13話 協会の役目
年末とあってそれなりに高速道路も混んでいるけど、今のところ大きな渋滞には遭遇せずに済んでいる。
「普通車でもあれなのに、長距離トラックかあ」
「父ちゃん、いつもお疲れさんです」
「感謝せんとね」
昼食もサービスエリアで済ませ、やっとこさ高速を降りて一般の道路にでる。
京都でお世話になるのは三好さんの実家だ。けっこう田舎とのことだけど、数値はマイナス50となっていた。
「府内全域がこの数字なんすね」
「間違ってタップしないように気を付けなさいよ」
1年前。俺らが活動したのは京都タワーの周辺だったらしい。
「ここらでも雪は降ってて、一応は弱体化されてるけど、雫さんの居る地点と違って京都の敵だからね」
手鏡には『時代背景の異なる特殊マップとなっており、非常に強力な敵が出現します』という文字が表示されていた。
セットしてるスキルの平均レベルが低いと、入場も出来なくなってるようだ。
「俺らが前回挑戦したとき、ここまで配慮してくれてりゃ、もっと警戒したんじゃねえかな」
「だから運営のこと、私らは心の底から信用できんのよ」
連中の思惑はなんなのか。
「吟次君が記憶を失うことも、彼らからすれば予定のうちだったのかな」
「俺が新たな仲間を集めることも含めてっすか?」
「私たちもこの1年で、けっこう迷人を助けて来たけど、やっぱ強力な前世持ちって少ないのよ」
一点突破系に時空剣。そして弓矢と氷を操る雫さん。
ネクロマンサーな姉。
彰吾先輩も攻守に優れた前世スキルらしい。
あとは元ニートの高橋さんって人もいる。
「ケンちゃんを最後に、俺らは仲間が増えてないんだよな」
「同じ場所でしか活動してないから、治安が安定してるのも原因なんじゃない?」
精神を病む前にストレスを発散させている。
「あれだけのメンバーなら、そうそう負けないでしょ」
脳裏に背番号1が浮かんだけれど。
「確かに、太志と隆明ってのもヤバイ前世ですが、なんとか勝ててますわな」
俺と宮内が居るとメッセンジャーが出てきますが。
「あの2人に勝てんなら、もう大概大丈夫なんと違う?」
「凄いね。彼らには何度も痛い目に合わされてたんだけど」
やっぱ知ってんだな、姉ちゃんと彰吾先輩も。
「あっ その報酬が留め具なんだっけ」
記憶を失う前の俺も、けっして弱いわけじゃなかった。
「以前の俺って中盤から後半になると、戦うの厳しくなってませんでした?」
「そうね。あんたが生身でも戦うようになったのは、確かそのあたりからだったと思う」
もしスキル玉があれば違ってたんだろうな。
「鎖スキルはサポートとして凄く助かってたよ。ただ君は1人でも積極的に活動してたからさ」
仲間が居てこそ力が発揮されるけど、ソロには向かない。
「原罪ねえ。吟ちゃんの強化も順調じゃない」
「へい。お陰で攻撃手段も増えましたよ、雫さんの脇差もありますし」
「一点突破系は皆の主力ね。最近だと精神技が人気よ」
人によって使えるのが違ってくるけど、MPじゃなくSPで発動ってのも大きいか。
「本当に三好さんには感謝っすよ」
今回の作戦に参加してくれた人には、報酬として〔面頬〕を用意するんだってさ。
「それもこれも、あんた達が色んな装備やスキル玉をゲットしてくれたお陰なのよ。全体的にもかなり強化は進んでる」
「精霊使いに鬼の武芸者、そんで勇者の兄と妹。ケンジ君は鏡の盾だったか、すごい面子だよね」
「お盆の時に三好さんも言ってたけど、なんか意図的なものを感じますよ」
皆が迷人になった理由。
「運営が絡んでるとは考えたくないけど、やっぱ想像しちゃうじゃない」
「僕のはたぶん違うと思うけどね」
彰吾先輩は親との確執だったか。
「まあでも不満に思いながらも、学費を出してもらえてるから感謝してるよ」
親の望む進路ってやつだね。
姉ちゃんは彰吾先輩との関係もあるけど、色んな悩みが重なったってのもあるのかな。俺の無気力とかもその一つだったりしたなら、本当にごめんよ。
高橋さんは10年くらいブラックな職場に勤めてて、そこからくるものだそうです。今は神崎さんと同等かそれ以上に、映世を楽しんでるんだってさ。
・・
・・
三好さんの実家に到着した。
俺んちと同じく古い家屋だけど、それ以上の歴史を感じる。
広い庭に車が停止すれば、彰吾先輩は外にでて身体を伸ばす。
「運転お疲れさまでした」
「ありがとうね」
「やっぱ年末は混んでるや」
車はすでに止まっているが、エンジン音は鳴りやまず。
「これって発電機っすか」
「三好さんだね」
音の方に向かって母屋を回り込めば、そこには発電機の傍で作業をしている三好さんの姿があった。
「おお、3人ともいらっしゃい。道混んでなかったかい?」
「こんにちわ」
「なんとか予定通り到着てきましたよ」
「どもっす、お世話になります」
挨拶もそこそこに、俺は発電機へと足を進める。
「ドローンのバッテリー?」
「そうそう。これでつくった電力なら、映世でも動かせるんよ」
エネルギーになる素材って原油なのか。
「ガソリン?」
「色が違うんだけど、同じ扱いみたいだね」
へえ。
「重油とかも作れるんで?」
「扱いが難しいから、そっちは鏡に保管したままになってる」
固まりやすいけど、安いって聞いたことがある。
「大型船の燃料に使われてるんすよね。売る伝手とかないんすか?」
「現世で使うにも質が落ちちまう。天使さんといっしょが買い取るって話はでてんだよね」
灯油とか軽油なんかもあるのかな。
「原油に質ってあるのかい?」
「主に密度と硫黄分によって評価されるそうっすよ」
姉ちゃんが感心した様子で。
「あんた良くそんなこと知ってるわね」
「つってもネットやAIの情報が主なんで、俺の知識は信用なりませんけどね」
嘘やら誤りを見抜く力は、たぶん俺にはあんまない。
「色んなことに興味を惹かれるってのは、けっこう大切なことなんよ」
発電機を囲んでお話をしていると、縁側から1人の女性が現れ、こちらに声をかけてきた。
「いらっしゃい。遠くから来てお疲れでしょう、お茶入れましたんで上ってください」
三好さんの嫁さんか。
「助かります、じゃあさっそく失礼して」
お久しぶりなのか、初めましてなのか分かりません。
「薫さんよ、アンタとも面識あったんだけどね」
「よろしくお願いします。英司さんにはお世話になってます」
「事情はうかがってますので、吟次君も気にしなくて良いのよ」
三好さんは笑いながら。
「でも吟次君はお茶よりも、こっちの方が気になるんじゃないかい?」
「じゃあ、ちょっとお茶は後で頂くでもいいっすかね」
ドローンだけでなく、トランシーバーみたいなものや、発信機らしきもの。
「もうアンタは。じゃあ私らは先に行ってるわよ」
「すんません」
俺と三好さんはその場に残り。
「GPS?」
「映世で衛星は使えんからね、受信機と送信機を設置するのさ」
ケンちゃんの手鏡からも〖分鏡〗の位置は把握できるけど、彼は現世に居なきゃいけない。
救援信号を送るアイテムもさ、あれって学校とか施設内じゃないとダメなんだ。
「雫さんの救出に成功したら、ヒノキ山がそのままとは限らないっすからね」
麓の拠点にも鏡は確認されてるけど、こういった理由から俺たちは外側より侵入することになっている。
三好さんは発電機を見て。
「映世でもPCが使えるのは助かるよ」
「車とかバイクなんかは、映世で組み立てないとダメっすか」
映世にも乗り物は有るんだけど、敵対者の所有物で闇と共に消えちゃうんだよね。電車とかは残るけどさ。
「そこら辺は運営に用意して欲しいんだけどね」
三好さんは色々と1つずつ進めているようだ。
「ところで映世協会の方はどんな感じで?」
直接会って、この話を聞きたかった。
「まずは日本国中にプレイヤーを広めんと」
「今のままだと偏ってますからね」
俺らは自分の学校と荒木場でしか活動できてない。
姉ちゃんたちが助けた連中も京都が主だったりする。
「依頼って形で全国を巡ってもらうんすか?」
「しばらく留まって活動しなきゃダメっしょ。報酬をどうするか悩んでんだよねえ」
交通費や滞在費も馬鹿にならないよな。
「元手がないっすもんね」
「プレイヤーから集めるとしても、それだけじゃ足りん。エネルギーになる素材をもらって、それを加工して天使さんといっしょに売るでも良いかな」
その代わりに現世の法律から守ってもらう。
「できれば税金を払うべきとも思うんだけどさ」
協会が源泉徴収をするのか。
専業の場合は確定申告をどうすんのか。税理士にお願いするにも、職業欄どうすりゃ良いんだ。
国民年金とか厚生年金とかあるらしいけど、せっかく働いてるなら多い方もらいたいじゃん。
人手もお金も足りませんな。
「できれば天使さんと一緒には頼りたくないっすけど、やっぱ力借りないとっすか」
「無力だねぇ」
事務仕事か。
そんなこと言ったら、俺の方が無力っすけどね。
知識も技術もない。
活動するってくらいしか今の俺にはできねえ。
「あんま考えすぎちゃいけんよ。お互い、できることから1つずつやってくしかないさ」
三好さんを引き込めたってのが、記憶を失う前の俺にとっちゃ、最大の功績なんじゃないかな。
明日は京都タワーまで行って、姉ちゃんたちと事前の下見をする予定です。
そろそろ救出作戦前の各自を用意しなければ。




