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そこに居たはずの誰かへ  作者: 作者でしゅ
二章 マキマキギャル(?)・槙島真希編
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1話 初心者案内


 翌日、約束の時間に駅まで宮内を迎えに行った。


「こんちわ」


「世話になるな」


 初心者専用だし、あまり気負わなくて良いと伝え、バス停に並んで待つ。他の客は婆さんくらいだ。


「どんくらい活動できそう?」


「部活の代わりに塾を始めたから毎日は無理だな。でもそんな入れてないし、前よりはずっと暇な時間が多いよ」


 火木土の三日とのこと。


「今まではサッカー中心だったのに、下手すりゃトップ目指せんじゃない?」


「どうかな。神崎は手強い」


 苦笑いを浮かべていた。さすが宮内、あの娘とも仲が良いようだ。


「ここらで映世に移っても、意味ないんだよな?」


「安全なのは(やしろ)周辺でしか出現しないからね」


 しばらくするとバスが停車し、空気の抜ける音と共に扉が開く。

 お婆さんの乗車を手伝うとか本当にイケメンだね。


・・

・・


 やはり車は速い。そんな時間もかからずに廃校舎へ到着した。


「こんな場所もあったんだな、良い情報を得た」


 なんだ宮内、デートにでも使うつもりか。

 俺は許さんぞ。中心地に行け中心地に。


 ちなみに県庁所在地より、大型ショッピングモール周辺の方が都会だったりする。一応県内で活動する最終目的地はそこだ。


「地元でもないと、普段はこっちこないか」


 1階がカフェで、2・3階には資料や小学校時代の写真・教材・体育道具が展示されている。


「給食かぁ、中学以来だな」


「俺もだ」


 昼時はカフェじゃなくて食堂になる。

 さすがに銀色の器じゃなかったけど、久しぶりの給食っぽい昼飯を済ませた。


 窓からは少し荒れた校庭が窺え、数名の子供がサッカーボールを転がしている。

 会話をしながらの食事中も、宮内はその光景を眺めていたが、あの夕焼けとは別だなって感じた。


・・

・・


 食後の休憩を挟み、俺らは校舎裏から山道に入る。距離としては10分ほど、目的の社へとたどり着き、さっそく例の青銅鏡と対面する。


「これが全ての切欠なんだな」


「まじでビビったよ、最初」


 左右の扉を開いた先にあったのは清んだ鏡と、壊れた錆びついた残骸。


「あぁそう言えば、自宅の姿見で換金画面確認できたぞ」


 昨日説明書でそれを知った時は驚いていた。

 あまり期待しないよう、出ていく要素が多いとはちゃんと教えてあります。


「残念ながらランダム合成ってのは無理だったよ」


「こっちでも試してみる?」


 青銅鏡でも彼の操作では開けなかった。


「やっぱ一定額の換金が条件か」


「だねぇ」


 換金する宝玉はこれから仕入れなくちゃいけん。


「んじゃ、準備はそろそろ良いかい?」


「あぁ~っ、緊張してきた」

 

 宮内はすでに手鏡を持参している。妹に良いのがあったら貸してくれと頼んだら、すこし元気になったみたいだだし、お祝いだってもらったらしい。

 なんか羨ましいんですけど。


「1年生だっけか?」


「そうそう」


 宮内の妹とくれば、俺の耳に入るくらい話題になるのはそりゃね。入学したばかりだし、まだ見たことはありませんが。

 家族としても嬉しかったんだろう。


「じゃあ早速、映世とやらへ」


「始めていく場所だと、ちゃんと鏡を操作して移るのをお勧めするよ」


 互いに鏡面を触り、映世に移りますかという文字をタップ。


・・

・・


 武具名はそのまんまだが、〔騎士の片手剣〕と〔騎士の中型盾〕だった。

 スキルは黄剣とパッシブの2つ。


 社はセーフゾーンなので、その場から移動していると。


「来たぞ」


 闇ではなく、草むらに光りが発生すれば、そこに社専用の敵が出現した。


「良し」


 唾を飲み込んで、気合を込めてから道を外れる。


 木製の棒人間で、間接部が丸いゴムみたいなものとなっている。得物は持っていないので、そのまま殴りかかってくる。


 最初だから仕方ないが腰が引けてんな。でも本来の運動神経を活かし、なんとか拳打を躱していく。ドリブルとか役に立ってんだろうか。


「試しに一度殴られてみると良いよ、HPっての体験しないと解らんから」


「そっ そうか。了解した」


 俺は枝先で手の甲を引っ搔いて試したんだけど、そうすりゃ良かったか。


 宮内は剣を持った前腕でゴム状の拳を受ける。するとその部位が薄く光った。


「……へぇ。これが」


 そこからは見るからに動きが変化する。

 攻撃は仕掛けず、慣れるためか盾の使用や回避に専念してるようだ。


 落ち着いた口調で。


「先にスキル試しとくべきだったな」


 しまった、俺も忘れてた。

 古本に書かれてるから、使い方は知っているはずだけど、一応ここでも伝えておく。


「対応する武器に意識を集中して。〔剣〕に向けて心の中で黄剣って語り掛ける感じ」


 〖黄剣〗 剣専用。電気を帯び、命中位置に確率で弱の感電を付与。身体が黄く光りスタミナを強化(極小)。徐々にMP消費(極小)。

 白盾と合わせることで、マントのエフェクトをまとい、素早さと動体視力を強化(極小)。


・・

・・


 それからも数度の戦闘を繰り返す。


〖勇気を胸に〗 総HP増加(小)。HPMP秒間回復(極小)。身体強化(極小)。

 HP0になると戦意高揚。痛み緩和。防御力強化(中)。身体強化が(極小~小)


「すまん、先に精神保護のを渡せばよかった」


「人に教えるのも初めてなんだ、色々と不備がでるのは仕方ないさ」


 例外もあるけれど、共用可能なビー玉。

 パッシブ《精神保護・攻撃命中時にHP回復(極小)》をセットしたことで、安定感はさらに増した。


「強力だけど、HP切れてからが本番かぁ。こっちにする?」


《死亡時に肉体を再生して復活。冷却1週間》

 宮内はこれを受け取って内容を確認。


「いっ、いや。そんな勇気はちょっとないかな」


「だよねぇ」


 俺は春休みをここで活動したけど、途中から全然レベルが上がらず。今は一人でもないわけだし、明日からはもう学校にするか尋ねれば、そうしてみるかとの返事をもらった。


・・

・・


 夕方となり、とりあえず一緒にバスで駅に向かう。

 通路を挟んだ向こう側の座席。


「宮内君、ちっと聞きたいことがあるんだが」


「別に呼び捨てでも良いぞ」


 なんだと。


「それは駄目だ。俺の沽券にかかわる」


「まっ、まあ別に良いけど」


 自分の胸を指さし。


「お前の観点からでいいから、もし精神的に追い詰められてそうな相手がいたら教えてくれ」


 交友関係は俺よりもずっと広い。


「そうか。同じ目に遭う危険が高いってことだよな……お前呼びは沽券にかかわらないんだな、別に良いけど」


 人助けは俺にとって活動の中心じゃない。


「そりゃ手の届く範囲なら、出来ればなんとかしようともするさ。ただ事前に防ぐってのは難しいと思う」


 原因の改善なんて簡単にできることじゃない。


「相手の人生に踏み込んでたら、それこそ切りがないよ」


 映世に出現した対象を倒す。


「一時的に気分を晴れさせるだけでも、十分な意味はあるはずだ」


 宮内は腕を組んで考えこむ。


「そうだなぁ……槙島真希って生徒知ってるか?」


「神崎さんと仲が良い娘だよな」


 学校に許可をもらうとか話してたはず。昨日も家族関係で出かけてた。


「家庭環境が悪かったりすんの?」


 映世での活動があるため言うけれど、他言は控えてくれと頼まれてから。


「良くある反抗期で父親とは中学卒業ころまで一方的に嫌ってた。今もちょっとギクシャクしてるそうだ」


 本人から聞いた話とのことで信憑性は高いか。


「癌になったらしくてな。手術そのものは成功したけど、あの病気って転位とか再発があるだろ」


 臓器によっては5年・10年後の生存率は何%って感じだっけ。


「そうか」


 だとすりゃ事前に防ぐとか、それこそ無理そうだ。


「もしかしたら次の検診で再発する可能性がある。そういったのが積み重なっていく」


「やっぱ人の悩みを払拭するなんて簡単にゃできんわ」


 宮内の場合は映世での活動と相性が良かった。あの世界なら普通に動き回れるし、上手く行けば完治だってするかも知れん。


「存在が消えてからの対策を考えとくか。何処に迷い出るか」


「槙島にとって印象の深い場所」


 サッカーをできなくなった宮内が迷い込んだのは、部活の練習場所として使っていた校庭。


「病院とかか。今も術後で入院してると聞いたが、場所までは流石にわからんな」


「昨日君と戦う前に、学校の最寄り駅で偶然あった」


 その内容を思いだしながら。


「普段関りないんだけどね。前に神崎さんから宮内の情報聞き出してたとき、少しだけ顔合わせたのを覚えてたのか、呼ばれて話しかけられたんだ」


「そうなのか?」


 宮内ってやつを知っているか尋ね、知らなかったから他校の生徒だと説明した。強豪校で周りも優秀な奴ばかりだから、なんか応援できないか考えている。


「神崎とは友人関係だったけど、やっぱ忘れられてたんだな」


「んで、今から家族の用事だって別れたんだけど、それがお見舞いなら大学病院とかじゃねえか?」


 癌の手術ができるとこは限られてる。設備の整った大きなところ。

 どこも学校からまあまあ離れた場所か。


「俺らのレベルだと、学校の周辺が限界になる。神社仏閣なんかは大鳥居ほどじゃないけど、似た効果はあるらしい」


 あとは教会とか、ある程度の力をもった新興宗教。


「もしものときそこまで遠出できるよう、今は少しでもレベル上げか。どこの病院に入院してるかは、前もって調べといた方が良いな」


 うなずきを返す。


「家の親戚が入院してるんだけど、巻島さんのお父さんはどこの病院なんだ。こんな切り出しでどう?」


「それ踏まえて、ちょっと考えとく」


 助かるわコミュ強。



 

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