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そこに居たはずの誰かへ  作者: 作者でしゅ
一章 スポーツ青年・宮内輝樹編
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4話 校庭の騎士戦

 人間と戦うってのはやっぱ抵抗がある。


 これまで校舎に出現した敵の中には、農具を持つ村人や、汚い装備の賊っぽい奴も存在したが、鳥居パワーのお陰で最終的には別の生物に変化してくれていた。


 鎧をまとった宮内は腰から片手剣を抜き、姿勢を整えてからゆっくりと中型盾を構えた。


 なんとなくだが、騎士としてのポーズをとってから、戦いの姿勢に移ったのだと理解する。礼儀みたいなもんだろうか。


「顔が見えないってのは有難いな」


 兜をしているのもあるが、その位置は空間が歪んでおり、彼の表情は伺えず。


 こちらも右手のメイスを動かして構えをつくり、息を吐きだして呼吸を整える。

 精神保護の影響か、緊張や抵抗感は予想してたよりも薄い。



 自分の左右に2つの滑車を出現させ、〖白の鎖〗だけを放つ。

 宮内は斜め後方に避けるも、その隙をついて一気に接近し、勢いよくメイスを振り落とす。

 少し遅れて放たれた〖青の鎖〗が俺の背中を通り抜け、相手の盾に命中すれば前腕ごと凍りつく。


 だがそんな状態を無視して、メイスを盾で防ぎながら押し退けてきた。


「やっぱお前もスキル使うのか」


 宮内の背後に二振りの【赤い剣】が浮かぶ。透けているので物理判定はなさそう。


 片手剣による突きを腰を捻って避けるも、背後の【赤剣】が追撃して肩と脇腹に命中する。

 光が発生して、HPの減少を確認した。


「こなくそっ」


 退けられたメイスを握りしめ、足もとを狙って振りおろす。前腕は凍りついており動作が鈍る。

 宮内は片足さげて回避に移ろうとしたが、こちらも深く踏み込んでいたため浅いが当たった。相手のHPを削る。



 今日までの検証結果、回避された場合は白鎖の冷却時間は発生せず。


 滑車は離れた位置に作れないが、肉薄状態の今であれば相手の背後に出現可能。メイスへの対応で精一杯だったようで、〖白の鎖〗が命中する。


 《他色の鎖であれば同じ個体に使える》


 〖青〗により盾とガンドレットの性能低下、〖白〗によりHPMPの吸収。


 片手で敵の盾端を掴んで横にどけ、振り上げたメイスを脇腹に叩きつけるが、片手剣を差しこまれ振り抜けず。

 それでも命中はしたのでダメージは通ったはずだ。


 盾を掴んだまま、相手の腹を靴底で蹴って間合いを離す。


 いったん区切って呼吸を整えたかった。片手持ちのメイスを何度か振ってHPを回復させる。

 数秒が経過すれば〖青の滑車〗が消えた。もっとレベルが高くなれば発動時間も伸びるだろうけど、今は仕方ない。


 敵の盾が白色に輝き、鎧が光る。

 敵の剣が黄色に輝き、身体が光る。


「白はHP関係」


 黄色はスタミナや素早さ。


「いや……そう来たか」


 剣に電気が帯びる。感電のデバフであれば、命中した位置が正座した時のように痺れる。


「属性攻撃が削るのはHPだけ」


 スキルの魔法的な攻撃は自然のそれではなく、幻術みたいなものと考えた方が良いらしい。

 熱さや冷たさは熱感や悪寒のデバフ。

 岩や氷を頭上から落とされても、当たると水や砂にもどるがHPはちゃんと削られる。



 白の鎖が外れ、25秒の冷却が始まる。でも最大数が2なので、まだ使うことも可能。


 宮内の背後に【青と赤の剣】が一つずつ浮かぶ。

 色の操作ができるのか、それとも別スキルか。守りと攻め。


 こちらへと踏み込めば、片手剣で俺の肩を狙ってきたので腕輪で受け止める。

 手首を捻って刃を滑らせ、こちらの上腕に命中。HPを削られた。


 かまわずメイスで攻撃を仕掛けるも、【青の剣】には物理判定があるようで防いできた。


「なるほど」


 そこまで固くはないが、一度受け止められたことで威力が鈍り、大したHPは削れず。


「厄介なっ」


 【赤の剣】が俺の心臓へと突き刺さってから消滅した。命中位置が悪かったので、けっこう持ってかれた。でも元の攻撃力は低いようなので、個人的には青剣の方が嫌だ。


 〖青鎖〗には冷却がないため、再度滑車を出現させて鎖を放つ。膝に命中すればその部位が凍りついた。

 そこまで分厚い氷ではないけれど、動くたびに再び凍ったりする。


 氷の破片と水滴を地面に落しながら、騎士は【盾】をこちらに叩きつけてくる。メイスの柄を左手首で固定しながら受け止め、靴底で相手の脛を蹴って姿勢を崩させれば、盾を横に流してから柄尻を鳩尾に打ち込む。


 そのまま追い打ちを仕掛けようとしたが、【剣】を逆手に持ち変えて受け止められた。


 背後にまた二振りの【浮剣】が出現したと気づいたので、俺もいったん離れる。



 しかし休む暇は貰えず。


 こちらに斬りかかってくるが、氷による歩行阻害で横に逃れるのは楽だった。側面から左手で殴りつけるも、【青の剣】に邪魔をされる。

 刃の部分が拳に当たったけれど俺のHPは減少せず。


 迫る【赤の剣】を無視して、〖青の滑車〗をメイスで〖破壊〗すれば、相手の足が強く光ってHPを削る。

 性能の確認ができず、ぶっつけ本番になったが予想よりも威力は高い。



 これまで吸収したり回復したりしてきたが、やはり互いに尽きていく。


 仕掛けるか。


「もしダメなら今回は撤退かね」


 情報は十分に得ているので、無駄にはならないはず。

 最大火力である〖咎人のメイス〗を使えば、一気にMPがなくなるだろう。


「行くか」


 3色の〖滑車〗が自分を囲むように出現。


 両手の腕輪が鎖で繋がれ、3方面より自分に〖鎖〗が打ち込まれた。

 メイスが両手持ちに変化。制限時間は1分。

 赤により身体能力が強化され、青により守りが頑強となり、白によりHP・MPが回復。


「……ぐっ」


 ビー玉のバット効果により、赤鎖の命中した位置が熱を発する。でもまだ弱なためか、夏場のアスファルトくらいだ。


 盾を構えたまま相手が突っ込んできたので、〖咎人のメイス〗で受け止める。

 【赤の剣】が迫るも気にしない。


 メイスを反らし盾を受け流しながら回り込むが、そこを狙ったかのように【片手剣】の突きが刺さる。衝撃が腹部を襲うが、たいした痛みがないのを良いことに、無視して動きを止めず。


 空間が歪んだかのように銀色の輝きが発生し、かなりのHPを持ってかれた。〖青鎖〗によりHPの耐久強化はされていたが、運悪く感電のデバフを貰う。


 〖白鎖〗を切り離し、熱感と感電の状態異常を治癒。


「沈め」


 得物を相手の肩へと叩き落す。

 HPが0となれば、しばらく回復は発生せず。


 片膝を地面につけ、メイスにより肩を押し付けられながらも、未だその肉体は万全なまま。

 騎士は盾でこちらの得物を持ち上げる。


「駄目か」


 宮内は俺の腹に刺さっていた剣を握りしめ、捻じって引き抜けばさらに光が強まった。

 腰を捻りながら【切先】をこちらに向けたまま、精一杯に肘を後ろへとさげる。


 〖青鎖〗で頑強になっているけど、メイスも腕輪もまだレベルは低く、HPの総量は少ない。


 どうせ次もチャンスはあるんだ。明日にでもまた挑戦して、駄目なら来週。

 やり直せばいいんだ。失敗しても、レベルを上げて成功するまで。


「……まだだ」


 学校から外にでて、活動範囲を広げ、少しでも早く前に進みたい。

 こんな所で立ち止まってられるか。

 諦めて堪るか。


「まだ」


 終われない。


 いつの間にか、緑色に輝く法衣のエフェクトをまとっていた。

 俺の首を狙った再度の突き上げを、鋭い突風が遮って横に弾く。


 〖赤い鎖〗が肉体を強化している。〖メイス〗の柄を両手で握り絞めれば、【盾】ごと騎士を校庭の地面へと叩き伏せた。

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