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そこに居たはずの誰かへ  作者: 作者でしゅ
9章 デートと文化祭
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3話 兄弟

 ショッピングモールの2階。


 敵対者が杖を掲げれば【緑の輝き】が辺りを照らす。


「風属性か」


 薄くローブも【光】っている。

 変化だとすれば自分のバフを強化。


 転落防止柵へと飛び移り、〖一点突破〗で通路の合流地点にいる相手へと接近する。


 【光】が鎮まる前に風使いが杖を振るえば、広範囲に突風が発生し〖特攻〗の勢いを弱められたが、エスカレーターの最上部に無事着地。


「行かせねえ」


 相手が逃げの姿勢を見せたので、追いかけようとした瞬間だった。俺の背後からまた【風】が吹く。


「向かい風と追い風」


 姿勢を前に崩されたけど、咄嗟に片足をだして立て直す。

 顔を上げた瞬間だった。


「お前もか」


 装備の切り替え。


 【ローブの緑光】もまた、先ほどよりも強まっていた。


 両手剣より【突き抜ける風撃】が放たれ、咄嗟に〔小盾〕で防ぐもエスカレーターを転がり落ちる。


「くそ」


 HPがなけりゃ大怪我してたかもな。けっこうな量を減らされちまった。2階に戻れば相手は俺を確認しながらも、こちらから離れていく。


「逃げの戦法か」


 追いかけた先に待ち伏せとか、勘弁してくれよ。


「浦部くん大丈夫?!」


「問題ないっす」


 せっかくのソロ活中だ、手伝いは遠慮しておこう。


「頑張ってねぇ!」


「へい!」


 この先は一本道で、突き当たりにちょっと大きな家電販売所がある。


 敵はある程度の距離をあけると、俺を待ち構えていた。再び手には杖。


「次は光なしか」


 そのまま〖突風〗を放ってきたけど、先ほどよりも勢いが弱く感じた。


「風スキルの強化か」


 耐性を特化させているので、これなら問題なく凌ぎ切れる。


 続く風を想定して供えれば。


「今度は追い風なしかよ」


 【向かい風】を終えると、相手はそのまま得物を大剣に切り替えた。


 ローブの光が【輝き】にまで到達。


「そっちも風スキル強化か」


 【横断】の威力は以前戦った風使いよりも強力なものに変化していた。


 自分の右側に〖無色の鎖〗を出現させ、続けて放たれた【縦断】を〖巻き取り〗で避ければ、着地後の〖一点突破〗で接近する。


 敵は装備を〔鎧〕に切り替え【渦】を発動させたが、俺の突風に比べて性能はかなり低く、脇差の側面から妨害してくるが簡単に〖無断〗で突破できた。


「お前はどっちが本職だ?」


 見た感じだと、敵の鎧は所どころが刃になっていて、素手で殴ると怪我をしそうだ。

 本来【風刃の渦】って、こういう特殊な防具が必要なのかもな。


 俺も〖風刃の渦〗で対抗しながら、相手と切り結ぶ。


「接近戦は苦手っぽいな」


 複数の敵だったら、もっと苦戦してたはず。

 

・・

・・


 なんとか勝利をもぎ取れた。


「装備の切り替えができる敵は総じて強いな」


 ふと横を見れば、そこは映画館の受付だった。


「報酬が気になるから、ちょっと寄ってくか」


 入場口の脇にトイレがあるので、そこのチェストを開く。


 蓋の裏側に鏡が貼られており、操作することで自分枠の内容を確認できた。


「やった〖縦断〗ゲットだぜ、神崎さん喜ぶだろうな」


 横断と同じ値段なら、35万かな。とりあえず共有枠に期限なしで入れる。


 そうです。自分たちの意見が取り入れられました、嬉しいねえ。

 貸出価格は最低値が1日5000Pだけど、レベルが上がると変化もしてくるかな。


「いつかローンとか出てきたりしてね」


 専属契約して支払額がショップでの購入額を上回ったら、所有権変更とか。


 黒鎖の契約料を払わんといけないから、こういったシステムは非常に助かります。今のとこ仲間内でしかできないけど、これが全体になればまた違ってくる。


 まだスキル玉の報酬があった。


「〖緑光の杖〗か。こりゃショップで買わないとダメだ」


 うちらの中で得物が杖なのは居ないからね。巻島さんのエルフが装備してたけど、今はナイフと外套だしさ。


「……これはこれは」


 風だけじゃなくて、火属性のスキルも強化してくれるんだと。

 スキル枠付きの杖は45万ほどだったかな。


 報酬のビー玉はっと。

 赤鎖《味方に使うと火耐性強化(大)・敵に使うと火耐性強化(中)》


 敵の耐性上げちゃ駄目だろ。


 俺がサポートだけに集中するなら十分ありなんだけど、ソケット枠が足りんのよ。

 味方の〖滑車破壊〗でも耐性強化は可能なんで、これは見送りだな。



 ずっと悩んでいた選択スキルだけど、〖巻き取り〗を2段階まで改良しました。


 〖滑車破壊〗は2つ連続で壊せて、味方のも破壊可能。

 〖巻き取り〗は〖牢獄〗を3方面から発動できる。


 もしかするとこれで俺の選択スキルは頭打ちかも知れん。姉ちゃんと同じ回数だとすれば、もう習得を含めて6回だからね。

 人によって改良回数は違うかもだけどさ。


 宮内は〖仕込み短剣〗の3つ目を狙うか、〖守護盾〗を改良していくか悩んでますね。



 軽く休憩もとったので。


「ちっと映画館のほうにも行ってみるかな」


 入場口を通って、長い直線の通路を進んでいく。


「ここからじゃ仲間呼んでも声が届かんな」


 手鏡でメッセージ送れたりすれば、いざってときに救援呼べるかもだけど。


 左右の扉は場所ごとに上映作品が異なる。


「映画でも良いか」


 デートで恋愛もの観るとか、鼻血でそうなんすけど。



 そんなことを考えていると、目前に人の影が出現した。


「お兄ちゃんか」


 地面には散らばったポップコーン。


「弟は出てこないんだな」


 なんとなく想像すれば弟が持ちたいと言って、上映場所に向かってる途中で落としちまった。


「大泣きしたんだろうか」


 ストレスの発散だ。所かまわず泣ける小さな子供より、それを宥める兄ちゃんの方が困ってるんだろう。

 やがてポップコーンと共に彼は闇に包まれる。


 俺はメイスと盾を構え、戦いに備えた。


「え」


 赤黒い髪は短く、顔には酷い火傷の痕。

 目つきが異常に悪く、三白眼ってやつだ。

 服装も黒を基準に所どころが赤で彩られている。

 左腕にのみ、禍々しい血鋼のガントレット。


「……俺?」


 全然似てないけど、なぜかその言葉が口から漏れ出た。


『特殊条件[勇者の護衛(火)]を満たしました、ユニーク形態に変化します』


 相手は闇に再び包まれる。


「……」


 服装は似た色合いだけど、両腕の肌が見えており、そこには刺青で文字が彫られていた。

 異世界人のはずなのに、なぜか所どころに日本語が混じっている。


「まあ太志も英語だし」


 右腕に《消せない炎》《魔力まとい貫通》ってのを確認できた。

 防護膜のことか。


 身長はさっきの奴より高く細身。

 顔が布で覆われている。

 得物は金属製の赤い槍で、そこまで長くない。


 そいつは俺をまっすぐに見つめ。


「おじさんが死際に言ったはずだ」


「……喋る敵」


 顔の火傷痕が疼く。いや、今はないか。


「黒魔法は絶対に使うなって。なのにお前は」


 悲し気な声だった。


「病でそのまま死なすべきだったのか。少しでも延命させようとした僕が間違っていたのか」


「あぁ、そうか」


 段々と意識が混ざってきた。

 傭兵司祭とは別だ。


 かつて居たその世界では、人類が白魔法を使い、魔族が黒魔法を使っていた。


「そもそも勇者の護衛なんて、精神に負担のかかること事態」


 故郷を旅立ち、実績を得て戦地に立つ。


 長く戦っていたが、俺は魔人病の症状が悪化して倒れた。

 最前線から離れ、ただ死を待つだけの日々。

 そんな時に襲ってきたのが、岩窟という兵隊を召喚できる魔族だった。


 こいつをそのままにして死ねば、次は勇者や水の護衛に手が伸びる。そう煽られて、絶対に使うなと言われていた魔法を使った。


「もう終わった物語なんだよ、兄さん」


「……そうだね」


 蜀の3兄弟みたいなもんで、誓いを交わした相手だ。

 あいつとあんたが望むのであれば、どんな形でも良いから、俺の死後に支えてくれと頼んでいた。


 相手は赤槍を構える。


「どうやら、戦わなきゃいけないみたいだ」


「そういう風に設定されてるからな」


 人がそうであるように、交わって子を成すものだと考えられていたが、それは大きな間違いだった。

 俺に火傷を負わせた男の予想。いや、願いは当たっていた。


「鎮魂を」


 自分の左右に〖赤と白の滑車〗を出現させる。


「火耐性に変更」


 【左腕】の文字が赤く光ると、【槍】の先端に火が灯った。


 突き出すと同時に圧縮された炎が【熱線】となって俺に放たれる。

 俺は横に回避し、着地と同時に床を蹴って接近。


 兄は突き出していた【槍】を引っ込めながら一歩さがり、柄を縦回転させて石突を俺に当ててくる。

 それを〖盾〗で受け止めながら、〖滑車〗より2つの〖鎖〗を放つ。


「体術じゃないんだね」


 赤は避けられたが〖白〗は命中。

 〖閃光〗の発動に成功。


 回避動作に移った隙をつき〖メイス〗で殴りかかったが、脛を蹴られ動きを妨害され、大きなダメージは与えられず。


「そうか」


 この人に目隠は効果が薄い。


「〖風刃の渦〗」


 突風を消費してHPダメを強化。


 槍使いは踏み込んだ靴の角度を変え、俺の足を蹴り払おうとしてきたが、その前に相手の脇腹へ〔小盾〕を叩きつけて姿勢を崩す。


「風魔法とは珍しい」


「俺たちの世界だとな」


 手の平がこちらに向いていた。《消せない炎》という刺青が光り、【炎放射】が俺に熱感とHPダメを喰らわせた。


「問題ない」


 それを無視して〖メイス〗を振るうが、手首を掴まれて止められる。


「お前が熱に怯まないのは分かってるよ」


 〖白の鎖〗が機能しているので、HPを奪っているため余裕はあった。


「体術は僕にも心得がある」


 そのまま手首を捻じられ、間接が連動して地面へと転倒させられる。


 【燃える槍】の切先が俺に向けられていた。片腕は未だ相手に固定されたまま。


「装備変更」


 盾を〔脇差〕に交換し、〖突風〗と共に〖無断〗で槍を払いのける。

 兄の手を捻じり返して拘束を解き。


「〖巻き取り〗」


 槍を床に突き立てて、大きく姿勢を崩すのを防いだが。


「これは厄介な」


 《引き寄せを使うと敵のMPを一気に吸収(大)》


 槍の炎が鎮火していた。


「消えない炎か」


 未だ俺の身体は炎上したまま。

 属性デバフを治癒しねえと消せないのか。白鎖は自分には使えない。


「ところでクロ君は居ないのかい?」


「あぁ、魂のレベルで混ざってるはずなんだかな」


 俺は〖黒の滑車〗を出現させると、ソケットから〖ポーション〗を抜き、蓋を開けて自分へと〖状態異常治癒薬〗をかける。


 槍使いは姿勢を立て直すと、赤槍を演舞のように振り回していた。MP回復か。


「だがボルガの野郎は居るぞ」


「……」


 布から覗く兄の目つきが鋭くなった。


 美玖ちゃんの場合は弱体化するけど、室内でも鞘が雲を発生可能。

 でも残念ながら雪は降らないんだよな。


 〖黒の滑車〗をメイスで〖破壊〗する。


「事前準備の暇はねえ、そのまま行きやがれデカブツ」


 巨体をひるがえし、俺たちとは逆の方向に走り出す。


「ボルガさんを打ち取ったのは彼の妹と元上官。そして僕だ」


「兄さん。あんたも、その戦いで死んだんだよ」


 邪魔をするために、相手は再び槍へ火を灯す。


「……そうか」


「させねえ!」


 俺は一点突破の構えをとるが。


「使用は控えるように言われてたんだけどね、今さらか」


 突然だった。槍使いが俺の前に出現すると、そのまま心臓を貫いてくる。


「……な」


 HPがあるはずなのに、槍が引き抜かれるとそこから血が溢れだす。


 意思を無視して口が動く。


「うろたえんな、こりゃ幻覚だ」


 【熱線】が俺の横を通り抜け、闇に紛れようとしたボルガに命中したと判断。


 いつの間にか目前にいた敵は消えており、もとの位置に戻っている。


「幻?」


 刺された位置はなんともないけど、精神の消耗がヤバい。

 これじゃ咎人のメイスは難しいか。


「意識を敵からそらしちゃ駄目だ」


 槍使いが迫っており、こちらへと切先を突き刺してくる。


《敵のHPを風刃で削るたび、突風の冷却が減少(小)》

 側面からの〖突風〗で弱められたが、俺自身が対応に遅れたのでHPダメはデカい。


 もう自分の発言かどうかわかんねえな。


「あんたもそりゃ同じだよ」


 側面から出現したボルガが左右の【角槍】を交差させ、槍使いの胴を挟み込むと、壁を突き破って映画館の座席ごと破壊する。


「こいつの属性強度は(中)だけど、〖渦〗の火耐性は健在なんでね」


 俺は急いで破壊された壁に位置取り。


「あんたは魔法陣の使い手だ。事前準備をさせてたらずっと厄介だったはず」


 《刺青》はその応用。本来は地面とかに前もって描いておき、さらなる強化を自分に与える。

 ビー玉みたいなもんだね。


 病の進行を防いでいたのも《魔法陣》だった。


「咎人のメイスが難しいなら、出し惜しみはしねえ」


 黒を除く〖全色の滑車〗を出現させ、未だ姿勢を立て直せない相手に全てを射出。


 与えた属性デバフの強弱はなんとなくわかる。

 熱感は(並)だけど、多分こいつは火耐性持ちだろう。


「ぐぅっ」


 悪寒は(強)で感電にも成功。

 幻の痛みだけど、偽物だって辛いことにゃ変わんねえ。


 槍に体重をかけて立ち上がると、相手は俺の滑車を見渡し。


「今のお前は、多くの仲間に支えられているんだね」


「そうだな」


 顔に巻かれていた布が解け、宮内並みのイケメンがそこには居た。


「火傷はないのか」


「赤の護衛は病を克服して、戦線に復帰したんだ」


 俺が死んだあと勇者と話し合って、そうすると決めたらしい。


 白の滑車がHPとMPを奪う。


「おじさんの娘は、向こうにいたのか?」


「ああ、水の大魔将がそうだ」


 土の護衛を殺して、俺と相打ちで死んだ岩窟も、3大魔将の一角。かつて国で名を馳せた、武具の名工だった。


 メイスを握りしめて走り出す。


「そうか、彼女が」


 槍使いは打撃を柄で受け止める。


「僕の弟は、黒魔法を使わなかった」


 迫害される病。

 実の弟は処刑された。


《同じ個体に2つ使える》


 義兄の左右後方に〖赤と黒の滑車〗を出現させ、容赦なく〖鎖〗を放つ。


 3方面からの〖巻き取り〗で〖鎖の牢獄〗に発生させた。


 電撃が全身を駆け巡り、赤黒い炎が浸食された凍える肉体を燃やす。

 《ビー玉》で属性攻撃を強化してないので、見た目ほどじゃないんだけど、HPは削り切れたか。


「終わらせよう」


 彼は〖黄の滑車〗を誰かに重ね。


「僕はあなたを愛していた」


 動作阻害に抗いながら、人類を裏切った〖黒の滑車〗を睨みつける。


「だけど、それと同じくらい……君が羨ましかったよ」


 俺は脇差を握りしめ。


「ごめんな……兄さん」


 心臓を突き刺せば、彼は抵抗もせず槍を手放し、俺の両肩を強く握り絞めた。


「次こそは、お前の傍で」


 しばらく視線が交わる。


「もう俺は大丈夫だから」


 眠ってくれと願っても、それでも兄はより深く、こちらを見つめ続けていた。


「いや……本当に孤独なのは」


 なんのことだ。


「待ってろ、今そっちに行くから」


 そんな言葉を残し、兄は闇に包まれて元の姿にもどった。


 寂しさを感じながらも。


「今世は弟さんと、仲良く暮らしてくれ」


 破壊した壁と座席の修理を終えると、通路にあるトイレへ向かう。

 混ざりあった意識は零れ落ちて、残照だけが微かに残る。


・・

・・


 通路にもトイレはあるので、アイテムチェストの確認に向かう。


 原罪になるのかとも思ったけど、〔留め具〕は出現しなかったし、いつも助けてクレメンスがいるからな。


 赤鎖・青鎖《同じ個体に2つ使える・自分または味方の体温に比例して身体強化》


「おお、これは嬉しい」


 蓋裏の鏡を確認していると、報酬はもう一つ。


「勇者の剣だってさ、すごいの出たな」


 さっそくタップすれば、チェスト内の空間が歪み、そこに手を突っ込む。


「なんじゃこりゃ」


 完全に偽物だろ。それどころか短剣サイズの木剣じゃねえか。


「しかも下手くそ過ぎんだろ」


 かなり歪な形だった。


 〔勇者の剣〕

 魔王紅蓮の心臓を貫いた木製の短剣。


「えっ 本物なん、これがぁ?」


 勇者適正のある人が使えるんだな。


「美玖ちゃんには追加スキルありか」


 神崎さんの蛍火みたいなもんだけど、〖???』になってて名称は不明。


「しかし勇者のお供だったんか俺って」


 ダメだな。

 前世の記憶が抜けており、繊細を思い出せねえ。


「途中で病死したんか」


 共有枠に木剣を入れようとしたが、直接渡してくださいとのメッセージが鏡面に描かれた。


 しょうがないので自分の枠に入れるか。


『11月3日まで取り出せません』


「……」


 なんで運営さん、デートの日を知ってんだよ。








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