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そこに居たはずの誰かへ  作者: 作者でしゅ
一章 スポーツ青年・宮内輝樹編
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5話 仲間になった

 HPがなくなれば、そこからは攻撃を命中させるたび負傷して動きは鈍くなる。それでも俺は早急に殺しきらなければいけない。


「終わりだ」


 〖咎人のメイス〗が兜の側面を打ち砕き、騎士は横に吹き飛んだ。



 地面に倒れた宮内から離れる。


 少しすると1分が経過したようで、俺の得物が片手持ちにもどった。


「……まじか」


 疲労(中)でこれかよ、もの凄く全身が怠い。

 メイスを振ってHPを回復させる。さっきまでよりずっと重く感じるわ。


「どうなるかね」


 映世に迷い込んだ人間全てに適正があるとは限らない。このまま何事もなく、現世のどこかに帰還する場合もあった。


 闇が散ったあとも宮内は残り、今も校庭に横たわる。


「きたか」


 彼の両脇に盾と剣が光と共に出現した。俺にとっての腕輪とメイスだね。


 ビー玉が3つ落ちていたので、それを回収しようと手を伸ばしたとき、自分の腕が視界に映った。


「俺の腕輪、なんか変化してら」


 手首から前腕の半分ほどだったのが、肘までを守る形状になっていた。〔咎人の腕当〕とでも呼ぶべきか。

 戦利品をポーチに入れ、鏡でレベルアップの確認をしようとしたところで、宮内が目を覚ましたようだ。


「おはよう、宮内君」


「浦部……なんだよな?」


 身体を起こし、こちらを見上げてから、キョロキョロと周囲を眺める。


「そうそう、去年まで同じクラスだった浦部だよ」


 大鳥居も確認したと思うけど、驚いたといった様子はない。


「助けて、もらったで良いのか?」


 攻略本の情報によると適正のある人は、映世での記憶が曖昧にだが残っているらしい。


「さっきまでメイスと剣でやり合ってたのは覚えてるかい」


「そう……だな」


 自分は選ばれた特別な人間なんだと、口には出さずとも俺なら中二病が再発しそうな気もするが、なぜかそういった感情は今日までわいてこなかった。


「今いるのが非現実的な空間ってのは分かる?」


「なんかやばい場所だってのは」


 鳥居を指さして。


「これが関係してるようで、うちの学校は比較的安全なんだ。お陰で準備も短めですんだし、迷い込んだのが此処でラッキーだったと思うよ」


「そうか。でも助かった、ありがとう」


 どういたしましてと返してから。


「脱出しよう」


 手鏡からも帰還できるけど、リュックを便所に置いたままですので。


 ああそうだ、試してもらうことがあったんだ。


「お疲れのとこ悪いけど、ちょっと走れる?」


 宮内は勘違いしたようで、警戒しながら周囲を見渡す。


「逃げた方が良いか。すまん、迷惑を掛けるかも知れん」


「敵はいないから大丈夫。この空間だと足が完治してるかも知れないから、確かめて欲しかったんだ」


 戦いの中で腕とかを損傷しても、現世にもどると復活してるって書かれてた。その逆があるかを確かめておきたい。

 俺が攻略本を書いたとすれば、自動脱出をHP0にしてなかったんだろうか。

 そんな命知らずじゃないんだけどな。


「……まじか」


 協力してもらうとしても、足が今のままだとちょっと困る。


 宮内は立ち上がり、なんどか飛び跳ねてから急加速と急停止を繰り返す。


「見た感じだと問題なさそうだね。どうかな?」


「痛いのもあるんだけどな、急にガクッと力が込めれなくなって、そのまま踏ん張れなくなるんだ」


 こちらを振り向いたその表情は、今までと違い輝いたものとなっていた。


「やばい……泣きそうなんだけど」


 イケメンが本領を発揮しやがった。


・・

・・


 職員室を目指して歩いていると、気持ち弾んだ声で。


「ここから出たら、もとに戻っちゃうんだよな」


「映世。俺らが今いるとこで活動を続けたら、良くなる可能性はある」


 勢いよくこちらを向き、強い口調で。


「本当なのかっ!」


 酷かもだけど、言わなきゃいけん。


 今後装備がレベルアップし、パッシブスキルをセットしていたりすれば、身体強化で現世の肉体にも影響がでる可能性はあった。


「人間離れした動きができるようになったら、目立ってもらっちゃ困るんだ」


「……」


 もしそれが顕著だった場合。


「スポーツとかでプロを目指すのは諦めてもらいたい」


 外ではパッシブスキルを外すとかで対応できるのなら良い。


「この空間をつくった存在。俺らを巻き込んだ神さま的な奴がいたとすれば、どういう反応を示すか分からない」


 そう攻略本に書かれていた。

 やっぱ変だよな。こんな細かな気づきが俺にできるとは思えない。


「趣味で続けるぶんには良いのか?」


「あっ そうか」


 もともと彼が本気でプロを目指していたなら、強豪校だったり1部2部の下部チームなんかに所属してるはず。


「サッカー続けられるなら、俺はそれでも満足だよ」


 人の悩みってのは難しいね。本気でプロになりたくて怪我で断念したなら、ここまで精神的に追い詰められるのも俺にだってなんとなくわかる。人生賭けてたわけだしさ。

 でも彼の場合はできなくなることがショックだった。


 俺からすれば大したことなくても、人によってはそういう場合もある。簡単に踏み込んじゃいけない領域だわ。


「またできると良いな。サッカー」


「……ああ」


 映世で救っても根本の問題が解決しなけりゃ、またストレスは溜まっていく。


・・

・・


 職員室の壁にトイレの出入口があるのを見て、やっぱり宮内も驚いていた。ここは本当に違う空間なんだなと。

 

 今回の活動はボス戦だけで時間もそこまで経ってない。

 現世から脱出したのち、俺らは学校を後にする。途中で宮内は部員やコーチ監督に何度か声を掛けられていたので、存在の消滅もなかったことにされたようだ。



 空は燃えるような夕焼けではなく、見慣れた何時ものそれだった。


 家で寝て、起きたら校庭で立っていたらしい。最初は夢かと思っていたが、いつまでも覚めない。

 だけどなぜか混乱もなく、ずっとゴールを眺めていたというのが彼から得た情報だった。


「俺の部屋物置になってたらどうしよ。パソコンとか無事なんだろか、もし消えてたらまた映世行っちゃいそうなんだけど」


「エロデータか、エロデータのことを言ってるのか」


 宮内くんともあろうものが。イケメンのキャラに合わんぞ、そんなのは。


 こんなバカ話ができるくらいには、精神面にも余裕が出ているようだ。ずっと映世にもいたし、体調も心配してたが問題はないようだ。

 むしろ俺の方が辛い。


「色々聞きたいこともあるし、ちょっと寄っても良いか?」


「構わんよ。この先にファミレスあったけな」


 今後どうするのかを確認しておきたい。



 そんなこんなで二人してファミレスに入り、案内された席でドリンクバーを頼む。


「飯は良いのか」


「それがあんま腹減ってないんだ」


 春休み明けからだし、2週間は映世に居たはず。もうすぐゴールデンウィークで、それが終わったら中間テストだ。


 互いに飲み物を喉に通し、一息を挟んだところで。


「浦部はあっちの世界で、人助けをしてるってことで良いのか?」


「そんな大層な目的は掲げてないよ。以外かもだけど、俺はまだ向こうで怪我という怪我もしてないし、言い方は悪いけどゲーム感覚が抜けてない」


 申し訳ないが宮内のことも、半分はボス戦という認識だった。


「まあそれでも、1年のときは色々良くしてもらったし、助けられて良かったとは思ってるけどね」


 環境が良く過ごしやすかったと伝える。今のクラスもそんな悪くないけど。


「普通にしてただけなんだがな」


 中学の時は酷かった、やたら煽って来るんだもん。そんで自分の方が上だみたいな空気を押し付けられてさ。

 俺が良く話してた女子に気があったみたいで、やたら絡まれてね。


「分かんないと思うけど、俺らからすりゃそれが有難いんだよ」


 良く話してた仲の良い女子……あれ、妄想だっけ。



 宮内は窓の外を見て。


「だとしても俺みたいな目に遭ってる奴が、他にもいるってことか」


「そうだね、たぶん」


 映世のことをもっと教えてくれと言われたので。


「こっち読んだ方が早い」


 (やしろ)と青銅鏡のことを教え、説明書と攻略本を渡す。


「なんかこっちは普通のノートだな。それに筆じゃなくてボールペンだろ、誰が書いたんだ?」


「それが俺の字なんだけど記憶にないんだわ。だから未来から送られたんじゃって推測してたりする」


 馬鹿げた話ではあるけれど、彼自身の経験が経験なので、そんなことあるのかと唸りながらも読み始める。


 その間、俺は手鏡を取り出し、ポーチから報酬のビー玉も確認する。


 バッシブ《映世での死亡時、肉体を再生して蘇生(冷却1週間)・スタミナ強化》


 鎖スキル《同色の鎖を同じ個体に二つ放てる・鎖によるデバフに耐えていると自分の身体強化》


 白の鎖・咎人のメイス《自分への鎖を解除後、デバフの数ごとに身体強化(耐えた秒数だけ効果が発動する)・HPMP回復または吸収量小減少》


 確かにすごいんだけど、蘇生するといっても死にたくはないっす。

 2つ放てるって、ある意味だと効果二倍ってことじゃん。


「熱感ねぇ」


 耐えている間は身体強化か。〔咎人のメイス〕使用時のことを思いだすと、厳しいが優良性は計り知れんな。もらったデバフの強弱で効果値も変わるか。


 そして白鎖のやつはあれだな、鎖の解除で状態治療を癒すと、これまで耐えていたデバフの数だけ強化されるわけだ。これまたとんでもない内容だけど、問題はもう一つがバット効果だ。

 ランダム合成すると、残したい方が消える可能性がでてくる。



 手鏡を操作して、死亡時に蘇生のビー玉を〖オーラ〗につける。

 自動脱出の欄を確認すると、それに対応したものへ変更できるようになっていた。1週間の冷却中はHP0と細かく設定することも可能だった。


 あとスキルも新しいのを覚えていた。


 腕当自分専用〖緑〗か〖守光〗の二択。


 〖緑の法衣〗はこちらの急所、または致命傷となりうる攻撃を鈍らせることができる。ただこの突風は一度吹くと、次までに数秒を必要とする。

 また常に緑の流れが周囲を渦巻いており、スキル発動中は矢や銃弾なんかの軌道も反らしてくれるらしい。あとは範囲内の属性耐性強化か。


 〖守光〗は青白い法衣のエフェクトだから、守りだけでなく回復や精神保護もだね。〖白の鎖〗は味方だと自分は回復してくれないし、精神保護は〖オーラ〗専用のビー玉に頼ってるのが現状だから、こっちも欲しい。

 そんでHP耐性・装備性能・防御力の強化。


 個人的に宮内と戦ってみて、青の剣が厄介だったのは記憶に新しい。似た役割を〖風の法衣〗はしてくれそうな気がする。

 どっちにするか悩んでいると。


「その鏡、別の画像が映ってるのか?」


 説明書を読んで察したようだ。


「見てみるかい。今一方の技を覚えると、もう一方を覚えられなくなるんで悩んでるとこさ」


 漆の手鏡を逆向きにする。どうやら他の人が見ても確認できるようだ。


「……まじでゲームみたいだな」


「だろ」


 手鏡の内容を読みながら。


「その(やしろ)ってのが初心者用なんだよな。もし良ければ、明日連れてってもらえるか?」


「昨日の今日で大丈夫?」


 先ほど現世から救出されたばかりだが、本人はそんな疲れもないとのことだし、まあ問題ないのだろう。

 むしろ疲労(中)がまだ残ってて、俺の方がアレなくらいかも。ただ少し休んで回復はしてきた。

 もし(大)のままだったらどうなってたんだろ。


「ところでこのゲームなんて題名なんだ……ペル〇ナとか?」


「うおいっ 思っても言っちゃいけないことってあるんだぞ!」


 思わず店内で大きな声出しちまったい。

 学園。ダンジョン。助けるたびに仲間が増えていく。俺だって思ってたよ。


「だとすれば俺って……相棒ポジション?」


 もう色々と怖いので、そこに触れるのは勘弁してください。

 




 これにて一章は終わりです。日付を跨ぐころに投稿してこうと考えております。

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