3話 兄弟
ショッピングモールの2階。
敵対者が杖を掲げれば【緑の輝き】が辺りを照らす。
「風属性か」
薄くローブも【光】っている。
変化だとすれば自分のバフを強化。
転落防止柵へと飛び移り、〖一点突破〗で通路の合流地点にいる相手へと接近する。
【光】が鎮まる前に風使いが杖を振るえば、広範囲に突風が発生し〖特攻〗の勢いを弱められたが、エスカレーターの最上部に無事着地。
「行かせねえ」
相手が逃げの姿勢を見せたので、追いかけようとした瞬間だった。俺の背後からまた【風】が吹く。
「向かい風と追い風」
姿勢を前に崩されたけど、咄嗟に片足をだして立て直す。
顔を上げた瞬間だった。
「お前もか」
装備の切り替え。
【ローブの緑光】もまた、先ほどよりも強まっていた。
両手剣より【突き抜ける風撃】が放たれ、咄嗟に〔小盾〕で防ぐもエスカレーターを転がり落ちる。
「くそ」
HPがなけりゃ大怪我してたかもな。けっこうな量を減らされちまった。2階に戻れば相手は俺を確認しながらも、こちらから離れていく。
「逃げの戦法か」
追いかけた先に待ち伏せとか、勘弁してくれよ。
「浦部くん大丈夫?!」
「問題ないっす」
せっかくのソロ活中だ、手伝いは遠慮しておこう。
「頑張ってねぇ!」
「へい!」
この先は一本道で、突き当たりにちょっと大きな家電販売所がある。
敵はある程度の距離をあけると、俺を待ち構えていた。再び手には杖。
「次は光なしか」
そのまま〖突風〗を放ってきたけど、先ほどよりも勢いが弱く感じた。
「風スキルの強化か」
耐性を特化させているので、これなら問題なく凌ぎ切れる。
続く風を想定して供えれば。
「今度は追い風なしかよ」
【向かい風】を終えると、相手はそのまま得物を大剣に切り替えた。
ローブの光が【輝き】にまで到達。
「そっちも風スキル強化か」
【横断】の威力は以前戦った風使いよりも強力なものに変化していた。
自分の右側に〖無色の鎖〗を出現させ、続けて放たれた【縦断】を〖巻き取り〗で避ければ、着地後の〖一点突破〗で接近する。
敵は装備を〔鎧〕に切り替え【渦】を発動させたが、俺の突風に比べて性能はかなり低く、脇差の側面から妨害してくるが簡単に〖無断〗で突破できた。
「お前はどっちが本職だ?」
見た感じだと、敵の鎧は所どころが刃になっていて、素手で殴ると怪我をしそうだ。
本来【風刃の渦】って、こういう特殊な防具が必要なのかもな。
俺も〖風刃の渦〗で対抗しながら、相手と切り結ぶ。
「接近戦は苦手っぽいな」
複数の敵だったら、もっと苦戦してたはず。
・・
・・
なんとか勝利をもぎ取れた。
「装備の切り替えができる敵は総じて強いな」
ふと横を見れば、そこは映画館の受付だった。
「報酬が気になるから、ちょっと寄ってくか」
入場口の脇にトイレがあるので、そこのチェストを開く。
蓋の裏側に鏡が貼られており、操作することで自分枠の内容を確認できた。
「やった〖縦断〗ゲットだぜ、神崎さん喜ぶだろうな」
横断と同じ値段なら、35万かな。とりあえず共有枠に期限なしで入れる。
そうです。自分たちの意見が取り入れられました、嬉しいねえ。
貸出価格は最低値が1日5000Pだけど、レベルが上がると変化もしてくるかな。
「いつかローンとか出てきたりしてね」
専属契約して支払額がショップでの購入額を上回ったら、所有権変更とか。
黒鎖の契約料を払わんといけないから、こういったシステムは非常に助かります。今のとこ仲間内でしかできないけど、これが全体になればまた違ってくる。
まだスキル玉の報酬があった。
「〖緑光の杖〗か。こりゃショップで買わないとダメだ」
うちらの中で得物が杖なのは居ないからね。巻島さんのエルフが装備してたけど、今はナイフと外套だしさ。
「……これはこれは」
風だけじゃなくて、火属性のスキルも強化してくれるんだと。
スキル枠付きの杖は45万ほどだったかな。
報酬のビー玉はっと。
赤鎖《味方に使うと火耐性強化(大)・敵に使うと火耐性強化(中)》
敵の耐性上げちゃ駄目だろ。
俺がサポートだけに集中するなら十分ありなんだけど、ソケット枠が足りんのよ。
味方の〖滑車破壊〗でも耐性強化は可能なんで、これは見送りだな。
ずっと悩んでいた選択スキルだけど、〖巻き取り〗を2段階まで改良しました。
〖滑車破壊〗は2つ連続で壊せて、味方のも破壊可能。
〖巻き取り〗は〖牢獄〗を3方面から発動できる。
もしかするとこれで俺の選択スキルは頭打ちかも知れん。姉ちゃんと同じ回数だとすれば、もう習得を含めて6回だからね。
人によって改良回数は違うかもだけどさ。
宮内は〖仕込み短剣〗の3つ目を狙うか、〖守護盾〗を改良していくか悩んでますね。
軽く休憩もとったので。
「ちっと映画館のほうにも行ってみるかな」
入場口を通って、長い直線の通路を進んでいく。
「ここからじゃ仲間呼んでも声が届かんな」
手鏡でメッセージ送れたりすれば、いざってときに救援呼べるかもだけど。
左右の扉は場所ごとに上映作品が異なる。
「映画でも良いか」
デートで恋愛もの観るとか、鼻血でそうなんすけど。
そんなことを考えていると、目前に人の影が出現した。
「お兄ちゃんか」
地面には散らばったポップコーン。
「弟は出てこないんだな」
なんとなく想像すれば弟が持ちたいと言って、上映場所に向かってる途中で落としちまった。
「大泣きしたんだろうか」
ストレスの発散だ。所かまわず泣ける小さな子供より、それを宥める兄ちゃんの方が困ってるんだろう。
やがてポップコーンと共に彼は闇に包まれる。
俺はメイスと盾を構え、戦いに備えた。
「え」
赤黒い髪は短く、顔には酷い火傷の痕。
目つきが異常に悪く、三白眼ってやつだ。
服装も黒を基準に所どころが赤で彩られている。
左腕にのみ、禍々しい血鋼のガントレット。
「……俺?」
全然似てないけど、なぜかその言葉が口から漏れ出た。
『特殊条件[勇者の護衛(火)]を満たしました、ユニーク形態に変化します』
相手は闇に再び包まれる。
「……」
服装は似た色合いだけど、両腕の肌が見えており、そこには刺青で文字が彫られていた。
異世界人のはずなのに、なぜか所どころに日本語が混じっている。
「まあ太志も英語だし」
右腕に《消せない炎》《魔力まとい貫通》ってのを確認できた。
防護膜のことか。
身長はさっきの奴より高く細身。
顔が布で覆われている。
得物は金属製の赤い槍で、そこまで長くない。
そいつは俺をまっすぐに見つめ。
「おじさんが死際に言ったはずだ」
「……喋る敵」
顔の火傷痕が疼く。いや、今はないか。
「黒魔法は絶対に使うなって。なのにお前は」
悲し気な声だった。
「病でそのまま死なすべきだったのか。少しでも延命させようとした僕が間違っていたのか」
「あぁ、そうか」
段々と意識が混ざってきた。
傭兵司祭とは別だ。
かつて居たその世界では、人類が白魔法を使い、魔族が黒魔法を使っていた。
「そもそも勇者の護衛なんて、精神に負担のかかること事態」
故郷を旅立ち、実績を得て戦地に立つ。
長く戦っていたが、俺は魔人病の症状が悪化して倒れた。
最前線から離れ、ただ死を待つだけの日々。
そんな時に襲ってきたのが、岩窟という兵隊を召喚できる魔族だった。
こいつをそのままにして死ねば、次は勇者や水の護衛に手が伸びる。そう煽られて、絶対に使うなと言われていた魔法を使った。
「もう終わった物語なんだよ、兄さん」
「……そうだね」
蜀の3兄弟みたいなもんで、誓いを交わした相手だ。
あいつとあんたが望むのであれば、どんな形でも良いから、俺の死後に支えてくれと頼んでいた。
相手は赤槍を構える。
「どうやら、戦わなきゃいけないみたいだ」
「そういう風に設定されてるからな」
人がそうであるように、交わって子を成すものだと考えられていたが、それは大きな間違いだった。
俺に火傷を負わせた男の予想。いや、願いは当たっていた。
「鎮魂を」
自分の左右に〖赤と白の滑車〗を出現させる。
「火耐性に変更」
【左腕】の文字が赤く光ると、【槍】の先端に火が灯った。
突き出すと同時に圧縮された炎が【熱線】となって俺に放たれる。
俺は横に回避し、着地と同時に床を蹴って接近。
兄は突き出していた【槍】を引っ込めながら一歩さがり、柄を縦回転させて石突を俺に当ててくる。
それを〖盾〗で受け止めながら、〖滑車〗より2つの〖鎖〗を放つ。
「体術じゃないんだね」
赤は避けられたが〖白〗は命中。
〖閃光〗の発動に成功。
回避動作に移った隙をつき〖メイス〗で殴りかかったが、脛を蹴られ動きを妨害され、大きなダメージは与えられず。
「そうか」
この人に目隠は効果が薄い。
「〖風刃の渦〗」
突風を消費してHPダメを強化。
槍使いは踏み込んだ靴の角度を変え、俺の足を蹴り払おうとしてきたが、その前に相手の脇腹へ〔小盾〕を叩きつけて姿勢を崩す。
「風魔法とは珍しい」
「俺たちの世界だとな」
手の平がこちらに向いていた。《消せない炎》という刺青が光り、【炎放射】が俺に熱感とHPダメを喰らわせた。
「問題ない」
それを無視して〖メイス〗を振るうが、手首を掴まれて止められる。
「お前が熱に怯まないのは分かってるよ」
〖白の鎖〗が機能しているので、HPを奪っているため余裕はあった。
「体術は僕にも心得がある」
そのまま手首を捻じられ、間接が連動して地面へと転倒させられる。
【燃える槍】の切先が俺に向けられていた。片腕は未だ相手に固定されたまま。
「装備変更」
盾を〔脇差〕に交換し、〖突風〗と共に〖無断〗で槍を払いのける。
兄の手を捻じり返して拘束を解き。
「〖巻き取り〗」
槍を床に突き立てて、大きく姿勢を崩すのを防いだが。
「これは厄介な」
《引き寄せを使うと敵のMPを一気に吸収(大)》
槍の炎が鎮火していた。
「消えない炎か」
未だ俺の身体は炎上したまま。
属性デバフを治癒しねえと消せないのか。白鎖は自分には使えない。
「ところでクロ君は居ないのかい?」
「あぁ、魂のレベルで混ざってるはずなんだかな」
俺は〖黒の滑車〗を出現させると、ソケットから〖ポーション〗を抜き、蓋を開けて自分へと〖状態異常治癒薬〗をかける。
槍使いは姿勢を立て直すと、赤槍を演舞のように振り回していた。MP回復か。
「だがボルガの野郎は居るぞ」
「……」
布から覗く兄の目つきが鋭くなった。
美玖ちゃんの場合は弱体化するけど、室内でも鞘が雲を発生可能。
でも残念ながら雪は降らないんだよな。
〖黒の滑車〗をメイスで〖破壊〗する。
「事前準備の暇はねえ、そのまま行きやがれデカブツ」
巨体をひるがえし、俺たちとは逆の方向に走り出す。
「ボルガさんを打ち取ったのは彼の妹と元上官。そして僕だ」
「兄さん。あんたも、その戦いで死んだんだよ」
邪魔をするために、相手は再び槍へ火を灯す。
「……そうか」
「させねえ!」
俺は一点突破の構えをとるが。
「使用は控えるように言われてたんだけどね、今さらか」
突然だった。槍使いが俺の前に出現すると、そのまま心臓を貫いてくる。
「……な」
HPがあるはずなのに、槍が引き抜かれるとそこから血が溢れだす。
意思を無視して口が動く。
「うろたえんな、こりゃ幻覚だ」
【熱線】が俺の横を通り抜け、闇に紛れようとしたボルガに命中したと判断。
いつの間にか目前にいた敵は消えており、もとの位置に戻っている。
「幻?」
刺された位置はなんともないけど、精神の消耗がヤバい。
これじゃ咎人のメイスは難しいか。
「意識を敵からそらしちゃ駄目だ」
槍使いが迫っており、こちらへと切先を突き刺してくる。
《敵のHPを風刃で削るたび、突風の冷却が減少(小)》
側面からの〖突風〗で弱められたが、俺自身が対応に遅れたのでHPダメはデカい。
もう自分の発言かどうかわかんねえな。
「あんたもそりゃ同じだよ」
側面から出現したボルガが左右の【角槍】を交差させ、槍使いの胴を挟み込むと、壁を突き破って映画館の座席ごと破壊する。
「こいつの属性強度は(中)だけど、〖渦〗の火耐性は健在なんでね」
俺は急いで破壊された壁に位置取り。
「あんたは魔法陣の使い手だ。事前準備をさせてたらずっと厄介だったはず」
《刺青》はその応用。本来は地面とかに前もって描いておき、さらなる強化を自分に与える。
ビー玉みたいなもんだね。
病の進行を防いでいたのも《魔法陣》だった。
「咎人のメイスが難しいなら、出し惜しみはしねえ」
黒を除く〖全色の滑車〗を出現させ、未だ姿勢を立て直せない相手に全てを射出。
与えた属性デバフの強弱はなんとなくわかる。
熱感は(並)だけど、多分こいつは火耐性持ちだろう。
「ぐぅっ」
悪寒は(強)で感電にも成功。
幻の痛みだけど、偽物だって辛いことにゃ変わんねえ。
槍に体重をかけて立ち上がると、相手は俺の滑車を見渡し。
「今のお前は、多くの仲間に支えられているんだね」
「そうだな」
顔に巻かれていた布が解け、宮内並みのイケメンがそこには居た。
「火傷はないのか」
「赤の護衛は病を克服して、戦線に復帰したんだ」
俺が死んだあと勇者と話し合って、そうすると決めたらしい。
白の滑車がHPとMPを奪う。
「おじさんの娘は、向こうにいたのか?」
「ああ、水の大魔将がそうだ」
土の護衛を殺して、俺と相打ちで死んだ岩窟も、3大魔将の一角。かつて国で名を馳せた、武具の名工だった。
メイスを握りしめて走り出す。
「そうか、彼女が」
槍使いは打撃を柄で受け止める。
「僕の弟は、黒魔法を使わなかった」
迫害される病。
実の弟は処刑された。
《同じ個体に2つ使える》
義兄の左右後方に〖赤と黒の滑車〗を出現させ、容赦なく〖鎖〗を放つ。
3方面からの〖巻き取り〗で〖鎖の牢獄〗に発生させた。
電撃が全身を駆け巡り、赤黒い炎が浸食された凍える肉体を燃やす。
《ビー玉》で属性攻撃を強化してないので、見た目ほどじゃないんだけど、HPは削り切れたか。
「終わらせよう」
彼は〖黄の滑車〗を誰かに重ね。
「僕はあなたを愛していた」
動作阻害に抗いながら、人類を裏切った〖黒の滑車〗を睨みつける。
「だけど、それと同じくらい……君が羨ましかったよ」
俺は脇差を握りしめ。
「ごめんな……兄さん」
心臓を突き刺せば、彼は抵抗もせず槍を手放し、俺の両肩を強く握り絞めた。
「次こそは、お前の傍で」
しばらく視線が交わる。
「もう俺は大丈夫だから」
眠ってくれと願っても、それでも兄はより深く、こちらを見つめ続けていた。
「いや……本当に孤独なのは」
なんのことだ。
「待ってろ、今そっちに行くから」
そんな言葉を残し、兄は闇に包まれて元の姿にもどった。
寂しさを感じながらも。
「今世は弟さんと、仲良く暮らしてくれ」
破壊した壁と座席の修理を終えると、通路にあるトイレへ向かう。
混ざりあった意識は零れ落ちて、残照だけが微かに残る。
・・
・・
通路にもトイレはあるので、アイテムチェストの確認に向かう。
原罪になるのかとも思ったけど、〔留め具〕は出現しなかったし、いつも助けてクレメンスがいるからな。
赤鎖・青鎖《同じ個体に2つ使える・自分または味方の体温に比例して身体強化》
「おお、これは嬉しい」
蓋裏の鏡を確認していると、報酬はもう一つ。
「勇者の剣だってさ、すごいの出たな」
さっそくタップすれば、チェスト内の空間が歪み、そこに手を突っ込む。
「なんじゃこりゃ」
完全に偽物だろ。それどころか短剣サイズの木剣じゃねえか。
「しかも下手くそ過ぎんだろ」
かなり歪な形だった。
〔勇者の剣〕
魔王紅蓮の心臓を貫いた木製の短剣。
「えっ 本物なん、これがぁ?」
勇者適正のある人が使えるんだな。
「美玖ちゃんには追加スキルありか」
神崎さんの蛍火みたいなもんだけど、〖???』になってて名称は不明。
「しかし勇者のお供だったんか俺って」
ダメだな。
前世の記憶が抜けており、繊細を思い出せねえ。
「途中で病死したんか」
共有枠に木剣を入れようとしたが、直接渡してくださいとのメッセージが鏡面に描かれた。
しょうがないので自分の枠に入れるか。
『11月3日まで取り出せません』
「……」
なんで運営さん、デートの日を知ってんだよ。




