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そこに居たはずの誰かへ  作者: 作者でしゅ
七章 体育祭と荒木場初挑戦
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4話 体育祭

 待ちに待ってはいないか、もうちっと涼しければ学校行事として楽しむ気持ちはあったんだけど。


「我々、選手一同はスポーツマンシップに乗っ取り」


 選手宣誓してんのは2年生の誰かだ。生徒会長ではないと思うので、体育委員長だと思う。


 あと今日は珍しく、校長先生のお話は好評でしたよ、いつもよりかなり短かったんでね。

 体育館は人が多いと空調の効きが悪くなるけど、やっぱあるのとないのとじゃ違うもん。ガチで熱中症とか起こされたら学校側が困るだろうし、校長英断だよ。

 もし俺なら同じことできるだろうか。


「ラジオ体操第一っ!」


 両手を左右に伸ばした幅で間隔をとる。


 ちなみに競技をするにあたり、バッシブスキルは外してあります。


・・

・・


 大型のイベント用テントに教室の椅子を持ち込んでいるので、暑さから逃れるべく開会式を終えると俺らは避難した。


「あぢー」


「おい太志よ、お前短距離走だろ、さっさと行けよ」


 各テントごとに設置された大型扇風機の前を陣取り、皆から非難の眼差しを受けていることに気づかない哀れな子。


「ほらほら、行った行った」


 しっかり者の委員長が太志の側面を両手で押す。ちょっと嬉しそうな太志と、羨ましそうな芝崎。



 我が校は学年ごとのクラス対抗だから、走るのは4人ずつだ。


「1年1組 小林敦くん、趣味は映画を見ること、得意な科目は数学とのことです。同じ1組の生徒は応援をお願いします」


 事前に放送部員からアンケートみたいなのを渡されており、うちの高校ではこんな感じで紹介される。


「1年2組 上田利一くん、趣味は人間観察、得意な科目は給食とのことです。2組の生徒は…」


 下手に笑いをとろうとすると痛い目をみます。


 そんなこんなで1学年から順々に走っていく。

 男子と女子が順々みたいだね。


「1年1組 宮内美玖さん、趣味はサッカーをすること、苦手な科目は現国とのことです」


 美玖ちゃん走るみたいだ。各生徒の紹介ごとに拍手をしていたが、これまでよりも声援の音量が大きいですな。

 お兄ちゃん鼻が高いよ。自分でもキモいことは分かっている。


 美玖ちゃん運動はそこまで得意じゃないと言っていたけど、見事2位でした。たぶんパッシブつけりゃブッチギリなんすけどね。

 ただ走るフォームみたいなのは綺麗だったよ、素人目だけど。


 俺は頑張った彼女に向けて精一杯の拍手を送る。げへへ。


「めっちゃ可愛いな、宮内の妹」


「性格も凄く良い子だよ」


 えっへん。ちょっと自慢気に村瀬へ返事をしてしまった。


「浦部、宮内と最近仲良いもんな。その関係で話したりしたのか?」


「そうそう。でも未だに先輩とは呼んでもらえません」


「ははっ 距離おかれてるじゃん」


 そうこうしている内に2年生の順番が回ってきた。大堀はア行なので一番最初の列だね。


「大堀太志くん、趣味はゲーム・昆虫採集・読書。苦手な教科も得意な教科もないとのことです」


 自己紹介文を聞いた同級生が。


「えっ 彼そんな趣味あんのか?」


「夏休み中も家の近所で隆明と一緒にしたよ。ぼくなつやってから興味あったんだってさ」


「それってゲームだっけ」


 そうそうと相槌をしておく。

 歩くのは嫌いだけど、なんやかんや付き合いは良いんだよ太志って。



 よーいどんのピストルが鳴り、4人の男子生徒が走り出す。

 その姿はまさにあのオークを彷彿とさせた。


「まっ、マジで速いんだな大堀くん」


「あれならリレーで走らせた方が良かったんじゃね、あっちの方が得点高いし」


 優勝賞品は一食のみだけど、学食の引換券だったりする。そんな品でも無いより有った方がやる気は俄然と湧くもんだ。


「太志が言うにはカーブがあると上手く走れないんだと」


「どこの猪だよ」


 あともう一つ。走り終えた太志を指さし。


「半周は長すぎて失速しちまうんだってさ」


「50mでもすごく息切らしてるね」


 サッカーやバスケなど、道具を使う競技は苦手だけど、素の運動神経はけっこう良い方。それに加えて勉強もかなりできると、スペックは高いんだよなアイツ。


 そう考えればあの強力な前世ってのも、一応は納得できる。


「じゃあ俺、そろそろ並んでくるわ」


「僕もだっけ、じゃあ行ってきます」


 俺だけじゃなく、クラスの皆が頑張ってと送り出す。



 

 悍ましいあの姿を思い浮かべる。いったい何をやらかせば、あんな業を背負うハメになったのだろうか。

 少なくとも今は普通の高校生だ。善人じゃないけど、精々小悪党ってとこだろ。


「マイフレンドか」


 例のシスターを思い返す。


 実際に歩んだ人生と、死後に語り継がれる歴史が同じとは限らない。

 後世の人々がもつ印象。それが映世で出現する姿にも影響するのなら、醜い姿形もまやかしって可能性はあるんだろうか。


 もうちょっと俺に英語の能力が備わってたらなあ。


・・

・・


 次の種目が玉入れとのことなので、クラスの体育委員にうながされ、俺は待ち列に向かう。

 その途中で宮内と出くわした。


「浦部も玉入れだったのか」


「そうそう。足に負担が少ない種目って言ったら、やっぱ玉入れだよな」


 去年は大活躍だったぶん、ちょっと寂しいもんがあるね。


「せっかく改善に向かってるんだから、今は無理しちゃいけんよ」


「だな」


 まだ医者が驚くレベルじゃないけど、本人の感覚としては手ごたえがあると言っていた。


「やっほー 2人も玉入れなん?」


「巻島さんもっすか」


 神崎さんは次の障害物リレーだったかな。


「大鳥居がなければ、活動できないか考えたんだけどねえ」


 ちょっと残念そうなマキマキ。


「教室に戻りたいって、校舎に意識を向けてる生徒はいるかもですが」


「そこら辺は文化祭までお預けだな、今日は素直に体育祭を楽しむことにするさ」


「荒木場の初挑戦も控えてるし、せっかくの学校行事だしね。あと暑いし」


 もう数値0じゃビー玉の更新はほとんどないけど、ポイントを稼ぐなら学校内でも十分だからな。


 少しして2人と別れ、それぞれの位置につく。


・・

・・


 無事に玉入れを終え、自分のクラスにもどる。

 5回くらい籠に入ったかな。今は先生方が数えてるところだ。


「お疲れさまぁ」


「神崎さん次の種目でしたっけ、頑張ってください」


 午前中はこれで終わりだ。


「休み時間中、ちょっと校舎内で活動しない?」


「元気っすね。自分は休みたいかな」


 そっかぁと残念そうな神崎さん。


「他の連中も参加するなら、考えますんで連絡ください」


「わかった!」


 今日の昼休みは何時もより長めだったりする。


 映世は外でもこっちより涼しいので、こうやって炎天下で待機するのはキツイ。休み時間は冷房の効いた教室で過ごしたい。


・・

・・


 教室にて、俺はいつもの2人と昼飯を食べていた。イスがなく床なので、ちょっと変な気分だ。


「実に見事な食らいつきでした」


「このために参加したまであるからなぁ、体育祭」


 それはもう満面のニコニコ顔でアンパンを頬張る太志君。



 活動に関してだけど、俺以外の3人も暑さにやられたようで、昼休みの活動は乗り気ではなく。神崎さんはショボンとしたスタンプを張っていた。

 事前に今日は活動するって決まってたら、また結果も違うんだけどね。


 神崎さんは私一人でもやるもんと言ってたけど、巻島さんにちゃんと休むよう止められていた。


「浦部は午後リレーでしたっけ?」


「転ばないよう祈っててくれ」


「学食の引換券が掛かってるんだ、本気で走れよ」


 太志くん、一番やる気出してんの君じゃないだろうか。


・・

・・


 午後は応援合戦から始まった。クラス対抗なのになぜか赤と白で意味がわからん。


 紅組は学ランで、白組は袴って感じだね。


 そりゃもう女子たちが白組の団長にメロメロでしたよ。

 宮内くん格好良い~!!


 応援合戦のあとは、和太鼓と吹奏楽部の合同演奏がありました。花火もそうだけど、和太鼓って心臓に響いて変な感じがするんだよね。



 騎馬戦だけど、太志は馬役で参戦しており、細川は乗り手だった。


 そりゃあ前世が武士だったとあって、見事に鉢巻を幾つもゲットしてたけど、他の連中からすれば以外だったのかちょっと株が上がったんと違うか。


 太志も活躍はしてるんだけど、なぜか評価が変わらないという不遇っぷり。普段の行いですねはい。


 昔は棒倒しなんかもあったらしい。あれって危ないしガチで喧嘩になったりするしで、今はもうしてないみたいだね。


 神崎さん。玉転がしで転んで女子がキャーキャー騒いでいた。それでも立って再び転がそうとする姿に、俺を含め男子はもう胸きゅんです。


 二人三脚で時々俺が相棒を務めてた里中は、転ばずに彼女とゴールできてたよ。良かったですねと、心のこもってない拍手を送っておく。


「浦部、頑張れよー」


「頑張ってね浦部くん」


 クラスメイトに見送られ、俺は次の種目へ整列しに向かう。


「マジで緊張してきた」


「練習したんだし大丈夫だろ」


 同じくリレーの選手である里中に励まされる。さっきは爆発しろなんて思ってごめん。


「あっ 浦部さーん、お手柔らかにお願いしますねえ」


「美玖ちゃんもリレーだったんすね」


 苦笑いを浮かべ。


「ジャンケンで負けちゃいまして」


「まあ俺も似たようなもんです」


「浦部、美玖ちゃんと知り合いだったんだな?」


「はい。兄の繋がりで、浦部さんには色々とお世話になってます」


 里中君はサッカー部だったか。


「趣味はサッカーすることって解説されてたけど、そうか始めたんだ」


 やはり真のリア充は違いますね。スラスラと会話を広げていく。

 クラブはどんな感じかとか、今度うちの練習にも参加してみるかとか、やっぱすげえや彼女持ちは。


「そういえば浦部さん、まだ放送部に紹介されてませんね」


「俺が参加したの玉入れだけで、みんな一緒に入場してそのままバラバラで位置についたんで」


「ちなみになんて書いたんだ?」


 無難だよ無難。


「趣味はゲームで、苦手な科目は全部ですって感じかな。宮内君のお陰で成績は少し改善されたけどさ」


 そんなこんなで会話をしているうちに、俺たちは目的地に到着して、それぞれが整列する。


・・

・・


 リレーは各学年ごとに別々だ。

 うちの学校は仮装やら部活対抗やらもないので、ちょっと面白味にかけるけどしゃあない。

 というか仮装しなくて良いなら、それが一番っすよ。


 走る順番はクラスごとに違うけど、たぶんアンカーは全組が男子かね。


 けっこう適当にメンバーを決めた組もあれば、ちゃんと速い奴を選考した組もある。うちのクラスは俺が入ってる時点で適当の分類に入るけど、まあ走るのが滅茶苦茶遅いってわけじゃない。


 実際に身体が引き締まってて、運動してるんだろという理由で選ばれてるから、期待には添いたいと思う。

 記憶を失ってるけど去年も活動してたなら、筋肉だってそれなりについてたはずなんだけどな。レベルが1に戻ったからとか、そんな理由なんだろうか。


「それでは2年生の生徒が入場しますので、皆さま、ご声援をよろしくお願いします」


 パッシブスキルセットしたくなってきた。


 少ししてピストルの音が鳴り、第1走者が一斉に走り出す。


 やばい緊張してきた。

 俺は第5走者で、アンカーの里中にバトンを渡さなくてはいけない。


 第4走者の女子がラインを越えたのを確認してから走りだし、後ろを向きながらバトンをキャッチする。

 よしっ 上手くいった。


「第5走者を任されたのは浦部吟次くんです。彼は元生徒会長である浦部詩さんの弟君であり…」


 思わずよろめいちまったじゃねえか。アンケートはどうした、なんで俺の紹介が姉ちゃんなんだよ。


 誰かが浦部頑張れと声援を送ってくれていた。

 弟さん頑張れは止めてください。


 まあでも応援してもらえるのは嬉しい。

 誰かに名前を呼んでもらえるのは嬉し恥ずかし。


 前を走る奴との距離はあまり縮まらない。

 背後で誰かが追いかけてくる足音と息づかいが聞こえる。


「浦部くんがんばー!」


 なぜか知らないが、その声が聞こえた瞬間に、俺の中でリズムができあがっていた。


 浦部 ボンバイエ

 

 浦部 ボンバイエ


 浦部 ボンバイエ


 もう背後が気にならなくなっていた。


 前を走る奴を追うのもやめ、視界の先に移る里中だけを見つめながら、俺は唱える。


「ウラべっ ボンバイエ、ウラベっ ボンバイエ」


 ウラベ ボンバイエ


「サトナカ ボンバイエ!」


「えぇっ?!」


 語呂が悪いか。


 落しはしなかったが、ちょっとバトンパスをミスっちまった。



9月は荒木場初挑戦で終わらせようとおもいますが、まだできてませんので完成したら投稿しようと思います。

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