3話 体育祭まで
やはり数値0だとスキル玉や〔武具〕などの報酬は出なかった。ただロボット軍団強かったな、良さげなスキルもけっこうあったし、荒木場との練習試合を狙って活動すんのも良いかも。
「三連戦は厳しいねぇ、やっぱ練習ってたいへんなのかな」
「ストレスってのは悪影響ばかり目立つが、それがないと緊張感や集中力は発生しない」
なるほどねえ。部活に真剣だからこそ、彼らは練習に緊張感をもって取り組み、上達をするために集中するわけだ。
「さすがにこれで終わりっぽい?」
「ですね、ちょっと疲れちゃいました」
神崎さんが蓄電鞘の装飾品を装備したのを確認してから、美玖ちゃんは完成した〖鞘〗を彼女の元へ動かす。疲労回復。
「俺も可能なら、いったん大鳥居で休みたいな」
ロボットが背負っていた砲身からの弾丸は、対戦車ライフルくらいの威力はあるはずなので、本来だと盾なんかで凌げるものじゃない。
しかも時空盾でなくて白盾だからな。
衝撃吸収があろうと、防ぐための土台である宮内の身体能力は重要だ。まあ以前からオーガの一撃も防いでたんだけどさ。
〖黄の鎖〗を宮内と神崎さんに使い、疲労を回復させる。
「だいぶ土埃に塗れたな」
「正直今回はきつかったよ」
服についた汚れを手で払う。
「時空盾なしはきつかったんじゃねえか?」
「確かにそうだよね、兄ちゃん心配してくれるのは嬉しいけど、今後は無理しなくても良いよ。守護盾だけでも十分だから」
俺があのとき止めておくべきだったな。
「宮内はお兄ちゃん気質が抜けないんだよ」
巻島さん長女っぽいし、気持ちも解るのかも。それか神崎さんが妹みたいなもんだったりして。
「じゃあ私も〖鱗粉〗使うからね」
緑の光と共にキラキラと鱗粉が舞う。
続けて美玖ちゃんにも〖黄色の鎖〗を使う。
「感謝でーす」
頭部にぽふんと体重がかかる。
「あっ すんませんね、助かるわ」
黄の鎖って基本は自分に使えないので、妖精が疲労を回復させてくれていた。
鱗粉を撒き散らす。
「なんか花粉症になりそうだな」
髪の毛を引っ張られた。
「ごめんなさいって」
「ありがとベルっち、またお願いね」
「またねぇ」
「サンキュですベルちゃん」
「心強い味方だな」
皆に手を振ってから妖精は消えた。
たぶんピーターパンの妖精からとったんだろうな、この名前って。
「次の土曜日だが、荒木場と練習試合になるけど浦部はどうする?」
「塾休ませちまってすまんね」
そこら辺は気にするなとの返事をもらう。
少し悩んでから。
「サッカー部と付き合いないんだよな。ちっと気まずい」
同じクラスに何人かいるけど、友人ってよりは知人だ。
「浦部なんやかんやで人見知りだしね、美玖ちゃんはどうなん?」
「私もその日は練習なんで」
サッカークラブじゃ仕方ない。
「荒木場には中学の友人もけっこう行ってるから、俺だけの方が学校案内や寮にお邪魔しやすいかも知れん」
「じゃあ逆に俺らは付いてかない方が良いか」
「私ちょっと興味あったんだけど、それならいいや。情報の方が大切だもん」
荒木場の調査は宮内にお願いすることになった。
その後は神崎さんに〖黄の鎖〗を使ってから学校にもどる。今の状態だと町中よりも校舎の方が美味しいんでね。
太志や隆明みたいな強い前世に遭遇することもなく、俺らは二学期最初の活動を終えた。
・・
・・
近く体育祭があるので、体育の時間や放課後はその練習に当てられる。だけどその前にすべきことがあった。
木曜日。担任の授業になると、委員長が教壇に立つ。
彼女は教室を見渡し。
「それじゃあ希望の種目を聞いていきまーす。1人最低でも2つから3つね」
狙うのは玉入れや綱引きだね。
「じゃあまずは短距離走」
吹奏楽部の全国大会って10月だっけか。最近は学校での活動でも見かけないし、委員長もだいぶ順調なようだ。
芝崎が文字を黒板に書き込む。
同級生の村瀬が言った。
「太志たしか足速いよな」
「いや平均だよ、最後の方は失速するしなあ」
「短距離って何メートルだっけか」
「50だね」
こういう時、本来だと陸上部に任せるんだけど、うちの学校ないんだよ。
「まあすぐ終わるし楽だから別に良いけど、他にいないのかあ?」
「短距離って枠が多いから、太志君は決まりでも良いよ」
確かに楽なんだよな。
その後何人か手を上げたので、俺もこっそりと混じっておく。
「じゃあジャンケンして」
前にでてパーを出す。はい負けました。
先生は座りながらお空を眺めていた。大海原を思いだしているのだろうか。
そんなこんなで委員長舵のもと、各種目が決まっていく。
俺は当初の予定通り、玉入れの枠をゲットした。
やったね。
「じゃあ次は二人三脚です、はい手を上げて!」
ちょっとやりたい気持ちはあるけど、陰キャなので手は上げられず。
「男女ペアだからね」
芝崎は振り返り、委員長をじっと見ていた。
残念、もう彼女は決まってるから、二人三脚は出ないんだよ。
委員長や体育委員、放送部に生徒会なんかは一種目でオッケイなんです。
男子は神崎さんの動向を気にしているようだ。この種目は放課後が潰れやすいんで、活動大好きな彼女は絶対に選ばないはず。
比較的そういうのが平気な陽キャは手を上げていた。真のリア充である彼女持ちは、同じクラスでなければ却下だろうけど。
男の願い虚しく、彼女が挙手することはなく、やる人も少しして決まった。
「次は障害物リレーです」
可もなく不可もなく。どうすっかな、やっぱ綱引きにしよっと。
先生は意識を海から教室にもどし。
「パン食い競争も含まれてるぞ」
「はいっ!」
「太志君もう2種目決まってるけど良いの?」
騎馬戦の馬役。
構いませんと元気よく返事をする。本当にブレないよね君。
芝崎もこれにしたらしい。
「じゃあ次は綱引きね」
待ってましたとばかりに俺は手を上げた。
あまり乗り気じゃない奴も、この種目を狙っていたようで、今回もジャンケンとなる。
「さいしょはグー、じゃんけんポン」
負けました。
「はいはいどんどん行くよぉ 大縄跳びね、10人です」
これは嫌だ。練習に時間とられるし、本番で失敗するとショックがデカい。
「人集まんないね。まだ1種目しか決まってない人、前に出てくださーい」
負けられない戦いが此処にある。
「浦部くーん、ジャンケンしよ」
ニコニコしながら神崎さんがこっちに来る。
「いや、だって、貴方」
お互い放課後は活動したいでしょうと、小声で相手に伝える。
「あっ そっかぁ、じゃあやっぱなし」
ほっと一息ついてると。
「んじゃ浦部俺とするか」
「村瀬君とね、いいっすよ」
どれを出すか。いや、ここは無心でいく。
なにも考えず、ボーっとしながらチョキをだす。
「あぁー くそ、今までの感じから、浦部弱いって思ってたんだけどな」
何気に俺の戦績を見てやがったな。
「これまで負けが続いてたのが、きっと今回の勝因だよ」
人気種目はすぐに埋まったが、そうこうしているうちに。
「じゃあ次で最後ね、まだ1種目の人いる?」
リレーが残ってしまった。
俺を含めて数名が手を上げる。
「これって足速い奴に任せた方が良いんじゃね?」
同じく残っていた村瀬に同意する。
我がクラスのトップ層である、リア充の里中君が珍しく俺に話しかけてきた。
「浦部はリレーで良いだろ、最近運動してるみたいじゃん」
「俺も体育の時そう思ってたわ。筋肉けっこう凄いもんな、帰宅部なのに」
いやん恥ずかしい、更衣室で着替えますもんね。
「アンカーは嫌です」
この希望は受け入れてもらえ、最終走者はサッカー部の里中に決まりました。
足の速い者たちが選出され、種目の交換が行われる。村瀬はちゃっかり良い種目をゲットしていた。
・・
・・
玉入れはともかく、リレーもバトンの受け渡しなど練習が必要なので、数日は放課後も練習に参加した。
二人三脚で相手が用事で出れない時など、男子生徒に頼まれて手伝ったりもしました。
「悪いな浦部」
同じクラスに彼女がいるらしい里中君。
リレーと二人三脚なんて、もう高校生活満喫してますな。
1、2と掛け声を合わせながら、10mほど進むことに成功したが、俺がバランスを崩して地面に片手をつける。
「大丈夫か?」
「平気へいき」
一息をつく。
「今度、宮内が練習試合応援に来てくれんだ」
「そう言ってましたね」
実際は上級の偵察なんだけどね。
「感謝してる」
「彼は良い人なんで、こっちとしても頑張った甲斐はありましたよ」
そうだなと、里中君は小さく笑った。
太志は練習サボるかなと思ってたけど、毎日でなくてもちゃんと参加しているみたいだった。
・・
・・
帰りの電車で俺は動画を見ていた。
以前の独裁者に然り。最近、歴史上の人物を解説してくれるのにハマってる。
看護師の祖となったあの人物はマジで偉人だと感動して、その流れでこっちのシスターさんの動画見たんだけど。
「マジか」
聖人とされる彼女だが、俺の認識が180度変わっちまった。
実際に別口で調べてみるけど、やっぱこりゃあれだ。
「このマザーさん、悪人だよな」
国によって評価も別れるのかね。
歴史上で評価が高くても、実際はアレな人もいるんだな。まあ俺個人の意見だけど。
ならその逆はあるんだろうか。
・・
・・
そんなこんなで土日を挟んだ先の水曜日。
この日は宮内感謝dayでサッカーの練習だ。
時刻は16時。
「俺は無理できないから、基本はあまり走らない競技にさせてもらったよ」
「まあしゃあないよな」
「うちの体育際は5月だったんで、今月は大きな行事もないや」
この日はケンちゃんの部活が休みなので、こうして高校まで足を運んでいた。
「進学はやっぱここにするのか?」
「うん。いろいろと活動するのに便利でしょ」
雫さん成績良かったみたいだし、ケンちゃんも十分に狙えるようだ。
どっかの弟とは大違いだね。
「良いのか、付き合ってもらって」
「はい、宝玉とかお世話になってますんで。そんなに上手くないですけど」
本当に助かると頭をさげる宮内。いつも俺はパス出しや、〖鎖〗での妨害とかしかしないからな。
今日は2対1で宮内君と勝負だ。
1時間ほどサッカーの練習に付き合うと、いったん休憩に入る。
「お疲れさん」
〖黄の鎖〗を2人に使う。
「ありがと」
「良い練習になった」
ケンちゃんは校庭の石段に腰を下ろすと、後ろに体重を乗せながら空を仰ぎ。
「体育の時間で良くやるけど、本格的にやってる人が相手じゃ、全然歯が立たないや」
「俺もバトミントンになれば無理だと思うけどな」
ガチで運動神経良い人は、そうとも限らないんだけどね。
「中学の陸上部って公式戦の前はさ、他の部活からも何人か参加したりするじゃん。野球部のピッチャーだった奴さ、俺より砲丸飛ばしてたんだよ」
「それは辛い経験だな」
嫌々ながらもサボらず練習してたから、もちろんショックだった。
「俺も体育の時間でバトミントンする時とか、けっこう緊張します。負けたりしたら煽ってくる奴いまして」
バトミントン部の癖にって感じか。
身に覚えがある。俺を目の敵にしてたやつ、野球部のピッチャーだったんだよね。そんで確か進学先が荒木場なんだよ、遭遇したくねえけどしゃあないわ。
雫さんと幼馴染でなけりゃ、たぶんそこまで意識もされなかったんだろうな。
卒業式のとき、俺は将来プロになって、お前なんかよりずっと凄い奴になってやるって言われたのを覚えてる。
今になって思い返すと、ライバル視されてたのかも知れん。
「まあ誰かしら、似た経験はするもんだ。妹に格ゲーで始めて負けた時は、本当に悔しかった」
「美玖ちゃんもゲームとかするんだな」
宮内はペ〇ソナとか知ってたし、ゲーム好きなのは以前から分かってた。
家で兄がしてりゃ私もってなるか。
でも姉ちゃんがゲームしてるとこ見たことないわ。雫さんとはやってたんかね。
「パズル系は俺よりずっと上手いぞ」
「あれ連鎖とかマジでどうやるんだって感じだったりする」
頭を使う系は苦手です。細川が得意なジャンルだな。
「俺けっこうできますよ」
教科に然り、誰しも得意不得意はあるね。俺の得意な科目ってなんだろうか、どうにも思い出せない。
「そういえば宮内さん、荒木場の情報感謝です」
「ああ、マジで助かった」
「役に立ったなら光栄だ」
スマホのメッセージで情報はグループに広がっていた。
近くに寮生御用達のスーパーがあるんで、そこの鏡から侵入をする。
トイレだけじゃなくて、休憩スペースにも手洗い所と鏡があるとのこと。
学校の敷地内に一般の男女寮があり、駐車スペースを挟んで校舎やら部活棟があるらしい。
サッカー部と野球部の寮は別々だけど、学校から歩いて10分から15分の位置。
校舎や校庭の数値は110前後。真ん中の駐車スペースが120くらい。
宮内がお邪魔したのはサッカー部の寮だったそうだけど、数値は130ほどだった。
試合をしたグラウンドは120。サッカー寮までの距離は徒歩5分。
「やっぱ先輩後輩、大変だったりすんのか?」
「相手によって違うな。優しいのもいれば威張ったり厳しかったり」
「それでも強豪に行きたいって人は同級生にもいますよ」
俺は上下関係なんてまっぴらごめんだけど、社会に出る前に経験しとくべきなんかね。年下の上司に頭をさげるとか、あるって言うじゃん。
「なにより厳しいのは、先輩と同部屋なんだと」
「うわぁ」
「まじっすか」
宮内の同級生が1年のころは本当に辛かったそうだ。
「一般の男子寮にも、溢れた一部の野球部はいるらしいけどな。サッカー部はみんな専用の方らしい」
もちろん掃除や洗濯なんかは下級生の仕事なんだろう。
「あと一年はサラダのドレッシングとか、一種類しかつかっちゃダメなんだと」
わけわからん。伝統かね。
「そりゃ数値も高くなるわけだ」
「神と呼ばれる優しい人もいるし、厳しいだけで筋が通ってる先輩も居るって話だ。理不尽に威張って嫌われてる奴は数名だって」
常識の範囲で偉そうってくらいの先輩なら、そこまで嫌われんよな。
酷すぎるとそのうち事件起こして活動停止になったりするもんな。そこら辺は学校の責任だ。
怖い怖い。
宮内はケンちゃんの方を向き。
「うちの体育際は土曜日でな、月曜が振休になる」
「生徒のいる月曜日の方が、校舎は難度が上がったりすんのかね」
部活寮や練習場は逆に難易度が落ちてるかも知れん。
「でもケンちゃん参加させたいし、やっぱ日曜にするか」
「すんません、日曜日は練習試合ありますんで」
「じゃあ雪谷は再来週に持ち越しだな」
そろそろ活動に移ろうかと、俺たちは休憩を終える。現在の時刻は17時を少し過ぎた頃。
「おじさんとおばさんには伝えてあるし、19時くらいまでは活動するか」
「俺もそれくらいなら大丈夫だぞ」
「じゃあ2人ともよろしくお願いします」
宮内は間違いなく神な先輩だろう。
修羅鬼橋あたりまで、徒歩で帰るでも良いかもな。




