6話 練習試合の応援に向かう
日曜日。
ちょっと2人で話がしたいと伝え、俺と宮内は電車の時間を合わせた。
田舎だと向かい合わせの席もあるので、そこに座って手鏡を覗いていると。
「おはよう」
「おう、すまんね」
宮内が荷物を置いて、俺の前に座る。
「でっ、なんの用だ?」
「そんなの告白に決まってんじゃん」
自分で言ってちょっと恥ずかしい。
「冗談でも、妹に睨まれるから止めてくれ」
「あっ、そっすね。すんません」
ちょっと反省と下を向く。
宮内は苦笑いを浮かべ。
「とても優越感に浸りたいって奴の反応には見えないんだけどな」
「あるにはあるんだけど、その前に俺ってヘタレですんで」
ふむと興味深そうに腕を組み。
「そういう見っともない感情は、誰でも何かしら持ってるもんだと思うけど、口に出す奴はあまりいない」
「ふとしたきっかけで出ちゃうんだよ。ただ誰にでもってわけじゃないけど」
気を許した相手ほど、そういうの出やすいかな。困ったもんだ。
「認めたくない感情も、認めざるを得ないってメリットはあるか」
「デメリットの方が多いけどね。正気にもどると、後になってすげえ恥ずかしくなるもん」
人の内面なんて恥ずかしいことだらけだよ。
「抵抗したい気持ちは拭えないけどね。思春期のころは特にそうだったかも」
性悪説を知って、少し落ち着いた。
「大半の人間なんてこんなもんだ。そう思うようになってさ、けっこう楽になったかな」
「……そうか」
宮内はそういう感情って少なそうだから、ちょっとアレかもね。
「自分は自分って割り切れる奴は少ないんだよ。他者承認と自己承認ってのだね」
他人に褒められたい、SNSで「いいね」がほしい。出世して認められたいといった、周囲からの評価を求める欲求。
今の自分はよくやっていると納得できる、自分の価値を自分で認める。
「浦部はそんな自分を受け入れて、それで良いと納得したわけだ。ならお前も自己承認ってことになる」
「そんな見方もあるんか」
なるほどねえ。
「自分で調べて知識を得て、そういう結論を導き出せる。それってすごいことだと思うぞ」
「えへへ、承認欲求が満たされてやばいわ」
苦笑い頂きました。
「さて、そろそろ本題に移らんとね」
なにから話したもんか。
「昨日の活動で、例の聖職者と戦った話はしたよな?」
「光拳に割引券使ったよ」
未だに《素早さに比例して身体強化》は入手できてない。輝拳は発生スキルなんで、〖光拳〗+〖黄剣〗って感じになる。
「合成した途端に出るんだよね」
「前に遊んだゲームで似た経験がある」
俺もあります。
「それと足場か光強壁かは追々決めよう。みんなの都合に合わせるつもりだから」
「スキルレベルを上げないと選択はできないんだったか」
更新を経て、今後どうなるかの説明も追加されたんだよね。
〖滑車破壊〗だけを優先して最後まで改良すると、武器を使わなくても離れた位置から壊せるようになるんだって。先に教えてくれよ。
〖兵士〗のことを考えると、巻き取りも改良して良かったとは思ってる。
「光壁だけどさ、三好さんが良い値で借りてくれたよ」
こちらで値段を設定しても、相手が高値で借りて販売許可証を入手することもあった。
俺ら拠点にしている地域が離れているからね。
「壁系統でも優秀だからな」
連発でき、薄いし浮かんでるからスペースも取らないので、扱いが〖障壁〗に近い。
「また新しい前世が出てきました。光の騎士団ってのに所属してたんだと」
あばよ後輩。
「あれは聖職者じゃなくて騎士だったのか。そういった繋がりで表に現れたんだな」
得た情報を宮内に教えていく。
団長殿はのちに神となり、今も同一個体として存在していた。
光の騎士は戦神と面識がある。
「白の滑車は異界と繋がってんだと」
「傭兵司祭は合わせる顔がないってことか」
人が神になった。
「こちらの世界でいうと、お釈迦さまやイエス先生とかが有名どころだね」
「人間が悟りを開き、神に至るか。もしかしてその過程で、傭兵司祭は神々の存在を知ったのか」
「だから偽りの神々ってこんじゃね。運営が俺に言ってきたんだよ、我々は名称で固定されているだけで、好きでそう名乗ってるんじゃないってさ」
言いにくいことを伝えんと。
「メッセンジャーが出現するとき、特殊条件ブラザー・マスターを満たしましたって出るじゃん」
アニキが俺で、マスターが宮内だと伝えた。
「あれの主だとすれば、俺も魔物だったのか?」
知性。
「どっちかって言うと魔族とかになんじゃね。そんで君の前世は原初の精霊より、ずっとシャレにならんそうだ」
宮内の視線が泳ぐ。
「光の騎士団にいた俺は、そいつに殺されたようなもんなんだと」
「……」
目を閉じて、しばらく思考に移ったのち。
「敵対してたと考えれば、まあ自然か」
彼に話すって決めたのは、自分の中で考察がまとまったからってのもあるんだ。
「宿命とでもいうべきかさ。個々の前世ってよ、人生の流れに繋がりとかあるんじゃね?」
神崎さんは鬼。武芸者。
隆明は誰かを逃がすという最期。
「信仰を失った神官に、神さまと知り合いだった光の騎士、勇者の護衛」
自分の前世について考えているのだろう。
「やばいものに乗っ取られた勇者」
「堕ちながらも抗い続けた。それを称えたのが、きっとあのスキルだよ」
「……そうか」
目を開けて手の平を見つめる。
「もしかしたら〖一点突破・隠身〗とか使えたりしてな。美玖ちゃんみたいにセットすりゃ」
「マスターだとすれば、俺が授けた可能性もあるんだな」
伝令。
「皆に伝えるかどうかの判断は、宮内に任せるよ」
「少し、考えさせてくれ」
自分の前世が俺を殺したとか、やっぱ悩むもんな。
「たぶんさ、好き好んでやったことじゃないよ」
「完全に乗っ取られた後なら、確かにそうなるな」
夕焼けの空は赤く輝き、沈みゆく太陽が夜を喰い止める。
「浦部。お前よく少ない情報からここまで考察できるな」
「もっと褒めてくれても良いんだよ宮内くん」
苦笑いを浮かべ。
「その台詞で台無しになってるぞ」
「承認欲求は押さえられません」
あんま期待されても応えられないしさ。それで良いんだよ。
光の騎士さん、たぶん人間だと思うんだけどな。
ゴブリンにアニキって呼ばれてたのか。
傭兵司祭と団長。
光りの騎士と戦神。
止まない雪。
届かないメッセージ。
兄貴は俺らだじょ。
アニキと光の騎士は別か。
「あとなんでイエスキリストを先生呼びなんだ」
「そうだっけ?」
俺の前世って、ゴブリンもあったりすんのかな。
・・
・・
美玖ちゃんはサッカーで、ケンちゃんは部活のため不参加です。
時刻は11時。みんなと喫茶店で合流したのち、スーパーで準備をしていると。
「試合は午後からなん?」
「午前中は合同練習だったか」
「浦部くん良かったね、優越感に浸れて」
「へい。村瀬に崇められました」
あれからちょくちょくネタにされております。
「感謝するんだぞー」
「へい」
ちょっと困っております。
巻島さんは〔無断の十手〕をアイテムボックスから取り出し。
「光壁はアタシ使わせてもらうで良いん?」
貸出されたスキル玉や武具は他の人には渡せないので、帰ってから直接ミクちゃんに貸してもらうとのことだった。
「そうっすね。枠足りなかったら、ゲス野郎は受け持ちますよ」
煩いのでここでは召喚しない。
見た目がマスコット化して小さくなってるんだけど、あんま可愛くはない。
「ちょっち無理そうならお願いすんね」
ギルド枠から〖光壁〗を取り出すと、俺の手鏡に貸し出し完了のメッセージが届く。
夜間は全体枠に登録して、朝の6時に自動で自分枠にもどるようにしてある。
貸し出し以外での登録は不可と設定してるので、うっかりミスは防げる仕組みになっていた。
「浦部くんついにレベルマックスになったんだ、追い抜けなかったかぁ」
「自分も参加率は高いんでね。最後のスキル枠っすけど、〔メイス〕〔自分〕〔篭手〕のどれにするかを選べるようです」
冬休みが近いとあって、水曜日以外はほぼ活動してます。太志と隆明ともあんま遊べてないんだよな。
救出作戦が終わったら、成功しても失敗しても、なるべくこれまで通りに行きたいとは考えている。
「そういや神崎さん、検証どうします?」
「うーん、正直あんま乗り気じゃないんだよねぇ」
宮内の時は本人の意向があったからな。
「強制はできませんので、もし気が変わったら教えてください」
「サトちゃんのは宮内より使用後のデメリット少ないから、まあ平時でも検証はできなくないか」
「鬼系スキルが1日使えないってのは大きいもん」
毎日活動してますもんね。
巻島さんが妖精を召喚すれば、みんなと挨拶を交わしていく。
「ベルっちよろしくねぇ」
「一緒に楽しもー」
「今日も世話になるなベル」
下衆海賊は扱いの違いにいつも怒っているらしい。
なんでも本人の認識だと、乱戦中に大砲をぶっぱなした罰として、俺らへ協力するよう船長に言われたんだと。
だから入手条件は圧倒的戦力差で船員を排除するとかかな。
妖精は俺の前に停止すると、期待するような眼差しを向けてくる。
「よろしく頼んます」
「そうじゃないでしょ」
名前で呼べってことらしい。
「ベルさんよろしく」
回転しながら上昇すれば鱗粉が顔にかかる。任せておけと頭を叩かれた。
準備が終われば野球の応援に行くので、妖精とはいったんさよならする。
現世でも使えるっちゃ使えるけど、ベルとしての感情がなくなっており、機械的な動きしかしなくなるそうだ。
俺の番になったので、アイテムボックスを開く。
「そういえば制限やリスクが多いほど、同じ表示でも違いが出てくるんでしたっけ?」
1《属性デバフに耐えると身体強化(中)》
2《身体強化(中)》
この場合だと1の方が強力になるそうだ。
「私だと修羅鬼が燃えて炎上ダメくらうけど、かわりに身体強化ってのかなぁ」
「夜間のみも入るんじゃないか」
《体温に比例して》も該当するかも。
「うーん。アタシそういうのさ、あんまないんだわ」
「俺もそうだな」
「消えてる時に気づかれないで攻撃するとが、制限じゃねえっすか?」
それともう1つ。
「宮内くんの場合はあれだ。〖勇気を胸に〗が本来それに当てはまってたけど、《HP残量少ない時は0時と同じ》をつけたから外されてんだよ」
「なるほど」
記憶を失う前の俺ってさ、宮内の初期と同じく攻め手が少なかったんじゃねえかな。
咎人のメイスも原罪なかったし、滑車破壊はHPしか削れない。牢獄も動作阻害と属性ダメだけで、どっちの兵士も呼び出せない。
「俺らなんども属性デバフ経験してますけど、HP0後は行けそうだったりします?」
「絶対無理」
巻島さんは後衛だし、あんま受けた経験もないか。
2人は少し悩み。
「細川君のアレ経験しちゃうと考えるよねぇ。それに引き返せなくなっちゃいそう」
「上位の精神バフを付ければなんとかなるかも知れんが、あまり気乗りはしないな」
「俺も宮内くんと同じ感じかな」
できないことはない。
《HP0後も活動可能に設定していると身体強化(大)・HP0になるとスキルの性能強化(極大)》
《原罪を呼ぶたびにHP再起動時間減少(中)・白の鎖を解除するとHP再起動時間減少(中)》
これ以外にもHP0時の強力なビー玉は沢山ある。
《死亡時に肉体を再生して蘇生(映世または対策した現世の一帯に限る)》
《対策時のみ。現世でもHP使用可能となるが、機能は低下する》
《対策時のみ。現世での全スキル弱体が少し改善し、各武具を常時装着可能》
天使さんといっしょが対策すれば、パッシブにこれを装着したときだけ、一応現世でも戦えるそうだ。
ただリスポーン地点を設置しなきゃいけないらしい。
そんでリスクという面では、これ以上のものはないはず。
《手鏡の設定を死んだら終わりにすると身体強化》
絶対に無理だけどね。
・・
・・
目的地に到着すれば、両校の野球部は食後の休憩中だった。
練習場なので、観戦席みたいなのはない。
「おう浦部、今日はありがとうよ」
「頑張ってね」
村瀬が監督や相手チームに話してくれ、グラウンドへと入れてもらえた。
大城の姿を探せば、ちょうど目が合いました。
こちらが片手を上げると、向こうも帽子の鍔を掴んで少し笑う。
「なんか浦部の友だちさ、他のチームメイトっていうか、後輩から怖がられてない?」
滅多に笑わないのか、その様子をみた近くの部員が驚いていた。
「あれは怒らせると怖いってタイプだな」
「そうなん?」
「さすが元運動部だぁ」
応援する場所に案内してくれていた村瀬が。
「大城か、あいつ愛想ないからな」
なんでも監督同士が先輩後輩で仲が良く、合同練習とか良くあるんだってさ。
宮内が神先輩なら、彼は怖いけど筋が通ってる先輩って感じなのかな。
中学の時もそんな感じだったか。
近くにいた後輩らしき部員に声をかけると、グローブとボールを持って準備運動を始めるらしい。
「たしかに怖がられてるけど、嫌われてるって感じではないねぇ」
両チームの女子マネが宮内を見て色めき立っていた。
苦笑いを浮かべながら村瀬が振り返る。
「宮内君じゃ仕方ないわな」
納得顔が固まり、ぎこちない口調で。
「浦部……お前ってやつはこの野郎、どういう状況なんだよ」
「日頃の言動でちょっと、揶揄われているんです」
どうしよう。
「あの、巻島さん」
「なにさ」
野球部員の視線がこちらに釘付けとなっていた。
「神崎さんも、俺の背中を押すのやめてもらえませんでしょうか」
2人とも自分の容姿については理解してるからな。
「嫉妬の視線を浴びたいんでしょ?」
「だよねぇ」
そういう気持ちもあるんですけど。
「ヘタレなんすよ」
「うん」
「知ってる」
言うんじゃなかった。




