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そこに居たはずの誰かへ  作者: 作者でしゅ
9章 デートと文化祭
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8話 文化祭2日目

 兵士は最後に拠点にもどることを望んだけど、もし未練も無念もなかったらどうなっていたのか。

 ふとそんなことを考えたら、背筋がぞくっと嫌な感じがした。



 単純に強さでいえば太志の方が上だろうけど、精神の疲労という面だとまた違ってくる。


「細川君の前世はそんな予感がしてたんだよぉ、やっぱそうだったぁ」


 神崎さんは彼のいなくなった場所にしゃがみ込み、目をつぶって手を合わせる。


「彼は生きているけどな……前世と今世は別人か」


「意識は混ざるけど、混ざるからこそ違う人格だって断言するよ」


「私なんてお姫ちゃん以外はオーガだもん。しかも性別違うし」


 ケンちゃんもたぶん女性だよな。


「そう言えば浦部、手鏡で留め具を確認したか」


「おお、そうだそうだ」


 〔鋼の留め具〕が改良されると俺は踏んでいた。


「アイテムチェストの自分枠に入れてくれってさ」


「演出みたいなものか」


 まあ確かに、その方がなんか嬉しいかも。


「あの兵士が殺気とやらを使ってくれるんじゃないか」


「ならすげぇ嬉しいんだけどね」


 神崎さんは立ち上がると。


「私……あの攻撃、もう喰らいたくない」


 心を攻めてくる敵は他にもいるけど、それらは精神保護でなんとかなる。


「もしスキルであるなら、精神ダメ(極大)でしょうね」


 属性デバフも耐性だけじゃなく精神バフが重要だから、あれも精神ダメには入るか。


「生身で戦うなら、安定・保護・戦意高揚は今より欠かせない要素になるんだろうな」


 戦争は映像でしか知らないけど、よく命がけで戦えるよ。


「じゃあ報酬の確認にでも行くか」


「だねぇ」


 この場で受け取れんのはちっと面倒だ。



 一番近くのトイレに向かう道中、男子生徒の影が出現する。


「あれ、芝崎くんだ」


「なんか辛いことでもあったのか?」


「……」


 今回は第一変化なので、いつもの槍使いではなく、魔導書らしきものを持ったローブ姿の女性。


「そう言えば委員長も兵士だったか」


「うんうん、戦ったことはないけどね」


 最近は精神が安定してるからか、本当に出現しなくなっていた。


「俺も覚えている。兵士の女性ってのは珍しくてな」


 冒険者風の女はけっこう見るんだけどね。


「鎧どんなでしたっけ?」


「うーん。すぐに切り替わっちゃうから、そこまでは記憶にないよぉ」


 装備の切り替えができる世界と、たぶん俺が勇者の護衛だった世界は要注意だ。平均戦闘力が高くて、一般の敵でもけっこう強い。


 追加で数名の影も出現したので、俺たちは得物を構える。


・・

・・


 こちらよりめっちゃ多かったりしなければ、もう数値0で一般の敵に苦戦することはない。


 今回も俺らより3人多かったけど、問題なく対処はできた。


 男子トイレにて。

 まずは宮内がチェストを開けて中の確認をする。


「ビー玉だけだな、でも悪くない」


 仕込み短剣・攻守の浮剣《衝撃と圧力増加(合体数に比例)・回転した仕込み短剣が障壁を発生させる(合体数に比例)》


「ただな、もう守護盾に振ってしまった」


「マジかぁ」


 仕込み短剣は2。浮剣が+1。


 守護盾は味方が受けたHPダメの2/1を彼が引き受けるも、総HPが20%以下にはならない。


「でもやっぱ持ち越せるとしたら、比例系だよね」


「最初から(極大)が使えれば別なんだがな、多くのゲームはそこら辺を調整される」


 運営からはまだ名言されてないけど、俺もそうなるんじゃないかと推測しています。


「どれどれ、そんじゃ俺も確認させてもらうか」


 蓋裏の鏡には〔鋼の留め具〕を自分枠に入れろと書かれていた。


「ではさっそく」


 手鏡で取り外すと、ベルトに巻かれていた留め具が消え、鏡面から出現する。


 それを投入すれば銀色の光が箱内から溢れだす。


「この演出はそそるな」


「うんうん」


 〔玉鋼の留め具〕浦部専用。


 〖銀の鎖〗 無色の鎖と同文。


 ・巻き取り時に銀の滑車を可動させなかった場合は、実体のない〖銀の原罪(兵士)〗に変化し、指定した対象に研ぎ澄まされた殺気を放つ。


 ・巻き取り時に銀の滑車を可動させた場合は、滑車と使用者の位置が入れ替わり、〖銀の原罪(武者)〗が物理攻撃を仕掛ける。


 〖牢獄〗発動時に〖無常蛍〗が舞う。

 ・15秒間、範囲内の味方に変化のバフ(中)。

 ・秒間HP回復(小)

 ・火耐性(中)

 ・使用者は阿修羅の加護を得て、怒りの炎をまといHPダメ(中)。

 ・体温に比例して身体強化(極小から中)。


 ・名を呼ぶことで滑車が〖兵士〗に変化して、6秒間(牢獄の鎖数)戦ってくれる。

 〖悟りの炎〗 灯滅せんとして光が増す。火属性限界突破。

 ・ただし召喚すると10秒熱感(最強)を受ける。もし治癒した場合は疲労(中)に変化。


  宮内君が手鏡を覗きこんでいた。


「やばいな」


「牢獄主体にしたほうが……いや。繋げられるかも知れん」


 最強の熱感を受けている間、2人の兵士に守ってもらう。その後は各色の原罪を呼び出して、最後に白の鎖を解除。


「精神バフをできる限り盛らんとな」


「めっちゃ辛そう」


 どうしようと考えていたら。


「みてみてぇ」


 呼ばれてそちらに向かうと、女子トイレの前で神崎さんが立っていた。


「面頬ゲットしたよぉ」


「……」


「……」


 〔闘魂の額当〕と〔面頬〕を装着した制服姿の女子高生。


 精神的にとても疲れたので、この日はもう活動を終了することになった。

 

・・

・・


 翌日。

 隆明は太志に連絡したようで、発火イグニッションを賭けてのベイゴマバトルをすることになったらしい。

 それで全部水に流すんだと。


 だから俺は見届け人として、早めに登校する。


「では行きますぞ」


 竜巻トルネードを構える隆明。


「……おう」


 不動マウンテンは動かざる山の如し。


 それぞれが糸を巻き、床を挟んで向かい合う。


「「ゴーシュウっ!!」」


 火花は散らないけど、心の目で見ればそれはもうバッチバチですよ。


「今です、ハリケーンボンバー!」


 心の目では竜巻が発生して、不動マウンテンを呑み込んでいた。


「させんっ マウントフジヤマ!」


 ベイゴマの上部に雪が積もり重量が増加する。もちろん心の目だ。


「くっ」


「押し退け!」


 回転が弱まった竜巻トルネードに不動マウンテンが突進を仕掛けるも、寸前でクルっと回避に成功した。


「隙ありっ!」


 落ちることなくギリギリ隅を動いていた不動マウンテンに、竜巻トルネードがぶつかって落っこちる。


「いい勝負でしたな」


「ああ」


 こうして決着がついた。



 気づくと、数名の生徒がこの勝負を見守っていた。


「そういやベイゴマ体験だったか。なんかすまんね、昨日は熱中してて忘れてたわ」


「んで、どうやってやんのよ」


 色々あったが、俺たちの企画したベイゴマ体験会は無事に本来の目的を達成しそうだ。


「良かったな隆明」


「ええ」


 落ち武者は修羅には堕ちてない様子だったし、今世のお前も武芸にゃまったく興味がない。

 無念は残っていたけど、剣に関しては自分なりの答えが出せたからだろう。


 妄執からは解放されたんだと考えたい。


・・

・・


 一般客は生徒が家族や友人にチケットを渡すんだけど、母やお師匠たちは別枠だ。手伝ってくれるわけだし。


「お待たせー」


 委員長を先頭に女生徒が教室へと入ってくれば、そこはまさに別世界。


「素敵っすね」


「でしょぉ」


 着たいと願った当人なのだから、嬉しさも一押しだ。昨日の容姿を見ているので、ギャップも凄まじいです。


 満足気な母とお師匠たちに挨拶をして、ふと教室を見渡せば太志と委員長が向かい合っていた。


「おうおう顔真っ赤にしちゃって」


 彼女は着物に割烹着姿だった。

 俺は1人の男子生徒へと近づく。


「……」


「俺の言葉じゃ慰めにもならんか」


 苦笑いを浮かべて。


「浦部は2年になってから、周りが華やかになってるからね。でもありがとう」


「隆明ならきっと、お前の苦悩を共有できるかも知れん」


 クラスは知ってるとのことだったから、ベイゴマ体験会についても教えておく。


「そうか」


 失恋なのかどうかは彼が決めることだ。諦めるのか、まだ思い続けるのか。


 

 そんなこんなで俺は椅子に座り、今日の出番に向けて精神を落ち着かせていたら、里中君の彼女さんに話しかけられた。


「これ着せてもらっちゃって。なんかお姉さんに申し訳ない気もするんだけどさ、すごく嬉しい」


「俺からも感謝していたって伝えてくれ」


「大丈夫だよ。家の姉ちゃんは弟以外には優しいから、逆に喜ぶんじゃないっすかね」


 本人も了承済だし。


「それにも詩吟の発表会で、中学の時に着用したこともあったんで」


 里中の彼女さんが照れくさそうに。


「そっかあ」


「写真寄こせって言われてるから、2人並んで一枚良いっすかね」


 了承を貰ったので、スマホを取り出してハイチーズ。


「その、浦部先輩が着てる写真もってたりする?」


「いやすんません、ないっすね」


 姉のを欲しがるとは予想外だった。

 送信すると既読がついたので。


「直接やりとりします?」


「えっ 良いの」


 そんなこんなで電話をすると、2人は話が弾みだしたので、直接メッセージを交換したようだった。


「ありがとうな浦部」


「いえいえ、話しつないだだけなんで」


 彼女さんの名字を教えてくれとは聞けない俺であった。


・・

・・


 校内アナウンスと共に、一般のお客さんが沢山押し寄せてきた。


 昨日とは異なり、様々な客層が舞台上の俺へ注目している。

 声がひっくり返りそうになりながらも。


「ってなこんで、衣装代節約のために無理やり引っ張り出された次第です」


 そこで楽器が割り込んできた。お師匠たちに視線をやってから。


「あしまった。緊張のあまり昨日の出だし使っちゃった」


 もちろん事前に言ってあるので問題はなく。笑いもとれたので成果は上々。


「皆さん、どうか詩吟教室、詩吟教室をよろしくお願いします。若い子が良いとのことですが、金さえもらえれば年齢は問わないとのことです」


 緊張がやばくて、もうなに言ってるか分かんない。


「このたび吟じさせてもらう[九月十三夜陣中の作]ですが、みんな大好き上杉謙信公が戦の最中、月を眺めて故郷を思う武将の心情を歌った詩になります」


 なんかまた校長先生いるんだけど。


「ところで話は変わりますが、皆さんこんな言葉をご存じでしょうか」


「浦部ぇ 長いぞー、さっさと始めろぉ」


 太志はいないので今回は巻島さんにお願いしました。


「ってここまでが御約束なんでしょ、昨日も同じセリフ頼まれたし」


「それ言っちゃ駄目ですって」


 はい。ここまでが御約束です。


 けっこう笑いも取れて、そろそろかと唾を呑み込むと、一般のお客さんが。


「言葉も聞かせてくれぇ」


「いやいや、考えてないっすよ」


 もっと笑いがとれて良かったですはい。


「さて。それでは醜態をさらす時がやってまいりました。しかも今回は立派な演奏付だから、もうたまったもんじゃありませんわ」


「頑張れ詩吟後輩」


「頑張れー」


 お客さんもかなり乗ってくれてるな。


 手を上げて感謝をしたのち、咳ばらいを一つ決め。


「上杉謙信公・九月十三夜陣中の作」


 母が紙をめくると、昨日と同じく現代語訳。


「霜ぉはぁああ 軍営にぃ満ちてぇえぇええ 秋ぅ気ぃいい清しぃぃいい」


 霜が陣営に満ち、秋の澄んだ気配が身にしみる。


「数行のぉぉおぉ過雁んんぅん 月ぃぃいぃい三更ぉぉお」


 雁が列をなして飛び、真夜中の月が冴えわたる。


「越山んぅぅん 併せ得たりぃぃいぃい 能ぉ州のぉぉおぉぉ景ぃぃいぃぃ」


 目の前には越後・越中の山々、そして今手に入れた能登の景色が広がる。


「遮ぉ莫あれぇぇええ 家郷ぉおぉぉおお 遠んぅ征をぉぉをぉぉ憶うぅぅ」


 故郷の家族は案じているだろうが、もはやどうしようもない。さあ、今宵は宴を盛大に祝おう。



 なんとか吟じ切り、深くお辞儀をすれば、大きな拍手をもらい安堵の表情で教室内を見渡す。


「……」


 そいつと目が合えば、一度彼は視線を落としたのち、帽子をとって再びかぶり直す。


・・

・・


 俺に会いに来たのかどうか分からなかったが、様子からしてそうなんだろう。


 気分は乗らなかったが、なにか理由があってわざわざ出向いたはず。


「久しぶりっすね、大城くん」


「ああ、浦部も元気そうじゃんか」


 しばらく沈黙が続き。


「ちょっと話せるか、お前の時間が空くまで、そっちの廊下で待ってるから」


「俺の役目って詩吟だけだから、もう行けるよ」


 そうかと席を立てば。


「あれぇ、浦部君の知り合い?」


「ええ、中学の同級生っす」


「ども」


 帽子のつばをもって、また顔を隠すように頭をさげた。

 ちょっとだけ頬が赤くなってたな。


「ちょっと外した方が良いみたいだね、ほらサトちゃん行くぞ」


「えぇ、なんでさぁ」


 巻島さんが引っ張って離してくれた。


「めっちゃ可愛い子たちだったな」


「っすね」


 そちらに意識を向けながらも、彼は教室をあとにした。


 背中を見るだけでも、中学のころよりガッシリしてる。


「そのなんだ、急に来てすまんかった」


 俺と同中の誰かにチケットを貰ったんだろう。


「お前があんま会いたくないのも知ってる」


 誰も連れずにこういう場所にきた。嫌われていると自覚している相手と話すため。


 恋ってのは時に人を狂わせる。

 本当は分かっていたさ。こいつはたぶん雫さんが関係しなければ、こういう奴だったんだろうって。


「自分でもなんで、浦部にあんな突っかかってたのか説明ができないんだ。悔しいって感情だけは理解してるんだが」


「同じ人に惚れてたとかかねえ?」


 首を傾けてから悩む動作に移るが、本人としては分からないといった様子だった。


「お互い、ちょっとは別の角度から物が見えるようになったんかもね」


「どうかな。高校入ってから、部活しかやってねえからわからん」


 こいつがその気になれば、クラスの全男子が敵に回っていても不思議じゃなかったのよ。もっと俺の中学時代を真っ黒に染めることも可能な立場と言うべきか。


「原因は兎も角として、たぶん俺が真っ向から、君と向かい合わなかったのが理由だよ」


「……」


 実際に彼と仲が悪いといった理由で、俺にちょっかいを出そうとした男子もいるけど、それを許さなかったのはこいつだったりする。


「ただね、ちょっと勘違いしてるかもよ。お前なんか眼中にない、相手にしないってのとはちゃいます」


 果たして納得してくれるだろうか。


(はな)から無理だ勝てねえって諦めてたんです」


「そうか」


 別に殴り合いとかじゃない。彼が求めてたのはライバル関係だ。


 砲丸投げってさ、下手すりゃ肩や肘を壊すじゃん。そんなリスクを背負ってまで、俺と競いたかったんだよ。彼ってピッチャーなのにさ。


「今さらかも知れんけど、勝負しますかい。俺が有利そうな条件で良いなら」


「……おう、乗った」


 んじゃついて来てと先を行く。


「お前、けっこう運動してるんだな」


「最近はね」


 今度はさっきの逆で、こちらの変化を感じ取ったらしい。


「詩吟は良くわからねえけど、その前の喋りは大したもんだって思ったよ」


「ありがとう。皆で考えたんだけどね」


 少し笑い声が背後から聞こえる。


「堂々としゃべってたことに対してだ。俺には真似できねえ」


「そっか」


 やがて中庭に到着する。


 ベイゴマ体験会だけど、一般のお客さんも加わって、けっこう賑わっていた。

 なぜか校長もいる。


「おいおい、もしかして勝負ってあれかぁ?」


「そうそう」


 指を鳴らし。


「俺も田舎のガキだぜ」


「あっ マジ」


 経験者でした。


・・

・・


 負けましたぁ。でも隆明が仇を取ってくれたよ。


「今日は1人で来たのかい?」


「あぁ。この後はチケットくれた奴んとこ顔だす予定だ」


 荒木場じゃどうか聞けば。


「2年でベンチには入れたが、正直いつ奪われるか分かんねえ。怪我で俺に順序が回ってきた感じだし、1年で伸びて来てるのも数人いる」


 こいつでもそうなのか。


「怪我には気を付けてね」


「お前、なんか雰囲気変わったな」


 最近よく言われます。


「人付き合い、けっこう頑張るようになったからかな」


 俺が荒木場を活動場所にしようって気になったのも、ある意味だとこういう視野を持つ余裕ができたからか。


 彼がチケットを貰った友人のクラスまで案内して、俺らはまたなというやり取りをしたのち別れた。

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