3話 宮内家お泊り
宮内宅のリビングでは軽快な音と共に、爽やかな声が鳴り響いていた。
『さあみんな、テンテン体操の時間だ!』
以前の約束を覚えていた美玖ちゃんが、一緒に観ましょうと誘ってくれた。
『テレビに映るお友達と一緒に、今日もレッツトレーニー!』
画面にはそれはもう可愛らしい女の子と、無理やり付き合わされてる感が半端ない男の子。
『ネットのおっきなお兄ちゃんお姉ちゃん、可愛いからって住所特定しちゃダメだぞ!』
雑に合成されたマッチョな天使さんが、2人の後ろに立って左右にリズムよくステップを踏んでいる。
『さあまずは浅めのスクワットから行くぞ。足は肩幅で爪先はやや外側に、無理なく曲げ伸ばしをしていくぞ。お尻だけを後ろに、なるべく膝は前にでないよう意識するんだ!』
ちっちゃな美玖ちゃんと宮内が、おぼつかない様子で筋トレ。ではなく体操をするさまは、なんか心がぴょんぴょんするね。
『まだできる、まだできるぞ! そんなんじゃ世界は救えない、救うぞ救うぞ救うんだぁ!』
後ろの筋肉が怖い。
『テてんが1・テてんが2・テてんが3・テてんしぃぃ……フォーっ みんな良く頑張った!!』
俺と美玖ちゃんもテレビの前で一緒に体操しています。
『どうだみんな、ここにテンテンパワーが集まってきただろ!』
足の筋肉を指さしている満足気なマッチョ。
『よし、10秒間の休憩だ。その間に次の説明をするぞ、サイドステップをしながらレックカール、腕はバタフライの動きだ。それじゃ行くぞ!』
踵はしっかりお尻につけ、胸を張って行う。
「「テてんが1・テてんが2・テてんが3」」
『まだだっ! 君たちの限界を自分で決めるな、行ける行けるぞぉ、テてんがぁぁ……』
「「『フォーっ!!』」」
両手を上げながら腰を前後にふる。
「なにみてんだ、やめてくれ」
帰ってきた宮内がリモコンを操作して消してしまった。
顔が赤い。どうやら消し去りたい過去だったらしい。
「宮内くんよ、遅いじゃないか」
「せっかく2人の息が合ってたのにぃ……あれ? なんで浦部さん、兄ちゃんの後ろに隠れてるんですか」
だってさ美玖ちゃん。
「隙あらば俺のこと口説いてくるんだもん。たしかに嫌いにはなれないけど、鋭すぎてめっちゃ怖かったっすよ」
「今日攻めまくったのは、浦部さんが参戦反対するからってのもありますよ」
「そういう理由で下校は別々にしてくれと頼まれたんだ。できれば帰宅も遅くしてくれとも言われた」
宮内宅に到着したころには、俺もうヘトヘトだったもんな。
女の子に迫られたら拒否できないなんて、自分でも気づいてなかったのに。
「俺って異性の詐欺師に騙されたりしないかな」
「お姉さまに逆らえないんじゃないですか?」
たしかにそうですね。
「浦部さん私なんかよりずっと鋭いですからね。余程のプロじゃないと、簡単には騙せないと思いますけど」
「映世浦部ってのだ」
「下校中に言ってた一線ってやつですか。よく分からないんすけどね」
でもそれなら大丈夫かって考えない方が良いんだよ。
「詐欺師からすると、自分は騙されないって信じ込んでる人の方が狙い目なんすよね。だから俺はいつ騙されるか分からんって、普段から警戒するようにはしてます」
テレビで元詐欺師の人が言ってたことだから、けっこう信憑性高いと思う。
「そういう所ですって。私や兄ちゃんも気になることは調べたりするけど、浦部さんみたく咄嗟に知識を引き出せないんです」
「毎回2位が同じだって話を出したのは、神崎の反応を探るためだったんだろ。俺が詐欺師なら、そんなことする奴をあえて狙うのは避ける」
ショッピングモールでのやりとりか。
「そういう会話の流れになって、ぐうぜん気づいただけっすけどね。まあただ、それが本当だとすれば、自分にとって最大の強みかも」
俺が保有する知識量なんて大したことない。確かに歴史とか好きなんだけどさ、ガチ勢からすると鼻で笑われるレベルって自覚あるし。
でも咄嗟に引き出せるってのはすげえ武器だ。まったくそんな気はしないんだけど。
もともと文字読むの苦手でして、投稿動画のお陰で取り込める量が増えたってのはある。歴史解説とかメッチャ面白いじゃん。
いつのまにか美玖ちゃんが不安そうに俺を見つめてた。
「あの……ガンガン攻めると、私怖いですか?」
「俺のことで悩みまくってるんでしょ。下手すりゃ迷人の原因になるかもだから、ストレスの発散になるなら攻めてくれて構わねえっすよ」
宮内が腕を組み。
「神崎が槙島に相談しないまま参戦を決めて喧嘩するとか、美玖が浦部のことで迷い人になるとか。もしこれが小説なら展開としてはあり得るんだけど、浦部がことごとく潰しにかかってるな」
「そういう所……本当に大好きです」
お兄ちゃんが生暖かい目で俺と美玖ちゃんを交互に見る。
「じゃあご飯のあと、一緒にお風呂入ってくれますか?」
攻めていいって言ったけど、それは行き過ぎだよ。
「出血多量で死ぬんで、マジで勘弁してください」
「とりあえず鼻血垂らす前に拭け」
ティッシュをもらう。
「浦部さんそんな感じだと、私のとき覗いちゃダメですよって台詞は無理そうですね。じゃあ私が覗いても良いですか?」
「いや、それも困るんですけど」
「妹のそういう会話を聞くって、ガチで気まずいから俺の前ではやめてくれな」
美玖ちゃんが顔を真っ赤にしてました。
両親の前でも無敵モードだったけど、宮内の帰宅を遅らせたのって、こういう理由だったんだね。
まあ彼女なら気づいてると思うけどさ、あの場面で「言えません」ってのは、もう言ってるようなもんだからね。すでに目的は達成されてんのよ。
だから本当は控えてもらいたいけど、迷人になっちまう可能性はガチで否定できないからな。
・・
・・
宮内母より、ご飯できたとのお声を頂き、我々は台所にお邪魔する。
システムキッチンという奴だろうか、機能美ってのを一目で理解しました。
我が家はそりゃもうゴタついておりまして、母が見たら羨ましがるんだろうな。
リビングと一体ってのは子育てなんかには良いかもだけど、飯を作る専用の部屋があるってのは、料理好きからすればデカかったりすんのだろうか。
俺は簡単なものしか作れんから解らんけど。
「おぉ……鍋だ」
「大好物なんですよね?」
種類に関係なく、鍋全般がそうっすね。
「へい。個人的には夏でも食べたいくらいには」
「美玖のリクエストなのよ」
えっ、それってもしかして。
「もしかしてうちの母ちゃん、今日は俺の晩飯最初から用意してなかったりします?」
「やっぱ浦部さん鋭いじゃないですか」
どうやらお泊りは決定事項だったらしい。
三好さんをみる。そういえば、すんなり泊って行きませんかに承諾していた。
「さすがにこの時間ならホテルに泊まって、もう一泊してから明日の昼くらいに帰るよ。吟次くんが遠慮しないよう、俺もぜひって事前に話がありまして」
「僕たちも君にはお世話になったから、歓迎したいと思ってね」
「まさか美玖があんな積極的だとは知らなかったけど」
計画的なお泊り計画だったようだ。
「完敗しました」
「えへへぇ~ じゃあ浦部さん、ここ座ってください」
キムチ鍋のようだ。マジで美味そう。
「飲み物はなにが良い、オレンジジュースとウーロン茶あるけど」
「俺はウーロン茶」
「同じくそれで」
「私ジュース」
三好さんと宮内父はビールをすでに空けており、キュウリ・ダイコン・ニンジンの糠漬けをお供にしている。
「浦部さんのは私がよそいますねぇ」
家はそのまま箸を突っ込むけど、宮内家ではちゃんと専用の長箸や穴あきお玉があるんだね。
「お母さん、お魚どこ?」
俺が一番好きな具も知っているらしい。鱈の切り身っすね。
「底のほうにあるかも。はい浦部君、これも食べてね」
「感謝っす」
こちらにも糠漬けを頂きました。
白菜にネギ・白滝・歯に挟まるほっそいキノコ(名前忘れた)に椎茸・豚肉に鶏肉・肉団子。そして探しだした欠けたお魚。
「はいどうぞ」
「ありがとう」
美玖ちゃんも野菜中心に自分の具をとったのち。
「三好さんのは俺がとりますよ」
「すまんね」
今度は宮内が接待?する。本当によくできたお子さんたちですね。
家じゃとっくにそれぞれが具をとって食い始めてるわ。
「浦部くん、遠慮せず先に食べてて良いのよ。貴方、私とりましょうか?」
「いや、僕は自分でとりたい」
ちょっと拗ねた様子の宮内母も美しく、そして可愛らしい。
「俺もせっかくなんで待ってます」
「……」
あっ、違うんです美玖さん、心を読まないでください。
「っていうか何でわかるんですか」
「教えて欲しい?」
遠慮しておこう。愛の力ですとか返されそう、宮内いるときは控えるんでしょ。
「そうでした」
だから怖いですって。
全員分が小皿にとりわけられ、いただきますをした。
やば、めっちゃ美味い。
家の母上よりも。いや、この先は止めておこう。
「私もお母さんほどじゃないけど、料理はできますんで今度食べてください」
「機会がありましたら。以前のクッキーも美味しかったっすよ」
「浦部泣いてたもんな」
「あらまぁ」
「羨ましいねぇ」
三好さんは寂しい青春だったと言っていた。
「でも今は素敵な奥さまがいらっしゃいますよね?」
「ドキュメンタリーで伺いましたな」
「闘病中は支えられましたよ、頭が上がんねえ」
映世のことは知っているのだろうか。
「それでも迷い人になっちまったもんだから、申し訳ない気持ちっすよ」
「すごく分かります」
美玖ちゃんやご両親が支えてくれてたんだもんな。
「浦部くん、本当にありがとう」
「へい」
少し湿っぽい空気になったけど、暖かな食事は穏やかな感じで進んでいく。
「お魚ありましたよ」
「皆さんの分がなくなっちゃいますんで」
「気にしなくて良いぞ」
「多めに入れたから大丈夫よ」
じゃあすんませんと、小皿にいただく。
漬物もうまいけど、うちってかなり濃いんだな。
「浦部さんの家じゃ絞めはうどんなんですよね?」
「キムチだとそれが多いっすけど、せっかくなんで宮内家のが良いっす」
餅やチーズ粥なんかもたまにします。
「あらごめんなさいね、うどん用意しちゃってるの。卵はそのまま落とすで良いのよね?」
「なんか至れり尽くせりですんません」
三好さんの方をみる。
「今日は浦部君に感謝する会だから、俺のことは気にしなくていいんよ」
「雫さん救出できたら、またお祝いしませんとね」
「ありがとね美玖ちゃん」
不安だろうにさ。
「2玉で良い?」
「そうだね、僕もそんな入らないかも」
「へい」
皆がそれでいいと返答したので、宮内母が出汁と少しだけ麵つゆを足し、うどんを2玉いれる。我が家だとそのまま麺つゆ入れんでドボンですわ、やっぱ家庭によって同じ絞めでも違うんだね。
「2人とも、お風呂入るならお酒はこのくらいにしといてね」
大変おいしゅうございました。
・・
・・
食事が終わると宮内と美玖ちゃんが後片づけをしており、俺も手伝うと言ったんだけど大丈夫ですと断わられた。そもそも3人もいらんか。
食器洗い機とかすげぇな。
「少し休んだら浦部君と三好さん、どちらか先にお風呂どうぞ」
「吟次くん先どぞ」
「良いんすか?」
映世の動画は活動できない人でも、その存在を自覚して認めればうっすらと見えるらしい。
「ご両親に見てもらおうと思ってね」
洗い物をしていた美玖ちゃんが。
「私のあとの方が嬉しいですか?」
「へぇっ、いやあの」
「こら美玖」
お母さんに怒られ、顔を赤くして恥ずかしそうにしていた。
「ごめんなさい、今日ずっとだったから抜けなくて」
「必死なのはわかるけど、ちゃんと節度は持ちなさい」
しょんぼりしている美玖ちゃんを可愛いと思ってしまうあたり、俺も重症だな。
宮内の服でも借りるのかと思っていたら、なんと俺の半パンとTシャツ、下着類が用意されてました。
「母ちゃん」
「外堀を埋められまくってるな」
大阪夏の陣並みかもしれん。
宮内に案内され、洗面所に向かう。
「ちょっと映世移っても良いっすかね。アイテムボックス関係でさ」
「了解」
流石に人の家だから、許可は貰っておかなければ。
「俺もちょっと良いか」
「どぞどぞ」
活動可能者の自宅は鏡が割れてることもない。洗面所の鏡に触れて映世へと移る。
・・
・・
すこし前に更新がありまして、全体枠がついに追加されました。
ローン制度の案を運営に送ったんだけど、今回は見送られた。かわりにスキルごとで値段は違うけど、一定額を越えると販売許可証の入手が可能となるらしいが、必要額がけっこう高いです。
あと俺達っていつも最低値の貸し出し価格だったけど、やっぱ全体となればそうもいかんよね。
まだ全体数が少ないから、そこまで跳ね上がってもいないけどさ。
三好さんたちとは連絡を取り合ってるんで、互いに保有しているスキル玉は把握している。
「今のところ、未確認のスキル玉はないか」
「浦部の叔父さんも利用してるなら、入れてくれると解るんだがな」
海外には反映されてないかも知れん。
「連絡が付けばいいんだが」
「そこら辺、運営に頼めんかな」
ただあれだ。
「運営とプレイヤーの距離感を考えると、難しいかも」
「そうか」
全体枠には〖無断の鈍器〗やら〖一点突破の突剣〗、〖黒刃の太刀〗なんかが表示されていた。
「〖天使〗や〖青猿〗なんかもあるけど、やっぱ召喚系は高いな」
「戦力が増えるってのは、大きな有利だし仕方ない」
他のゲームだと強さが固定されてて使えないって場合も多いんだけど、映世はスキルレベルで強化もされてくし、性能強化とかバフもちゃんとある。
「火矢に火矢法陣、剛撃に挟撃とか、俺らが持ってないのも多いな」
〖火矢〗
・弦を絞る時間で〖炎矢〗に変化する。
・貫通力の強化に突き刺さった位置の熱感と炎上ダメ。
・火矢MP消費(小)。炎矢MP消費(中から大)。
〖火矢法陣〗
・炎矢を地面に突き刺すことで、魔法陣が発生して範囲内の炎スキルを強化。
・冷却50秒(レベルで減少)。
・MP消費(大)
〖剛撃〗
・使用時に3秒間の身体強化
・武器性能強化。
・装甲内部に衝撃浸透。
・MP消費(中)
・冷却45秒(レベルで減少)。
〖挟撃〗
・二名がセットする必要あり。
・前後左右から同時に発動させることにより、対象の敵は動作阻害。
・守り3種低下。
・MP消費(中)。
「緑光の杖は今貸出中なんだな。そういえば健司はどうするか決めたのか?」
「全属性対応の杖にするってさ」
ケンちゃんが芝崎の報酬で杖の割引券をゲットした。最近は俺らがよく倒してるから、精神もけっこう保ててるようで良かった。
〔緑の杖〕でも〖緑光〗は使えるんだけど、他属性の杖スキルは無理だったりする。
1属性の杖は15万くらいなんだけど、全属性ってなれば50万近くかかる。
だから黄色のベストもさ、使用変更で〖黄の鎖〗はつけれるけど、〖黄剣〗は〔黄鋼の剣〕ってのが必要になった。
「俺は風刃を買って法衣の合成を+2にしたよ」
「そうか」
通常時でHPダメ(小)。突風消費でHPダメ(極小から大)って感じになってます。まだ割引券は2枚残っている。
「選択肢が増えて悩むな」
「本当にね」
手鏡が割れる機能もなくなりました。やったね。
・・
・・
宮内くんと別れ、服を脱いで浴室に入る。
普段、美玖ちゃんや宮内母。いや、これ以上は止めとこう。
「足を延ばせる風呂なんすげえわ」
ちゃんと身体と頭を洗ってから入ったよ。
「うぅ、緊張する」
落ち着かない。
ふだん美玖ちゃんや宮内母。いや、駄目だこれ以上は考えちゃ駄目だ。
「あっ やばい」
鼻血がでそうになったので、即座に浴槽から脱出しました。
上がり湯をして脱衣所にでると、ポケットティッシュが置かれてました。
「美玖ちゃんありがとう。でも凄い先見能力ですね」
てことは脱衣所にまで来たのだろうか。
「まさか覗かれてないよね」
美玖ちゃん最近は暴走気味だからな。
「さすがに自意識過剰だよ、何様だ俺は」
ティッシュを鼻につめるのって、本当は良くないんだっけ。
いつもはドライヤーって使わないんだけど、せっかくなのでお借りさせてもらう。
「お先に失礼しました」
「湯加減大丈夫だった?」
とっても良かったですとお礼をする。
「良かった。じゃあ三好さんに声かけてくるわね。お酒飲んでるから、気をつけるように言わなきゃ」
そう言って台所へと向かう。
リビングに居た美玖ちゃんが俺の方に来て。
「覗いてませんから」
「へい。あの、ティッシュ感謝です」
やっぱりと苦笑いを浮かべられた。
・・
・・
宮内の部屋に布団を敷きお邪魔することになりました。三好さんは客間ですね。
手鏡をいじくりながら。
「最近は精神バフにソケットが圧迫されとります」
白鎖《味方の精神安定強化》と《自分の精神強化安定》が別枠っぽくて、《自分と味方の精神安定強化》が欲しい。
偽りの神々にも《咎人のメイス中に精神保護強化》ってのつけてるから、いらないかもなんだけど。
「上位のも出て来たよな。戦意高揚が血沸肉躍、精神保護が不撓不屈だったか」
「黄色系にも勇気凛々とかね」
例えるなら総SP(精神ポイント)増加とかだろうか。まあここら辺はけっこう適当な例えですがね。
「精神安定は明鏡止水じゃなくて、心頭滅却なんだよね。神崎さんのあれ紛らわしいや」
《明鏡止水を得ようと心は決して燻らず・烈火に在ろうと心は研ぎ澄まされん》
「兵士召喚の熱感を耐えるのに、これら上位精神バフはぜひ欲しいな」
「まだまだ(極大)もそろってないし、先は長いや」
ハスクラはレベルマックスからが本番なんよ。
そんなやり取りをしていると、美玖ちゃんがノックなく部屋に入ってきて。
「どうですか、可愛いですか?」
「……へい、とっても」
パジャマ。
「えへへ~」
冬用のもこもこ。
「兄ちゃんお風呂入ってきなさい」
えっ 宮内行っちゃうの。
「お前、浦部を襲うなよ。ここ俺の部屋だからな」
「そんなことしません、もう兄ちゃんさっさと行けっ!」
どうしよう。
宮内が準備を始めてしまった。
「浦部さん浦部さん、私の部屋みませんか?」
「え、いやその」
「困ってるだろ」
宮内。
「私のアルバムあるんですよ」
み、みたい。ここに持ってくるじゃダメだろうか。
「浦部、そんな顔すると俺も困るんだが」
俺そんなに分かりやすいか。
「なにもしませんって」
「お前、父さんや三好さんも居るんだからな」
兄を睨みつけ。
「私をなんだと思ってんの」
宮内はそそくさと出ていった。兄弱し。
「じゃあ私の部屋に行きましょう」
「あの、その」
俺に手を差し出してきた。
「なにもしませんってぇ」
でも美玖ちゃんダンスのとき、そう言ってさ。
「あれはほら、ダンスの一環と言いますか」
ばつが悪そうな顔してんじゃん。
「つい我慢できなくなっちゃって」
でも美玖ちゃんの言う通り、可愛いって思っちゃうんだよな。
本当に困ったもんだ。
俺弱し。
恋愛脳だけは、本当に避けたいんだよ。
「じゃあ、せっかくなんで見せてもらおうかな」
「はいっ」
笑顔がもう心臓にドキュンとくる。
「こっちですこっちです」
なんとなくわかってるんだけど、美玖ちゃんは嬉しそうに案内してくれた。
シンプルな部屋で、宮内と少し似た感じでした。
でもメッチャ良い匂いするし、可愛いぬいぐるみもあった。
美玖ちゃんが本棚から取り出したアルバムを一緒に眺める。
子供のころの美玖ちゃん。テンテン体操もそうだったけど、本当にかわいかったです。
泣き顔も怒り顔も、笑い顔も。
なんか見覚えがあるくらいに。
「浦部さん私のお兄ちゃんで、お父さんみたいな感じだったんですよ」
「へえ、そうだったんすね」
兄だけじゃなくてか。
「勇者の剣って二代目なんです。おもちゃ欲しいってワガママ言って、浦部さん用意してくれたのに、こんなのいらないって投げ捨てたんです」
「そうなんすか。あれ渡したときに零れ落ちなかった残照?」
めっちゃ下手くそだったもんな。
美玖ちゃんはうなずくと。
「勇者になりたくなかったんです、それでお父さん死んじゃったから」
「なるほど」
勇者の村か。
「ごめんなさい」
「子供なんてそんなもんすよ」
映画館での兄と弟を思い浮かべる。
これは俺に対する謝罪でもないし、美玖ちゃん自身の謝罪でもないんだろう。
「同い年でした、私たち」
「……そっか」
彼の父と母も、たぶん死んでたんだろうな。
「お互い、今世の両親は大切にしませんとね」
「はい」
嬉しかったんだろうな。自分が必要とされて。
美玖ちゃんみたいな妹や娘がいりゃ、そりゃもう俺なら甘やかしちまう。
そうか。
だから、あんな焦ってたんか俺は。
成人したら、勇者の旅が待ち受けているとも知らずに。




