」
統一された防具ってさ、世界の歴史からみても難易度が高い。それを可能にするだけの量産技術があったわけだ。
俺は〖黒の滑車〗を出現させ、それを〖メイズ〗で破壊する。
「どうっすか?」
「へえ、これが吟次君の原罪かあ」
「確かにアンタの予想どおり、けっこう似てるわ」
〖原罪〗はエフェクトだけなので、シルエットでの判断しかできない。それでも敵の【氷鎧】と似た形状なのは分かる。
「……召喚」
高橋さん、俺と同じで召喚が好きなんだね。
「運営じゃなくて、雫ちゃんの前世が造りだした敵ってこと?」
光の騎士が言ってた。白以外の原罪は心象風景から再現したスキルだって。
傭兵司祭さんの想い出。
二体の敵が片方の掌をこちらにかざす。
「ボルガは岩の壁、光十字を頼んます!」
「うん了解」
雪を押し退けて〖岩壁〗が飛び出せば、敵の手から放たれた【冷気】を〖光十字〗と共に防ぐ。
「本来は炎放射か」
それを水属性で再現してるわけだ。
持続して【冷気】は放射されており、〖頑強壁〗の属性強度を徐々に奪っていく。
姉ちゃんは〖闇明〗で俺たちを照らす。
☆《ゾンビの召喚可能数に比例して、自分と味方のHPMP秒間回復(極小から極大)・闇明に照らされた召喚は、20秒間性能強化(レベル比例)》
☆《闇明に照らされた召喚は17秒間、物理属性強度が一段階上昇・闇明かりに照らされた味方は15秒間、身体強化(大)》
☆《闇明にHP回復(大)を追加・闇明に照らされた敵は闇耐性低下(極大)
「彰吾は木を切って、高橋さんは岩壁の裏に〖光壁〗を、吟ちゃんも鎖でバフをお願い」
岩壁を回り込んできた敵には、召喚した2体の〖スケルトン〗を当てる。
☆《数が少ないほど性能強化(小から大)・斬撃に並の熱感と炎上ダメ(大)》
☆《属性強度(極大)増加・物理強度(大)増加》
「〖一助さんと二助さん、通しちゃダメよ。頑張って!〗」
〖会話〗
応援をすることでスケルトンの性能強化(中)。
☆《名前をつけることで意志の疎通が強化される・名前をつけることで応援の効果(極大)上昇》
俺はサポート特化の前世スキルだった。
味方に〖各色の鎖〗を放てば、続けて《細鎖》も射出される。
でもさ、そっち系のスキルは皆も持ってるんだよ。
つなぎのエフェクトをまとった彰吾先輩は、爆音と共にチェーンソーを可動させた。
〖森の恵み〗選択スキル。
・チェーンソー専用。
・最大数3(固定)。
・屋外のみ。
・戦場に木のエフェクトが出現。
・物理属性強度(大)。倒壊時は実体をなくす。
・MP消費(大)。
・色ごとに効果が異なる。
先輩は敵に背中を向けて走り出し。
「とりあえず一番近いのから倒壊させるよ!」
背後に出現した青い木のエフェクトを、〔大型チェーンソー〕で削りだす。
☆《削っている最中も各色の光が発生し、近場にいる味方に色ごとの耐性を強化する(極大)》
☆《倒壊時の効果を(極大)上昇させる・武具の回転速度に比例して伐採も早まる》
☆《倒壊位置が敵や味方に近いほど、効果が増加する(小から極大)・倒壊時に色ごとの属性デバフとHPダメ(大)》
「私、変身しても良いでしょうか?」
「まだ序盤なんでダメです。1助さんの援護にまわってください」
〖チェンジ〗は使うと疲労大だからね。
「うん、残念」
高橋さんが杖を掲げれば〖緑光〗が周囲を照らす。火と風スキルの強化。
〔黒光りの杖〕を〖演舞〗のように振り回せば、炎が灯って〖火の玉〗がランダムに敵へと飛んでいく。
「それ欲しいんですけど!」
俺も脇差を構えて、〖一点突破〗で特攻。
「ダメ、これ私の」
「治さん、共有枠に入れないんだよね」
独占欲。気持ちは分からんでもない。
黒の原罪は消え、京都にはボルガの〖雪〗が降っていた。
特攻からの〖無断〗を【氷の盾】で流されるも、〖幻影〗が出現して追撃を喰らわせる。
「うん、そのスキル欲しい」
「これはスキル玉じゃないんすよ」
敵の数は多い。俺の足を狙って【尖った氷塊】が放たれたけど、〖光十字と光壁〗で威力を弱めてくれた。
「倒れるよ!」
青木は倒壊時、一定範囲の味方に防護膜をまとわせる。
「君のスキルは、本当に強化されたね」
「……へい」
シーズン毎の強化要素ってのは、あくまでも外枠なんだ。
強化の中核はビー玉。
彰吾先輩が〔カイゼル髭〕の〖左〗を弄ったことで、チェーンソーが〖回転刃の中型丸盾〗に変化。
まとうエフェクトがつなぎから、家宝の鎧になっていた。
射出された〖丸盾〗は腕と鎖で繋がれており、俺の側面を狙ってきた兵士の胴体を削る。
☆《回転刃盾でも幹を削れる・木々の強度低下(極大)》
☆《接触時の跳ね返りがなくなる・中距離攻撃中は守り3種強化(レベル比例)》
☆《中距離攻撃時は回転速度増加(極大)・腕に装着時は身体強化(大)》
☆《鎖の長さ増加(大)・回転中は装備性能強化(極大)》
☆《追尾機能追加・射出後5秒間は回転速度増加(大)》
「彰吾はそのまま赤い木を削って!」
「了解」
彼が腕を持ち上げれば、鎖に繋がれた〖盾〗が空へと舞い上がり、続けて離れた位置にあった〖赤木〗に振り落とされた。
〖槍翼〗を補充していた高橋さんが叫ぶ。
「詩さん、後ろ警戒!」
【氷の腕】が雪を掻き分けて出現。
「彰吾お願い」
「間に合えっ」
〖誰がための盾〗選択スキル。
・最大数3(固定)。
・浮かんでいる状態で中型盾が出現する。
・家紋が刻印されており、物理属性強度(大)。
・攻撃を防ぐか、数秒が経過すると自然に落下して消滅。
・冷却はなし。
・MP消費1つごとに(中)。
ソケット4
☆《中型盾が大型に変化・守られた対象に属性耐性強化(レベル比例)がつく》
☆《盾が消えるたびに3秒間、守り3種強化(大)・盾の出現位置延長》
☆《足場にしたときのSP減少を軽減(大)・消費MP減少(極大)》
☆《盾に衝撃吸収・盾が青色に輝き装備性能強化(極大)》
【氷の腕】を防いだ〖盾〗は落下して消えたが、姉がすぐさまスコップで振り向きながら破壊した。
☆《スケルトン召喚中は自分の身体強化》
こうやって改めてみると自覚する。
シーズン毎の強化要素ってのは、あくまでも外枠なんだ。
スキル強化の中核。
この1年をビー玉の更新に費やした、姉と彰吾先輩は十分に強い。
不満そうにしていた高橋さんが呟く。
「……報酬」
経験値は歩合制だけど、報酬も活躍度に比例されんのかな。
「私も戦わねば」
〖光る軽鎧〗のエフェクトが〖炎の鎧〗により燃え上がり、体温と共に身体能力を強化していく。
「まじでそのスキル欲しいんすけど」
〖スケルトン〗を囲もうとする兵士や冒険者風の敵に向け、〖槍翼〗を放ちながら〖光の槍(杖)〗で攻撃。
「ダメ、これ私の」
そこら辺は本人の意思が優先か。
少しずつ、当時の自分が抱いていた心境が見えてきた。
前世には格差があり、以前の俺だって強い分類なはず。
贅沢な悩みだってのは分かる。
俺はSRってとこか。
雫さんを含めた皆が、URだったんじゃねえかな。
「吟ちゃん、戦いに集中しなさい!」
「すんません」
ビー玉でどんくらい差を埋めれてたんだろうか。




