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そこに居たはずの誰かへ  作者: 作者でしゅ
8章 上級校庭連戦と修学旅行
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7話 沖縄での夜と翌日観光

 ビーチに帰還させられた俺たちは、更衣室で報酬の確認をしたのち、集合場所へ向けて移動をする。


「まあ、なにはともあれ無事に終わって良かったっすね」


「集合時間にも間に合いそうだな」


 屈辱の角は発動時にテンションを消費する。その時に闘仙鬼を呼ぶと、終了時に追加で戦意が低下しちまう仕様になっていた。

 だから姫鬼に繋げる場合は召喚しちゃダメなんだと。


 屈辱→姫鬼→屈辱は可能。

 屈辱+召喚→姫鬼は不可。


 あと本人の意気込みでテンションにも違いがあるから、今回みたいにすぐさま屈辱の鬼を使えない場合もある。


 そう、神崎さんは意気込んでいたのだ。


「くやしい、くやぢいよぉ」


 地団太を踏んでいる現状に、どう声をかけるべきか悩む。

 一方的だとストレスも発散できないよね。敵も味方も。


「白鎖いりますか、ちょっとは心が落ち着くかもっすよ」


「精神系は現世だと特に効きが悪いって、攻略本に書いたの浦部君でしょ!」


 全てのスキルは現世だと弱体化する。


「サトちゃん包丁強化されたんだし良いじゃん」


「沼から〖偽りの怪物〗が出現するようになったんすよね」


 〔肉切り包丁改〕

 怪物が回復妨害の触手を放つ。内に閉じ込められた敵は闇耐性の低下と行動阻害が強化。

 〖闇に潜む〗出現時のHPダメも闇属性攻撃に分類されてます。


「怪物そのものに憎悪を向ける機能があるから、かなり使えるぞ」


 憎悪の触手みたいに命中させる必要もなく、ヘイトを向けられる。


「あと〔黒鋼の留め具〕に名称が変化して、滑車を破壊するとあの兵士が出現するんだったか」


「そうそう。黒の原罪ってことにされてるみたいだけど、傭兵団とは関係ないから、咎人のメイスとも繋がりはないよ」


 〖転移突進〗〖岩の壁〗〖衝撃波〗を独自に発動できるけど、1つ使ったらすぐに消える。


 どれかの前世で、太志とも接点があったわけか。

 俺って傭兵団並みの罪悪を感じてたんかな。


「アタシの滑車破壊が役に立つ日は来ますかね。本当に使うの忘れちゃうんよ」


「兵士さん消えたら雪が降ってゴブリンなんでしょ、なら私戦いたい!」


 〖止まない雪〗

 ・黒の原罪が滑車にもどれば発動。

 ・15秒で終了。

 ・範囲内の敵は闇と時空耐性低下。味方は強化。

 ・〖黒鎖〗で繋がっている味方はスキルの冷却短縮。

 ・俺も雫さんスキルの冷却が短くなります。


「雪が降ってる間だけ〔脇差〕が強化されるんで、あのゴブさんは出ません」


 〖一点突破・隠身〗〖無断・幻影〗〖黒刃・残空〗


 残空ってのは残刃の強化版。


「うぅ」


 そんな恨みがましい瞳で見つめられても困ります。


「っていうか大堀ホント何者なのよ」


「あの敵は勝てるように設定されてないはず」


「だから第一変化にも入れられてなくて、ユニーク形態だったんすよ」


「そんなことないもん、勝てるもん」


 神崎さん超荒れてます。


「もし勝てるか最後まで生き残れてたら、〖ゴブ召喚〗のスキル玉とか?」


「それ欲しいんだけど、上級だって簡単に攻略できそう」


 ヌルゲーになっちまう。いや、勝てる時点でもう俺らあれだわ。


「もう一回海に行こうよぉ、大堀君また出るかもじゃん」


「こらサトちゃん、我がまま言わないの。もう集合時間でしょ」


 しょんぼりしながら。


「ごめんなさい」


「本当に勝った気がしないっすね」


「〖肩腕〗ゲットできたし、アタシとしちゃ満足なんだけど」


 クロちゃんが2尾になるらしい。これ以上は本数は増えないけど、込めれる力が伸びてくそうだ。

 もし武器操作の触手であれば尻尾の伸縮とか、変則的な動きが強化されるんだったかな。


「俺も〖岩の壁〗を入手できたから、十分戦った甲斐はあったよ。ビー玉を含めてな」


 冷却は20秒。

 物理属性強度(小)

 MP消費(中)。


「大将も氷の壁つくれるけど、属性違いの似たスキルなんかね」


「こっちは離れた位置にも発動できるみたいだな。あと強度が(大)になれば、岩の頑強壁って名称に変化するらしい」


 ほうほう。


「スキル枠は大丈夫なん?」


「剣のが開いてるけど、他にも試したいスキルが増えてきそうだ」


「私も縦断が欲しいけど、また戦えるかなぁ」


「ケンちゃんも弓のスキル、発射台に合成できるかもって狙ってたか。なら俺はモンクの重力場とか合成したいわ」


 直に戦った神崎さんは、思い浮かべるように視線を動かすと。


「地面に紋章でてたっけ」


「俺のは圧力という面で不安が残りますし、敵に土耐性があると余計に動かれちまう」


 神崎さんはそっかぁと頷いて。


「もうこれ以上は無理だなってくらい、強くなりたいなぁ」


「それってゲームのゴールなんすよ。満足しちゃって飽きてくるわけです」


「なるほどな。到達点がまだ見えない点からすると、運営はかなり頑張ってる」


 攻略本のお陰で検証期間が少ないぶん、俺らって去年より進みは早いと思う。

 ガチで0からのやり直しでも、プレイヤーの知識は残るんだ。


「そのためにシーズンってあるんだねぇ」


「嫌だって人も多いっすけど、だからこそ20年以上昔のゲームを、未だにやってる人もいるくらいです」


 集合場所に到着すると、俺たちは部屋ごとの席につく。


・・

・・


 夕食は刺身に天ぷら、富士ゲイシャはいないか。


「お前ちゃっかり神崎さんや槙島さんと遊びやがって、羨ましいなこんちくしょう」


「うらぎりものー」


 芝崎、委員長はどうした。


「着替えるところで宮内に会いましてね」


「俺に感謝すんだなぁ」


 渡世人ゴブさんは倒せなかったけど、太志の機嫌はすこぶる良くなっている様子。

 ふて寝してスッキリしたか。


「浦部ちょっと性格変わったよな」


「んぅ?」


「うんうん、1学期の時はもっとなんか1歩引いてる感じしたね」


「ずっとこんな感じだけどなあ」


 太志の意見は変化なしですか。


「性格ってより、人付き合いがちょっと怖かったのはあるかも知れん」


 中学卒業後は無気力だった自覚もあるけど、その点で言えば隆明や太志に助けられたとは思ってる。

 ただ1年の時は記憶が改ざんされてっからな。


「それもこれも宮内と関わったお陰だとすりゃ、もう恩恵が凄まじい」


「頑張って励ましたんだね」


「1年の時に世話んなったからさ」


「浦部お前これ食わねえのか、なら俺にくれ」


 太志くんちょっと黙ってようね。


「こっちなら良いぞ」


「サンキュー」


 まったくこいつは。


・・

・・


 その後。ホテルで催し物というか、ショーが開催されるとのことで、俺らは立ち見で見学させてもらった。

 楽器と歌声が沖縄に来たんだなと自覚させてくれる。

 

 特に誰がどの位置といった決まりもなかったので、それぞれが思い思いの場所で演奏を聞いていたら、委員長がこちらに話しかけてきた。


「太志君、海で見かけなかったけど体調わるかったの?」


「えっ あぁ その、腹の調子が」


 芝崎が不安そうな表情のまま、俺に小さな声で。


「そういえばいつの間にか、名前呼びに」


「あれ……確かに」


 駄目人間に惚れちゃう人がいるとは聞いたことがあるけど、良くない委員長。こいつはダメだ、何故なら俺が立ち直れなくなるからだ。


 こいつ本当にどうしようもない奴なんだ、ああそこが気になっちゃうのか。ダメだダメだ、とにかくダメだ。

 俺も小声で。


「芝崎くん、委員長が気になるのかい?」


「……」


 否定も肯定もせず、彼の顔は青白くなっていた。


 村瀬がある一点を見て。


「なあ、神崎さん凄い目で大堀を睨んでねえか」


 それはもう理由がはっきりしておりますので、ほら巻島さんに怒られてる。


「せっかくの修学旅行なんだから、食べすぎには気をつけなきゃダメだよ」


「いっ 以後、気をつけますだ」


 部屋の空気を悪くするわけにもいかないので。


「委員長だから心配したんと違う?」


「そっ そうだよね」


 俺もそうだと信じることにした。そうに決まっている。


「委員長、このあと風呂行かん?」


 里中くんの彼女さんが話しかけ、我がクラスの女子+マキマキと数名が去っていく。


「ふぃ~ んじゃ、俺らも風呂にすっかなぁ」


 太志は安心した様子で会場を後にする。


「大堀は部屋の風呂だろ。俺らは大浴場に行くから、ゆっくりしてても良いぞ」


「はぁ? 俺もせっかくなら広い風呂の方がいいわ」


「えっ 大堀君そういうけどさ、魅惑のボディは平気なの?」


 それで海嫌がったんだよな。


「海と風呂は別だろ、男しかいねえしよ」


 異性もいるからね。


「あと外だぞ外、恥ずかしいじゃんか」


 それもあるんか。


・・

・・


 俺は持参していた耳栓を芝崎と村瀬に渡す。


「もし必要なら使ってくれ」


「えっ 急にどうした。やけにサービスいいじゃん」


 けっこう良い品だよ。評価も高かったしさ。


「ありがとう。でも僕って音楽聞きながら寝るからなあ」


「ここに置いとくから、必要だったら勝手に使って良いよ」


「なんで俺の分はねえんだ?」


 黙れ小僧。



 翌日、俺は2人にとても感謝されました。

 単にうるさいんじゃなくて、数分間呼吸が止まるから心配になって、余計に寝れなくなるんだ。


・・

・・


 観光地はクラスごとにバラバラで回る。


 沖縄って端から端まで3時間くらいらしいから、こういうのもしやすいかもね。

 何カ所かを巡りました。


「旧日本軍、司令部壕か」


 こういう地下の洞窟って涼しいイメージがあるけど、めっちゃ暑くてジメジメしてます。しかも今は10月だ。


「なんか、怖いねぇ」


「通行禁止のエリアもあるんすね」


 名前順だと近いこともあり、神崎さんは俺と会話のできる距離にいた。


 ベルトの収納から手鏡を取り出し、試しに数字を確認したのち、すこし歩幅を合わせて彼女の横につく。


「ここマイナスですわ」


「えぇ……押さないよう気をつけてよぉ」


 写真や遺留品。手榴弾で自決した弾痕あとなど。


「悲しいし、怖いや」


「っすね」


 テンションも上がらないみたいだし、神崎さん向けのエリアじゃないな。狭いのも含めて。


 ツルハシでの手掘りで、3千人の将兵を動員して5か月かあ。

 戦時中はここに沢山の兵士さんが詰めてたんだよな。怪我してたりなんだり。


 俺はベットで寝れてることに感謝しんと。

 今でも発掘調査してんだな。


 80年前に思いを馳せて。


「上級エリアか」


 等価交換が摂理だとするんなら、通常のままじゃ駄目なんだろうね。


 現世だとスキルが弱まるのも関係があんのかな。


 敵を強化して出現させないと、俺らが倒した後に運営が精神系スキルを使っても、上手く機能しないってことか。

 だからこそ、此処は上級なんだ。


・・

・・


 万座毛


 像の顔みたいな琉球石灰岩で出来た崖だね。


「すげぇなあ!」


「マジで絶景だな」


 風がちょう気持ちいい。


 名前の由来は琉球の尚敬王って人が、万人を座するに足ると言った所からとのことです。


 今は入場料を取るようで、施設を通ってからぐるっと回る遊歩道があります。


「浦部君、写真お願いして良いかな?」


 神崎さんと委員長だ。


「良いっすよ」


 スマホを渡されたので像さんをバックにはいチーズ。


「お二人さん、もし良ければ芝崎や村瀬も入って良いかな」


「どうぞどうぞぉ」


 嬉しそうな芝崎。


「まじで、やったあ」


 神崎さんの隣に村瀬、もちろん委員長の隣は芝崎君ね。


「あれ、太志くんは?」


 まあ俺いつも一緒にいるしね。でも芝崎くんがダメージを受けますので。


「風がさぶいっつって、先に行っちまいましたよ」


「そっかあ、こんな景色凄いのにね」


 彼女は残念そうな顔なんてしてないからな、そんな表情をするんじゃない芝崎。


 髪とスカートを押さえながら撮った写真も、良い想い出になりそうだ。


「でも良いんすか、早く行かないと土産物を見る時間なくなっちまいますよ」


「あっ そっかぁ」


 スマホを返す。今は写真も送れるし、便利だよね。


「じゃあ俺が撮るから、浦部も二人と撮ってもらえよ」


 ふへぇっ 良いのかな良いのかな。


「ほらほらおいでぇ、早く早く」


「へぃ」


 顔を真っ赤にしながら、真ん中に入れさせてもらった。ちゃっかり芝崎も入ってましたよ。


 皆が歩きだすが、俺はもう一度振り返り、崖と海を見下ろす。


「……」


 動画でアメリカ軍から逃げてた女性が、こういうとこから海に飛び降りてるのを見たことがあって。それを思いだしちゃうよ。


 先生は生徒そっちのけで海を眺めておりました。


「海好きなんすか?」


「ん、あぁ浦部か」


 俺を一瞬見てからも、また先生は視線をもとに戻す。


「そうだなぁ、父の代まで漁師だったんだけど、泣く泣く船を手放したんだよ」


 色々あったんだろう。色々なんて言葉じゃ語り尽くせないほど。


「俺なんかより、親父の方がずっと好きだったさ」


 海じゃなくて、家族のことを思いだしてたんかな。


・・

・・


 シーサーの色付け教室にも参加させてもらいました。


「……完璧だ」


 これから焼きに回すんだけど、割れないと良いなあ。後日送ってくれるらしい。


 歌舞伎みたいな隈取をいれたよ。格好良いねえ、我ながら惚れ惚れする出来栄えだ。


「浦部おめえ適当にもほどがあんだろ、もっとまじめにやれって」


「はぁっ!」


 ムカついて太志の作品を見れば、なんの面白味もない色付けしやがって。


「俺のセンスが解らん時点で、お前も底が知れたな」


「ピカソだって上手い絵は描けるんだぞ、下地の上でああいう作品を仕上げたんだ」


 なんでピカソの話になるんだよ。


「個性はつけようとしてつくもんじゃねえんだ」


「俺はそもそも個性なんぞ考えてないよ」


 なに言ってんだお前は。


「どう見ても奇抜を狙ってんだろそれ」


「歌舞伎の隈取だよ」


 返事がなくなった。


「なんか、わりぃな。俺が間違ってた」


 こちとら美術の授業を選んでんだからね、先生だっていつも頑張ってるなって褒めてくれてる。


「どうどう? 浦部くんできたぁ」


「へい、自信作です」


 力づよくうなずいて作品を見せた。


「……わぁ、2人とも上手ですね」


 そうでしょう、そうでしょうとも。


 

 こうして2日目の日程は終わりましたとさ。

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