4話 校庭の騎士戦
人間と戦うってのはやっぱ抵抗がある。
これまで校舎に出現した敵の中には、農具を持つ村人や、汚い装備の賊っぽい奴も存在したが、鳥居パワーのお陰で最終的には別の生物に変化してくれていた。
鎧をまとった宮内は腰から片手剣を抜き、姿勢を整えてからゆっくりと中型盾を構えた。
なんとなくだが、騎士としてのポーズをとってから、戦いの姿勢に移ったのだと理解する。礼儀みたいなもんだろうか。
「顔が見えないってのは有難いな」
兜をしているのもあるが、その位置は空間が歪んでおり、彼の表情は伺えず。
こちらも右手のメイスを動かして構えをつくり、息を吐きだして呼吸を整える。
精神保護の影響か、緊張や抵抗感は予想してたよりも薄い。
自分の左右に2つの滑車を出現させ、〖白の鎖〗だけを放つ。
宮内は斜め後方に避けるも、その隙をついて一気に接近し、勢いよくメイスを振り落とす。
少し遅れて放たれた〖青の鎖〗が俺の背中を通り抜け、相手の盾に命中すれば前腕ごと凍りつく。
だがそんな状態を無視して、メイスを盾で防ぎながら押し退けてきた。
「やっぱお前もスキル使うのか」
宮内の背後に二振りの【赤い剣】が浮かぶ。透けているので物理判定はなさそう。
片手剣による突きを腰を捻って避けるも、背後の【赤剣】が追撃して肩と脇腹に命中する。
光が発生して、HPの減少を確認した。
「こなくそっ」
退けられたメイスを握りしめ、足もとを狙って振りおろす。前腕は凍りついており動作が鈍る。
宮内は片足さげて回避に移ろうとしたが、こちらも深く踏み込んでいたため浅いが当たった。相手のHPを削る。
今日までの検証結果、回避された場合は白鎖の冷却時間は発生せず。
滑車は離れた位置に作れないが、肉薄状態の今であれば相手の背後に出現可能。メイスへの対応で精一杯だったようで、〖白の鎖〗が命中する。
《他色の鎖であれば同じ個体に使える》
〖青〗により盾とガンドレットの性能低下、〖白〗によりHPMPの吸収。
片手で敵の盾端を掴んで横にどけ、振り上げたメイスを脇腹に叩きつけるが、片手剣を差しこまれ振り抜けず。
それでも命中はしたのでダメージは通ったはずだ。
盾を掴んだまま、相手の腹を靴底で蹴って間合いを離す。
いったん区切って呼吸を整えたかった。片手持ちのメイスを何度か振ってHPを回復させる。
数秒が経過すれば〖青の滑車〗が消えた。もっとレベルが高くなれば発動時間も伸びるだろうけど、今は仕方ない。
敵の盾が白色に輝き、鎧が光る。
敵の剣が黄色に輝き、身体が光る。
「白はHP関係」
黄色はスタミナや素早さ。
「いや……そう来たか」
剣に電気が帯びる。感電のデバフであれば、命中した位置が正座した時のように痺れる。
「属性攻撃が削るのはHPだけ」
スキルの魔法的な攻撃は自然のそれではなく、幻術みたいなものと考えた方が良いらしい。
熱さや冷たさは熱感や悪寒のデバフ。
岩や氷を頭上から落とされても、当たると水や砂にもどるがHPはちゃんと削られる。
白の鎖が外れ、25秒の冷却が始まる。でも最大数が2なので、まだ使うことも可能。
宮内の背後に【青と赤の剣】が一つずつ浮かぶ。
色の操作ができるのか、それとも別スキルか。守りと攻め。
こちらへと踏み込めば、片手剣で俺の肩を狙ってきたので腕輪で受け止める。
手首を捻って刃を滑らせ、こちらの上腕に命中。HPを削られた。
かまわずメイスで攻撃を仕掛けるも、【青の剣】には物理判定があるようで防いできた。
「なるほど」
そこまで固くはないが、一度受け止められたことで威力が鈍り、大したHPは削れず。
「厄介なっ」
【赤の剣】が俺の心臓へと突き刺さってから消滅した。命中位置が悪かったので、けっこう持ってかれた。でも元の攻撃力は低いようなので、個人的には青剣の方が嫌だ。
〖青鎖〗には冷却がないため、再度滑車を出現させて鎖を放つ。膝に命中すればその部位が凍りついた。
そこまで分厚い氷ではないけれど、動くたびに再び凍ったりする。
氷の破片と水滴を地面に落しながら、騎士は【盾】をこちらに叩きつけてくる。メイスの柄を左手首で固定しながら受け止め、靴底で相手の脛を蹴って姿勢を崩させれば、盾を横に流してから柄尻を鳩尾に打ち込む。
そのまま追い打ちを仕掛けようとしたが、【剣】を逆手に持ち変えて受け止められた。
背後にまた二振りの【浮剣】が出現したと気づいたので、俺もいったん離れる。
しかし休む暇は貰えず。
こちらに斬りかかってくるが、氷による歩行阻害で横に逃れるのは楽だった。側面から左手で殴りつけるも、【青の剣】に邪魔をされる。
刃の部分が拳に当たったけれど俺のHPは減少せず。
迫る【赤の剣】を無視して、〖青の滑車〗をメイスで〖破壊〗すれば、相手の足が強く光ってHPを削る。
性能の確認ができず、ぶっつけ本番になったが予想よりも威力は高い。
これまで吸収したり回復したりしてきたが、やはり互いに尽きていく。
仕掛けるか。
「もしダメなら今回は撤退かね」
情報は十分に得ているので、無駄にはならないはず。
最大火力である〖咎人のメイス〗を使えば、一気にMPがなくなるだろう。
「行くか」
3色の〖滑車〗が自分を囲むように出現。
両手の腕輪が鎖で繋がれ、3方面より自分に〖鎖〗が打ち込まれた。
メイスが両手持ちに変化。制限時間は1分。
赤により身体能力が強化され、青により守りが頑強となり、白によりHP・MPが回復。
「……ぐっ」
ビー玉のバット効果により、赤鎖の命中した位置が熱を発する。でもまだ弱なためか、夏場のアスファルトくらいだ。
盾を構えたまま相手が突っ込んできたので、〖咎人のメイス〗で受け止める。
【赤の剣】が迫るも気にしない。
メイスを反らし盾を受け流しながら回り込むが、そこを狙ったかのように【片手剣】の突きが刺さる。衝撃が腹部を襲うが、たいした痛みがないのを良いことに、無視して動きを止めず。
空間が歪んだかのように銀色の輝きが発生し、かなりのHPを持ってかれた。〖青鎖〗によりHPの耐久強化はされていたが、運悪く感電のデバフを貰う。
〖白鎖〗を切り離し、熱感と感電の状態異常を治癒。
「沈め」
得物を相手の肩へと叩き落す。
HPが0となれば、しばらく回復は発生せず。
片膝を地面につけ、メイスにより肩を押し付けられながらも、未だその肉体は万全なまま。
騎士は盾でこちらの得物を持ち上げる。
「駄目か」
宮内は俺の腹に刺さっていた剣を握りしめ、捻じって引き抜けばさらに光が強まった。
腰を捻りながら【切先】をこちらに向けたまま、精一杯に肘を後ろへとさげる。
〖青鎖〗で頑強になっているけど、メイスも腕輪もまだレベルは低く、HPの総量は少ない。
どうせ次もチャンスはあるんだ。明日にでもまた挑戦して、駄目なら来週。
やり直せばいいんだ。失敗しても、レベルを上げて成功するまで。
「……まだだ」
学校から外にでて、活動範囲を広げ、少しでも早く前に進みたい。
こんな所で立ち止まってられるか。
諦めて堪るか。
「まだ」
終われない。
いつの間にか、緑色に輝く法衣のエフェクトをまとっていた。
俺の首を狙った再度の突き上げを、鋭い突風が遮って横に弾く。
〖赤い鎖〗が肉体を強化している。〖メイス〗の柄を両手で握り絞めれば、【盾】ごと騎士を校庭の地面へと叩き伏せた。