5話 修学旅行IN沖縄
10月の半ば。
我が校の2年生は修学旅行の当日を迎えました。
前日は中々寝付けなかったけど、集合時間が早朝なので困った。
寝過ごしたらどうしようと心配になっていたけど、この日はいつも遅刻しようが起こしてくれないママが、なんと可愛い我が子に声をかけてくれたのです。
朝ごはんの目玉焼きとウインナー、なんかいつもより美味しゅうございました。
まだ電車はないけど、母ちゃんが送ってくれるそうです。
出る前にちょっと時間をもらい、雪谷家の見える位置まで行く。
「皆と卒業旅行でも行こう、雫さん」
どうしようもなく焦っちゃう時もあるが、ペース崩さんよう確実に進めて行かないとな。
クラクションの音が聞こえたので、急いで自宅の庭にもどる。
・・
・・
バスの席は事前にクラス内で決めれたので、僕は太志君の隣だよ。
「……ぐはっ!」
「無呼吸怖いわ」
あと狭い。
「俺も寝たかったんだけどな」
「浦部君も寝られなかったの?」
話しかけられて横を見れば、あまり話したことのない女子だった。
「あっ はい。楽しみで寝れなかったんすよ、朝も早いわで」
「小学生か。なんつって、私も寝れんかったんだけど」
ですよねえと愛想よく笑い返しておく。
隣の席に座っていた神崎さんが。
「いっぱい運動してから寝たから、もう熟睡だったよ。浦部くん、最近サボり気味なんじゃない」
毎日の活動は流石に無理ですよ。
「聡美も帰宅部だけど、前から運動してるって言ってたね」
彼女は巻島さんと仲が良く、小学校時代は神崎さんとも一緒だったそうだ。
サトちゃんでないのはあれだ、彼氏を里ちゃんとの愛称で呼んでいるからですねきっと。
知らんけど。
「うんうん、筋肉もけっこう付いたんだよぉ」
「えぇ そこまでは鍛えたくないかな」
力こぶのポーズをとっているけど、長袖なので良く分からない。
格好だけど今は制服で、あとジャージも持ってくるよう言われている。
望むなら3日目は私服でも可。
「そう言えば浦部くん、石垣島はどうなったの?」
「……」
ダメでした。
俺が返事をする前に、隣りの巨体がもぞっと動き。
「本当は西表島が良かったんだ。でも俺らは妥協してお願いしたのに」
「お前寝てたんじゃないのかよ」
「なにしに行きたかったん?」
生物系配信者さんの動画で、俺たちはその存在を知った。
「サキシマカナヘビってトカゲ、もう飼育することが出来ません。法律でダメになっちまって、だから直接会いに行こうって」
「先生は分かってない。沖縄の爬虫類館で良いだろって、東京の動物園か静岡にしかいねえんだなぁ」
まあ沖縄の爬虫類館、行こうかとも思ってますけど。
「だから先生に無断でって俺は言ったんだ。飛行機でも片道5000円くらいだっつうしよ」
「そんなことできる訳ないだろ。停学になったらどうすんだ」
俺だって飛行機怖いけど、それでも行きたかった。
「あっ、あはは……そっか」
神崎さんは首を傾げ。
「んぅ? なんかデジャビュ?」
このバスにはもちろん元海賊も乗っていた。
「浦部、大堀。聞こえてるぞぉ」
「「すんません」」
後ろの席にいた芝崎が。
「昆虫採集が趣味だって言ってたもんね」
「今回はトカゲなんだ」
「緑色のやつだよ」
前の席に座っている村瀬も椅子の隙間からこちらを向き。
「沖縄にはいないのか?」
石垣島、西表島、黒島、小浜島。
「似た色のはいるけど別種らしい」
「絶滅危惧でもう飼えない」
ただあれだ、これだけは誤解されないよう。
「俺ら動画みて興味もっただけで、昆虫も爬虫類も詳しいわけじゃないけどな」
太志はうんうんと頷きながら。
「なんか羨ましかった」
もし会いに行けるなら、飛行機の1度や2度くらい何てことないさ。
・・
・・
自分は人込みが苦手です。
「浦部くん大丈夫?」
「へぃ」
空港は凄く混んでました。
「なんだ浦部ぇ、腹でも痛いのか? トイレあっちだぞ」
「いえ、問題ないです」
「相変わらずだねぇ」
面目ない。
その後。金属物の説明などを受け、自動で流れる廊下に驚き、恐怖の飛行機へと乗り込む運びとなる。
国内だし数時間。席もエコノミーですが問題はないだろう。
「発進するとき、Gが掛かったりすんのか」
「ジェットコースターほどじゃないから」
隣の席となった里中君。飛行機の座席はこちらでは決められませんでした。
あんま彼女さんと一緒にいるとこ見たことないんだよな、バスの席も通路挟んだ隣じゃなかったし。
「でもあれは地面に金属の骨組みが付いてるよね」
「墜落とか宝くじより確率低いから大丈夫だって」
そっ そうか。
真面目に乗務員さんの話を聞く。
「ACだっけ?」
なにかあっても、アーマドなコアだったら着地もできるか。
「あいさつの魔法に出てくる動物たち、ロボットに変形する動画投稿されてたよな」
ACなら大丈夫だ。
「CAな」
「ありがとウサギ」
救命胴衣、酸素。どこだ。
「浦部、ちょっと落ち着こうな」
「ごめんなサイ」
無事に地球の重力から魂は解き放たれ、俺はポポポポーンと空に舞い上がった。
よくよく考えると、石垣島は難易度高かったわ。むしろ行けなくて良かったです。
鏡に〖天使〗をセットしているんで、イザとなればゆっくりした落下も可能か。
映世に移れば、もしかしたら助かるかも知れない。
愉快な仲間たちは問題ないが、同級生たちはどうする。
極限のストレス状態で、全員迷い人になったりしないだろうか。
でもそれだと京都行になっちまうからダメだ。
海の上だったら、漂流になっちまうか。
「浦部くんってば、もうベルト外して良いって」
「ありがとう委員長。俺、絶対みんなのこと見捨てないから、なんとかしてみせるから」
拳を強く握り絞める。
「ぜったいに助けてみせるよ」
「お前さっきからなにと戦ってるんだ?」
その後も俺は気を張りながら警戒を続けていく。
高度1万メートルだっけか。
耳がボーっとしてヤバいんだけど、あとなんか異常に鼻水が出る。
ポケットティッシュが空になってしまった。
「俺は風を引いたのだろうか」
「そういう症状が出る人もいるらしいぞ」
自分のがないか確認してくれたが。
「すまんな、大きい荷物に入れっぱなしだったわ」
「ごめん、私も鼻の調子変で。自分のぶんだけで使い切っちゃいそう」
「2人に気にしないでとお礼を伝え、トイレで紙をしっけいするかと俺は立ち上がった」
変人を見るような視線を向けられたんだけど、なんか変なこと言っただろうか。
道中にも見知った愉快な仲間がポポポポーン。
「浦部どうしたん、顔色わるいじゃん」
「飛行機が怖くて。あと高度の所為か鼻水が止まらず」
じゃあこれ使いなとポケットティッシュをくれた。
「ありがとウサ……巻島さん、俺の姉ちゃんより優しいっす」
「なんか頭まわってないっぽいね、席で休んどき」
感謝を伝えてから、席にもどる。
あっ トイレも行きたかったんだった。
・・
・・
那覇空港に到着すると、沖縄の添乗員さんが待っていてくれ、メンソーレの言葉と共に花の首飾りをくれた。
まあ生徒代表の数名っすけどね。
「花咲く娘たちですなぁ」
「浦部ぇ、お前まだボーっとしてんのか」
何時の間にか太志が隣にいた。無事で良かったな、皆もお前も。
なんとか島なんとかテラスという素敵な場所で、各自お昼を頂く。
ここは空港に近く、飛行機の離発着を見れるよ。
海が綺麗でした。
あとバス内で挨拶してくれた添乗員さんの話では、首里城の修理って2026年まで掛るらしい。
今日はこのままホテルに向かう。プロ野球とかのキャンプにも利用されるとのことで、けっこう有名なところみたいだね。
窓からはオーシャンビューではなく、普通の町並でした。やっぱ海側の部屋ってちょっと高かったするんだろうか。
4人部屋に荷物を置く。ずっとここに泊まるとのことなんで、貴重品以外は残していっても問題ない。
「太志、行かんの?」
「俺はゲームするって決めてたのさ」
「せっかく沖縄来たんだから、遊んだ方が良いだろ」
「そうだよ」
同部屋になったのは野球部の村瀬と、副委員長の芝崎君です。2人とも太志がお世話になります。
「この魅惑のボディを白昼の目に晒せというんかぁ!」
まったく、どうしようもない奴だな。
「2人とも先行っててくれ、俺ちっとこいつに付き合ってからにするわ」
「余計な気づかいは不要なんだなぁ」
俺もちょっと休んでからが良いと伝えておく。飛行機で鼻水やばかったし。
「そうか、まあ浦部も後から来いよ」
「じゃあ僕ら先に行かせてもらうね」
「ふんっ」
隆明にメッセージを送る。
道中でクラスの人たちとも話せたし、いい機会だからそっちに付き合うとのことだった。
バナナボートやらシュノーケリングなど、本格的なマリンスポーツは3日目にできるそうだけど、今日も普通に海で遊べるらしい。
いじけている太志とゲームを楽しんだのち。
「ちっとトイレ行くわ」
洗面所の鏡を確認する。
「使えるな」
数値は0だった。
沖縄って独自の文化あるし、霊的なのも本土とはちょっと異なる気がしてたから少し安心した。
「浦部、あんがとなぁ。でも気にすんな、お前も遊び行けよ」
「ちっと休みたかったのは本当なんだよ」
ふむ。これは皆に要相談かも知れんね。
・・
・・
うちの学校プールないから、大勢が参加するだろう。
神崎さんも巻島さんも、活動のお陰で気が楽だと言ってた。そこらの部活動じゃ相手にならん運動量だしね。
水着とTシャツ。あとは着替える場所もあるそうなので、ジャージと下着を持って行く。タオル類は貸してくれるそうです。
ランドリーコーナーもあるみたいだね。
男性用の更衣室にも鏡はついていた。
「浦部どうしたんだ、鏡なんて見て」
声の方を向くと、そこには里中君と宮内がいた。
「ちょっと筋肉の調子をね」
「細マッチョってやつか」
クラスが違うので2人とも別室だ。
「浦部もゆっくりしてたのか?」
「そうそうと言いたい所だけど、太志が海を嫌がってたんで、そっちに付き合ってたんだよ」
自分の腹を指さす。
「気にしなくてもいいのにな」
「自業自得といっちゃそれでお終いだけど、コンプレックスは人それぞれだしさ」
「そうか……本心としては行きたいって感じか?」
正直、ここで宮内と会えたのは幸いだった。そっと鏡を指させば、こちらの言いたい事を察したようで。
「せっかくだから俺は浦部と遊ぶよ、お前も咲ちゃんと2人の方が良いだろ」
「別に気にしないんだけどな、神崎と槙島はどうするんだ?」
おお、一緒に行動する予定だったのか。
「2人も浦部とは面識あるから問題ない」
「そうか、別に含めて遊ぶでも良いんだけどな」
「たしか3日目の自由行動も複数だったじゃん。なら遠慮しないで、ここは2人で楽しんできなよ」
本音を言えば活動チャンスなだけなんすけどね。
更衣室をでたのち、いったん女性陣と合流。
「あれ、浦部くんじゃん」
「どもっす」
御二人とも前開きの上着を羽織ってるので、僕ちんの精神はまだなんとか保てております。
「かくかくしかじかで、同行させてもらう運びとなりました」
「それで説明になってると思うのかアンタは」
宮内が涙なしでは語れないボクの経緯を2人に聞かせてくれた。
「じゃあ行こっか」
「なんか気を使ってもらってごめんな」
そう言いながらも、すこし嬉しそうな里中。
去っていくカップルを眺めながら、太志の現状を説明すれば、神崎さんの目がキラリと光る。
「んで、どうします。さっそく始めますか」
「〖蛍の光〗が範囲スキルになるまで待った方が良いんじゃない?」
「えぇっ もし大堀くんの気が変わっちゃったらどうすんの」
太志の様子から察するに。
「絶対とは言えないけど、たぶん海に来ることはないんじゃないかな。いったんベルトとか持ちに戻ろうかと思いますんで、様子も見ときますよ」
「アタシらもそうしよっか」
「美玖や雪谷にも許可を取っておこう」
「そだねぇ」
共用のスキル玉をできれば使いたい。
このままの格好で、俺らは部屋に一度もどる。
太志くん、ベッドでふて寝てしおりました。
・・
・・
空は晴れ渡り、白い雲がそよぐ。
「地面は砂じゃなくてサンゴの死骸だな、これなら足場も問題ないか。素足だとちょっと痛いが」
「こら宮内、死骸とか言わないの」
「テンションさがっちゃうよぉ」
トンネルを抜けた先は楽園でした。まあトンネルないんだけど、水着の女の子がいっぱい。
「あっ 俺やばいかも」
「ちょっとそんなんでどうすんのさ」
お2人みたく、皆が上着を羽織ってるわけじゃないもんね。
Tシャツを先生が管理してるシートに置く。
「ちゃんと準備運動してから行くのよ」
「へぃ」
ドキドキしちゃうね。
「ほらほら浦部君、海に入ろ」
背中を押されて、うへへとなる僕ちん。
「うへへ」
「声に出てるよぉ」
ふと視界に人影が写った。
生徒を見守るべき立場である教師が、大海原を眺めていた。
そちらに気を取られていたら、波に足を取られて転倒しちゃった。
「きゃーっ!」
「うおりゃ!」
巻島さんも見事なヘッドスライディングで海にパシャンする。
女子2人で水を掛け合う姿が様になりますね。
親指と人差し指で額縁をつくり、その描写を記録しようとしたが、上手く入らないですねはい。
神崎さんは赤が強めのピンクビキニです。フリフリがちょっとついてて可愛いね。髪はクルっと後ろにまとめてる。
巻島さんは青色で、意外なことに短パン型か。ショートカットと相まって、夏って感じがします。
僕は半パン型ですね。ポケットも付いててなにかと便利で、柄は黄色地なんだけど、細マッチョな外人が女性の肩を抱いてる絵が右側に描かれてるんだ。
左側にはヤシの木があって、子供がそれに登って望遠鏡で男女の方を覗いてる構図。
誰が選んだかって言えば、もちろん俺だ。水着くらいなら流石に大丈夫だろって許しを得て、30分くらい悩んだ。久しぶりだったからちょっと張り切っちゃったんだよね。
お尻側にはPrivatezoneって文字がプリントされてて、意味が解らなかったんだけど母ちゃんが教えてくれた。
「ちょっと浦部、なにボーっとしてんのさ!」
えへへ、海水を掛けられた。しょっぱい。
「これオシャレっすよね、母に酷評されたんですけど」
「ほーら浦部くーん、お水だよぉ」
「変なこと考えてないで遊ぶぞお」
お水を掛けられちゃった。じょっぱい。
「わーい」
「ヒャッハーっ!」
「きゃっきゃうふふ」
キャッキャウフフと楽しみながら、時々波に足を取られていれば。
「ビーチボール借りて来たぞ」
「ナイス宮内!」
「やったー」
気の利く男ですな。
16時くらいに始める予定なんだけど、それまでに遊び疲れなきゃいいんだが。




