6話 いったん退避
俺たちは急いで報酬を回収。
校庭には2クラスほどの男子生徒がいたけれど、敵として出現したのは3体。
「連戦にはならなそうか」
女子はたぶん体育館か、隣りのグラウンドかな。
「モード的にエンカウント率は上昇してるかもね」
「やったぁ スキル玉あったよ」
「もしかして翼の生えた戦士だったり?」
位置的に落としたのは聖職者だから、巻島さんが期待する気持ちもわかる。
「そうそう、〖人造天使〗の召喚だってぇ」
「なんかタブーに触れてそうな名称っすな」
あの聖職者が所属してる宗教、けっこうヤバいんでね。
そういやスタイリッシュ・デビルハンター4の敵に似たのいたな。
「いったん神社まで戻りましょう。確認したい事もありますんで」
妖精が俺に疲労回復を施してくれていた。
「わかりました」
「そうだな」
巻島さんが鱗粉の風を使おうとしたが。
「疲労回復系って使い続けると、効果が少しずつ薄くなってく気がしますんで、今は温存しておきましょう」
美玖ちゃんは〖真・雷光剣〗を使ったので、〖黄鎖〗を使った方が良いか。
「すみません。あと白鎖もお願いします」
「へい」
スキル終了後はHPも持ってかれるんだったか。
真・雷光剣は30秒ごとに蓄電の段階が上昇する。
雷撃を放てる回数だけでなく、HPダメや素早さの強化度合も違ってくるそうだ。
「初耳なんだけど、そうなん?」
「うん、確かにあるかも」
宮内も腕を組み。
「次の日にはもどってるが、疲労回復を駆使しても24時間の活動は無理だ」
ゲームとの大きな違いは、実際に自分の身体で戦うのと、普通に疲れるって点だよな。
その後、俺らはいったん神社にもどる。
・・
・・
妖精はまた呼んでねと、手を振ってから消えた。
ペットボトルを取り出し、中身を1口飲んでから。
「敵のパッシブですが、もとの強さで付くかどうか決まる感じでしょうか?」
「狼にはなかったな。盾持ちの身体強化は対応できないってほどじゃない」
「聖職者はすっごく素早くなってた。それに加えて20秒くらい法衣が黄色く光ったりもしてたよ」
足もとの地面が光ってたのがパッジブで、法衣の光が元から持っているスキル。
巻島さんはスキル玉の確認をしながら。
「レベル1だからってのもあるけど、性能はけっこう低いね。あの杖は銀色に光ってたし、天使の強化かな」
物理強度(小)
属性強度(極小)
鎧が赤く光り、30秒だけ性能(極小)を強化する。冷却30秒。
盾が青く光り、30秒だけ属性物理の強度(小)上昇。冷却30秒。
投擲すると自分の手元にもどせる。転移ではない。冷却20秒。
破壊されると再召喚に45秒。
「今日は私が使わせてもらうけど、普段は参加率が高いサトちゃんか浦部に渡しとくね。その方がレベルも上がるしさ」
「空飛ぶ敵が出現したとき、トリ兵衛さん居ねえと厳しいんで、こいつ居るだけで助かるっすよ」
「性能は低くても、赤鳥の冷却が終わるまでの時間稼ぎに使えるか」
憑依なしだと、妖精自体に攻撃能力はあんまないからな。
最近はスキル枠も空いてるし、セットしてかんともったいない。
「なんにせよ、巻島さん見事でしたよ。十分に任せられますな」
ベンチに腰を下ろすと、ちょっと照れ臭そうに。
「ベルっちがナイフの転移ある程度してくれるから、ちょっと余裕できたってのはあるね」
《同じ個体に別色の鎖を使える》がないと、俺も頭が回らなかったからな。
「ただ滑車破壊は完全に忘れてたわ」
そういや装飾品も買えたって言ってたか。
「次の改良になったら、もしかすると味方の滑車を破壊できるようになるかも知れませんので、使う機会も増えるかと」
新しいスキルを覚えなくなってきたので、そのぶん選択スキルの改良やソケット数、セット枠なんかに回されやすくなってる。
俺は滑車破壊の2段階と、巻き取りの1段階。
宮内は仕込み短剣を2段階にしたけど、短剣じゃなくて浮剣の最大数+1だった。
巻島さんはもちろん精霊合体を強化しており、今は3体が可能となっている。
「妖精の憑依って、今のところ2体までっすよね?」
「もし改良がベルっちにも反映されるなら、憑依って選択もありかな」
神崎さんはどうするんだろうか。
「闘仙鬼はマジで使えますよね」
HPというのがあるから、敵がタフなぶん召喚の重要度は高い。倒せなくても時間稼ぎをしてくれるだけで違うもん。
屈辱の角は召喚しなくても、修羅鬼と防護膜の両方使えるってメリットもある。
「次は鬼姫でーす」
まあ決めるのは神崎さんだ。
「私は両方の鞘を均等に上げてこうかと」
「雑魚が多い場合は雷雲で、強力な単体は雷光剣って感じっすかね」
あと聞きたいことがあったんだ。
「さっきの盾スキルですが、憎悪と比べてどうっすか?」
宮内に使ってもらい、触手を試した経験は皆ある。
「優先して攻撃したいってほどじゃないです。意識をそっちから逸らせないんですが、悪感情はなかったかな」
「憎悪ほど執着はしないか」
一見劣化スキルに感じるかもだけど。
「意識散漫だから有効っすね」
逆に憎悪ほど効きすぎると、確率じゃ使い難くて仕方ない。
「神々しいんだったか。だとすれば戦槌のスキル使用中は、俺の場合だと憎悪向けそうな気がしないでもない」
「見た目からしてやばいもんねアレ」
「封印してたのって何なのかなぁ。魔王とか?」
宮内兄妹は視線を交差させると、自信なさげに。
「闇の精霊かと」
「私もそんな気がします。属性そのものに意思っていうか、魂を宿した存在を呼ぶんですが」
「えっ じゃあもしかして白銀のナイフ使えたりするん?」
「妖精の世界と設定が同じなら、可能性もあるんじゃねえっすか」
神崎さんは首を傾げ。
「でも契約が必要なんじゃないの?」
その発言に皆が苦笑いを浮かべた。無理そうだな。
「闇の大精霊って感じかねえ」
「始まりの闇。だしか原初の精霊だって言われてた」
空間には最初から闇があるってやつか。
「でもその名前のせいで狂っちゃったんです。周りが勝手にそう呼びだしたんですけど」
俺が咎人のメイスで司祭さまの意識が混ざるのと同じく、2人とも似た状態に時々なるんだろう。
「人間がそう名乗っても問題はないんだが、純粋なぶん影響を受けやすかったんだろう」
原初ねえ。物事の始まりってそんな危険な言葉なんだろうか。
「ねえねえ、そう言えば報酬増加のやつ設定してないじゃん。こういう神社ってさ、トイレとかありそうじゃない?」
「確かにそうですよね」
2人は神社の物陰になっている部分を確認しに向かう。
「一応気をつけろよ」
「大丈夫だって、ここセーフゾーンでしょ」
数値は40だけど、敷地内はそうだ。
巻島さんはベンチから立ち上がり。
「念のため全員で行動した方が良いでしょ」
先行していた神崎さんが、ここからでは見えない位置を指さし。
「それっぽいのあったよぉー」
2人は小走りで駆けだす。
タイル張りの公衆トイレ。
「うわっ きったなーい」
見るからにそんな感じっすね。
「ざんねん、鏡外されてます」
現世で鏡そのものが付いてないのか。
「リスポーン地点の候補が増えるのは有難かったんだがな」
巻島さんがちょっと大きな声で。
「男子便所は?」
美玖ちゃんが外にでて、半身だけを覗かせると。
「あっ こっちはありますよ、澄んだ鏡です!」
「でもアタシらは使えないかあ」
俺らもトイレに行き、報酬増加とリスクを設定する。
低リスクの低リターンだけどさ。
『敗北してリスポーン地点に戻ると、3日間どれか1つのスキルが使用できなくなる。取り外しは可能』
そんなこんなで軽くビー玉の見直しをしてから活動を再開した。




